幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

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 自由という名の牢獄

2013-04-03 01:25:13 | Weblog

 
 
 「わたしは自由という名の牢獄に閉じ込められた囚人です」
 
 「そう言うあなたは、ではなぜ今、被告席に座らされているかわかりますか?」
 
 「裁判長、それはわたしがあなたを裁くためです。その逆ではありません。わたしがあなたを裁くのです」
 
 「あなたはすでに牢獄に閉じ込められていると言いました。つまりあなたの刑はすでに確定したのです」
 
 「それなのに何故わたしは被告席に座らされているというのですか?」
 
 「あなたには更に裁かれる罪があるからです。それが何かお分かりになるはずです」
 
 「いいえ、わたしは自由という名の牢獄に閉じ込められているのであって、あなたにさらに裁かれる理由などありません」
 
 「あなたは理解されていないようです。しかし、あなたに理解していただくためには、あなたの文脈に沿って話をしなければならないようです。では、百歩譲って私はあなたに裁かれましょう。どうぞ判決を下してください」
 
 「あなたの罪は、もともと原罪によって生じた罪です。つまり人間には罪を犯すことができるのです」
 
 「続けてください」
 
 「はい。ですから、人間には罪を犯す自由があるのですから、その罪を犯したことを裁くことができる人間は一人もいないのです」
 
 「では、神には罪を裁くことができるのでしょうか?」
 
 「もちろん、神にはできます。もし神が存在するなら」
 
 「では、神は存在しますか?」
 
 「わたしは、存在すると思います」
 
 「では、神があなたの罪を裁くでしょう。そして、同じように私の罪も裁くでしょう」
 
 「それなのになぜわたしは、あなたに裁かれなければならないのですか?」
 
 「それは、人間にはあらゆることをなす自由が与えられているからです」
 
 「つまり、本来、他人の罪を裁くことなどできないとしても、それを裁く自由が人間に与えられているということですか?」
 
 「そうです。ですから、私は裁判長として、あなたに判決を下します」
 
 「けっこうです。どのような裁きでも」
 
 「あなたを自由という名の牢獄から解放します。それがあなたという存在に新たに課せられた、刑罰です」
 
 「ありがとうございます。あなたはわたしを牢獄から解放してくださいました。そして、あなたはわたしを牢獄の外で自由に行動できる新たな刑罰を私に課してくださいました」
 
 「いいえ、礼を言われる覚えはありません。ところで、あなたは被告であるにもかかわらず私を裁くと言いました。では、今度はあなたが私を裁いてください」
 
 「いいえ。あなたがわたしを牢獄から解放してくださったのだから、あなたは神のようなお方です。どうしてそのようなあなたを裁くことなどできましょうか」
 
 「わたしはあなたです。そして、あなたはわたしなのです。神がそうであるように、あなたは自由に退屈し、さらに自由に渇望します。その自由とはあらゆることをなす自由であると同時に、なにもしない自由でもあります」
 
 「わたしはあなたです。あなたはわたしです。わたしは自由という名の牢獄から解放され、その外で行動できる自由という名の刑罰を新たに課せられました。それは神がわたしに課した刑罰です。なぜならわたしは被告ではなく、わたし自身の裁判長であるからです」