【高安雄一】日韓首脳会談の裏で…韓国経済が「成長鈍化」から抜け出せない理由 2020年も厳しい状況が続く…                

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12月24日、1年3ヵ月ぶりの日韓首脳会談が行われた。

文在寅大統領は、日本の輸出管理厳格化について「早急に解決策を見出せることを期待している」とした。

こうした発言の背景には、韓国経済の成長鈍化があるという見方もある。

だが、そもそもなぜ韓国経済は不調に陥ったのか。大東文化大学の高安雄一教授が解説する。

 

実力を発揮できない韓国経済

2019年もあと少しだが、韓国の経済成長率は2.0%にとどまる見込みであり、韓国経済にとっては厳しい年となった。

日本の感覚では2%は良い数字に見える。

しかし潜在成長率、すなわち景気が良く「その国が持つ実力」を発揮した場合の経済成長率は、日本が1%であるのに対し、韓国は3%程度である。

つまり韓国は実力を出し切れていない状態にある。

経済成長率が潜在成長率を下回るということは、労働力や資本が十分活用されていないことを意味し、失業者の増加、企業収益の低下といった経済にとって望ましくない状況が生じる。

ちなみに潜在成長率は、先進国になるほど技術水準が伸びる余地が小さくなるため、低くなる傾向にある。

また高齢化が進むと労働や資本の伸び率が低下するため、やはり潜在成長率は低くなる傾向にある。

2019年における高齢化率は日本で28.4%、韓国で14.9%であり、韓国が日本より潜在成長率が高い要因は、まだ本格的に高齢化が進んでいないからである。

韓国経済にとって厳しい状態は2020年にも続くと見通されている。

韓国開発研究院(KDI)や韓国銀行は2020年の経済成長率を2.3%と見込んでおり、今年よりは良くなるが、実力からすれば低成長にとどまることが予測されている。

韓国経済がここまで調子が悪い理由は米中貿易摩擦である。

米中貿易摩擦により中国の景気が減速し、これが韓国経済の足を大きく引っ張っている。

中国への輸出が「二桁減」

かつてはアメリカ経済の調子が韓国経済を左右していたが、近年は中国の影響力が上回るようになっている。

そもそも韓国経済は外需に強く依存している。

OECDは、加盟国などについて、GDPのうち最終的に国外で需要されるものの割合を推計している

2016年の韓国の数値は29.4%であり、これは、韓国で生み出された付加価値の3割が国外で需要されていることを意味する。

韓国の割合は、日本の12.6%、アメリカの9.4%、EUの15.0%より高く、韓国経済が世界景気に左右されやすいことがわかる。

 

最終的に国外で需要されるGDPが、どの国で最終的に需要されるかについてもOECDはデータを提供している。

2015年における韓国の国外最終需要の国別割合を見ると、中国が25.3%であり、アメリカの18.3%、EUの10.9%、日本の5.7%を上回っている。

2008年まで、中国の割合はアメリカやEUより小さかったが、それ以降は中国の割合がほかの国・地域を引き離すようになった。

つまり韓国は世界経済の影響を受けやすく、なかでも中国への依存度が高くなっている。

〔PHOTO〕iStock

米中貿易摩擦ではお互いの輸入に関税をかけあい、経済の足を引っ張り合ったわけであるが、マイナスの影響は中国に色濃く出ている。

アメリカは輸出に勢いがなくなっているものの、景気後退には至っていない。

一方、中国は輸出が減少するとともに、民需も伸びが低下しており景気の後退が鮮明となっている。

中国の景気後退の直撃を受けたのが韓国経済である。

中国向けの輸出額は、2018年には14.1%増と二桁の伸びを示していたが、2019年に入り一貫して二桁減となり、2019年1~10月の累計額は前年の同じ期間と比較して18.0%も減少した。

これを受けて輸出額全体も二桁減となり外需依存度が高い韓国経済に打撃を与えた。

「北」への配慮

世界経済の影響は韓国だけでなく、多かれ少なかれほとんどすべての国が被る。

このような外的ショックを緩和するのが財政政策や金融政策といったマクロ経済政策である。

具体的には主要な輸出相手先の景気が悪化し、自国経済がマイナスの影響を受ける場合には財政拡大や金融緩和によって内需を刺激して、外需によるマイナス分の相殺を図る。

 

しかし韓国についてはマクロ経済政策を積極的に発動することが難しい状況にある。

財政政策については、韓国は均衡財政を重視しており財政拡大による景気浮揚に伝統的に消極的な立場を貫いてきた。

韓国における国と地方の債務の対GDP比率は2019年で39.4%であり、200%を超える日本とは比較にならないほど財政状況が良い。

これまでも韓国政府はIMFなど国際機関より、景気後退期には柔軟に財政政策を行うべきとアドバイスも受けている。

にもかかわらず韓国が財政拡大に消極的であった要因として、南北が統一された場合に想定される莫大な財政負担に備えてできるかぎり財政を健全に保っておこうとしたことが考えられる。

〔PHOTO〕Gettyimages

また近年に入ってからは、南北統一という実現するか不確実なことではなく、確実に起こること、すなわち急速な高齢化に備えて財政の健全化を行う必要が生じている。

韓国ではベビーブーム世代が2020年から順次高齢者の仲間入りをするため、急速に高齢化が進み、2065年には高齢化率が42.5%に高まることが予測されている。

また1999年に国民皆年金が実現した韓国ではまだ年金制度が成熟していない。

しかし今後は、高齢化率の高まりと制度の成熟により年金支払額が急増する。

そこで財政の健全性を保つため、財政拡大にはより消極的にならざるをえない。

韓国では財政拡大に消極的であったため、マクロ経済政策の手段としては金融政策が中心的な役割を担ってきた。

景気悪化時には思い切った政策金利の引下げを行い、景気回復時には景気の腰折れを避けるため金利引上げには慎重であったことから、政策金利は1.25%にまで低下し、引き下げ余地が限定的となってきた。

韓国の中央銀行・韓国銀行〔PHOTO〕Gettyimgaes

 

よって今後、景気悪化が深刻化した場合でも、かつて行われたような思い切った利下げはできない。

2020年の韓国の成長率は2.3%と見通されているが、これは中国の景気後退に歯止めがかかることが前提とされている。

12月13日には米中で第一段階の貿易合意がなされ、これは中国経済、ひいては韓国経済にとって朗報となった。

また、中国政府は景気を下支えするために政策を講じており、この効果も期待される。

しかしながら、中国経済の下振れリスクとして、米中貿易摩擦の再燃のみならず、過剰債務問題、金融資本市場の変動などが指摘されており、景気後退がさらに進む可能性もある。

中国に依存している韓国経済にとって、中国の景気が下振れした場合、中国向け輸出の大幅な減少が継続する形で、韓国の景気も下振れする。

これに対して、マクロ経済政策による景気の下支えは期待できず、経済成長率が2%を大きく下回ることもあり得る。

いずれにしても中国経済の急回復は見込めず、2020年も韓国経済にとって厳しい年になりそうである。