千の天使がバスケットボールする

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「スクリーンの中に英国が見える」狩野良規著

2011-06-08 23:47:16 | Book
今日、世界中の人々が観る映画の8割が、ハリウッド映画だそうである。マイケル・ダグラスではないが、映画は航空産業に次ぐアメリカ第二の輸出産業。ハリウッド映画を意識的に避けている私ですら、もしかして鑑賞本数の半分は米国産!?ハリウッド映画は、何も考えなくてもよい娯楽映画としてはよくできているし、アメリカという国を考えさせてくれるのでやはり好きな映画も多く、お疲れモードの時はついつい私もハリウッドになびくのだろう。しかし、本書の著者、狩野良規氏は、ハリウッド映画のやばいところは、映画がアメリカ的価値観の発露の場となり、難しいことなしに映画を楽しみながらいつのまにか米国流世界観とイデオロギーの価値観がすりこまれてしまうところだと主張している。確かに、やばいっす。本書は、映画産業においては残りの2割のなかで、巨大な資本もなくマイノリティにおしやられながらも、すぐれたイギリスからやってきた銀幕の中にあるイギリス的なるものの考察で成り立っている。

前置きはさておき、開幕は、
「イギリスは暗い」になる。映画も暗い。。。
その昔、夏目漱石がロンドンに留学してノイローゼ気味になったのは、かの地のくらあ~~い気候のせいだという説があった。そう、イギリス映画は、この国の一年中どんよりとした低い雲が垂れ込めてしょっちゅう雨が降る暗い気候を反映して、暗いのである。しかし、暗くて何が悪いのか。暗いからこそ、イギリスは愛すべき国であり、イギリス映画は楽しいのである。実に、私も同感である!それに人生は、ハリウッドのように単純でもなく、「正義」が勝利するとも限らない。そしてハッピーエンドとはいかずに、「人生は続く」・・・。だから、無邪気な大衆に迎合したようなアメリカンドリーム映画よりも、暗くて落ち込んで元気がでる。

そして、イギリス映画の特徴は、人間の本音の心情を、美化せず、安易な救いでごまかさずに正直に対峙していて、観客が過度に感情移入しないように対象と常に一定の距離を保っているところにある。予算の差よりも現実との向き合い方、描く対象との距離のとり方にハリウッド映画との違いがある。

イギリス的なるもの、歴史と文学、大英帝国ー地方そして植民地、現代イギリスの4部構成で、各10章建て、とりあげた映画は100本以上。次々とイギリス映画のあらすじを紹介しながら、熱く語るその語り口は、イギリス映画の暗さに反し、軽妙洒脱、テンポよくユーモラスという意表をつく。このセンセイの講義だったら、さぞかし楽しいだろうなと思わせてくれるが、実は一番楽しんでいるのが、センセイかも。妙に、英国の舞台と役者に詳しい方だと思ったのだが、『わが命つきるとも』の主人公、トマス・モアが断頭台の露と消える運命の最後の法廷シーンでは、ハリウッド映画がかなわない脚本の差、演技力の差をみ、観客の夢や願望は満たされないが、真実を描ききって心をゆさぶられ、狩野先生はこの場面を観るたびに「イギリス演劇を生涯の研究テーマにしてよかった」と幸せな気分に浸るそうだ。イギリスの演劇が専門とは、詳しいはずである。演劇が大好き、イギリス映画も大好き、暗いから・・・というのが読者に伝わってきて、目からうろこのようにイギリス映画を再発見した次第である。ちょっとしたイギリス映画の資料ともなる力作でもある。

ところで、狩野センセイが教鞭をとってらっしゃる大学のサイトでこんな掲示板を発見!↓
ハリウッドとは似て非なるイギリス映画を通して、イギリスが抱える問題をブラックにえぐりだす画期的な映画評論である。550頁、一カ月で読破した人には狩野がランチをおごります!
おもしろくって、550頁ニ段組を2週間ほどで読破しちゃいましたっ!


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