金曜の夜だ。大人の歌手の歌を聴こうじゃないか。そうだなあ、今宵は山本潤子くんでいこう。そうか、よくよく考えると、わたしより年上の先輩だった。呼び方を改めよう。今宵は山本潤子先生の歌を真摯な態度で拝聴いたしましょう。
私見だが、赤い鳥やハイファイセットのグループで歌っていた時代よりも、ボーカリストとなってからの歌声や歌い方が断然いい。グループ時代は歌が上手な人がまさしく上手に歌っているという感じだった。ところが、ボーカリストとなってから幾星霜、美声で上手なのは従来通りで当然だとして、声に円熟味が加わった。ワインが時を経て飲みどきを迎えるように、潤子先生の歌いっぷりも時を経て聴きどきの極みに至っているようだ。
年を経るにつれて歌手の声量や声質が落ちる例が多々あるが、潤子先生はますます声量や声質に艶が出ているし、歌い方も歌詞の一つひとつに想いが乗っている。40代、50代を経て、還暦を過ぎなければ達成できないものがある。それは人生の深みという経験だ。潤子先生の歌は、どんどん・ぱんぱん・どんぱんぱんみたいな祭り祝い歌的な幸福な歌は知る限りない。歌われるのは、秘めた恋心や寂寥、男女の別れ、異性への切ない気持ちなどばかりだ。青春の光ではなく、青春の影が歌の舞台となっている。
潤子先生の歌をもし聴く機会があるならば、ソロで歌っているのを聴くことをお勧めする。竹田の子守唄やフィーリング、卒業写真、翼をくださいは絶品としか言いようがない歌い方である。ギターを持ってクールな表情で歌っていくのがまたいい。まさに学校の先生然としている。科目はなんだろうか。音楽? 当たり前すぎ。現代国語? いいなあ、カフカの作品解説の授業を受けてみたい。体育? ちょっと違うような気がする。物理化学? 黒縁の眼鏡と白衣姿であればいいかも。美術? 当たらぬとも遠からず。 数学? 微分積分が好きになりそう。
潤子先生の歌はなぜいいのか。
歌詞がいいのか。それだけではない。
声がいいのか。それだけではない。
歌い方がいいのか。それだけではない。
容貌がいいのか。それだけではない。
髪型がいいのか。それだけはない。
何がいいのか。それは醸し出す官能と虚無、言い換えればエロスとニヒリズムの香り。
エロス? 年上の女性ならではの魅力。それは母性を感じさせる雰囲気。
ニヒリズム? 明るい虚無の漂い。山頂の上に広がる紺碧の空と流れる白い雲の世界。
微かに母乳の香りがするエロス。乳首を吸っていた男の子たちの琴線にあの声と歌い方が触れて共鳴するのだ。
青空のような明るいニヒリズム。青空の深さの中に透明な寂寥感が広がっている。
潤子先生のソロ以外にもいいのがあった。伊勢正三とデュエットしている歌、青い夏だ。伊勢の曲と歌詞も絶品だが、それを歌う潤子先生がまたいい。
歌詞のうち、お気に入りはここ。
♪醒めてくれないの 夢はいつの日も
青い夏 風が近づく ミカンの白い花
好きなのに 離ればなれを ずっと恨んであげる
「ずっと恨む」と潤子先生は言いながら、最後にもうひと言告げる。それはどんな言葉かって? まあ、自分で聴いてみなさいよ。きっと、あなたも潤子先生を好きになるから。
追記
潤子先生が5月6日の名古屋公演を最後に無期限の休養に入ることを知った。声の不調が理由で、元の調子を取り戻したら再び活動を始めるという。潤子先生、養生をされて、あの歌声をまた拝聴させてくださいね。
私見だが、赤い鳥やハイファイセットのグループで歌っていた時代よりも、ボーカリストとなってからの歌声や歌い方が断然いい。グループ時代は歌が上手な人がまさしく上手に歌っているという感じだった。ところが、ボーカリストとなってから幾星霜、美声で上手なのは従来通りで当然だとして、声に円熟味が加わった。ワインが時を経て飲みどきを迎えるように、潤子先生の歌いっぷりも時を経て聴きどきの極みに至っているようだ。
年を経るにつれて歌手の声量や声質が落ちる例が多々あるが、潤子先生はますます声量や声質に艶が出ているし、歌い方も歌詞の一つひとつに想いが乗っている。40代、50代を経て、還暦を過ぎなければ達成できないものがある。それは人生の深みという経験だ。潤子先生の歌は、どんどん・ぱんぱん・どんぱんぱんみたいな祭り祝い歌的な幸福な歌は知る限りない。歌われるのは、秘めた恋心や寂寥、男女の別れ、異性への切ない気持ちなどばかりだ。青春の光ではなく、青春の影が歌の舞台となっている。
潤子先生の歌をもし聴く機会があるならば、ソロで歌っているのを聴くことをお勧めする。竹田の子守唄やフィーリング、卒業写真、翼をくださいは絶品としか言いようがない歌い方である。ギターを持ってクールな表情で歌っていくのがまたいい。まさに学校の先生然としている。科目はなんだろうか。音楽? 当たり前すぎ。現代国語? いいなあ、カフカの作品解説の授業を受けてみたい。体育? ちょっと違うような気がする。物理化学? 黒縁の眼鏡と白衣姿であればいいかも。美術? 当たらぬとも遠からず。 数学? 微分積分が好きになりそう。
潤子先生の歌はなぜいいのか。
歌詞がいいのか。それだけではない。
声がいいのか。それだけではない。
歌い方がいいのか。それだけではない。
容貌がいいのか。それだけではない。
髪型がいいのか。それだけはない。
何がいいのか。それは醸し出す官能と虚無、言い換えればエロスとニヒリズムの香り。
エロス? 年上の女性ならではの魅力。それは母性を感じさせる雰囲気。
ニヒリズム? 明るい虚無の漂い。山頂の上に広がる紺碧の空と流れる白い雲の世界。
微かに母乳の香りがするエロス。乳首を吸っていた男の子たちの琴線にあの声と歌い方が触れて共鳴するのだ。
青空のような明るいニヒリズム。青空の深さの中に透明な寂寥感が広がっている。
潤子先生のソロ以外にもいいのがあった。伊勢正三とデュエットしている歌、青い夏だ。伊勢の曲と歌詞も絶品だが、それを歌う潤子先生がまたいい。
歌詞のうち、お気に入りはここ。
♪醒めてくれないの 夢はいつの日も
青い夏 風が近づく ミカンの白い花
好きなのに 離ればなれを ずっと恨んであげる
「ずっと恨む」と潤子先生は言いながら、最後にもうひと言告げる。それはどんな言葉かって? まあ、自分で聴いてみなさいよ。きっと、あなたも潤子先生を好きになるから。
追記
潤子先生が5月6日の名古屋公演を最後に無期限の休養に入ることを知った。声の不調が理由で、元の調子を取り戻したら再び活動を始めるという。潤子先生、養生をされて、あの歌声をまた拝聴させてくださいね。