千の天使がバスケットボールする

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『カラヤンの美』

2008-11-09 16:50:37 | Classic
「指揮者になる夢をかなえる」
「題名のない音楽会」の定例のこの企画で登場された日本画家の方は、カラヤンが大好きでもっているCDの8割がカラヤン!勿論その指揮ぶりはカラヤンのもの真似なのだが、カラヤンはその生涯にアルバム総計1億枚!を売ったとされる20世紀最高のスーパースターである。確かに私のCDも、指揮者に限定すればカラヤン比率が高いぞ。今年、2008年4月5日は、20世紀を代表する最高の指揮者、カラヤン(Herbert von Karajan)生誕100周年の年にあたり、それを記念して制作されたドキュメンタリーが、『カラヤンの美』である。

音符が優雅に舞う中を、カヤランの指揮をする手がもっと優雅に舞う。その動きの美しさと音楽の美しさに目を奪われていると、インタビュアーが登場してとカラヤンを語る。サイモン・ラトル、小澤征爾、マリス・ヤンソンスと言った名だたる指揮者やグンドゥラ・ヤノビッツやクリスタ・ルードビッヒなどの過去に共演した歌手らが、次々と彼の音楽性と印象をひと言語ると、その内容に呼応したカラヤンのインタビューに応える映像やリハーサル風景がに交互に映されていく。ある音楽関係者が「カラヤンは暴君だった」と証言すると、「暴君が許される場所がふたつある。軍隊と音楽だ」と豪語する壮年時代のカラヤンの映像とエピソードが紹介される。ザルツブルグで育ちピアノを学んだカラヤンは、自分の音楽を表現するには2本の腕では足りないと思うようになる。恩師ベルンハルト・パウムガルトゥナーのアドバイスで指揮者をめざしたカラヤンは、まずドイツのウルム市立歌劇場の音楽監督に就任する幸運をえる。しかし、演奏技術が自分に望むレベルに達していないヴァイオリニストにやめるように勧告すると、そのヴァイオリニストがカラヤン暗殺を企て小型銃をもち歩いていることに気が付いた音楽関係者が劇場側に知らせ、ふたりの和解の場を設けた。結果、ヴァイオリニストは当時ドイツの失業者300万の不況の時代に解雇され、カラヤンは能力にふさわしい劇場でふるようにと諭され失業した。その後の2年間、彼は求職活動に奔走することになり、その時の苦い思い出が彼を列車嫌いにしたと伝えられる。

若き頃のカラヤンの不遇時代からはじまり、帝王になり1989年7月16日にこの世を去るまで、カラヤンの生涯を追いつつカラヤンとはどんな指揮者だったのか、どんな人物だったのかを家族のインタビューやプライベートな映像も含めて、多角的で見応えのある92分である。
それにしても、カラヤンを知らない世代の者としては、なんと華やかな人生と感じる。

晩年のシュトラウスを前に彼の曲を指揮をした時、殆ど眠っているような老人の作曲家を興奮させるような情熱的な指揮で音楽性を披露した若きカラヤンは、ワグナー夫人の前で指揮をする幸運にも恵まれる。リハーサル時には、独特のしわがれ声で的確に細部にこだわった指示を与える。細部にも手をぬかない徹底ぶりである。オペラの舞台では、演出家を使わずに自分で演出する姿は、意外と小柄だが老いてもエネルギッシュさとオーラーが漂い、すべてを自分の意のままに音楽をつくりたい帝王と呼ばれる由縁を感じる。その一流のこだわりは、映画監督のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの影響を受けて、ご存知のとおり音楽の録音にとどまらず映像にも向かっていった。それはベルリン・フィルの楽団員は勿論のこと莫大な富をもたらし、音楽の国際化と政治家からも尊敬される芸術家の地位向上にも貢献した。リハーサルでのカラヤンは、にらみをきかせるかと思えば、冗談を飛ばすユーモアさもある。グンドゥラ・ヤノビッツによると彼が登場すると、誰もが緊張したそうだ。あのパバロッティがカラヤンの前で神妙な顔で真剣に歌う映像が流れると、映画館では失笑する声も聞こえたくらいだ。

そんな彼を逆に緊張させた唯一の女性が、当時ディオールのモデルをつとめ世界で最も美しい女性と称えられ後に妻となるエリエッテ夫人。今でも美しい夫人は、初めて会った日の翌日、レストランで彼とずっと踊ったのだが、ダンスがあまり得意ではないカヤランは翌日太ももが痛くなったというエピソードを笑いながら紹介する。その時18歳だった夫人は、若く世間を知らず、それがどれほどのニュース価値があるかわからなかった。プラチナ・ブロンドの長い髪が豊かで、上品で完璧な美しさをもった18歳のエリエッテと親子ほどの年の差がある帝王のロマンスに、世界中のマスコミが沸いたことは想像つく。さすがの音楽上では「暴君」も、家庭では音楽とともに家族にも献身的に尽くした様子が、夫人とふたりの娘、イザベルとアナベルの様子から窺がえる。親しい友人があまりいなかったと伝えられるカラヤンにとって、美しい3人の女性と暮らすアニフ村の屋敷での生活は、彼の晩年をどれだけ実り多く豊かにしてくれたことだろうか。森が遠景になった雪の平原を犬とともに散歩する家族の映像は、帝王にふさわしく貴族的で優雅だ。

メニューインとのリハーサルでピアノに向かうカラヤン、そのカラヤンが指揮をするゲネプロの客席で、楽譜に鉛筆でメモを書き込み一心に勉強している黒髪の大学生のような青年はなんと小澤征爾、ベートーベンのVn協奏曲を共演するアンヌ・ゾフィー・ムターとの映像やカラヤンが彼の演奏を聴いて感動のあまりに涙を流したとエピソードを語る少しおなかがゆるくなってきたキーシンが、少年と言ってもよいくらいの幼い表情でベルリン・フィルと共演して西側にデビューした時の映像。機械類が大好きで、燕尾服で自ら車を運転していつも開演ぎりぎりに到着して劇団関係者をはらはらさせたり、プライベート・ジェット機を操縦するコックピットの中のカラヤン、また豪華な自分の船の舵取りも巧みだったカラヤン。どのカラヤンも美男子で威厳に満ち、格調高い。

「バースタインは指揮をするとき汗を流して指揮をするが、カラヤンは汗を流すことはない」

グンドゥラ・ヤノビッツの証言から、最後はクラシック界の人気を二分した対照的なレナード・バーンスタインとのマーラーの5番をふる映像が交互に流れる。
厳しく団員を叱咤しつつ感情を爆発し、全身でマーラーをふるレニー。彼は私生活でも自由奔放だったが、カラヤンは私生活でも音楽に捧げた指揮者でもあった。どちらの方が団員に愛されたかを言う必要はないが、カラヤンの威厳の前に、自分が団員だったら、最高の演奏をしなければならないプレッシャーと恐怖、そして最高の演奏をしたい演奏家としての音楽の喜びを感じるだろう。

私は映画館で鑑賞したのだが、DVD化されて発売もしている。カラヤンを知るには音楽を聴けばよいと思っていたのだが、そればかりでもない。カラヤンはやはり偉大だったとつくづく思う。カラヤン・ファンだけでなく、ロバート・ドーンヘルム監督のドキュメンタリーは音楽ファン必見である。

晩年のカラヤンは、後20年遅く生まれてきたかったと語っている。そして、自分の音楽を表現するには、あまりにも人生は短いとも。

■ベルリン・フィルと言えば・・・
・「コンサートマスターは語る 安永徹」
・ヴィオラ奏者清水直子さんの「情熱大陸」
・「舞台裏の神々」


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