唯物論者

唯物論の再構築

ヘーゲル大論理学概念論 解題(第一編 第二章 C 無条件判断)

2022-04-03 17:39:22 | ヘーゲル大論理学概念論

 概念の自己実現は、肯定判断における述語の二重否定に続き、主語の二重否定によって反省の表象判断を全称判断に導く。それがたどり着く判断は、条件の欠けた定言である。しかしそれは根拠の欠落に満足する独断である。これに対して反省は、次に偶然を廃棄した主語と述語の同一を目指す。さしあたり定言は全体を主語とし、部分を述語とする。しかしその主語と述語の非同一は、やはり否定判断である。それゆえに悪無限を避ける判断の運動は、さらなる述語の二重否定および主語の二重否定を放棄し、独断の二重否定に進む。ここで主語と述語の非同一が最初に否定するのは、全称判断が無根拠に現す単一限定である。しかしその空虚な独断は、元の独断に対して否定的な独断と入れ替わる。このときの独断は、単一な独断とそれに否定的な独断を包括する条件判断である。ところがその主語と述語の条件的同一は、相変わらず主語と述語を無限定な同一にしない。そこでその主語と述語の非同一は、単一な条件判断を否定し、条件判断を普遍化する。この普遍化した条件判断は、主語の全体と述語の部分が無限定に同一となる。その判断は必然化した偶然であり、かつ偶然化した必然である。これにより独断の偶然と必然が一体化し、独断は概念に転じる。

[第三巻概念論第一編「主観性」第二章「判断」C「無条件判断」の概要]

 反省の表象判断から推移した無条件判断の論述部位
・無条件な本質判断の全容
 -定言判断 …“AはB”。全称主語が包括する述語の単一限定。“具体な類は、種の個別である”
 -仮言判断 …“AならばB”。定言の単一限定の否定。“特殊な類は、種の部分である”。
 -選言判断 …“AならばBまたはC”。仮言の部分限定の否定。“普遍な類は、種の全体である”。
・概念    …選言判断が擁立する類と種が癒着した具体的普遍。


1)無条件な本質判断

 全称判断が到達する普遍は、具体全体の対自即自存在であり、客観的普遍であった。すなわちそれは、原理を内属する概念の普遍である。それは、擁立された必然である。一方でその原理は実体において偶有である。それゆえに客観的普遍は、本質の普遍に現れる実体ではない。そしてこの客観的普遍を擁立するのは、判断である。まず定言判断は本質を擁立し、同時にその本質の存在としてこの客観的普遍を擁立する。次に仮言判断と選言判断が、先に擁立した本質と異なる特殊な客観的普遍を擁立する。


2)定言判断

 自己としての類は自己反発し、自己自身を分割する。ただしその自己は、自己の下位に種を包括する限りで類である。そして上位の類に包括される限りで、その自己は種または具体である。それゆえに“薔薇は赤い”のように主語を類として擁立する定言判断も、同様に定言判断と反省判断または直接判断の三通りに現れる。すなわちそれらの主語は、上位の類が無ければ類であり、上位の類があるなら種または具体である。ただしもともと定言判断は、主語を特殊または具体にする直接判断である。同様に主語の“薔薇”も、限定された普遍として種である。いずれにおいても“である”は、主語を述語の存在にする。それゆえにその述語の“赤”は、主語を包括する普遍として現れた。ところがその述語の普遍は、もともと直接的実存である。またそれは主語を限定する原理だと限らない。むしろそれは単なる名前だけの場合もある。当然ながらそのような述語は普遍ではない。このときに述語が表現するのは、主語との実体的同一だけである。ただし次にその主語の内容に現れるのは、自己反省した形式の全体である。その主語の全体は、述語が主語を包括する関係を、主語が述語を包括する関係に反転させる。そしてその反転が、存在にすぎなかった“である”を必然の繋辞に変える。


3)仮言判断

 主語による述語の内容的包括は、主語の客観的普遍を擁立する。しかしその必然は、存在一般を包括する自己反省の必然に留まる。その普遍の端的な必然の定言は“Aは存在する”、すなわち単独定言の“Aがある”である。ただしこの“がある”は、必然に対する根拠の欠落において空虚である。それゆえに“Aがある”は、本来的に根拠を前提する。そしてその根拠にはAの他者が現れる。このことは、逆に単独定言“Aがある”を根拠の欠落態として示す。したがって“がある”の空虚は、同一律の空虚と同じである。すなわちそこには自己矛盾に対する区別の欠落がある。それゆえに定言は自己を否定して自己自身を擁立し、同時にその自己自身の存在として自己を擁立する。なおこのときの定言の自己否定は、自己を直接判断にも表象判断にも戻さない。それはただの悪無限だからである。このときに定言が否定するのは、定言の単独である。したがって非定言は、定言を量的に拡大する。それが“Bがあるなら、Aがある”の仮言である。仮言は主語Aを他者の存在にする。しかしその主語Aは、表象判断の主語に現れた有限者とも異なる。表象判断の主語は他者の現象にすぎない。しかし仮言の主語は、他者の存在であると同時に単独に存在する。それゆえにその主語は、特称判断の主語と同様の無限定な特殊になっている。


4)選言判断

 仮言判断は、定言判断の否定である。それは定言に根拠命題を加えた点で、特殊化した定言判断である。しかしその否定表現の“Bがあるなら、Aは無い”は、元の肯定表現と内実的に変わらない。それゆえに仮言判断は、述語に適合する判断と適合しない判断の両側を包括する。そしてその両側の包括が、仮言判断を無限定にする。すなわち仮言判断の特殊化は、仮言判断を定言判断の更なる具体化であると同時に更なる普遍化である。しかし仮言判断の無限定は、主語の具体化に逆行する。悪無限を避ける主語の具体化は、主語の完全限定を目指す。そしてその完全限定によって主語を普遍にする。したがってここでも主語と述語の非同一は、仮言命題の否定に向かう。選言判断“AはBであるかCである”は、この仮言判断の否定である。あるいは“Aならば、BであるかCである”として完成した仮言判断が選言判断である。この選言判断が否定するのは、仮言判断における主語の部分限定である。したがってその否定は、主語の全ての限定となる。経験的な選言は“AはBかCかDか…”と多くの選択肢を持つ。しかしBではないCは、Aの内包における単なるB以外である。したがって論理的な選言は“AはBかC”ではなく、“AはBとC”である。そしてBとCの全体によって主語Aは、類として完全限定される。


 4a)選言における類と種

 選言判断“AはBとC”における種のBとCは、類Aの内包において排他的である。しかしそれらは類Aにおいて同一である。この同一は排他的な種において共通に内在する原理であり、差異を除外して得られた外面的同一ではない。例えば類としての動物の原理は、手足の有無のような外面的同一を含まない。それゆえに類としての動物は、椅子を犬と一緒に包括しない。この原理的同一は、差異対立する二者における反対と矛盾を区別する。すなわち原理的同一の欠けた差異が反対対立であり、そうでなく原理的同一のある差異が矛盾対立である。そしてその反対対立と矛盾対立の間の差異にも、さらに反対対立と矛盾対立がある。それゆえに反対対立する種は、類において反対対立を統一して矛盾対立に転じる。逆に矛盾対立する種は、類において矛盾対立を分解して反対対立に転じる。これらの対立する類の統一と種の分解は、選言判断が擁立する。それゆえに種の上位には、類が幾層の階層になって現れる。たださしあたり選言が擁立する類は、種を統一したすぐ上位である。同様に選言が擁立する種は、類を分解したすぐ下位である。ここでも分解された種は、排他的な種において共通に内在する原理において同一である。したがってその分解もこの同じ原理に従う。それゆえにその種の全体は、経験的選択肢“BかCかDか…”における種の欠落を容認しない。


 4b)無条件判断の概念判断における完成

全称判断“全てのAはB”が擁立する必然は、さしあたり“AはB”の定言で現れるが、それはむしろ“AならばB”の仮言である。そしてその必然の完成は“AはBかC”の選言を通じて“AはBとC”に至る。この選言での主語と述語は、それぞれ客観的普遍とその全体として同一である。またそれは、選言が擁立した類と種の分解と統一を表現する。それは選言が擁立した主語と述語の癒着であり、概念である。

(2021/11/04) 続く⇒(ヘーゲル大論理学 第三巻概念論 第一篇 第二章 D) 前の記事⇒(ヘーゲル大論理学 第三巻概念論 第一篇 第二章 B)

ヘーゲル大論理学 概念論 解題
  1.存在論・本質論・概念論の各章の対応
    (1)第一章 即自的質
    (2)第二章 対自的量
    (3)第三章 復帰した質
  2.民主主義の哲学的規定
    (1)独断と対話
    (2)カント不可知論と弁証法

  3.独断と媒介
    (1)媒介的真の弁証法
    (2)目的論的価値
    (3)ヘーゲル的真の瓦解
    (4)唯物論の反撃
    (5)自由の生成

ヘーゲル大論理学 概念論 要約  ・・・ 概念論の論理展開全体 第一篇 主観性 第二篇 客観性 第三篇 理念
  冒頭部位   前半    ・・・ 本質論第三篇の概括

         後半    ・・・ 概念論の必然性
  1編 主観性 1章A・B ・・・ 普遍概念・特殊概念
           B注・C・・・ 特殊概念注釈・具体
         2章A   ・・・ 限定存在の判断
           B   ・・・ 反省の判断
           C   ・・・ 無条件判断
           D   ・・・ 概念の判断
         3章A   ・・・ 限定存在の推論
           B   ・・・ 反省の推論
           C   ・・・ 必然の推論
  2編 客観性 1章    ・・・ 機械観
         2章    ・・・ 化合観
         3章    ・・・ 目的観
  3編 理念  1章    ・・・ 生命
         2章Aa  ・・・ 分析
         2章Ab  ・・・ 綜合
         2章B   ・・・ 
         3章    ・・・ 絶対理念


唯物論者:記事一覧



コメントを投稿