千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

ドイツの黒い森の現在形

2005-09-10 21:57:07 | Nonsense
明日は、投票日。近年これほど国民の関心をひいた選挙もないが、私が気になるのは、来週18日に行われるドイツの総選挙だ。
ドイツはまもなく統一15周年を迎える。性格の不一致で長年別居していた夫婦が和解した時は、世界中が驚きとともに喜びに包まれていたはずだったのに、今や「欧州の病人」とまで言われる大国。そんな現状を読売新聞が5回にわたり、「再生への選択」としてレポートをしていた。

たとえ希望に満ちてスタートした夫婦でも、経済的に不安要素が大きければ、それが不和のもとになりうる。
ベルリンのハローワークが、大盛況だ。市場統合、単一ユーロの導入によって、人、物、カネの流れは自由になったが、人件費の安い東欧へ資本移動が続き、産業の空洞化が進んでいる。独電気大手シーメンスやダイムラー・クライスラーなどは、工場移転による人件費削減を労組に切り札として提案(脅迫)し、それを回避させるかわりに労働時間延長、賃金凍結を実現して雇用環境を圧迫させている。けれども、失業しないだけましなのだ。なにしろ失業者数521万人を超える大失業時代なのだ。

そんな労働市場改革としてシュレーダ政権が導入したのは、「第2失業手当」。時給1.5ユーロ、月収200ユーロという屈辱的な賃金で簡単な公共設備などのメンテをさせたりして、通常の失業保険が切れたものへ”労働”意識を忘れないよう「正規労働への橋渡し」をさせている。しかし、このシステムが逆に正規の職を奪っているという批判は強い。この辺の事情は、日本の正社員とフリーターの関係にも近いからよく理解できる。またこの1.5ユーロの仕事を15週続けると失業者からカウントされないことから、最大野党キリスト教民主連合のアンゲラ・メルケル党首らは、失業統計をごまかすトリックとして激しく現政権の責任追及をする。

そんな中、この夏ひとつの事件が起こった。
旧東独育ちの女性、ザビーネ・Hが1999年までの11年間に次々と9人の嬰児を出産して、遺棄していたのである。このような事件は、過去日本でもかってあった時と同様に、肉親や同居の夫、近隣の者も気づかなかったという事に、殺害以上にモラルの欠如と人への無関心さに旧西独出身者を驚かせた。学校創立以来の優秀な生徒と言われたザビーネが住んでいたところは、東独時代の住民監視機関でもあった「シュタージ」関係者の住居で、統一後は隠れるようにひっそりと暮らしていた。個人的な病によるかもしれないこの事件を、社会主義統一党による無産階級にされたこと、ナチズム、共産党支配による歴史的な犠牲者という事実から、社会的責任の回避の象徴、と西側の批判は東独人の意識を問う。その背景には、国民総生産の4%の復興資金が、旧東独につぎこまれ、すっかりお荷物になっている事情がある。

こんな経済的困窮は、「詩人と哲学者」の国の大学事情にも影響を及ぼしている。各州政府が、文教予算を削りつづけている。伝統の無償教育も危うくなっている。授業料導入は、社会的選別の強化と学生は反発するが、学力の低下は著しい。15歳以下の生徒の学力は、先進国中の最低ライン。ここ15年のノーベル賞受賞者も、米国在住のたった3人だけ。シュレーダー政権は、ハーバード、オックスフォード大学並のエリート大学構想を打ちだしてはいるが、教育は州の管轄事項ということで、結局抜本的な改革は見いだせないでいる。予算削減で夜間開館もままならぬなった図書館のナウマン館長は、こう嘆く。
「我が国が、世界市場で通用するのは集積された知しかないのに。」
このお寒い事情は、遠い他国のこととも思えないではないか。

激しく対立するドイツの与党と野党。けれどもその鋭い舌鋒には、甘い夢のひとかけらもない点では両者は一致している。質実剛健の国だからから、いやこの大国が、様々な困難を抱えて疲弊しているからだろう。
ベルリンの壁が崩壊して、東西ドイツが統一された時、「ベルリンは飛び方を習い始めた鳥のような街」と希望が溢れていたはずだった。鳥の飛翔は、今や翼が傷つきかろうじて飛んでいるような様子だ。低い空を。そのはばたきをちょっとこの目で見てきたいと思う今日この頃だ。

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6 コメント

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人の興味は (ペトロニウス)
2005-09-10 23:40:38
>私が気になるのは、来週18日に行われるドイツの総選挙だ。



こうやってほぼ毎日更新される記事を見ていると他人の興味というのは、本当に多種多様だということ、その豊穣さに驚く。僕は、いまのドイツは仕事でもほとんど関係ないので、全然最新情報が分からない。むしろビスマルク時代やユダヤ排斥の歴史的なものの方が詳しいくらいだ。そんな中、樹衣子さんは、ドイツの総選挙を気にしている!。なんか、ちょっと感動する。興味ってほんとうに多種多様なんですねぇ。



本日は、blueさんもユダヤの歴史について詳しい記事を出されていたし。



いや、なんかちょっと感動です(笑)。



ちなみに、この統一問題で強く連想したのは、やはり朝鮮半島です。こうした社会が誇りが傷つけられて、永続的に不況が続くと、人身の荒廃と原理主義や右への強烈な回帰です。もしくは、原理的な意味での左への回帰でもいいです。怖いな、と思います。
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複雑です (樹衣子)
2005-09-11 12:14:10
>人心の荒廃と原理主義や右への強烈な回帰です

まさにおっしゃるとおりですね。私は、米国の保守回帰、原理主義に近い宗教勢力の広がりに、傷ついた米国の威信を感じます。

また長くなるのでふれませんでしたが、15歳で保守的な両親の命令でギナジウムを退学して、トルコに住むいとこと結婚させられたが、すぐに離婚してベルリンに戻ってきたトルコ人女性が、家族に射殺されました。理由は、資格をとって自立への道を歩もうとし、ドイツ女性のような服装をしていた彼女を”恥”として、「名誉を取り戻す」ためだから。

ドイツに暮らすトルコ系移民は、200万人。ベルリン在住のトルコ系男性の失業率は43%。戦後のドイツ高度成長期に「ゲスト労働者」として招かれた出稼ぎ労働者が、結局は歓迎されないことからの疎外感もあるのでしょうか、ドイツ社会への同化も統合も拒否して、若者のイスラム回帰、トルコ民族主義がすすんでいます。これも実に、怖い話しです。イスラム主義や、トルコ民族主義が悪いのではありませんが、このような回帰は、いつも精神の拠り所をそこに求めた結果、残酷な行為に向かうものです。

私がドイツ選挙に興味をもったのは、元々クラシック音楽はドイツ3大Bともいって、ドイツ精神の理解が必要だということと、アンゲラ・メルケル党首が、女優のメリル・ストリープにちょっと似ている女性だからです。



日本人は没個性と言われておりますが、他の方のブログを拝見しておりますと、そんな世間の評価に疑問をもちます。

ただ欧米人に比べて、学校も社会も個性を発揮しにくい風潮なので、おとなしく周囲に同調しているけれど、内面は人それぞれ。そこはペトロニウスさまのおっしゃるように多種多様、豊饒なのかもしれません。

九州にまで大好きなピッチャーを追いかける野球ひとすじ、ドーバー海峡をこえてサッカー観戦ひとすじ、という方もいらっしゃいます。

けれども私は、興味のある対象が常に流れていくようです。ペトロニウスさまとは、全く違う角度でアメリカ社会を書いたハロラン芙美子さんの著書に熱中し、アメリカ文明を理解したかった時もあります。複雑系の経済学に興味をもった時もあれば、またある時は、医学もの。

なかなか興味の尽きないことが多くて、最近は”絶対長生きする”と宣言しております。

けれども、時々そんな自分流の道が、他の方と交差点で出あうというのも、なかなか楽しいものです。

貴ブログのプロフィールの画像が、今日ランゲになっておりましたね。

何故に?!などどいう野暮なことは、申しませんがね。^^

それでは、これから車で予約した本を受け取りに図書館に行って、帰りに取りおきしていたスカートを買ってきます。選挙は、不在者投票ですでに済ませております。
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ランゲ (ペトロニウス)
2005-09-11 12:48:43
意味はありませんです。一度もあそこに画像を入れたことがなかったので、あったやつを(笑)。
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ランゲ② (樹衣子)
2005-09-11 20:39:37
>意味はありませんです

本当に、全く意味がないのでしょうか。

”あったやつ”ということ事態、何故そこにあったのか意味があるのでは?ランゲに興味があるのではないでしょうか。

あのような場所に画像を入れることは、意味はなくともなにかのインスピレーションが働いていると思えます。

まっ、、、追求しませんがね☆
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メトロポリス (ペトロニウス)
2005-09-11 23:42:37
あっ、ラングは超好きですよ。



ぼくがSFの最高傑作のひとつと感動しているが、メトロポリスなんです。その想像力と構想力に信奉している部分がありますねー。あれは、見たときに衝撃を受けて引き込まれた。まじで。



まぁ、かんがえなおすと微妙な人ですね、なにしろ、奥さんがナチスの協力者で、自分はユダヤ人だったんじゃなかったけ?。すごく微妙な立場の人だったようです。



・・・・でも、そういわれると、なんとなく気分で入れたけど、かえようかなー。。。。最初は、マンガ(ネギま(笑))かあれか迷ったんですが(笑)。
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メトロポリス② (樹衣子)
2005-09-12 23:35:00
本来の主題から離れたことで、しつこく追求してしまい失礼しました。



「お手伝いロボットが我家にやってくる」というブログhttp://blog.goo.ne.jp/konstanze/e/35f276d69f5668d6c550c0ba2fcd69af

を書いた後、ある方からメールをいただき「メトロポリス」を教えていただきました。

そんな映画があるなんて、くやしくも知りませんでした。

それ以来、”映画館で”今観たい映画ナンバー1なのです。とっても観たい・・。つまり、



>>意味があるのでは

>>なにかのインスピレーション

これはそのまま自分のことでしたね。



>SFの最高傑作のひとつ

ご覧になっている方は、みなさんそうおっしゃるようです。
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