千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

『ファッションが教えてくれること』

2009-12-07 22:34:02 | Movie
定期購読をしている「Domani」(←女性向けファッション雑誌)の今月号の表紙を見た時は、心底がっかりした。
全体的にグレーのモノトーンなのである。ファッション雑誌の表紙にモノトーン?斬新さをねらったのであろうが、1月号と言えば、新年号。いくら不景気だからとはいえ、いつもよりもいっそう華やかに幸福感を装うのが新年号の特徴ではないか。しかも、今時?な素肌にジャケットをはおったスタイリングで「ミス・ユニバース世界大会」で準優勝の実績のあるモデルの千花くららさんのグレーな表情はさえず、なんとなくやつれ感すらただよう。そもそも、ファッションに色彩は重要で、単に黒といっても様々な黒があり、布の質感がわかるカラー版にすべきではないか。これでは、まるで黒いサングラスをかけて洋服を眺めているみたい。・・・そうだった。私がいつも疑問に感じていたのは、真っ黒なサングラスをかけて”グラマーな昆虫”とおそれられる米国版「ヴォーグ」誌の名物編集長、アナ・ウィンターがあのようなサングラスを通して、いったいどうやって服装の色彩を見て感じることができるのだろうか。

閑話休題。
米国版「ヴォーグ」は、アメリカ女性の10人に1人が読むという。そんな驚異的なファッション誌に88年から編集長として君臨してきたアナ・ウィンターのサングラスをはずした素顔にせまったドキュメンタリー映画が、このR.J.カトラー監督による『ファッションが教えてくれる』である。監督は、9ヶ月に渡って契約交渉し、準備に1年、撮影に約9ヶ月をかけ、ファッション誌にとって年間で最も重要な特大号「9月号」完成までの5ヶ月間を切り取った興味深い作品である。(以下、内容にふれておりまする。)

まずはアナ・ウィンター編集長の出勤する様子が映像に流れる。迎えにきた車に颯爽と乗り込んだ彼女は、戦闘モードへの準備にスタバに寄って”自分で”コーヒーを買う。映画『プラダを着た悪魔』を意識したかのようなシーンにはちょっと笑わせられるのだが、出社するや次々に部下に厳しい意見を飛ばす様子は、まさしくプラダを着た悪魔である!若い女性編集者に「あなたが使うモデルはいつも同じ印象、あなたと同じストレートの髪型をしていて新鮮味がない」と厳しくも鋭い指摘。老舗の天下のサン・ローランのメゾンに出向いては、椅子にこしかけ腕を組みデザイナーを相手にコレクションの進捗状況をチェックしてアドバイスをする。
しかし、この鬼編集長が看板だけでなく確かに実力の持ち主であることは、映画が教えてくれる。

アナは次々と多忙なスケジュールをこなし、写真を一瞥しただけで雑誌掲載の的確な採用・不採用の決断をくだす。彼女の有無も言わせぬ審判に納得がいかないのが、いつも黒い服に身を包んだベテランのクリエイティブ・ディレクター、グレイス・コディントン。老女といってもよいグレイスは「ヴォーグ」の表紙を飾ったこともある元モデル。若かりし頃の写真によると、さすがに表紙を飾るだけあって繊細で気品のある美貌の女性だった。彼女は当時の美貌そのままに独特の美意識をもつハイ・ファッションのセンスではまさに天才である。セレブの時代を予感して常に流行を先取りして読者の心をつかんできた有能な編集長のアナと、あくまでも洗練された最先端の究極の美の世界にこだわるグレイスとは方向性の違いでしばしばぶつかることもある。しかし、お互いに相手の能力とセンスを尊敬している点で相乗効果をうんでいるのが「ヴォーグ」である。「ネオンカラー」をテーマーにしたグレイスの作品を、即効で却下。不服をもつグレイスだったが、すべて撮りなおしした写真は、確かにテーマーのコンセプトがより明快で素晴らしくセンスのよい写真に仕上がっている。これならアナも満足。またグレイスがこだわった1930年代をイメージした写真の数々は、まさに「ヴォーグ」らしい夢のような美しい芸術品そのものである。一流の写真家、モデル、デザイナー、ディレクターら多くの人々が精魂こめて作り上げたのが、たった一枚のページを飾る写真であり、それらが編まれたのがファッション誌「ヴォーグ」なのである。

毛皮をまとった”グラマーな昆虫”は、関西系おばちゃん的ノリと思っていたアナ・ウィンターだが、実はサングラスをはずした素顔は間違いなく美人でスタイルもよい。しかも、流行を司る巫女にも関わらず、むしろコンサバな育ちのよさが感じられる服装の趣味は可愛らしいのである。ベビーピンクのカーデガンにふわりとしたスカート、シャネルかと思われるスーツ、そしてある日のノースリーブのワンピースはピンクのリボン柄。さりげなくて、上品、でも女性らしい可愛らしさがある。すっかり私は、彼女のファッションを気に入ってしまった。常に新しい流行をつくる女性は、シグネチャーとなっているボブカットと同様、頑固にも流行路線とは別に自分の趣味を貫く女性でもある。アナ・ウィンター自ら認める長所は決断力。そして弱点は、こども。

それにしても、ネット時代にも関わらず雑誌という形態のメディアの力の大きさである。芸術家に近いデザイナーと流通業界、そして消費者を結ぶファッション誌の名物編集長。彼女自身がファッションを創造するわけではないが、”流行”という見えない波を予感してつくる現代の巫女の存在は、現代のファッション業界を象徴している。そして噂どおりの鬼編集長であり、それゆえに優秀な仕事人間だった。

監督:R.J.カトラー

■こんなアーカイブも
『プラダを着た悪魔』の名物編集長
映画『プラダを着た悪魔』


最新の画像もっと見る

コメントを投稿