おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

博多もつ鍋にスイスワイン 

2019-03-06 | Weblog

食欲の閉門蟄居を自ら解き、同時に羽目を外し、タガを緩めるときがやって来た。いま正に食欲の達人、あるいは鉄人、もしくは哲人となって地産地消、地元名物料理に挑むことにした。春が近づけば地中の草木の根がうごめいて若芽、若葉が頭をもたげ出すように、食欲も啓蟄を迎えるのである。今宵から、わがグルメ格闘技の開幕である。

開幕最初の対戦相手は博多名物もつ鍋である。お店によっていろんなもつ鍋があろうが、グルメ師範見習いとして挑むのはJR博多駅筑紫口そばにある希代モツ鍋万作家である。すき焼き風もつ鍋が売りであり、特徴でもある。なぜ、万作家なのか? 伊丹万作と関係があるのか? 陣取ったカウンター席の真向かいにいた店員のあんちゃんに尋ねる。

ここの大将の名前なの?

え~、分かりません。

分かりませんって、う~ん、店名の由来も知らないの?

困ったあんちゃん、勤めて幾星霜といった感じにして、店の仕切り役然としたおば様を厨房から呼び出し、助けを求めた。

同じ質問を投げかける。

おば様が即答する。しかも素っ気なく。

屋号ですよ。

金曜の宵とあって、サラリーマンのグループや恋人風のカップルらが相次いで入ってくる。そう、書き入れ時の金曜日なのだ。

屋号? それはわかってますよ。いや、万作って言うのは、大将の名前から取ったのかなと思ったもんだから。

おば様は「お客様、御覧のように、わたくし今から多忙になりそうなんですけど」といった風な顔つきになって応じた。

万作? 社長の名前じゃありませんよ。どこの誰かもわかりません。

質問もここらで打ち止めにしておこう。あんちゃん同様、おば様も臨時の店員なのかもしれないし、屋号には関心がなさそうだ。それにこれ以上質問すると、多忙な中で営業妨害になりそうだ。

早速、注文である。もつ鍋をもらおうか。その前に馬刺しと生ビールの中ジョッキを。

枝豆の付き出しと生ビールが運ばれてきた。さあ、呑もうかなと思ってカウンター席の前にB5判の紙に印刷されたワインの図柄が目についた。

飲み物メニューとしてのスイスワインの薦めである。なんだって、スイスワインがある!?

赤ワインがガメイ・ウヴァヴァン。産地スイス・ヴォー州、品種ガメイ100%。白ワインがシャスラ・ウヴァヴァン。産地は赤ワインと同じ、品種はシャスラ100%。質が高く希少価値のあるスイスワイン!という誘い文句が青地に白抜き文字で刷り込まれてある。

確かにその通り。スイスワインのほとんどはスイス国内で消費されるため、海外にはほんの少ししか輸出されないのである。

万作家の経営者はうまい処に目を付けたもんだ。フランス、イタリア、カリフォルニア、オーストラリア、チリなどのワインをメニューに挙げても後塵を拝すと考えたのだろうか。意表を突いた一発けたぐりのような選択である。もつ鍋にワインという組み合わせが前代未聞である。ワインよりビールか焼酎が定番の組み合わせだろう。そんな定番と常識を外したアルコール販売戦術である。ワインのマリアージュもへったくりもない、ダイヴォースものの組み合わせではないか。

このマリアージュ、売り上げ増を狙った大将の切羽詰まった、破れかぶれの選択なのか。それとも、もつ鍋コンサルタントなるものの高度の助言ゆえのメニューなのか。赤白のスイスワインそれぞれ1種類だけという究極の選択。もし大将自身の発想ならグランシェフであり、類まれな飲食経営者として評価したいほどだ。

目の前の生ビールに手をつけず赤のスイスワインをグラスで注文する。もつ鍋屋でワイン。思いもしないような組み合わせに胃袋が刺激される。

あんちゃんが尋ねる。

生ビールより赤ワインを先に呑まれるのですか?

毅然として応じる。

そぎゃんたい!(標準語訳:その通りでございますよ)

グラスワインが運ばれてきた。馬刺しを肴にまずはひと口。

チェリーやラズベリー。それにブラックカラントの香り。フルティーで滑らかだ。日頃、ボルドーの重みのある味わいに親しんでいるため軽い、それも非常に軽いという印象である。う~ん、女性向けの味わいか。ボトルもあったが、グラスワインで打ち止めとする。大将が希少を自負するスイスワインをどんなルートで仕入れているのだろうか。店が混雑してきた。質問などしている段じゃないみたいに店員も大将も忙しそうだ。ということで、すき焼き風もつ鍋に挑む。この店では店員が最初から最後までつくってくれる。お客は箸を使って食べるだけである。すき焼き風もつ鍋とは? 簡単に言えば、すき焼きの牛肉の代わりにもつを入れ込んだといえば正解だろう。具材の焼き豆腐にしろ、キャベツにしろ、ニラにしろ、すき焼きの味付けでなかなか旨い。途中、ポテトサラダ、酢もつを注文して生ビールとともに味わい、食欲に活を入れる。

本当はグルマンぶりを発揮して、もつ鍋3人前、馬刺し2人前、ポテトサラダ5人前、枝豆10人前、生ビール中ジョッキ4~10杯、スイスンワインのボトル計2本ぐらいを胃袋に納めたいところだが、明日からが本番。今宵はウオーミングアップの夕食で留めておこう。グルメ格闘技はこれからだ。相手は強豪ぞろいだが、大和をのこの心意気でガチンコ勝負に入ろう。 

 

 

 

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