*公式サイトはこちら 八幡山ワーサルシアター 18日まで
みきかせプロジェクトは、劇作家・プランナーおさださちえのリーディング企画公演である。現在活動中の劇団に「みきかせリーディング」という手法で出演を依頼し、これまでみたことのない劇団のカラーを表現してもらうのが狙いだそうだ。その手法とは、「台本(と言い張るもの)を持つ」「大道具は使わない」「上演時間 45分以内」の3つを満たすもの。過去公演の記録をみると、小劇場界で活躍するユニットが目白おしだ。4回め(訂正いたします。申しわけありませんでした)となった今年は、ワーサルシアターの企画公演にもなり、地道な歩みが着実に根づいていることをうかがわせる。アンケート回答者へのプレゼントなども用意されて、観客により楽しんでもらおうとする細やかな心づかいが伝わってくる。
初日の今夜は快楽のまばたき、ミナモザ(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18)
のコク味。このあとあひるなんちゃら(1,2)、日本のラジオ(1,2)のキレ味と交互上演を行う。
1本めは快楽のまばたきの高田百合絵作・演出『絵をかく理由』
セーラー服の5人の女子高校生が登場、スケッチブックや本、楽譜を手に持ち、思春期の不安定な心模様を抱え込んだり、相手にぶつけたり、激情に駆られて走りまわったり。
続いてミナモザの瀬戸山美咲作・演出『ファミリアー』
捨てられたり持ち込まれたりした犬を管理し、新しい飼い主への斡旋や殺傷処分を行う施設が舞台だ。犬と人が出会い、別れる場所で、ことばが通じない両者が交わる。
ミナモザの『ファミリアー』の舞台設定を知ってすぐに思い起こしたのは、劇団studio saltの『7』(椎名泉水作・演出)である。誇りや喜びを見いだしにくい仕事に携わる男たちの日常が淡々と描かれた傑作だ。今回の『ファミリアー』にも、飼い主があらわれない犬の殺傷を行う作業長や、新米の獣医、引っ越しや出産を理由に犬を持ちこむ人々が登場するので、そのやりとりに若干の既視感はあった。
しかし『ファミリアー』には何と犬たちが登場するのである。
初日を迎えたばかりの舞台なので詳細を記すことははばかられるが、本作は写真家の服部貴康の写真集『ただのいぬ。』を原案としたものだ。人間の都合で生き死にを左右され、それに抗議もできないものたち。さまざまなことを思いながら黙々と任務を遂行する人々。
瀬戸山美咲はこの両者を対等にみつめ、舞台において交わることを試みた。
舞台には椅子が5脚、3人の俳優は多少の動きはあるが、台本を持って読む。リーディングの基本的な形式をふまえた大変地味な作りである。だが戯曲を読むというよりも、「物語を語る」という雰囲気だ。さまざまな手法に凝り、舞台つくりの趣向を押し出すところがないシンプルなもので、犬と人の物語を受けとめ、それを伝えようとする作り手の思いがしっかりと伝わってくる。たとえば本作はラジオドラマにもなりうるし、俳優が語りながら影絵や人形劇などの形式に転換させることも可能であろう。
しかしやはり今回のような朗読形式で、みえないものに目を凝らし、聞こえない声に耳を傾ける体験がもっとも心を打つのではないだろうか。自分はこの作品を子どもたちや、これまであまりお芝居をみたことのない方々に体験していただきたいと思う。
出演は中田顕史郎、大原研二(DULL-CORED POP)、西尾友樹(劇団チョコレートケーキ)の男3人衆、服部貴康の原作や劇作家の思いを確かに受けとめ、心をこめて客席に届けた。
さまざまなものが温かく伝わってくる、瀬戸山美咲の秀作だ。
本作は来年夏のミナモザ本公演につながるとのこと、いよいよ楽しみである。
お楽しみ頂けて、本当に嬉しい限りです。
これからもたくさんの劇団さんと良い時間お届けできるよう精進してまいります。
当ぶろぐへのお越し、ならびにコメントをありがとうございました。
昨日は千秋楽でしたね。お疲れさまでした。
公演にたずさわった皆さまでまさに大吟醸の美酒に酔われたのではないでしょうか?
心のこもったステージに胸が熱くなりました。これからも素敵な作品をごちそうしてくださいませ。
おなかを空かせて味わいに参ります。