メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

キャロル・キング Will you love me tomorrow ?

2017-03-29 09:09:42 | 音楽一般
ヴォーカルを習っている教室の同じ先生の生徒だけのコンサート、昨年が初めてだったが、今年も同じ時期にあって、それに参加した。
 
前回の「君の友だち」(1971)に続き、今年も同じキャロル・キングの Will you love me tomorrow?(1961)、デジタル音源がバックなのでキーは変えられるため、+7(半音で)とした。
この歌、教室のテキストにも紹介されていたから、歌ったことはあるけれど、テンポなどは彼女自身の録音に準じたものだった。そのままだったら今回これを選んだかどうかわからないが、この曲も入っている名アルバムTapestry(1971)へのトリビュート・アルバム(オリジナルと同じ曲順)でビー・ジーズ(Bee Gees)の演奏が、キャロルのしっとりとしているがさらっとしているものと比べ、かなり表情豊かというかくせがあるというか、インパクトが強かったので、これを参考にと考えた。もっともバック音源はキャロル風だから、それは練習・本番と工夫をしなければならない。
 
そうしているうちに、今度はこれを最初に歌ったシュレルズ(Shirelles)のベスト盤CDを手に入れてしまい、それを聴いたら、これはかなりテンポがはやく、ドゥー・アップ風というか、同じ時期のシュプリームズのような感じで、びっくりしたのだが、聴いているうちにこれもいいな、この曲の別の面(こっちが先だが)を見たようなきがした。それで、ビー・ジーズとシュレルズ両方を繰り返し聞きながら、最後はそれらとは違うバック音源にあわせて歌うということになった。先生とのやりとりで、バック音源のガイド・メロディーを消し、リズム・セクションのみとなったので、頭の中でシュレルズ盤のリズムも感じながらという、ややこしいがやっててなかなか気分のいいものになったと思う。
 
考えてみれば、キャロル・キングはまず作曲家であって、最初はシュレルズみたいなグループでヒットをねらって書いたのだろう。シンガー・ソングライターといわれる人の多くは、自分が歌うための作曲が主体なのだが、彼女はそうではない。Tapestryの一つ前のアルバム名がWriterというのも、今となってはうなづけることだ。
なお、先日ピアノでやってみた「ルージュの伝言」で耳につくリズムはこの曲のものによく似ている。
 
この曲、彼女にとって初の全米1位だったそうだが、このとき19歳、これの作詞をしているジェリー・ゴフィン(Gerry Goffin)と結婚していて、もう子供がいた。
 
もう一つ、この2月にNHKで2回にわたり放送された「ミュージック・ポートレイト」で松本隆(作詞家)と斉藤由貴(歌手・女優)が対談していて、そこで松本がJ-POPなどのヒットメーカーとして踏み出せるかどうかというときに、一番影響を受けたのがこの曲だったと話していた。やはり松本はキャロル・キングを相当聴き込んでいて、前述「君の友だち」で書いたように、So far away が「風立ちぬ」(歌:松田聖子)に与えているという私の推測は、さらに確かなものとなった。

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,とめられなかった戦争(加藤陽子)

2017-03-24 21:25:33 | 本と雑誌
とめられなかった戦争 加藤陽子 著 2017年2月 文春文庫
「NHKさかのぼり日本史 ②昭和 とめられなかった戦争」2011年7月 NHK出版の文庫化
 
太平洋戦争終結翌年生まれの私が、これまでこの戦争についていろんな角度の論考を見てきて一番に思うのは、なぜ1944年のサイパン陥落の前後、できればその前に、戦争を終えられなかったのか、ということである。
 
もちろん戦争にならなければよかったのだが、それはそうだとしても、あの状況で早くとめることが全く不可能だったは思えない。もしとめられていれば、あの本土大空襲、沖縄、広島、長崎はなかったわけだ。
 
さかのぼりだからか、著述はこのサイパンから始まっている。その前の戦況展開についても明解である。そして日米開戦、日中、満蒙とさかのぼる。だからといって、これがなければ後の事態はないということではない。条件、要因はいろいろあっても、だからといってその後必然的にそうなるものではないという前提で書かれている。その一つ一つの判断について、的確な評価がなされている。そうでなければ、明治以来の日本のありかたが、、、という無責任な議論があいかわらず続いてしまっただろう。
 
著者のまとまった本は読んでいないが、新聞、TVなどのメディアで、最新の資料を駆使した冷静な論考は注目していた。いまだイデオロギッシュな面が中心となった議論がかなり残っている中で、右寄りといわれることすらあるが、それはナンセンスである。とにかくあの戦争に入っていった、その日本の体制、教育、空気といったものが主体の議論、そして絶対に戦争に入ってはならないということがベースの考え方が今後も続くようだと、それは少しでも戦争状態にならなければよいが、人類の何千年を眺めても、確率100%ではない以上、おこる可能性はあって、そうなったとき特に侵略されたとき過激な平和主義者はおそらく正反対に好戦的になるか、玉砕主義になるのではないか、と考えている。戦争状態でいかに冷静にことを進めるかを考えたことがないから。
 
この本では、特にあの真珠湾は米国がわざと呼び込んだわなという説が昔からある以上に、中国政策、対ソ連戦略から、米国の周到な日本包囲政策が進められていたことがわかる。
 
私が考えるに、戦争に突き進んでいった背景、要因として、これまで言われていたものは、程度、比重の差はあれ間違ってはいないのだろうが、なぜもっと早く終えられなかったかといえば、情報収集能力・分析能力の貧弱さ、その結果として政治家と軍人の未熟が考えられる。特に海外の事例を眺めても、無茶な戦争の開始・続行を抑えるのはむしろ優れた軍人なのだが。
 
また一つ加えれば、日本は古来本土四島が侵略されたのは蒙古に九州沿岸を少しやられたくらいで、それがいざ攻め込まれたときにどうするか、どう交渉するかがわからない、国民レベルでもコンセンサスなど得られないのではないだろうか。実はそれは米国もそうで、だから真珠湾は占領されはしなくても衝撃だったのだろうが、本土については未だ未経験である。したがって、今後危なっかしいことがないとは言えないと考えている。

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さざなみ

2017-03-21 20:55:51 | 映画
さざなみ(45Years, 2015英、95分)
監督:アンドリュー・ヘイ
シャーロット・ランブリング、トム・コートネイ
 
イギリスの田舎町に住んでいる老夫婦、夫(トム・コートネイ)はこの町の工場を退職して80歳あたり、妻(シャーロット・ランブリング)は70歳に近い。二人は終末に結婚45周年を迎え、パーティを計画している。それまでの一週間ほどの話である。
 
夫にある通知が来る。結婚より以前、つきあっていた女性と登山していた途中、女性が遭難、その彼女の遺体が当時のまま発見された(氷河の中?)というものである。夫は思いを馳せる。妻は結婚前のことと納得してはいるものの、さまざまに動揺が現れ、夫を問い詰めたりする。
それでも、それは自省を伴い、波打ちながら、最後はパーティにたどり着く。
 
大きなドラマではないのだが、その進行と演技、映像の見せ方がうまい。
夫はぼけが出ていて、妻はそれを理解はしていても、明確な答えを求めてしまったり、それを後悔したりする。
 
このように映画として、地味なもののよく出来てはいるのだが、結婚前のことで、女性が死んでしまっているのに、そして45年間それはとりたて後を引いてはいなかったのだが、それでもこうなるということが、映画で描くほどのことなのか、よくわからない。私が男だからなのか、、、
 
妻を演じるのがシャーロット・ランブリングだったから、見られたのだとは思う。私と同い年、この映画製作時69歳だが、表情、スタイル、こういう歳相応があるのかと思うほど、感心する。やはり「愛の嵐」、かなりたっての「スイミング・プール」のひと。
 
夫のトム・コートネイ、気がつかなかったが彼は「長距離ランナーの孤独」(1962)の人。その映画の監督はトニー・リチャードソン、このころは出してくるものを追っかけて見た記憶がある。
 
同じ世代だからかなじむのは、シーンの進行で使われ最後にパーティでも出てくる音楽で、たとえば「煙が目にしみる」(ザ・プラターズ)、二人だけのデート(ダスティ・スプリングフィールド、後にベイシティ・ローラーズがカヴァーしてヒット)、「ハッピー・トゥゲザー」(ザ・タートルズ)など。
 
最後に一つ、見終わって思ったのは、男が45年以上前に愛し失った女性のことを、こういうきっかけで思い出し、少し妻に隠れて想いを馳せる、それはわかるし、そうしてやってほしい、ということ。

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ルージュの伝言

2017-03-13 14:50:29 | 音楽一般
レッスンを受けている音楽教室の公式発表会より少し内輪のピアノ発表会があった。クラシック、ポピュラー、ジャズと、ジャンルを問わないいわゆる「大人のピアノ」である。
 
演奏したのは昨年のジャズ発表会でやった「枯葉」そしてその後なにか間にあえば少しちがったものということで「ルージュの伝言(荒井由実)」。
 
ルージュの伝言はリリースされヒットした当時から耳についていて、カラオケでも何度か歌ったことがある。荒井由実の中でもかなり変わった曲だなと思っていたが、しばらく前にTVで「魔女の宅急便」の放送を見ていた時、これがタイトルバックでいきなり出てきてびっくりした。また、これがとてもこのタイトルにぴったりしていて、その意味とは関係なく歌詞もそのままであったのには、ジブリの鈴木敏夫という人のセンスのよさに感じ入ったものである。というわけで、いろんな可能性がありそうで、ジャズピアノでやっても面白いのではないかと考えていた。
 
さて、弾き語り版の楽譜を入手したのだが、それをそのままではなく、メロディーラインとコード、そしてリズムパターンだけのシンプルなものにし、アドリブもワンコーラス作り、その後印象的なBメロのところに戻り、コーダということにした。
 
コードは案外少なく、シンプルでつかみやすいのだが、多少アドヴァイスはうけたものの、テンションを入れるのはちょっと難しいということだった。
 
それで結果としてジャズらしくなったかといえば、どうも中途半端なところはある。しかし、トライアルとしてはまずまずだし、弾いていてなかなか心地よい。オリジナルを尊重すると私のキーには不向きなので、歌はなしにした。
 
ただ会場のスタインウェイは私にはちょっとタッチが軽すぎ、かなりすべるというかもつれることがあったのは、未熟の故とはいえ残念。
 
なお曲の勘どころであるリズム、これはおそらく松任谷正隆の編曲で出てきたものではないかと思う。


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ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊(塩野七生)

2017-03-08 14:32:15 | 本と雑誌
ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊  塩野七生 著 2017年2月 新潮社
ローマ人についての大作につぐギリシア人についての2作目、3巻まであるようだ。
 
1年前の第一巻 民主政はじまりでは、ギリシアで始まった民主政というべきものの原則と政治の仕組み、その成立とペルシア戦役を通じて発展していったアテネの形態、その海軍力それも領地制圧というより安定した公益とそのなかでの主導権確立維持という巧みな経営、が描かれていた。
 
この巻では、紀元前461年から同404年アテネの事実上の滅亡までが書かれている。このくらい昔の話であれば、ローマと比べても資料は乏しいのであるが、それでも傑出した人間を中心に読みたいところである。それまずアテネのペリクレスによって興味ある進行になる。アテネ中心のデロス同盟(これは海上交易、海軍力中心)、スパルタ中心のペロポネソス同盟(これは陸上、そしてスパルタという外へは公式には討って出ない陸軍力がもと)の間の覇権争いが続くのだが、実は正面からぶつかったことは長い間にほとんどなく、無駄な血は流さないという知恵はこんな昔にあった、ということを教えられる。
 
それと、いまだペルシアは大きな力を持っていて、先の戦役の経験からやはり無駄な戦いはせず、ギリシア地方の様々な勢力との均衡を保ちながら、勢力を維持している。
 
ペリクレス以後はリーダーに多少こまるのだが、それでも青年政治家アルキピアデス登場で、また物語としては材料に事欠かない。それに、この人の登場の前から、有名な悲劇・喜劇の作家、ソクラテスなどが出てきて、かれらの作品(もちろんソクラテスはプラトンによるわけだが)ばかりでなく、政治の争いのなかで彼らがどういう位置にあり、何をしていたかもわかって面白い。ソクラテスもアテネ政治の一員でもあったし、歩兵として出征もしたそうだ。
 
基本に民主政があって、その上に寡頭制的なリーダーがうまく乗っかっている時はいいのだが、何かの原因でほころびが出てくると、衆愚制、ポピュリズムが見られてくる。これは現代でも、またこれからも永遠に解が出ない問題だろう。
 
なお、この人たちで面白いのは、前巻のペルシア戦役英雄のテミストクレスがアテネでの陶片追放ののち、宿敵ペルシアのダリウス王後のクセルクセス王のもとに逃げ(好敵手として認めあっていたらしい)、その知恵袋となったように、今回もアルキピアデスがアテネを追われた後なんと宿敵スパルタに入り、またそれを利用して再度アテネをあやつるというような、強烈なリーダーシップを持つものがあわせて自己に対するリアリストの側面を持っていることである。
 
またこの間、アテネ政治の要人の一人であったが、途中解任され冷や飯を食ったおかげで誕生したのが歴史家ツキディデスというのも、まさに歴史の皮肉だろう。

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