黒木亮氏の小説「巨大投資銀行」が、海外でもなかなか好評な売れ行きだという。理由は、サブプライムローン問題を考えるに格好なテキストだそうだ。
経済小説は何よりも鮮度が大事だと思っていたのだが、黒木亮さんの著書は経済活動の生きた実態を書き記した教科書のようであり、その充実度は文句なく最高峰だろう。最近の著書「エネルギー」も昨年の原油価格の異常な高騰ぶりから、一転OPECが過去最大の減産調整をしたのにも関わらず、NY原油は続落している。いみじくも1年前のブログで石油専門家の常識として1バレル40ドル以下が本来の正しい価格との情報どおりとなったわけである。
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「NY原油:5営業日続落、一時35.98ドル」
【ワシントン】18日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、世界的な景気の悪化でエネルギー需要が減退するとの観測が強まり5営業日続落。指標である米国産標準油種(WTI)の1月渡しは一時、前日終値比4.08ドル安の1バレル=35.98ドルまで下落し、04年6月以来、約4年半ぶりの安値をつけた。7月につけた最高値(147.27ドル)からの下落幅は75%超に達し、原油価格はわずか5カ月で4分の1となった。終値は同3.84ドル安の36.22ドルだった。
石油輸出国機構(OPEC)が日量220万バレルと過去最大の減産を決めたが、世界同時不況の懸念で自動車業界や運輸業界が苦境に直面する中、エネルギー需要の先行きに対する弱気見通しが市場を覆い、減産効果はほとんど見られなかった。
(08/12/19毎日新聞)
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思い起こせば昨年の暮れ以来、納得のいかない原油価格の高騰で庶民の生活は苦しくなり、イカつり漁船は出漁しても赤字になるため休業、トラック業界もガソリン価格値上げに泣いていた。その度に、日本人は翻弄される。
本書の登場人物は主に5人。主人公の金沢明彦は商社の燃料本部の社員。実家は北海道網走市で漁業を営み、オイルショックによる燃料価格高騰で漁師達が悩んでいる姿を見てエネルギー・ビジネスに強い商社に就職した。その一方、長崎の傾いた船会社の息子、エネルギー・デリバティブの専門家の秋月修二は先物市場でボラティリティを利用して大もうけをして高額な報酬を得ている。そして、越前の豪雪地帯で父親が営んでいた小さな染色工場がオイルショックで倒産した経験をもつ通産省の官僚の十文字一は、貧困と東京大学文学部出身のハンディをバネに権力の世界でのしあがっていこうとする。そんな彼らを中心に、脇を固める中堅商社のベテラン商社マン亀岡や熱心なNGO活動で油田開発を阻止しようと運動する金沢の妹。
1998年、ベイルートからヨルダン。そしてイラクに向かう長い石油街道を走る商社の男達。物語は、さらにシンガポール、中国、ロシア、東京と舞台をうつしながら、いかにエネルギーを国に安定的に供給し確保するために奔走する商社マン政治家、石油価格の変動をビジネスチャンスに利用して成功する者や破綻する者とおよそ10年の歳月を通して、今ではレトロな銅相場で巨額の損失を発生させた住友商事銅取引巨額損失事件やニック・リーソンによる名門の「ベアリングズ銀行破綻事件」、9.11テロ、新潟大地震など時の趨勢を盛り込みながら淡々とビジネスは進行していく。経済小説の宿命として、深い人物描写や繊細な表現は期待してはいけない。点と線がからみあいながら、”エネルギー問題”を考えさせてくれる作品である。
金沢が愛読している本が、マサチューセッツのケンブリッジ・エネルギー研究所に勤務するダニエル・ヤーギンが7年の歳月をかけて書きピューリッツアー賞を受賞した「石油の世紀」である。本のカバーにはヒトラーだけでなく真珠湾を攻撃した山本五十六提督の写真も掲載されている。
「石油の一滴は血の一滴」
第一次世界大戦のさなか、フランス大統領クレマンソーが米国に石油の緊急支援を求めた時の言葉である。昭和16年7月、米国が対日石油の全面禁輸に踏み切ると全石油消費量の8割を米国に頼っていた日本にとって、石油確保は死活問題となった。当時、日本では石炭が主要なエネルギー源だったが、軍事用と船舶輸送用として利用していた石油を失うことは、軍艦や戦車、戦闘機が機能しないただの鉄の塊になることを意味した。
現代でも石油を欠かすことはできない。夜になれば電気をつけ、車の運転をして、快適な生活をする現代人にとってエネルギー確保は重要な課題である。資源のない日本人にとっては、それを認識するだけでも本書は価値がある。そして、それゆえの環境汚染を見過ごすこともできないのだが、進化した文明に慣れてしまえばもはや後戻りはできない。
■そういえばこんなアーカイブ
・「巨大投資銀行」黒木亮著
・家計震える師走入り
・中国流ODAのゆくえ
・アフリカを巧みに繰る非鉄メジャー「アングロ・アメリカン」
・アウトソーシング事業部戦争チーム
経済小説は何よりも鮮度が大事だと思っていたのだが、黒木亮さんの著書は経済活動の生きた実態を書き記した教科書のようであり、その充実度は文句なく最高峰だろう。最近の著書「エネルギー」も昨年の原油価格の異常な高騰ぶりから、一転OPECが過去最大の減産調整をしたのにも関わらず、NY原油は続落している。いみじくも1年前のブログで石油専門家の常識として1バレル40ドル以下が本来の正しい価格との情報どおりとなったわけである。
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「NY原油:5営業日続落、一時35.98ドル」
【ワシントン】18日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、世界的な景気の悪化でエネルギー需要が減退するとの観測が強まり5営業日続落。指標である米国産標準油種(WTI)の1月渡しは一時、前日終値比4.08ドル安の1バレル=35.98ドルまで下落し、04年6月以来、約4年半ぶりの安値をつけた。7月につけた最高値(147.27ドル)からの下落幅は75%超に達し、原油価格はわずか5カ月で4分の1となった。終値は同3.84ドル安の36.22ドルだった。
石油輸出国機構(OPEC)が日量220万バレルと過去最大の減産を決めたが、世界同時不況の懸念で自動車業界や運輸業界が苦境に直面する中、エネルギー需要の先行きに対する弱気見通しが市場を覆い、減産効果はほとんど見られなかった。
(08/12/19毎日新聞)
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思い起こせば昨年の暮れ以来、納得のいかない原油価格の高騰で庶民の生活は苦しくなり、イカつり漁船は出漁しても赤字になるため休業、トラック業界もガソリン価格値上げに泣いていた。その度に、日本人は翻弄される。
本書の登場人物は主に5人。主人公の金沢明彦は商社の燃料本部の社員。実家は北海道網走市で漁業を営み、オイルショックによる燃料価格高騰で漁師達が悩んでいる姿を見てエネルギー・ビジネスに強い商社に就職した。その一方、長崎の傾いた船会社の息子、エネルギー・デリバティブの専門家の秋月修二は先物市場でボラティリティを利用して大もうけをして高額な報酬を得ている。そして、越前の豪雪地帯で父親が営んでいた小さな染色工場がオイルショックで倒産した経験をもつ通産省の官僚の十文字一は、貧困と東京大学文学部出身のハンディをバネに権力の世界でのしあがっていこうとする。そんな彼らを中心に、脇を固める中堅商社のベテラン商社マン亀岡や熱心なNGO活動で油田開発を阻止しようと運動する金沢の妹。
1998年、ベイルートからヨルダン。そしてイラクに向かう長い石油街道を走る商社の男達。物語は、さらにシンガポール、中国、ロシア、東京と舞台をうつしながら、いかにエネルギーを国に安定的に供給し確保するために奔走する商社マン政治家、石油価格の変動をビジネスチャンスに利用して成功する者や破綻する者とおよそ10年の歳月を通して、今ではレトロな銅相場で巨額の損失を発生させた住友商事銅取引巨額損失事件やニック・リーソンによる名門の「ベアリングズ銀行破綻事件」、9.11テロ、新潟大地震など時の趨勢を盛り込みながら淡々とビジネスは進行していく。経済小説の宿命として、深い人物描写や繊細な表現は期待してはいけない。点と線がからみあいながら、”エネルギー問題”を考えさせてくれる作品である。
金沢が愛読している本が、マサチューセッツのケンブリッジ・エネルギー研究所に勤務するダニエル・ヤーギンが7年の歳月をかけて書きピューリッツアー賞を受賞した「石油の世紀」である。本のカバーにはヒトラーだけでなく真珠湾を攻撃した山本五十六提督の写真も掲載されている。
「石油の一滴は血の一滴」
第一次世界大戦のさなか、フランス大統領クレマンソーが米国に石油の緊急支援を求めた時の言葉である。昭和16年7月、米国が対日石油の全面禁輸に踏み切ると全石油消費量の8割を米国に頼っていた日本にとって、石油確保は死活問題となった。当時、日本では石炭が主要なエネルギー源だったが、軍事用と船舶輸送用として利用していた石油を失うことは、軍艦や戦車、戦闘機が機能しないただの鉄の塊になることを意味した。
現代でも石油を欠かすことはできない。夜になれば電気をつけ、車の運転をして、快適な生活をする現代人にとってエネルギー確保は重要な課題である。資源のない日本人にとっては、それを認識するだけでも本書は価値がある。そして、それゆえの環境汚染を見過ごすこともできないのだが、進化した文明に慣れてしまえばもはや後戻りはできない。
■そういえばこんなアーカイブ
・「巨大投資銀行」黒木亮著
・家計震える師走入り
・中国流ODAのゆくえ
・アフリカを巧みに繰る非鉄メジャー「アングロ・アメリカン」
・アウトソーシング事業部戦争チーム
>石油専門家の常識として1バレル40ドル以下が本来の正しい価格
その昔、石油会社のOLでした。小説は読んでませんが現実話はいろいろと・・^^;
関係者によると適正価格は70~80ドルだそうです。
今はやっと一息ついた形ですが、今後景気が上向きにならないまままた原油高になったらホントにお手上げですね、世界中が死活問題です。
今回の急激な値下げの理由には驚くようなトンデモ話もあり・・・国対国の陰謀うずまく中で翻弄される石油業界です。
それにしてもホント、アメリカって国は・・・
値上げのために、アジア、ヨーロッパとまわった後に、帰国後、一気に価格が下落して、再度交渉しなおしになった時は、目の前が真っくりになりました(苦笑)。もう一度コスト分析や投資計画の見積もりやり直しなど、、、、泣けた。。。
僕らも、適正価格は70~80ドル近辺かな、と推測しています。原価が、10ドルから15ドルなので、40ドルでも大儲けですけれどもね。そんな利益率のコモディティ商品なんてありえないんですがねぇ。
理由は、いろいろあると思いますが、そんなことどーでもいいから安定化してくれ、と思います。高ければ高いでいいんですよ、ステイブルなものであれば、それに合わせて考えるので・・・。高くていいことも多かったんです。あのまま高値で止まってくれれば、新エネルギーや新しいこれまで日の目をみなかった事業の損益分岐が下がるので、地球人類と環境にとっても、50年単位ではけっしてマイナスばかりではなかったと思いますし。
はぁ、下がったら下がったで、また大変です・・・。
>石油会社のOLでした
おっ、それは初耳。せっかく美術を専攻されたのに、畑違いのお仕事にすすまれたのですね。
・・・そう言えば、アラビア石油という優良企業が油田の採掘権失効という話題があったがどうなったのだろうか。
>関係者によると適正価格は70~80ドル
さすがに、よくご存知ですね。景気回復の見込みもしばらくなさそうなので、せめてこのまま原油安のままでいて欲しいです。セツジツ。
>世界中が死活問題です
それ自体が問題ですよね。原油にかわる代替えエネルギーを本気で考えなければいけないですよ。米国のビッグ3の凋落も、いつまでもマッチョな男好みのガソリン垂れ流しの大型車を売っていた怠慢のツケがきたと思います。時代の先を読み、せっせとハイブリット・カーの研究をしてきた日本企業の地道な努力が、、、と言いつつもこの急激な円高にはかなわなかったようで。
それにしても、エネルギー問題にもっと関心をもたなければと思いました。
世界的な陰謀?「シリアナ」とかいう映画もありましたね。近いうちに観ておこうっと。
今年も、本当に毎日お仕事とブログにせっせと励まれていましたよね。^^
>帰国後、一気に価格が下落して
先物で買建していた方は、地獄を見たのではないかと思いますが、高騰も下落も急激なのが原油価格のようですね。
>原価が、10ドルから15ドル
えっ、そうなんですか。ちょっと驚きです。
それから本当に原油価格が安定してくれないと、その度に翻弄されるビジネスマンだけでなく国民も困ります。ずっと高値というのも庶民には痛いのですが、大事なのは次のコメントでしたね。
>新エネルギーや新しいこれまで日の目をみなかった事業の損益分岐が下がるので、地球人類と環境にとっても、50年単位ではけっしてマイナスばかりではなかったと
大局観でこの問題を考える視点を忘れてはいけなかったですね!
ということで、なかなか映画は見れそうにありませんが・・・
よいお年を!
しかも、男の子と女の子の双子のパパに!!
怒涛の1年の意味をようやく理解できましたが、双子ちゃんだったらそれはそれはさぞかし怒涛の日々かとお察しします。
すっかり遅くなってしまいましたが、おめでとうございます!
それでは映画を観るのは、しばらく無理ですね。^^
民間企業での共働き夫婦の「ワーキングライフバランス」は、厳しいですよね。働くママの一日を統計で調べたら、いつ倒れても不思議ではないくらいの過密スケジュールだと新聞で読みましたが、何を今さら・・・と思います。
「ママになったら、なんで社会でのキャリアをあきらめねばいけないのですか」
そんな切実な声に応えなければ日本の発展はないですね。少子化時代を迎えて、女性の働かなければ。働く女性にとってこどもは間違いなく足かせですが、長い目で見ればこどもの存在が仕事へのモチベーションになり、また逆風にあってものりこえて長く働けるようです。それもひとりよりは、ふたりの方がむしろこども同士でお互いに助け合えるので便利。
女性の立場からのコメントになってしまいましたが、
>夜泣きで大変なんです
ひとりでも大変なのに、デュエットだろと、本当に大変だろうな~~と笑ってしまいましたが、健やかなこどもたちに恵まれたことは幸運。
今年も怒涛の1年を、元気にのりきってください!