奈良女児誘拐殺害事件判決文

2006-09-27 | 死刑/重刑/生命犯

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/column15-narajoji.htm

2006年9月26日言い渡し
裁判長 奥田哲也

判決要旨

殺意の発生時期
 女児が風呂に入る時点では被告に殺意があったとまでは認められず、風呂場での女児の言動を契機に殺意が発生した。犯行の発覚を逃れるためには女児を殺害しなければならないと考えていたことがあり、殺害直前の女児の言動のみに触発され殺意を抱いた激情犯的なものとは異なる。

犯行態様
 浴室で女児にわいせつ行為に及んだところ抵抗されたため、湯に沈めて殺そうと決めた。体重をかけて力の限り女児の体を沈め、抵抗する女児が動かなくなってからも続けており、極めて執拗で残忍というほかない。

結果の重大性
 女児は助けを求められない密室で悲惨な方法により殺害され、肉体的苦痛がいかに甚大なものだったかは想像に難くなく、救助の願いが届かない絶望の中で感じた恐怖感も筆舌に尽くし難かったと思われる。無限の可能性がある人生を楽しむことなく、わずか七年の短期間で終えなければならなかった女児の無念さは察するに余りある。

犯行の動機、経緯
 被告は賢そうな女児が被告を覚えていて犯罪が明るみに出ると考え、わいせつ行為後の殺害を考え、抵抗されたため犯行に及んだ。犯行の態様からみても確定的殺意に基づいており、わいせつ行為の着手前に殺害を決意していた。
 被告は女児への異常な性欲を満たすためわいせつ行為に及んでおきながら、抵抗されると発覚を恐れて殺害に及んでおり、動機は身勝手極まりなく、酌量の余地はみじんもない。

犯行後の情状
 被告は女児を殺害後、遺体損壊などの犯行に及び、アリバイ工作をしたり証拠品を破棄して犯行の跡を隠ぺいしようとしたりした。遺体損壊後の裸の女児を、顔が見分けられるように血をぬぐって写真撮影し、「娘はもらった」とのメールに添付して女児の母親に送信し、自慢げに知人に見せびらかしている。
 殺害後も後悔の気配がなく、女児の親族の気持ちをもてあそぶ冷酷で非人間的な行為をし、自己顕示欲を満たす自己中心的な行動を取っており、犯行後の情状も極めて悪い。

遺体の損壊など
 被告は女児の遺体を物のように取り扱い損壊しており、冷酷非情、残虐でおぞましい。世間を大騒ぎさせようと、遺体が容易に発見されるように道路脇の側溝に捨てた。自分の犯罪が注目されるとの思いから行い、下劣というほかない。
 ショックを受けている女児の母に遺体損壊後の女児を撮影し、「次は妹だ」と、さらに危害を加えるメールを送信している。女児の親せきにも電話して反応を楽しんでおり、血も涙もない非情な犯行である。
 被告はマスコミに騒いでほしいと犯行に及んでおり、自己顕示欲を満たすために行われた動機に酌量の余地はない。
 
遺族の被害感情
 女児の両親は、わが子の命を理不尽な形で奪われたことに対する怒り、無念さ、悲しみ、虚脱感、絶望感が交錯。極刑以上の刑にしてほしいと心情を吐露するなど、被告に対する処罰感情は峻烈を極める。

性犯罪の常習性
 本件の多くは、被告の小児性愛的な嗜好に基づくもので、これまでも長期にわたり矯正教育を受けたのに、同様の犯行に及んだもので、常習性、犯行傾向は根深い。

被告の人格と形成の原因
 鑑定で被告は精神医学的に「反社会性人格障害」「小児性愛」と診断されるとしている。
 被告の成育歴に照らすと、父親の厳しいしつけやいじめにより被告の性格の偏りの素地がつくられ、母親の死という被告にとって衝撃的な出来事が重なって、増幅された面があることは否定できない。
 しかし、家庭環境やいじめが被告の健全な人格形成を困難にするほどの決定的な影響を与えたとまでは考えられない。万引きなどの問題行動は母親の生前から行われており、小児性愛の傾向は、いじめを受けなくなった高校時代にわいせつなビデオテープを借りて見たことが契機となって現れた。
 この性癖により事件を起こし服役したにもかかわらず、被告自身が勤務態度や生活態度を悪化させて周囲の理解も得られなくなって孤立し、人格を形成した。鑑定人らが分析するように、反社会的な生き方をすることを選択した被告の意思によるところがかなりある。

反省と更生可能性
 被告は、被害者と両親らに対し、謝罪の気持ちがあるのか疑いを抱かざるを得ず、真摯に反省しているということはできず、更生の意欲もない。もはや三十代後半の被告が、人格を矯正し更生することは極めて困難であると言わざるをえない。

結論
 被告の生育歴に不遇なところもみられ、人格形成に影響を与えたことは否定できないが、有利に斟酌すべき事情を最大限に考慮しても、刑事責任は極めて重大。
 死刑の選択の際、殺害された被害者の数はかなり重視される要素だ。本件は被害者が一人であり、複数の場合と比べると犯情に大きな隔たりがあることは否めないが、被害者には何ら落ち度がなく抵抗することもままならない幼少の女児で、性的被害にも遭っている。
 結果はかなり重大で、被害者の数だけで死刑を回避すべきことが明らかとは言えない。結果以外の情状は極めて悪く、これらを総合すれば、罪刑の均衡や一般予防の見地からも自由刑に処する余地は認め難く、被告自身の生命をもって罪を償わせるほかないと言わざるを得ない。

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* 被告人=小林薫


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