千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

『プッチーニの愛人』

2011-07-27 23:13:05 | Movie
私、個人としては音楽家の下半身に世間的な常識やモラルを求めることはしないことにしている。音楽家として音楽に情熱をもつ資質が、時には婚姻上のパートナーとは別の方にもある種の情熱が発散されてしまうというのもありうる現象だと思う。
「アイーダ」「マノン・レスコー」「ラ・ボエーヌ」「トスカ」「蝶々夫人」と、オペラの傑作を次々とうみだした作曲家のジャコモ・プッチーニ。彼はなかなかの艶福家で、その時の恋人との情事が創作意欲となって数々の名曲が誕生し、まあ、要するに作品ごとに主人公に似ている愛した女性がいたそうだ。彼は、女性を換える度に帽子の被り方を換え、しゃべり方も変えた。しかし、プッチーニ家にメイドとして働いていた娘が、妻から姦通を疑われて激しく攻め立てられ追及された果てに、服毒自殺を図ったとなれば音楽家によるフーガと軽くあしらうわけにはいかない。「ドーリア・マンフレード事件」というクラシック音楽界のスキャンダルにもなった。。。

ミステリー仕立ての軽い音楽映画と予想していたら、名匠パオロ・ベンヴェヌーティ監督のお仕事は全く違っていた。映画というよりも、通俗性を嫌う「作品」と言った方がふさわしい。
1909年、プッチーニ家で働いていたメイド、ドーリアは本当にプッチーニの愛人だったのだろうか。もしドーリアではなかったら、当時の偉大な作曲家の愛人はいったい誰だったのだろうか。考証と推敲を重ねて、近づいていったひとつの真実とは。

プッチーニの別荘があったトッレ・デル・ラーゴの美しい景色を背景に、物語はゆっくりと、そして静かにすすんでいく。通常のセリフらしいセリフは殆どない。まるでサイレント映画のように作曲家の時間がゆっくりと流れ、登場人物たちの手紙が朗読され、その内容から観客は想像して物語を読み解く。俳優たちの演技も、無言劇のようにわかりやすく、演技を楽しんでいるかのようにカタチにはめていく。妻のエルヴィーラが、夫のプッチーニからご機嫌とりに渡された花束を抱える場面などは、観客の反応を期待するかのようにつくりこんで演技をしている。しかし、本作のもっとも大きな優れている点は、プッチーニ(リッカルド・ジョシュア・モレッティ)の内面を語るような静かなピアノ音楽だけでなく、トッレ・デル・ラーゴの自然の音楽や、日々の暮らしのささやかな音楽である。瑞々しく、それでいて斬新で、最後は、なんと大胆にもシューベルトの弦楽四重奏曲第14番『死と処女』が流れる。これまでの静謐な空間が一気に破られるような有名な『死と処女』の音楽。音響デザインは、あの映画『ミルコのひかり』の主人公、ミルコ・メンカッチだった。映画ファンだったら、ちゃんと劇場で鑑賞しておくべき1本だと思う。

ちなみに、メイドのドーリア・マンフレーディ は、自殺した後に検視によって処女であることがわかり嫌疑ははれた。1909年、遺族が訴訟を起こし妻のエルヴィーラは有罪となったが、後に大金を積んで和解した。事件終了後、プッチーニは新作オペラ『西部の娘』を発表した。

監督・原案・脚本・美術 :パオロ・ベンヴェヌーティ
2008年イタリア製作


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4 コメント

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無声映画の音楽 (クマネズミ)
2011-08-07 22:31:09
こんばんは。
TBをいただきありがとうございます。
この映画について、「本作のもっとも大きな優れている点は、プッチーニの内面を語るような静かなピアノ音楽だけでなく、トッレ・デル・ラーゴの自然の音楽や、日々の暮らしのささやかな音楽である」とは、誠に鋭いご指摘だと思いました。
そうしてみると、一方で無声映画でありながらも、他方では音楽に溢れていることにもなりますね!
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クマネズミさまへ (樹衣子)
2011-08-08 22:41:48
こちらこそコメントをありがとうございます。

この映画を観て、つくづく日本は蛮声や騒音の洪水で溢れている国だと思いました。

>一方で無声映画でありながらも、他方では音楽に溢れていることにもなりますね!

おっしゃるとおりですね。同じ音でも、静けさを感じさせてくれる音、音楽になる音もあることがよくわかる映画でした。
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ご連絡 (calaf)
2011-08-20 00:21:21
ご無沙汰しております。ウエッブメールの方にメールを差し上げました。

このメードこそ、トゥランドットのリウのモデルです。
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リウ (樹衣子)
2011-08-20 11:52:08
calafさまへ

メールありがとうございました。
先ほど返信をしました。

「リウ」のモデルにしては、素朴な女性でしたね。それは兎も角、部隊は憧れのイタリアでした。^^
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