光市事件弁護人更新意見陳述〔第2-1-(3)〕被害者死亡確認後から被害児を死亡させるに至るまでの経緯

2007-07-27 | 光市母子殺害事件

光市事件弁護人更新意見陳述

第2 1審・旧控訴審・上告審判決の事実誤認と事案の真相
 1 1審及び旧控訴審・上告審判決の事実誤認
 (1)本件犯行に至る経緯(自宅を出てから被害者に抱きつくまで)
 (2)被告人が被害者に抱きつき死亡を確認するまで
 (3)被害者死亡確認後から被害児を死亡させるに至るまでの経緯
 (4)被害児を死亡させた後の行動(被害児を死亡させた後、被害者を姦淫して被害者宅を出る
   まで)

 (5)何故、彼らは誤りを犯したのか
 
 2 事案の真相
〔第2-1-(3)〕

(3) 被害者死亡確認後から被害児を死亡させるに至るまでの経緯
 検察官の主張そして1審・旧控訴審・上告審判決では、被害者が死亡した後、次いで被告人に
よる姦淫が行われ、その後、被害児を死亡させたと認定されている。これに対して、弁護人の主
張は、被害者死亡後、まず被害児を死亡させ、その後に被告人による姦淫が行われたとするもの
であり、事実の経過に大きな違いが存在する。
 そこで、ここでは、まず、検察官の主張がねつ造であり、1審・旧控訴審・上告審の認定が事実
誤認であることを明らかにし、被害者を死亡させた後被害児を死亡させるまでの事実経過を示し、
被害者に対する姦淫は、(4)でのべることにする。

 検察官の主張はねつ造であり、1審・旧控訴審・上告審の認定は事実誤認であること
(ア) 検察官の主張、及び、1審・旧控訴審・上告審の認定した事実
 被害者死亡確認後から被害児死亡に至るまでの経緯につき、検察官の主張、及び、1審・旧控
訴審・上告審の認定はほぼ同旨であり、次のとおりである。
①被害者の脱糞に気付き、被害者から汚物を拭いとる。
②被害者を姦淫
③被害児の泣き声を聞いて近隣の住民が駆けつけて犯行が発覚するのを恐れて、被害児を抱い
てあやし、風呂桶に入れて蓋を閉め、押し入れの上段に入れて襖を閉める。
④泣き止まない被害児に激昂して、同児の殺害を決意し、同児を頭上から頭部を下にして床に思
い切り叩き付け、両手で同児の首を絞め、遂には、持参した紐を同児の頸部に2重に巻き付け、
その両端を力一杯引っ張って絞殺
(イ) 検察官の主張はねつ造であり、1審・旧控訴審・上告審の認定は事実誤認であること
A 被告人は、①被害者の脱糞に気付く、②被害者から汚物を拭い取る、③被害者を姦淫する、と
主張するが、その主張を裏付ける証拠は被告人の供述調書のみで、客観的証拠はない
 それ故、被告人の供述調書を分析すると、いずれも、①脱糞に気付き、②汚物を拭い取り、③姦
淫の順になっている。その経緯が最も詳細に記載されているのは乙23である。
 乙23によると、被告人は、タオルで2回位被害者の陰部を拭き、更に、陰部の毛の生えていると
ころを拭き、次に、バスタオルで肛門の付近を下から上に拭き上げ、尻から肛門にかけて、「の」の
字を書くように拭き、更に、ティッシュペーパーで肛門付近を下から上にしゃくりあげるように拭き、
その後、陰部付近をこまめに拭き取り、その後、居間のカーテンを閉め、玄関をチェーンで閉め、台
所の窓も閉め、汚物はトイレに流し、押入れの上段にタオルとパンティーを投げ込み、ジーパンを
丸めて押入れの上段に投げ込み、うんちで汚れているカーペットから被害者を移し、姦淫したとの
ことである。
 しかし、ここまで、丁寧にしかも執拗に汚物を拭い取るのは極めて不自然である。検察官の主張
や裁判所の認定によれば、被告人は、姦淫をしたいあまり強姦を決意し、被害者を殺害してまで
も強姦したいと考えていたのであるから、被害者の抵抗がなくなった段階で直ちに姦淫をおこなっ
ていたはずであって、このような迂遠な行動をとるはずがないのである。これでは、女性の肉体に
対する執拗ないたぶりである。検察官の主張や裁判所の認定では、被告人は欲情していたという
のであるから、未成年でセックスの経験もない男性であれば、いくら我慢していたとしても、この長
い時間の拭き取り中に、射精してしまうのが自然であろう。
 以上のとおり、乙23の供述内容は、極めて不自然にして不合理であり、ねつ造されたものと疑わ
ざるを得ない。
B 被告人は被害児を風呂桶に入れて蓋を閉めていない
 検察官は、被告人が被害児の泣き声を聞いて近隣の住民が駆けつけて犯行が発覚するのを恐
れて、風呂桶に入れて蓋を閉めたと主張するが、その主張を裏付ける証拠は被告人の供述調書
のみである。
 それ故、被告人の供述調書を分析してみると、乙3と乙25に、被害児を風呂桶に入れて蓋を閉め
た旨の記載がある。しかし、被告人は被害者の死後、被害者が大声を出し反撃することを恐れて
被害者の口にガムテープを張っており、しかも、被害者の口にガムテープを張った時期は被害児
をあやす前のことであるから、被告人としては、被害児の泣き声を聞こえないようにする方法とし
ては、当然、ガムテープで被害児の口を塞ぐことに気付くはずである。ましてや、風呂桶に入れて
蓋を閉めたり、押し入れに入れてふすまを閉めたところで、泣き声を完全に遮断できるものではな
い。にもかかわらず、ガムテープで被害児の口を塞いでいないのは極めて不自然である。
 従って、被害児の泣き声を聞こえないようにするために、風呂桶に入れて蓋を閉めたり、押入れ
に入れて襖を閉めたりしたとする被告人の供述調書はねつ造された疑いがあり信用できず、検察
官の主張は裏付ける証拠がない。
C 被告人は殺意をもって被害児を床へ叩きつけてはいない
 検察官は、被告人が泣きやまない被害児に激昂して、同児の殺害を決意し、同児を頭の上の高
さに持ち上げ、その後頭部から居間の床に思い切り叩きつけたと主張し、裁判所もそのとおりの
事実を認定するが、これを裏付ける証拠はまったくない。
(a) 客観的な証拠がない
 もし、検察官の主張のとおりであるとすれば、被害児の後頭部には打撲傷、皮下出血、硬膜上
下腔血腫ないしクモ膜下出血、ひいては頭蓋骨骨折、頚椎損傷等の重大な損傷があるはずであ
る(D鑑定書)。
 しかし、甲9によっても、これらに該当する損傷はまったく存在せず、被害児の頭部にある損傷
は、わずかに左側頭前部・中部・後頭部に各1個の皮下出血があるだけである。確かに左側頭部
の後部にある皮下出血は、直径約5cmと大きいが、その部位及び程度からして前記の「叩きつ
け」によって生じたものでないことは明らかである(前同)。
 E鑑定書も、「頭部の損傷に関して、『後頭部から仰向けにたたきつけ』れば、後頭部正中を中心
にした強い皮下出血が生じるものと考えられるが、後頭部正中に皮下出血は記載されていない。
一方、本屍には上記したとおり、左側後頭部、左側頭中部、左後頭部にそれぞれ限局的で薄層
の皮下出血があり、これらはそれぞれ該当する部分に対する鈍体の打撲、圧迫などによって生じ
たと認められたが、それほど強い外力によったということは困難である。むしろ、比較的経度の打
撲などによって生じたとするのが妥当である。この点、検察官の主張は、仮にこれらの皮下出血
が『たたきつけ』た際に生じたものであろうとしても、外力の程度が誇張され過ぎているものと考え
られる。検察官の主張するような外力では、単なる皮下出血だけではなく、更に重大な頭蓋内損
傷が生じた可能性が高い。」とし、被告人が被害児を頭上から床に叩きつけたとの検察官の主張
を否定している。
(b) 被告人の供述調書は信用できない
 検察官の主張を裏付ける証拠は被告人の供述調書(乙17、25)と被告人の犯行を再現した実況
見分調書(甲214)のみであるが、その供述調書も実況見分調書も信用できない。
 何故なら、被告人の供述調書によると、「僕はあまりにも激しく泣くばかりでまったくなきやまない
被害児に対してものすごくイライラし、腹が立ってしかたなくなりました。それで、僕は、押し入れの
上の段から被害児を出すと、(泣きやますために)そのままコタツの脇のカーペットの上に被害児を
叩き付けました。」(乙17)、「僕は腹が立つ余り、『こんなやつはぶっ殺してやる』と思い、(略)両
手で被害児の脇の下を持って抱き上げ、そのままコタツの脇のカーペットの上に被害児を後頭部
から仰向けに思い切り叩き付けました。」(乙25)と記載されているが、前記客観的痕跡から明ら
かなように、「叩き付け」行為を裏付ける客観的痕跡は被害児の頭部には存在しないうえ、被告
人は公判廷においては「叩き付け」たことを述べてもいないことから、被告人の供述調書も実況見
分調書もねつ造であることは明らかであり、信用できない。
D 被告人は被害児の首を両手で絞めてはいない
 検察官は、被害児を床に叩きつけても死亡しなかったことから、今度は、同児の首を両手で絞め
つけた、と主張するが、その主張を裏付ける証拠はない。
(a) 客観的な証拠が存在しない
 被告人が検察官の主張のとおり被害児の首を両手で絞めたのであれば、同児の頸部には手で
絞めた痕跡があるはずである。
 しかし、甲9によっても、被害児の頸部に存在するのは紐による絞頸だけであって、手で絞めた
痕跡は存在しない。
 D鑑定は「被害児を仰向けにして頸部を両手で締めつけたというが、それを裏付けるような手指
による圧迫痕は見当たらない」とし、E鑑定も、「頸部には索状物による圧痕(索溝)以外に創傷は
みられず、扼頸を疑わせる解剖所見は皆無である」とし、検察官の主張する同児の首を両手で絞
めた痕跡はないとしている。
(b) 被告人の供述調書は信用できない
 検察官の主張を裏付ける証拠は被告人の供述調書(乙17、25、33)と被告人の犯行を再現した
実況見分調書(甲214)のみであるが、その供述調書も信用できない。
 何故ならば、前記客観的な証拠から明らかなように、「両手で首を絞める」行為を裏付ける痕跡
は被害児の頸部には存在せず、また、被告人は公判廷において「両手で首を絞める」行為につい
ては供述していないからである。
 その他、被告人の供述調書を詳細に検討すると、「首を両手で絞めたのですが、被害者を殺した
ときとは、首のサイズがあまりにも違ったこと等からうまく被害児の首を絞めることができませんで
した。」(乙17)、「僕が被害者を強姦した後、僕が被害児の首を絞めた時には、被害児の首を
いくら絞めようとしても、被害者の首をしめたままの形で再び指がかたまってしまい、被害児の首
をうまく絞められませんでした。」(乙33)と被害児の頸部に両手で絞めた痕跡がないこととの辻褄
合わせをしているが、その辻褄合わせは極めて不自然である。翻って、検察官の主張によれば、
被告人は被害者の殺害後、被害者から長い時間をかけて執拗な程の丁寧さで汚物を拭い取って
いることになるが、被告人の指が固まっているのであれば、そもそも、そのような拭い取りができ
るはずもないのである。
 従って、被告人の供述調書はねつ造されたもので信用できない。
E 被告人は殺意をもって被害児を紐で絞殺してはいない
 検察官は、被告人は、最終的には、ズボンのポケットに入れていた紐を被害児の頸部に2重に
巻き付け、その両端を力一杯引っ張って同児を絞殺したと主張するが、その主張を裏付ける証拠
はない。
(a) 客観的な証拠がない
 検察官の主張とおり、被告人が紐を被害児の頸部に2重に巻き付け、その両端を力一杯引っ張
って絞殺したのであれば、被害児の頸部に2重に巻き付けた紐の痕跡、頸部より上に高度なうっ
血があるはずである。
 しかし、甲8の実況見分調書によれば、顔面部のうっ血の程度は「軽度」とされて、甲10の鑑定
によっても、顔面は全般にうっ血やや高度とされるに留まっている。これに比べ、首を絞められて
死亡したとされている被害者の甲9の鑑定書では、被害者の顔面部につき、多数の溢血点を含む
高度のうっ血を認めると記載されており、同じ絞殺でも著しく相違する。
 また、紐は直径約4mmの木綿製の紐であるから、「紐の先端を僕の左右の小指と薬指に紐が
はずれないように1回巻き付け、手を左右に力一杯引っ張った」(乙25)のであれば、当然にその
索状痕には表皮剥脱が、そして、その皮下には皮下出血が生ずるはずであるが、甲10の鑑定書
によってもそのようなものは一切ない。
  ましてや、「被害児を僕の左膝の前辺りに伏せにして置き、被害児の背中を僕の左膝で押さえ
て、被害児を動けないようにして」(乙25)と記載されたとおりに紐で絞めたのであれば、紐が交差
されたという後頭部正中部では、紐の交差部に接触している皮膚が左右に引き裂かれるように
強く引っ張られるのであるから、当然にその部位に表皮剥脱や皮下出血が生ずるはずであるが、
それさえも存在しない。
 この点について、D鑑定でも、「索状物による表皮剥脱は弱く少なく、内部所見にも小さく弱い出
血があるのみで、索状物の両端を力一杯引っ張ったという所見にはなっていない」とし、また同様
にE鑑定でも、「解剖所見からはそのような所見は見い出せない。項部正中で索状物を交差させ
て力一杯引っ張り続けたのなら、索状物を交差した部分に強い外力の痕跡が残るはずであるが、
項部には1本の圧痕が走るだけで、そのような外力が作用した痕跡はみられない。また、前記の
ごとく、索溝に表皮剥脱が伴っていないことも『力一杯引っ張り続け』たとの見解とは一致しない。」
としているとおりである。すなわち、検察官の主張する被告人が被害児の首に紐を2重に巻き、そ
の紐を力一杯引っ張ったとの主張は、客観的事実に反し、まったく存在しないのである。
(b) 被告人には殺意はない
 被告人の主観面については、C鑑定によれば、「かなり激しい心理的混乱が見られる。母子の
幻影をみたり、風呂桶をベビーベッドと見間違えたりしていたとすると、解離という防衛機制により
自我のコントロールが及ばないところへ自分を追いやっていた可能性を否定できない。被虐待体
験が根強い者によく見られる現実への直面を回避する行動機序である。現象を評価すれば、相
当に狼狽して自分をコントロールできないまま幼児を死に至らしめている。すでに確認されている
事実認定のとおりだとしても、どうしてよいのかわからないという逡巡が認められ、ひとおもいに殺
すといった短絡は見られない。」と、被告人が殺意をもって被害児の殺害行為に及ぶことは考えら
れないとしており、被告人の殺意を否定している。
 この点については、D鑑定でも「強い殺意は感じられない」と指摘されているとおりである。
(c) 被告人の供述調書は信用できない
 検察官の主張を裏付ける証拠は被告人の供述調書(乙17、25)と被告人の犯行を再現した実況
見分調書(甲214)のみであるが、これらはいずれも信用できない。
 何故なら、被告人の供述調書によれば、「被害児の首に2重に巻いて両手で思いっきり紐を引っ
張って被害児の首を絞めました。」(乙17)、「被害児を僕の左膝の前辺りに伏せにして置き、被害
児の背中を僕の左膝で押さえて、被害児を動けないようにしながら、被害児の首に巻いた紐の先
端を僕の左右の小指と薬指に紐がはずれないように1回巻き付け、手を左右に力一杯引っ張って
被害児の首を絞めました。」(乙25)、と記載されているにもかかわらず、前記のようにそのように
して紐で力一杯絞めた客観的な証拠がない上、被告人は公判廷でも被害児の首を紐で絞めた
ことについて具体的なことは一切述べることさえできていないのであるから、被告人の供述調書
はねつ造であり、信用できないことは明らかである。
F 小括
 以上から、検察官の主張する被害者の死亡を確認した後から被害児を死亡させるに至るまでの
経緯はねつ造されたものであり、これを鵜呑みにした1審・旧控訴審・上告審の事実認定が間違っ
ていることは明白である。

 弁護人の事実主張
(ア) 被害者死亡確認後から被害児死亡に至るまでの経緯の弁護人の事実主張
 要約すると次の経緯である。
① 1回目の被害児の落下
 被告人は、被害者の死亡を知り、絶望の余りうめき声を上げて、立ち上がり、居間を行ったり来
たり彷徨した。その際に、泣いている被害児に気付き、抱き上げようとしたが、茫然自失状態であ
ったことからしっかりと抱けず、腰辺りまで立ち上がった時に、同児を腕から滑り落としてしまった。
② 2回目の被害児の落下
 被告人は、被害児を抱き上げて居間から出て、子供部屋(風呂場を子供部屋と錯覚)に入り、そ
こでベビーベッド(風呂桶をベビーベッドと錯覚)に同児を置いたところ、ゴスゴスという鈍い音がし
て、泣き声が一層激しくなったが、視界から同児が消えたことから、同児をそのままにして、被害
者を死亡させてしまった絶望と、泣き続ける同児にどうしたらよいのか分からなくなり、訳の分から
ないまま洗濯機の蛇口を閉めたり開けたりを繰り返し、その部屋を出た。
③ 被害者が被害児を抱いて立っている幻影を見る
 ところが、居間の入口付近で、死亡したはずの被害者が被害児を抱いて立っている姿が現れ、
被告人は怖くなって逃げようと思い、台所の窓を開けて身を乗り出したところ、外の風を受けて幾
分落ち着きを取り戻した。そうすると、被害者の姿も消え、子供部屋と思っていた部屋が実は風呂
場であり、ベビーベッドと思っていたものも実は風呂桶であることにも気付き、同児を風呂桶から
抱き上げ、風呂場を出た。
④ 被害者から汚物を拭い去る決意
 被告人は、被害者の幻影を見たのは被害者を汚物の付いたまま放置しているからだと思い、被
害者から汚物を拭い去ることを決意し、バスタオルを取って同児を抱いたまま、居間に戻り、同児
をカーペットの上に置いた。
⑤ 被害児を押入れの上段に入れる
 被告人は、被害者から汚物を拭い去るために、そのお尻の下にバスタオルを敷き、被害者のズ
ボンを脱がしにかかったが、その時、被害児が被告人に近づいてきたので、同児を汚物で汚して
はいけないと思い、同児を押入れの上段に入れ、落ちないように押入れの戸を閉めた。
⑥ 被害児を押入れの上段から降ろす
 被告人は、被害者に付いている汚物をバスタオルとティッシュペーパーで拭い、その後、バスタ
オルで被害者の汚れているズボン、パンティーを包み、トイレで、汚物とティッシュペーパーを流し、
パンティーとズボンを再びバスタオルに包み持って居間に戻り、被害児を押入れ上段から降ろし、
パンティーとズボンを包んだバスタオルを押入れの上段に放り込んだ。
⑦ 自責の念から被告人の手を紐で締める
 泣きやまない被害児を見て、自分を責め、紐を自分の手首と指に絡めて強く締めた。
⑧ 泣き声がしなくなったことでわれに返ると、被害児が動かないので、不審に思い調べると、同
児はぐったりして、舌は紫色であったことから同児を死に至らしめたことに気付いた。被告人は、被
害児を殺す意思がなかったのに、何故このような結果になったのかまったく理解できないまま、死
亡した同児を押入れの上段に置くと、押入れの左側の柱に背をあずけて、茫然自失、放心状態で
座った。
 以上のとおり、被告人は、被害児を殺害しようと思ったことはなく、同児を頭上から床に叩きつ
け、両手で首を絞め、また、同児の首に紐を2重に巻き、その紐を力一杯引っ張ったことはなく、被
告人の被害児に対する加害行為は傷害致死にとどまる。
(イ) 弁護人の主張は合理的である
A 客観的な証拠に合致する
 前記のとおり、被害児の頭部には被害児を頭から床に思い切り叩きつけた痕跡がないことから、
被告人が被害児を頭から床に思い切り叩きつけていないことは明らかであり、また、被害児の首
には両手で絞められた痕跡がないことから、被告人が被害児の首を両手で絞めていないことも
明らかであり、更に、被害児の首には紐で力一杯絞めた痕跡がないことから、被告人が被害児の
首に紐を巻いて力一杯絞めていないことは明らかである。
 翻って、被害児の頭部に存在する3つの皮下出血は、①被告人が被害者に抱きついたとき、被
害者が抱いていた被害児を落としたとき、②被告人が被害児を抱きかかえようとして落としたとき、
③被告人がベビーベッドと勘違いして、被害児を風呂桶に落としたとき等に発生したものと解され、
この点からも弁護人の主張は客観的な証拠と合致する。また、被害児の頸部には1本の薄い圧痕
が走っているのみであることから、被害児の頸部を絞めた紐は軽く緊縛されたものであり、また、
後頸部で紐が交差しておらず、右側頸部で蝶々結びで結束されていることから、被告人には被害
児に対する殺意は認められず、この点でも被告人の主張は客観的な証拠に合致している。
B 経緯も自然である
(a) 被告人が被害者を殺害する意思がなかった、にもかかわらず、被害者の抵抗を抑えようとし
て、知らないうちに被害者の顎部を強く長時間押し上げる結果となり、被害者を死に至らしめたこ
とを知り、大変な結果になったことに驚愕し、茫然自失状態になったのは極めて自然であり、その
状態で被告人が幻影や錯覚に陥ることも、被告人の精神の未熟さ、退行状態からして、また、自
然である。
(b) 被告人が被害者から汚物を拭い取ることを執拗に行ったのも、被害者の幻影が現れた原因
が被害者を汚物を付けたままの状態で放置していたことによると思ったからであり、それも自然で
ある。
(c) 被告人が被害者から汚物を拭い取る作業中に、被害児が被告人に近づいたことから、被害
児が汚物で汚れないように押入れの上段に入れ、落下しないように襖を閉めたのも自然である。
 それ故、被告人が被害者から汚物を拭い取る作業の終了後、被害児を押入れの上段から降ろ
したのも自然である。
(d) 被告人が意図せずして、被害者を死に至らしめたことに絶望して、茫然自失の状態で紐で自
分の手を緊縛するのは不自然ではない。
(e) 被告人が、茫然自失の状態で、無意識のうちに、母親を喪失した被害児への償いとして、被
害児の首に紐を緩く巻いて蝶々結びにしていたとしても不自然ではない。
C 小括
 検察官は、被告人及び本件犯行が、卑劣で、冷酷で、残虐であるとしようとする余り、被告人が
大人の欲情とその犯罪心理のとおりに本件犯行に及んだとして事実をねつ造したことから、その
主張は客観的な証拠と矛盾し、その矛盾を糊塗しようとして、更に、不自然な説明に走っているの
であり、到底、検察官の主張は容認できるものではない。
 本件は、被告人が、精神的な未熟さと退行状態の下、ちょっとした悪戯心冒険心から始まったこ
とが、予期せぬ重大な事態へ次々と拡大して進行することに、茫然自失の状態で為す術なく、自
他の区別も判然としないままの退行した精神状態の下で行動したものであって、決して、被告人
の欲情や、その欲情を充たすために計画的に、殺意をもって、また、強姦の故意をもって、行動し
たものではない。
 従って、被告人は被害児に対しては傷害致死罪に留まる。
 

2 コメント

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弁護団の記者会見 (PI)
2007-08-04 17:33:30
6月28日に行われた弁護団の記者会見です。
http://streaming.yahoo.co.jp/c/t/00348/v01642/v0164200000000383466/4回目
http://streaming.yahoo.co.jp/c/t/00348/v01642/v0164200000000383469/5回目
かなり聞き取りにくいですが、4回目と5回目はわりと聞きやすいです。
「匿名記者」さんは嘘を書いているのではなく、記者会見の場にいただろうなと思われます。
それにしても、マスコミは弁護団の主張をまともに伝えようという気がないんですね。
7月の記者会見もネットに発信してほしいです。
返信する
記者会見の動画 (ゆうこ)
2007-08-04 19:51:53
 PIさん御案内の動画をupしました。
http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/eed70151a026cf5a2cee02a83cb83d9b
 ややこしいので、「PIさんよりのご案内」という言葉は今回略しました。
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