因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『ムーンリバー』

2006-08-12 | 舞台
劇団フライングステージ第30回公演 関根信一作・演出 中野ザ・ポケット
 昭和五十年代の下町で、自分はゲイではないかと感じ始めた中学3年生高橋大地(早瀬知之)とその家族、学校の友達や先生たちとの交流を描いたもの。これまでみたフライングステージの舞台と少し違っているのは、ゲイとして今を生きるゲイのドラマではなく、過去を描いたものである点である。「ゲイ」という言葉に馴染みがなく、自分が何なのかわかりかね、持て余している少年の悩みと葛藤。では少年関根信一の思い出かというと、そういう面も確かに感じられるが単なるノスタルジーではない。

 今回わりあい抵抗なく普通に楽しめたのは、ゲイテイストが控えめだった点が大きい。関根信一と石関準は完全女装の女役で、実は男性だったという仕掛けはない。それが自分にとっては妙な安心感になり、どうみても男性なのに女性を演じきる姿を堪能した。これがノンケの俳優さんだったらコントになってしまうのだろうが、このあたりの関係は実に不思議である。登場人物が多く、母親や女の子の友達などセクシュアリティもさまざまで、人物の造形などに少し物足りない面もあったが、温かく柔らかな終幕であった。

 終演後、関根信一はじめ出演者がメイクを落とし、普段着に着替えて客席に出てきた。関根の今日はどうもありがとうございましたという挨拶に拍手が起こった。少し照れている関根さん。芝居が終わって出演俳優が知り合いのお客に挨拶したり、歓談したりする光景はどこでもある。自分はこのての「身内的雰囲気」が苦手で、舞台にいた俳優さんが普通に現れると途端に居心地が悪くなるのだが、今回はまったくそう思わず、自然に拍手している自分に気づいた。

 大地少年はこれからどんな人生を歩むのだろうか。彼がゲイであることをカミングアウトしたら、彼の家族や友人はどんな反応をするだろうか。少年の前途は厳しいが、明るく幸せに生きてほしい。素直にそう願える舞台であった。公演は明日が千秋楽である。

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