千の天使がバスケットボールする

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『情熱の嵐(藍宇)』

2005-09-11 20:48:22 | Movie
 -お前が去っても
  思い出は去らない
  今でも心のうちにいる  本当だ

こんなセリフでお楽しみの映画がはじまったら、映画産業の成熟期のこの時代、失笑ものだ。けれども、冒頭のこのセリフだけで、この平凡かつ陳腐な男の独白で、私はこの物語のすべてを悟り、すべてにこころを捕まってしまったのかもしれない。男が愛したのは、男だった。

そして例の如く、一ヶ月ぶりの       映画なのだ。

1988年、この年中国は民主化の嵐に揺れていた。そんな街の喧騒や論議とは無縁の政府高級幹部の長男であるハントン捍東(フー・ジュンHU Jun )は、その恵まれたバックボーンからコネや賄賂を巧みに使い、貿易会社を経営する。ベンツを乗り回し、若き成功者として自信に溢れているハントンは、狙った女性も次々とモノにし、金もうけと遊びの毎日。そんな或る日、部下がBarに連れてきた青年に興味を示す。米国留学を夢見て、その資金つくりのために、初めて体を売ろうとしている貧しい大学生のラン・ユー藍宇(リィウ・イエ LIU Ye) 。東北地方から、北京にやってきたばかりの素朴な学生の一晩の値段は、1000元。そのあまりの安さに、ハントンは笑ってしまう。

ハントンがシャワーをあびている間、放心したような表情でテレビのニュースを硬く見つめているラン・ユー。ことが終わると、ふたりの間に不思議な満ち足りた濃密で甘い空気が残る。恋人はいるのか、キスの経験は、と問われて素直に答えるラン・ユー。そしてその答えに満足するハントン。けれども、それはただの一晩だけの、金銭を伴う関係でしかない。ハントンにとって、すべての性的関係は、そういう遊びでしかなかったから。
一晩の関係から4ヶ月後、ふたりは偶然に雪の降る街角で出あう。素直なラン・ユーの再会の喜びのうかぶ表情に、ハントンはこころがなごみ、彼への思慕がわいてくる。ラン・ユーは、女子学生よりもあなたが好きと屈託なく話す。そんな率直さにわずらわしさを感じる彼は、ただの遊び、飽きたら別れると言い含めて、ペットのようなラン・ユーとの交流をはじめる。静かに、深く愛情が芽生えてきていることに、彼は全く気がついていない。お決まりの新しいペットととの情事を目撃され、ハントンはラン・ユーを傷つけてしまい、ラン・ユーは去っていく。

1989年6月4日。
天安門広場に、大勢の学生たちが集会を行っている。その中には、ラン・ユーの姿もあった。ハントンは、必死に彼を探す。初めて自分から彼を求めて、愚かにも本当の恋などしないと考えていた彼は、自分の誤ちに気がつきはじめた。ようやく騒動が鎮火しつつある夜明け、怪我をしたラン・ユーが表れるとハントンは、彼を固く抱きしめる。彼を失いたくない、手離せない感情が、全身を貫くのである。

監督は、自身がゲイである香港出身のスタンリー・クワン。ストーリー自体は通俗的な展開ときれる内容なのだが、余韻が静かにこだまするのは、何故だろうか。
まるでお決まりのように性的な描写が、男女の恋愛映画以上に多いのにも関わらず、物語の進行とともにむしろプラトニックな愛が、透明で深まる印象すら与えるのは、社会では未だにタブーとされている”禁断の愛”ゆえなのだろうか。見方を変えれば、遊びなれたテクニシャンの中年男性に、未経験の若者がつかまってしまったという視点もなきにしもあらずだが。それともラン・ユーという人物の繊細さと一途さが、観るものに肉体関係をこえた本物の愛というものを気づかせてくれるからだろうか。
最後にハントンが、穏やかな心情を綴っている場面に共感させられる。だから「情熱の嵐」という邦題は、全くの見当違いだ。このようなタイトルは、作品の品位をおとしめ、同性愛者に対して失礼ではないかと思ってしまう。内容を理解すれば、原題の「藍宇」、これ以外のタイトルはありえないのだが。

この映画の原作は、ネットで流れた「北京的事情」を映画化したものである。同性愛がタブーになっている中国で「小林サッカー」と最後まで香港電影金像賞を争い、涙をのんだが台湾金馬賞など数多くの賞を受賞。「山の上の郵便配達」「中国の小さなお針子」で真面目で純朴な役どころを演じたのリィウ・イエが、再び繊細な藍宇を演じたのは成功ともいえる。けれども完全ポンな姿で、少々ハードな演技をいたされていたのには、たまげた!それは「タッチ」でみなみちゃんが、全裸シーンになってしまうくらいの驚きものだ。
ちなみに、映倫によりしっかり焦点はボカされている。(最近は、映倫のぼかしの基準が甘くなったと思っていたが、やはり直截的な行為が伴う画像には、きっちりぼかしを入れている。なんだか、かえって品がなくなり情けない。芸術作品がただのアダルト映画に格下げされたような・・・)

相手の性別を問わず、本物の愛を知ったものは強い。

一度食べたら忘れられない中国料理。男性の方には、味わいにくいかもしれないが、一度は「禁色」の一皿を召しませ。。


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