因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

松重豊『徹子の部屋』出演

2008-04-12 | 舞台番外編
 松重豊が『徹子の部屋』に出演した。NHK朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』の出演で全国区の顔となったこと、映画『しゃべれどもしゃべれども』での演技が高い評価を得たこと、舞台『49日後…』が近いことなど、さまざまな状況が整っての出演であろう。しかし冒頭の本人登場の場で、黒柳徹子が「『ちりとてちん』でお箸屋さんの旦那さんをなさった」と紹介していたのにはがっかりした。「若狭塗箸の職人を演じた」とちゃんと言ってほしかったなぁ。和久井映見や江波杏子が怒りますよ。

 松重豊は190センチの長身で、しかもがっちりタイプである。身体的に目立つ特徴があると、「あの大きい人」というイメージで捉えられるし、役柄が特定されてしまうことも多い。彼ほど大柄だと舞台に立っているだけで、必要以上に目立ってしまい、苦労もあったのではないかと想像する。自分は彼の出演作をたくさんみているわけではないが、松重豊は外見内面含めて自分の資質をよく理解しており、他の出演者とのバランス、作品のぜんたいを考えた上で配慮のある演技をしていると思う。だから作る側も脇役ではあっても、そういう配慮の必要な役柄を持ってくる。「わきまえのある俳優」。これが自分の松重豊の印象である。

 たとえば2004年放送のフジテレビ『僕と彼女と彼女の生きる道』で、松重は主人公(草彅剛)がアルバイトをする洋食屋のコックを演じた。滅法無口で眼光鋭く、半端な気持ちで働きはじめた主人公に「この仕事、なめてる?」とひと言だけ問いかける。やがて皿洗いの仕事に手応えを感じ始めた主人公が、小学生の娘を厨房に連れてくる。確か学校の宿題で「働くお父さん」の絵を描くためではなかったか。生き生きと働く父親を、一生懸命写生する娘のそばに、松重が「どう~ぞ」とひと言いって、小さなパフェを置く。よく来たねとか、学校おもしろい?とか、子供の機嫌をとることはせず、ここが本来なら子供が出入りできる場所ではないことを示すと同時に、何かしら嬉しそうな気持ちもにじみ出ていて、自分は彼のこの台詞がとても好きである。

 俳優の世界は、大変な格差社会であると想像する。売れっ子とそうでない人、テレビや映画に多く出演して世間に広く知られている人と、地味な創作活動をしている人と。その違いは収入面に直結するだろう。親が有名俳優で、大作の大役に抜擢され、恵まれたデビューを飾る二世俳優がいる一方で、一般家庭の子供が何のコネもないところから手探りで演技の勉強を始めるのとでは、あまりに差がありすぎて、本人の努力だけでは埋めようがないだろう。何年やれば一人前という基準もなく、正解のない仕事である。自分のよさを認めて活かしてくれる作家や演出家、プロデューサーに出会えるかどうかは、ほとんど運の問題でもあり、こうしたさまざまなことに耐え抜き、仕事を続けるためには、余程の精神力が必要ではないかと思う。

 松重には蜷川幸雄の指導のもとから一時俳優をやめていた時期があり、勝村政信の誘いで再び俳優業を始めた経緯がある。「徹子の部屋」では、「お導きで」と少しおどけた口調で話していたが、やはりそれは何かの導きですよ。自分に向いた仕事、できる仕事、好きな仕事、それらがいいバランスでできるというのは大変な幸福なのだから。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« wonderlandに劇評掲載『チカ... | トップ | 因幡屋リーディング キャサ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台番外編」カテゴリの最新記事