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中小企業の労務管理に奮闘する社労士が、知っておくと得する労務の最新情報や法改正などを、独自の視点を交えて解説しています。

厚生年金と健康保険で厚生労働省 非正規加入について年内に方針 「週20時間」を軸に議論 

2011-09-22 11:15:27 | Weblog
ただでさえ連休で労働日が少ないところに、昨日は台風の直撃。
容赦なく徹底的に蹴散らし、なぎ倒す風のすごさを室内で感じながら、
夕方からテレビの前でニュースに釘付けでした。

帰宅困難者にこそなりませんでしたが、まさかここまでの暴風雨とは思わず、
なんかピチャピチ音がするなぁと不審に思って見渡すと、
窓の隙間にいっぱい水が吹きこんでいます。
急いで窓の隙間に新聞紙をはさんだり、濡れたカーテンを拭いたり。

台風の備えについて、ニュースで説明していたのに、
うちは大丈夫と過信して、
他人事だと思っていたのが間違いでした。

来週末はもう10月です。

9月に入ってから厚生労働省が発表した報道発表資料で気になる内容を2つ
まとめて取り上げます。

○厚生年金と健康保険で厚生労働省
 非正規加入について年内に方針 「週20時間」を軸に議論 

 厚生労働省は9月1日、パートなど非正規労働者の厚生年金と健康保険への
加入拡大を検討する社会保障審議会特別部会の初会合を開きました。
厚労省は年内に部会の意見を取りまとめ、早ければ来年の通常国会に関連法案を
提出したい考え。
労働時間に関する加入要件を「週20時間以上」に緩和する案を軸に検討を進めます。

近年増加が目立つ非正規労働者の多くは、本来は自営業者らが入る国民年金や
国民健康保険に加入しているのが実態。
厚生年金や健康保険組合などに加入しやすくして、手厚い年金や医療サービスの
確保を目指します。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001nisq.html
(第1回社会保障審議会短時間労働者への社会保険適用等に関する特別部会)
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 非正規労働者の厚生年金への加入要件は、現在、労働時間が正社員の
「4分の3(週30時間)以上」で、健康保険も同様です。
 
 一度は立ち消えになっていた週20時間以上で厚生年金と健康保険への加入
 という方向がどうやら本格化しそうです。

これまでは30時間という基準だったので、業務内容や能力に関わらず一律で「パート」と総称しても
問題ありませんでしたが、20時間という線引きがされるのであれば、20時間以内で働く人の業務内容と
20時間以上の労働時間で契約する人の業務内容は、ますます違うものにならざるを得ません。

週20時間以上の労働時間で社会保険加入とすることが決定されれば、
経営者としては経費が増えるわけですから、増えた分の粗利を稼ぐことを
考えなければなりません。

週20時間以上の労働時間のパートについては、単純作業だけでなく
より高度な業務に挑戦してもらうことが必要になるということですね。
 
30万円の正社員が獲得した粗利を15万円のパートが獲得すれば、
労働分配率は下がりますから、経常利益が増えることになります。
 ※労働分配率=人件費÷付加価値(粗利益)

単純作業をパートに割り当てて経費削減という考え方から
人件費の低いパートに付加価値の高い仕事をして利益確保に貢献してもらう
ことが必要です。

単にフルタイムで働いてもらうということではありませんよ。

付加価値の高い仕事を 「効率よく」 こなしてもらうには、正社員と同様
やはり「やりがい」のある仕事の環境づくりを整えることが先決です。

勿論、フルタイムを希望する人ばかりではないことも見逃してはいけません。

 ただ、正社員より非正規労働者の比率が高い事業所であれば、
 実はパートの評価制度の導入で、パートの能力を引き出して
 有効活用するのが利益を増やす近道でもあります。
 検討してみる価値はあります。


○政府、高齢者雇用の義務付け強化へ

 厚生労働省は9月12日、厚生年金の支給開始年齢を段階的に引き上げるのに伴い、
定年退職時に年金を受け取れない会社員が出る問題について、労使を交えて
対応策の協議を始めました。
企業に65歳までの再雇用を義務付ける現行の制度をより厳格にする案を軸に
議論していきます。
定年の延長の義務化は見送る方向ですが、来年の通常国会に関連法案を提出する
考えです。コスト増につながるため、企業の反発は根強い。

経団連など使用者側、連合など労働者側、学識経験者それぞれの代表で構成する
「労働政策審議会」の雇用対策基本問題部会を月2回ほど開き、年内に結論を出す。

 厚生年金の定額部分はすでに2001年度から順次、支給開始年齢が上がっていて
2013年度からは報酬比例部分も引き上げ。
今は支給開始年齢は60歳ですが、男性の場合は2013年度から3年ごとに1歳ずつ上がり、
25年度に65歳になります。
だが企業の定年の多くは60歳にとどまり、定年後の生活費に支障が出るケースが
予想されます。
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ojt0.html
 (労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会)
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 政府は2004年に改正した高年齢者雇用安定法で
(1)定年引き上げ
(2)定年の廃止
(3)継続雇用制度の導入

段階的に65歳までの雇用を継続するよう企業に求めたのですが、
定年の引き上げや廃止に踏み切った企業は少なく、
厚生労働省の調査によると、継続雇用制度で希望者全員が65歳まで働ける
と規定した会社は46%にとどまるとしています。

継続雇用の義務付けをどこまで強めるか。が、今後の議論の焦点となるようです。
 
労働力人口が減る中で、企業も定年後の高齢者の活用拡大は考えているのですが
義務付けとなると、コストの増加につながります。
また、若年の雇用を増やしたくても増やせないという懸念もあります。

そこで今現在は、継続雇用について「選択の基準」を設けている会社も
少なくありません。
今後の課題としては、定年後再雇用をめぐって個別労働紛争が増える可能性です。

予防策としては、よく言われることですが

・意欲・能力等を基準としているのなら、
できる限り具体的に測るものであること (具体性)

・必要とされる能力等が客観的に示されており、
採否を予見することができるものであること (客観性)

これらに留意して策定し、かつ定年前にあらかじめ面談等で周知しておくことが望まれます。

年齢は同じでも、それぞれに生活環境、家族の状況などは違います。

裁判ではこの「選択の基準」が厳密に審査され、
従業員が基準を満たしているとされれば、解雇権濫用が適用されてしまいます。
(解雇権濫用の適用がふさわしいかどうかは、議論の余地があるようです)

※解雇権濫用した判例として
 財団法人東京出版会事件(東京地判H22.8.26)

裁判になれば、事実上使用者側が敗訴となる可能性は大きいのですから、
基準を具体化して示す、という対策は急務です。

なお、再雇用後もフルタイム就業で賃金のみ減額、という働き方をしている場合が
少なくありません。

賃金減額で経費の抑制はできている、と考える経営者も多と思いますが、
新卒採用、会社の技術、業務の継承を考えると、定年後は短時間勤務に切り替える
という会社方針を定めることも、会社の将来の発展を考えると選択肢のひとつです。

いずれにしても、行政の決定の後追いでなく、
先を見越して対応しておくことが、
利益を増やすためのひとつの方法として
中小、零細企業にこそ非正規労働者の有効活用が求められます。


鈴木社会保険労務士事務所

2011年度の最低賃金、全国平均737円

2011-09-15 08:37:28 | Weblog
9月に入ってからも暑い日が続きます。
どうやら、東京では敬老の日を境に30度を下回るらしいのですが、ホントかなぁ。
節電は終了したようですが、今までみたいに冷房がガンガンかかっているということもないし、
引き続き自主的に続けているところも多いようで、日中の暑さは堪えますね。
この週末は運動会、体育祭という学校も多いのかもしれません。
まだまだ残暑は続くつもりで、大人も子供も熱中症にはまだまだ気をつけたいところです。


東日本大震災から半年経過後の9月12日
帝国データバンクが「東日本大震災関連倒産」の動向調査を発表しました。
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p110906.pdf

件数 341件(うち岩手・宮城・福島の3県は46件)
これは阪神大震災(’96年123件)の2.8倍の件数です。

負債総額6123億1800万円、倒産企業の従業員数は6376人

直接被災した岩手、宮城、福島が13.5%にとどまったことからわかるように
大震災の直接の影響というよりは、「間接被害型」であると帝国データバンクでは
まとめています。
業種では、やはりというか「建設」(56件)と最も多い件数となりました。

ただ、直接被災した3県については、まだ倒産手続きすら出来ない状況かも
しれないことを考えると、来年の調査では「直接被害型」の件数が大幅に伸びるかも
しれませんね。

一方、13日には厚生労働省が2011年度の地域別最低賃金額改定に関する
地方最低賃金審議会の答申状況を発表しました。

平均7円の引上げ(前年比)
全都道府県で上昇 という結果になっています。

昨年の引上げ額の17円よりは縮小しましたが、最も高い引き上げとなったのは
神奈川の18円で836円になりました。
神奈川は生活保護の水準よりも最低賃金が23円低く、是正が必要
とされていたことを受けての大幅な引上げです。

今回の引き上げで、埼玉、東京、京都、大阪、兵庫、広島の6都府県では
逆転現象は解消されることになりました。

最低賃金が47都道府県で最も低いのは岩手・高知・沖縄の645円
最も高いのは東京都の837円です。

東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島の3県についても3県とも1円上がりました。

そもそも最低賃金と生活保護の水準を比較していいのか、という議論が学者の間ではあるようですが、
雇用の拡大が最優先と考えれば、なにより中小零細企業にとって、最低賃金の引上げは
雇用の逆風、足かせにもなりかねません。
難しいところです。

最低賃金は正社員に限らず非正規労働者にも同様に適用されるわけですから、
特に雇用労働者の3分の1を超える非正規労働者(多くは有期労働契約者)にとって
雇用の安定を阻害する要因にならなければよいのですが。

非正規労働者が3分の1を超え、今後、非正規労働者の社会保険の加入要件を
週20時間以上とする方向で社会保障審議会で検討されることを考えると、
雇用する側は非正規労働者の活用について画一的な発想をすて、
すぐれた非正規労働者には正社員の道、あるいはそれに準じた処遇をする環境を整えることが必要です。


鈴木社会保険労務士事務所