日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
今回は高齢化が急速に進んでいる韓国の状況と、それが韓国経済に及ぼすであろう影響についてみてみることにしよう。
<日本を上回る高齢化のスピード>
韓国の高齢化はすでに始まっている。
10代以下の人口は1975年度から減少し始めているし、20代の人口は1994年度から、30代の人口は2004年度から減り始めている。
さらに12年度からは40代の人口もマイナスに転じた。これから60代以下の年齢では増加は期待できず、60代以上の人口だけが増加する現象が続きそうだ。
もっと深刻なのは高齢化よりもそのスピードの速さであると専門家は指摘している。
一般的に65歳以上の老人の人口に占める割合が7%を超えていると高齢化社会、14%を超えていると高齢社会、20%を超えていると超高齢社会と呼んでいる。
高齢化社会から超高齢社会に移行するのに、先進国では70年以上の歳月が必要であった。
特にフランスの場合は、154年間の歳月が必要であったと言われている。
その反面、先進国のなかで急ピッチに高齢化が進んだ国は、日本である。日本の場合、高齢化は05年から進み始め、そのスピードも先進国のなかで異様に速くて35年しかかからないという。
世界経済の頂点に達していた日本経済が1990年代に陰りを見せ始めたのも、これと関係があるかもしれない。
しかし、韓国は日本に比べても高齢化のスピードが速いのだ。
即ち、高齢化社会から超高齢社会になるのに26年しかかからないという驚くべき試算がでている。
これは言い換えると、韓国の経済は日本の経済よりももっと厳しい局面に差し掛かる可能性が高いことを物語っている。
<低成長時代へ突入>
韓国の最初のベービーブーマーであると同時に韓国社会の強力な労働力と旺盛な消費を引き起こしていた1955年から63年に生まれの人たちが2012年度から一気に現役から引き始めた。
生産可能人口(15歳から64歳)も、16年度から減り始めることが予想されている。
韓国より先に高齢化社会になった日本の場合には、1990年代から生産可能人口が減少し始め、経済が縮小し始めている。韓国も間違いなく日本の二の轍を踏むことになるだろう。
このような事情を勘案すると、今までのような4%以上の経済成長を期待するのは望み薄かもしれない。
OECDが2012年度に発表した資料によると、韓国の潜在経済成長率は12年度から17年度までが3.4%、その後は2%台の成長をすると予測している。韓国経済もこれからは低成長時代に突入することになる。
<軍隊も転換迫られる>
成長率が下がって福祉の支出だけは増加する高齢化社会は、国家財政にとっても大変重荷になるのは間違いない。
しかも、高齢化問題は経済問題にとどまらない。
例えば、今までのように韓国の軍人の数が60万人を維持するのは不可能だろう。
入隊の対象である18歳の男性の人口は12年度の37万人からわずか8年後の20年度には26万人になり、10万人近くが減少することになる。
そのような状況になるため、軍隊の戦力も人間中心の従来の戦略から機械を中心とした戦略に転換を急ぐ必要がある。軍隊の編成なども変える必要があるかもしれない。
大学の事情はもっと深刻である。今でも定員を満たすために中国などから留学生を誘致するのに一生懸命であるが、20年度になると、事態はもっと深刻になるだろう。企業においても若い層の雇用はこれから減少に向かうだろう。
このように高齢化は社会のさまざまな分野に影響を及ぼしていく。今後の韓国経済を占ううえで欠かせない要因である。
<高齢者の自殺率が平均の4倍>
韓国の自殺率は、人口10万人当たり31名でOECD加盟国の中では1番高い。
特筆すべきは、老人の自殺率が高い。70代の場合、10万人当たり84人、80代の場合には10万人当たりなんと123人で、平均自殺率の4倍にもなっている。
自殺したいという衝動に駆られたことのある老人にその動機を聞いてみると、1番目が病気による苦痛、2番目が経済的な苦痛、その次が寂しさであった。
病気による苦痛も、寂しさも、突き詰めれば経済的な逼迫から起因するものであろうから、経済的な理由が1番大きいと言えるかもしれない。
とにかく老人の貧困問題は深刻で、大きな社会問題に発展する可能性が高い。
所得の格差を表す指標のなかでジニ係数というのがある。人口の分布と所得の分布との関係を表す数値で、ジニ係数がゼロであれば、所得格差がほとんど存在しないということだ。
数値が大きければ大きいほど、格差が開いているということになる。
韓国はジニ係数が0.31でOECD加盟国の平均水準である。
しかし、年齢別に見ると、20代と30代は0.27であるに比べて、60代以上になると、0.4を超えている。年齢を重ねれば重ねるほど、貧富の格差はひどくなる。このような現象は、韓国の消費パターンを考慮すると、ある意味当たり前の結果かもしれない。
<貯蓄しない若者、度が過ぎる教育費支出>
若い層は最近貯蓄をしなくなっている。過去には若いときに将来家を購入するために、または老後に備えて貯蓄することが一般的であったが、今の若者は貯蓄よりも海外旅行、外車、ブランド品の購入などが優先される。
世界で1番高い高級乳母車が1番売れている国は韓国であるという。1台も170万ウォンもする高価なものであるが、飛ぶように売れていることだ。
子どもの教育費の支出も度を過ぎている。
親は、子どものときから自分の子どもにいろいろなことを学ばせようとしている。中学、高校時代には塾通いなどでその費用は家計を圧迫している。
しかし、よそも全部やっているので自分だけがやめるわけにはいかない。
大学進学率は世界最高水準であるが、大学卒に用意された就職口は限られている。
親は子どもの大学の授業料を払うだけでも大変だったのに、子どもが大学を卒業しても就職口が見つからないので、収入はなく支出だけが続く羽目になる。場合によっては子どもの住居費なども馬鹿にならない。
<貧しいなかでの高齢化>
1970年代は、平均寿命が60歳だったので、親を扶養する負担もそれほど重くなかったが、今は、寿命が延びて扶養期間が長くなったので、その分、親への負担が増加して貯蓄に回す余裕などないのが現状である。
このような状況なので韓国の貯蓄率は先進国に比較するととても低い水準である。80年代と90年代は20%台であったが、2011年度になってからは2.7%まで落ちていて、その後回復の兆しがない。
貯蓄率が大幅に下落したきっかけは、IMF管理下に入る時期だが、その後戻らないまま、低い貯蓄率が続いている。
10%を上回っているフランス、ドイツ、5%台であるアメリカなどに比べても、韓国の貯蓄率がいかに低いかがよくわかる。
韓国は、老人になってから貧困になる可能性が高いことを示唆している。
韓国経済の今後のことを考えると、悲観的な要素が多い。2012年度には若い人7人が1人の老人を扶養しなければならないが、15年後である27年度には若い人3人が1人の老人を扶養しなければならない社会が到来する。
老人が増えていくということは、福祉への支出が増加することを意味し、それは国の財政への圧迫につながる。
しかし、政府としては負債を増やしてでも福祉政策を採らないといけないが、それも体力がある限りでの話である。
経済学者が、経済指標のなかで1つだけを選ぶとしたら、「人口統計を選ぶ」と言うほど、人口が経済に与える影響は深刻なものである。
今後、韓国も日本も、未踏の領域に入ることになるので、今までのような生活パターンではなく、質素な生活パターンに切り替えることによって未来に備えるべきであろう。