メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

わたしを離さないで

2011-04-27 16:16:45 | 映画
「わたしを離さないで (NEVER LET ME GO)」(2010、英・米、105分)
監督:マーク・ロマネク、脚本:アレックッス・ガーランド、原作:カズオ・イシグロ、音楽:レイチェル・ポートマン
キャリー・マリガン(キャシー)、アンドリュー・ガーフィールド(トミー)、キーラ・ナイトレイ(ルース)、シャーロット・ランブリング(エミリー先生)
 
カズオ・イシグロによる同タイトルの原作を読んでいると、映画化はこわいような気がした。このSF的要素があるストーリーはむしろ活字のままでこそ生き生きとしたものではないのか。
それでも、いくつかの部分、例えば3人の男女の感情の交流などは、映画で見てよかったといえるかもしれない。
 
それにしても思うのは、「わたしを離さないで」という邦題、小説の翻訳もこれだからやむを得ないのだが、これとNEVER LET ME GOは同じではない。NEVERを取ると、LET ME GOはLEAVE MEと同じだろうか。「わたしを離さないで」というとこれは何か強い力でどこかへ引っ張って行かれそうでそうならないためにつかまえて離さないでくれ、という意味にとれる。しかしNEVER LET ME GOでは、自動詞としてのGOはすでにあって、自分は行くという行為を受け入れているが、それをそうならないようにあなたがつかまえていてくれるのなら離さないで、ということだろう。
 
クローンとして生まれ、臓器提供する運命、それを彼らは全否定しようとはせず受け入れている。その上で、離さないでというのは、友人であり、恋人であり、何より唯一の生きている証しとしての「記憶」である。これを普通人の一生に読みかえることはできないことではないし、原作者もこの映画も、それを視野に入れている。
 
その上で、この3人の演技はとっても納得のいくものだった。キーラ・ナイトレイはいつもとちがって脇役の見る側からはちょっと違和感もある役だったが、むしろ感心させられた。マリガン、ガーフィールドは、みずみずしさも含め、静かに終幕に引っ張っていく。
そしてシャーロット・ランブリング、この人に頼りすぎるのもとは思うけれど、やはり貫禄。
 
ロケ地、衣裳、画面の色調など、イギリスのこの世界を想像させるグレーがかったトーンで、原作を読んだときに想像したとおり。またこれは読み替えをしやすくしているものだろう。
驚くようなドラマチックな展開がない割には、退屈せずに最後まで見られた。脚本化がうまくいったのだと思う。

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