アーミテージ・ナイ レポート2012年8月「CSIS(戦略・国際研究センター)報告書」(1)

2012-10-04 19:21:47 | 世界
アーミテージ・ナイ レポート

CSIS(戦略・国際研究センター)報告書
米 日 同 盟
―アジアの安定を保持する―
リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイ
2012年8月

http://csis.org/files/publication/120810_Armitage_USJapanAlliance_Web.pdf

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  米国の歴代政権に大きな影響力を持つ「知日派」とされるアーミテージ氏とジョセ
フ・ナイ氏が中 心になって、2012年8月に「米日同盟」の課題や将来のあり方を提言
した報告書が発表された。
 「米日同盟」(日本側では「日米同盟」)については、日米安保条約に基づくもので
はないが、もはや安保条約をはるかに超えて、米国のグローバルな覇権(ヘゲモニー)
を維持、強化する戦略システム全体を指すものとして独り歩きし、両国政府や官僚、学
者たちに「便利」に用いられている。
 ここに訳出した、いわゆる「第3次アーミテージ報告」は、あくまで米国側から見て
、米国の長期、短期の戦略体制の構築、強化のために何が必要か、そのために日本に何
を求めるかを率直に主張し、さらに「勧告」として両政府に提言したものである。その
骨格は、もちろん日米の軍事一体化の拡大・深化策の具体的な列挙だが、報告書はそれ
にとどまらず、エネルギー戦略、貿易戦略(FTAやTPP、それ以上のCEESA)、
中国の評価と対応策、米日韓豪の軍事協力、日本の憲法9条と集団的自衛権、PKO、
秘密保全法制のあり方、戦略的ODAなどにまで及んでいる。
 言葉を換えれば、このアーミテージ報告は、あくまで米国の戦略的利益を追求するた
めの、米国から日本への「要求リスト」である。外務省などは、この報告書を「民間機
関の文書」として公式には論及していないが、すでに野田内閣や自民党の総裁候補たち
は、この路線に沿った発言を繰り返し、オーストラリアなどとの交渉を始めており、米
国から下された「聖典」として扱われつつある。
 私たちは、議論が活発に持ちだされてきた「集団的自衛権」問題や、自衛隊の「南西
防衛戦略・島嶼防衛論」、オスプレイの沖縄配備と日本全域での飛行訓練計画などの背
後にある「米国の意図」を知るためにも、この報告書を吟味する必要があろう。
2012年9月
筑紫建彦(訳者)
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なお、この報告書はやや長文のため、訳者の責任で骨子をまとめた「ポイント」を
添付する。
文中の[  ]は訳者による註であるが、必ずしも意味が明確・正確でない部分も
あり、ご指摘があれば歓迎したい。

CSIS(戦略・国際研究センター)報告書/日本部
米 日 同 盟
―アジアの安定を保持する―
筆者:リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイ
2012年8月
CSIS(戦略・国際研究センター)

[CSISについて]
戦略・国際研究センター(CSIS)は50年間にわたり、世界の最も大きな諸課題の実
際的な解決策を開発してきた。この里程標を祝うにあたり、CSISの研究者たちは、
政策決定者たちがより良い世界に向けた海図をつくるのに役立つ戦略的洞察と超党派的
な解決策を提供し続けている。
CSISは、ワシントンDCに本部を置く超党派の非営利組織である。センターの220
人の常勤スタッフと、これに参加する研究者の大きなネットワークは、調査研究と分析
に従事するとともに、未来を模索し、変化を予測する政策提案を開発している。
CSISは1962年以来、世界に善をなす勢力としてのアメリカの卓越性と繁栄を持続さ
せる方法を見出すことに貢献してきた。50年を経て、CSISは防衛と安全保障、地域
的安定、そしてエネルギーと気候からグローバルな開発や経済統合にまで及ぶ超国家的
な課題に焦点を当てた、世界でも傑出した国際政策研究機関の一つになった。
元米上院議員のサム・ナンは、1999年以来CSIS理事会を主宰し、ジョン・J・ハマ
ーは2000年にセンターの所長と首席執行役員になった。CSISは、デイビッド・M・
アブシャイアとアーレイ・バーク提督によって創設された。
CSISは、特定の政策的立場を取っておらず、したがって、ここで表明されたすべて
の見解は筆者(たち)の見解とのみ理解されるべきである。

[目次]
 研究グループの参加者・・・・・1      近隣諸国との関係・・・・・・・7
 研究グループの署名・・・・・・2(略)   新たな安全保障戦略に向けて・・10
 序文・・・・・・・・・・・・・2      結論・・・・・・・・・・・・・14
 エネルギー安全保障・・・・・・3      勧告・・・・・・・・・・・・・15
 経済と貿易・・・・・・・・・・6      筆者たちについて・・・・・・・17

[研究グループの参加者]
 以下の諸個人は、この報告書が生み出された研究グループのプロセスに参加した。ナ
イ博士とアーミテージ氏は、研究グループの参加者たちの根気強い努力と支援に感謝し
ている。
デイビッド・エイシャー(新たなアメリカの安全保障センター;非常勤上級研究員)
ヴィクター・チャ(CSIS上級顧問兼韓国部長、ジョージタウン大学教授・アジア研
究所長)
カーラ・L・ビュー(アーミテージ・インターナショナル;パートナー)
マイケル・グリーン(CSIS上級顧問・日本部長、ジョージタウン大学客員教授)
ロバート・マクナリー(ラピダン・グループ会長・創立者)
イサベラ・ムロチコウスキ(報告担当者;プロジェクト2049研究所;研究助手)
ケヴィン・G・ニーラー(スコークロフト・グループ;主任兼パートナー)
トーケル・パターソン(米日MAGLEV・LLC会長) [*MAGLEVはリニア
モーターカーの意]
ランドール・シュリバー(アーミテージ・インターナショナル;パートナー、プロジェ
クト2049研究所CEO)

[研究グループの署名](略)

米日同盟――アジアの安定を保持する

序文
 米日同盟に関するこの報告書は、その関係が漂流している時期に出される。米国と日
本の双方の指導者たちが、健康や福祉など他の非常に多くの課題に直面しているときに
、世界で最も重要な同盟の一つは危機にさらされている。カート・キャンベル国務次官
補と両国における彼の同僚たちの根気強い努力が、この同盟をかなり安定させてきたが
、この地域とそれを超えた今日の課題と機会は、より多くを要求している。われわれは
共に、中国の再登場とそれに伴う不確実性、核能力と敵対的意図を持つ北朝鮮、および
アジアのダイナミズムの展望に直面している。他方、グローバル化した世界の多くの課
題と、ますます複雑化する安全保障環境が存在している。これらとそのほかの今日の大
きな諸問題に適切に対処するには、より強力で、より対等な同盟が求められている。
 そのようなあるべき同盟のために、米国と日本は、そのような展望から、またその具
体化として、両国民が一つに結び付いたものになることが必要となろう。われわれの見
解では、1本のロープの[一つに結び付いた]両国民は、顕著な経済的重みと軍事力の
可能性、グローバルなビジョン、および国際的関心事への明示的なリーダーシップを持
つ。米国がこの同盟をよりよく支えることができる分野はあるけれども、われわれは米
国が1本のロープの状態を継続することに疑いを持っていない。しかしながら日本にと
っては、そうなるには決断がいる。日本は一つに結び付いた国民でありつづけることを
望むのか、あるいは、2本のロープの状態に満足しているのか? もしも日本国民とそ
の政府にとって、2本のロープの状態で十分にいいのなら、この報告書は関心を引かな
いことになろう。この同盟についてのわれわれの検証・評価と同盟のための勧告は、日
本が貢献すべき多くのことがある世界の舞台で全面的なパートナーになることにかかっ
ている。
 この質問をする上で、われわれは、今日の世界における日本の影響力と役割を混乱さ
せている諸問題について認識している。日本は人口の劇的な高齢化と出生率の低下を抱
えている。そのGDP比の負債率は200%を超えている。日本では6年間に6人の異な
る首相が就任してきた。そして多くの若者たちには、悲観的な感覚と内向きの姿勢が増
えている。しかし日本は、その重要性が弱まったと見られるように運命づけられてはい
ない。日本は十分に、一つに結び付いた国であり続けることができる。それはまさに、
日本が決める問題である。
 日本が多くの課題に直面するにつれ、日本の国力と影響力が不十分に認識され、不十
分に活用されるという事態が存在している。日本は世界第3位の経済大国であり、中国
の2倍の規模の消費部門を持っている。日本は、改革と競争によって解放されうる巨大
な経済的潜在能力を持ち続けている。貿易と移動の自由の一層の開放と、労働力として
の女性のより大きな参加は、日本の国内総生産(GDP)に著しく寄与することになろ
う。日本のソフトパワーもまた、相当なものである。日本は国際的な評価で上位3カ国
の中にあり、「ナショナル・ブランド」の面では世界で1位である。日本の自衛隊――
今では日本で最も信頼されている機関――は、もし時代錯誤の憲法が緩和されるなら、
日本の安全と評判を強化するうえで、より大きな役割を果たす用意ができている。
 日本は、世界の静かな片隅に置かれるような価値のない国ではない。米国その他の国
は、日本をアジア太平洋地域で安定的な戦略的バランスを保つ沿海の要として、国連と
国際通貨基金(IMF)、その他の主要な多国間機構への2番目に大きな拠出国として
、また、世界で最もダイナミックな半球のためにシーレーンを開放しておく米軍の受け
入れ国として、信頼している。
 米国は、日本が強力な米国を必要とする以上に、強力な日本を必要としている。われ
われがこの同盟とその責任について扱うのも、この展望からである。日本にとって、米
国と肩を並べて立ち続けるためには、日本はわれわれとともに前進する必要があろう。
日本は過去においてアジアのリーダーであったし、将来もそうあり続けることができる

 以下の報告は、米日同盟に関する超党派の研究グループのメンバーたちの一致した見
解を示している。この報告は特に、エネルギー、経済と世界貿易、近隣諸国との関係、
あよび安全保障関係の諸問題を扱っている。これらの分野の中で、研究グループは日本
と米国のための政策的な勧告を提示している。それらは、短期および長期的な時間的枠
組みに及んでいる。これらの勧告は、アジア太平洋およびそれを超えて、この同盟を平
和と安定および繁栄のための力として強固にすることを意図している。

 エネルギー安全保障

 <核エネルギー>
 2011年3月11日の悲劇は、われわれの記憶に新しい。われわれはまた、地震と津波、
それに続く核のメルトダウンによるすべての犠牲者と苦痛を受けた人びとに深い哀悼の
意を表した。フクシマの核災害が、原子力に大きな後退をもたらしたことは理解できる
。この後退は、日本全土だけでなく、世界中にも響き渡った。英国や中国のようないく
つかの国が用心深く核の拡大計画を再開しつつあるが、ドイツのような他の諸国は原子
力からの完全撤退を決定してきた。
 日本は、原子炉の査定を行いつつあり、また原子力安全規則を改定しつつある。原子
力に対する強い反対の世論にもかかわらず、野田佳彦首相の政府は2基の原子炉という
部分的な再稼働を始めた。さらなる再稼働は安全チェックと地元の承認にかかっている
。このような条件下での原子力発電の用心深い再開は、われわれの見解によれば、正し
く責任ある手法である。
 日本は、エネルギーの効率を高めるうえで目覚ましい進歩を遂げてきたし、エネルギ
ーの研究開発では世界のリーダーである。日本の人びとは、エネルギー消費を削減し、
エネルギー効率に世界最高の基準を設けることで顕著な国民的団結を示してきたが、短
期的に原子力を欠くことは、日本にとって深刻な影響を生じることになろう。原発の再
稼働がないなら、日本は、2020年までに2酸化炭素の排出量を25%削減するという目標
に有意な前進ができないだろう。原子力は、排出のない基礎的な発電の唯一の資源であ
り、これからもそうあり続けるだろう。環境省のデータでは、原発の再稼働がなければ
、日本の排出量は2020年までに最大で11%減少するが、再稼働がされたら、排出量の削
減は20%に近づきうるという。恒久的な[原発の]閉鎖は、輸入される石油、天然ガス
、石炭の消費を押し上げるだろう。さらに、国のエネルギー政策の決定を遅らせること
は、エネルギーに依存する重要な産業を日本国外に追い出す可能性を持ち、国の生産性
を脅かしうる。
 恒久的な閉鎖はまた、途上国は原子炉を建造し続けるだろうから、責任ある国際的な
原子力開発を妨げるだろう。中国は、フクシマ以降の1年以上、原子炉の認可を保留し
た(しかし、進行中のプロジェクトの進展は止めなかった)が、新たなプロジェクトの
国内建設を再開しており、実際に重要な国際的な売り手として登場できるだろう。中国
は、民間の原子力のグローバルな開発というメジャーリーグにおいて、ロシア、韓国お
よびフランスと組むことを計画しているので、日本は、世界が効率的で信頼できる、安
全な原子炉と核のサービスから利益を受けるべきなら、その後塵を拝することはできな
い。
 その点で米国は、使用済み核廃棄物の処理をめぐる不確実性を取り除き、明確な認可
プロセスを実施する必要がある。われわれは、フクシマに学び、是正された安全措置を
実施する必要性を十分に認識しているが、原子力はなおも、エネルギー安全保障や経済
成長、環境上の利点という分野で著しい可能性を持っている。日本と米国は、安全で信
頼できる民間の原子力を国内的、国際的に推進するうえでの共通の政治的、商業的な利
益を持っている。東京とワシントンは、この分野での同盟を再活性化し、フクシマの教
訓を受けとめつつ、安全な原子炉の設計と健全な規制の実施をグローバルに進めるリー
ダーシップの役割をなければならない。3・11の悲劇は、いっそう大きな経済と環境の
劣化の基礎になるべきではない。安全かつクリーンで、責任を持って開発され利用され
る原子力は、日本の包括的な安全保障に不可欠な要素となる。この点に関して、原子力
の研究開発における米日協力は不可欠である。

 <天然ガス>
 天然ガスの最近の積極的な開発は、わずか数年前には可能と考える人はあまりいなか
ったが、2国間のエネルギー貿易を再燃させることができるだろう。米本土48州での新
たなシェール・ガス田の発見は、米国を世界で最も急速に成長するガス供給国にしてき
た。国際エネルギー機関(IEA)は、2014年に計画されているパナマ運河の拡張が、
世界の液化天然ガス(LNG)輸送船の80%がこの運河を使うことを可能にするだろう
し、それは輸送費を劇的に引き下げ、米国の[メキシコ]湾岸からのLNG輸出を、ア
ジアにおいてさらに競争力あるものにするだろうと指摘した。
 米国大陸部のシェール・ガスの革命とアラスカの豊富なガス田は、日本と米国に補足
的な機会を提供している。すなわち、米国は2015年までに本土48州からLNGを輸出し
始めるべきであり、日本はLNGの世界最大の輸入国であり続ける。1969年以来、日本
はアラスカから比較的少量のLNGを輸入してきたが、LNG輸入先を増やし多様化す
るという日本の必要性から、特に3・11に照らして、取引相手を拡大することに関心が
高まっている。
 しかしながら、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでおらず、さらに特殊には、そ
のFTAにガスの国内取り扱い条項がない国にLNGを輸出しようとする米国企業は、
米国エネルギー省(DOE)の化石エネルギー事務所の認可を受けなければならない。
FTA16カ国は、DOEの輸出許可を受けている(その他の規則および許可要件が適用
される)が、その多くは大きなLNG輸入国ではない。
 日本のような非FTA国には、DOEが米国の「公益」にならないと結論しない限り
、許可は与えられる。ケナイLNG基地は、慣例的にアラスカから日本への輸出につい
てDOEの許可を受けた。しかし、本土48州からのLNG輸出の可能性が生じたときに
は、DOEの認可プロセスは政治的な精査[慎重な吟味]の対象になりつつある。すで
にDOEの非FTA認可を得たサビヌ・パスLNGプロジェクト以外にも、本土48州の
LNGプロジェクトについて、8件がDOEの認可を待っている。
 活動家たちは、環境上または経済的理由からLNGの輸出に反対している。輸出は米
国内のガス価格を上昇させ、天然ガスに大きく依存している国内産業の競争力を弱める
だろうという懸念が存在している。ブルックリン研究所の最近の政策摘要は、この主張
を否定し、将来のありうる輸出量は米国の天然ガスの総供給量に比べて比較的に小さく
、国内価格への影響はわずかで、国内や産業、家庭でのガスのいっそう広範な使用を危
険にさらすことはないと結論した。LNG輸出の不必要な制限は、米国のシェール・ガ
スとLNG輸出プロジェクトへの投資を抑制している。
 米国は、資源ナショナリズムに訴えるべきでなく、民間部門のLNG輸出計画を禁じ
るべきではない。米国の政策立案者たちは、輸出に道を開いて、これら新しい資源の採
掘を環境に責任あるものにするよう助長すべきである。さらに米国は、日本の危機の場
合でも(大統領が宣言するような国内の国家的緊急事態を除いて)、それに先立って交
渉された商業契約と広く通用している商業価格により日本に向かうLNG供給を中断し
ないことを保証し、変わらず安定した供給を確保すべきである。安全保障関係の一部と
して、米国と日本は、軍事的同盟であるとともに天然資源の同盟であるべきである。こ
の分野の協力の発展は、不十分なままである。
さらに、米国は、日本へのLNG輸出を禁じている現在の法律を改正すべきである。理
想的には、議会が、われわれが平和的関係を享受しているいかなる国に対するLNG輸
出も国益に合致すると反論できる推定[条項]を設けることで、FTAの要件を自動的
な認可に変えることだろう。代わりの案として、議会は日本に他の潜在的消費国と同等
の資格を認めて、LNG輸出のために日本をFTA加盟国とみなすべきである。
 適切な政策的支援があれば、天然ガスは2国間貿易を再活性化させ、日本の米国向け
対外直接投資(FDI)を増やすこともできる。北アメリカのガス供給が顕著である一
方で、米国は潜在的なタンカー輸送を処理するのに必要な、適切なターミナル[液化基
地]や港、およびそれに伴う陸上輸送システムが欠けているという懸念がある。大規模
なインフラ投資がないなら、米国のガス生産は成長できない。これは、日本に米国の天
然ガスのために他のFTA消費国と同等の資格を認めるよう法改正を求める、もう一つ
の妥当な理由である。

 <メタン・ハイドレート:エネルギー協力の強化に値する潜在的な変容の機会>
 2国間協力のもう一つの、有望だがより不確実で長期的な分野は、メタン・ハイドレ
ートである。メタン・ハイドレートは、深海に埋蔵された氷の形で閉じ込められた天然
ガスの結晶である。もし重要な経済的、技術的なハードルが越えられれば、メタン・ハ
イドレートの資源は、現在の伝統的および非伝統的なガス資源を小さく見せることにな
ろう。
日本西部~中部の沿岸に貯えられているメタン・ハイドレートは、天然ガスの国内消費
の10年分と推定されており、その資源はグローバルには、7京[1兆×70万]立方フィ
ートにも上ると推定されてきた。それは現在の天然ガスの確認埋蔵量の100倍以上にも
なる。メタン・ハイドレートは、沿海と沿岸、特に極地と大陸棚の外側に広く分布して
いる。もし、専門家が予測するように、メタン・ハイドレートが小さな割合ででも開発
できるなら、それだけで現在の天然ガス資源の推定量を大きく超えることになりそうで
ある。
日本と米国は、潜在的な大規模なメタン・ハイドレート生産の研究開発で緊密に協力し
ている。5月には、アラスカ北部の傾斜面での米国による現地試掘は、メタン・ハイド
レートの取得に成功したが、ポンプに汲み上げ、CO2を隔離することによって、エネ
ルギー供給と環境上の利点の両面を示した。実際的な大規模なメタン・ハイドレート生
産という変貌の可能性に照らして、われわれは、米国と日本が費用対効果および環境面
で責任あるメタン・ハイドレート生産の研究開発の推進を加速させるよう勧告した。さ
らに米国と日本は、代替エネルギー技術の研究開発に関与すべきである。

<グローバルな石油とガスの共同使用の確保>
見通しうる将来、世界経済は主に化石燃料に依存して運営され、輸送部門では石油がほ
ぼ独占的な地位を保つだろう。日本(現在、世界で3番目に大きな石油輸入国)と米国
は、グローバルな石油取引の推移がグローバルな地政学を不安定化させず、中東のエネ
ルギー供給国へのアクセスやそこからの船舶輸送を脅かさないよう確保するという核心
的な戦略的利益を共有している。中国では石油生産が増えつつあるが、米国とブラジル
は、[南北]両アメリカの他の地域からの輸入への依存を減らしうるし、グローバルな石
油市場の次の大きな変遷は、中東の産油国から、ますます豊かになりつつあるアジアの
消費国への石油とガスの流れにおける大波になりそうである(中東のエネルギー消費の
増大は輸出量と拮抗するだろうが)。将来の石油供給と需要についての現在の予見は、
ペルシア湾が過去10年間に果たしたよりも、これからの40年間に世界の石油供給でいっ
そう重要な役割を果たすだろうと示唆している。ペルシア湾はまた、LNGの非常に重
要な供給地である――カタールのラス・ラファン液化プラントは、LNG取引量の3分
の1を供給している。
ペルシア湾のエネルギー供給とペルシア湾からアジアへのエネルギーの流れに世界がま
すます依存していることは、グローバルな共有地を防護する重要性を増大させるだろう
。日本の海軍艦艇は、2009年にソマリアの海賊対処任務を開始した。また、3・11以後
の発電のために高まる石油需要にもかかわらず、日本は2012年の初めの5カ月以上、米
国の制裁に従ってイランからの石油輸入を3分の1減らした。さらに進んで、海賊と戦
い、ペルシア湾の海運を防護し、イランの核計画で現在生じているような地域の平和へ
の脅威に立ち向かい、シーレーンを確保するための多国間の努力への東京の参加の増大
は必要とされ、歓迎されるだろう。

経済と貿易

2011年11月、野田首相は「環太平洋パートナーシップ」(TPP)への加盟に向けた予
備協議への日本の参加を発表した。TPPが完全に実現したら、世界貿易の40%を占め
、大西洋と太平洋にまたがる少なくとも11カ国を含むことになる。さらに、他の地域的
なFTAと異なり、TPPは包括的で高いレベルの、法的拘束力を持つ自由貿易協定と
して成立する。昨年の発表以来、日本はTPPへの加盟について前進を見せてきた。課
題の広範さと交渉参加国の数は、より多くの時間と細部への注意を要する。しかしなが
ら、交渉への参加を遅れさせるのをやめることは、日本の経済的安全保障の利益である
。さらに、日本がその最も重要な同盟国とのFTAを結ばないことは適切ではない。わ
れわれは、交渉に参加するよう強く日本を奨励する。そのために米国は、交渉プロセス
と協定草案により多くの光と透明性を与えるべきである。

<米日の経済関係の活性化を確実に>
TPPの検討に加えて、われわれは大胆で革新的な多角的自由貿易協定を提唱する。日
本はメキシコとFTAを結んでおり、カナダとのFTAをめざしている――この2国は
、米国の最も重要な貿易相手国であり、世界最大のFTAである「北米自由貿易協定」
(NAFTA)の加盟国である。米国、日本、カナダ、メキシコが参加する「経済・エ
ネルギー・安全保障に関する包括協定」(CEESA)は、米日間の経済、安全保障、
戦略的エネルギーのうえでの関係を十分に広げ、深めるだろう。日本は死活的なエネル
ギー安全保障のニーズを持っており、投資する資本を十分に持っている。日本は、国内
経済と人口統計的な課題を補うために、対外投資の資金的利益を押し上げることを必要
としている。その一方、米国――および北アメリカが特筆大書される――は天然ガスの
開発機会にあふれているが、インフラ投資の資本が不足している。
CEESAは、3つの核心的要素を持っている。
1、日本は、NAFTAとのパートナーシップをつくりだす方向で、カナダ、米国とF
TAについて交渉している――その傍ら、メキシコとはすでにFTAを結んでいる。N
AFTA加盟各国とのFTA調印国として日本は、北アメリカのエネルギーへの自由な
アクセスを認められるだろうし、北アメリカのインフラと戦略的な投資機会という利点
を得る有利な地位を持つことになろう。
2、米国は、米日安全保障同盟の一部として、LNGやその他の形態の「戦略エネルギ
ー」の日本への輸出の流れを保証すると約束する。
3、日本は、天然ガス、石油、石炭、風力、太陽光および原子力を含むエネルギーの選
択肢の開発を押し上げるために、今後10年以上にわたって北アメリカで1000~2000億ド
ルを投資すると約束する。

 われわれは、CEESAが現在の貿易政策から離れるのではなく、その発展に合致す
るだろうと信じている。
日本はすでにメキシコとFTAを結び、カナダとのFTA交渉をする意思を表明してき
た。次のステップは、
米国との交渉に向けて仕事をすることである――米国は、日本の最も重要な同盟国であ
り、最大の貿易と投資
のパートナーなのである。カナダ、メキシコおよび米国との各FTAは、日本の経済、
エネルギー、金融的安
全保障を確保するためには、想定しうる他の手段よりも多くのことをなすだろう。3つ
のFTAは、日本の
エネルギー供給を確保するだけでなく、米国、カナダ、メキシコの農産物への自由貿易
のアクセス――安定し
た食糧供給――を日本に与えることになろう。日本の農業人口は急速に減少しつつあり
、人口構成は高齢化し
つつあり、農業者の平均年齢は66歳を超えた。この見地から、日本には農産物貿易政策
の調整を先延ばしす
る余裕はない。FTAへの道に残る農業の障害物は、すべての関係者が、持続できない
保護貿易戦略よりも本
当の経済的および食糧の安全保障という枠組みで考えるなら、容易に乗り越えられる。
韓国が米国とのFTA
交渉を成功させることができるのなら、日本にもできる。
 CEESAに調印することで、日本は先進的な工業化された世界の最も急速に成長す
る部分に基本的に統合
され、TPPに体現された先進諸国と新興経済国との架け橋を築くことを支援し、世界
最大の自由貿易地帯の
創出によってグローバルな経済成長に拍車をかけることになろう。

近隣諸国との関係

<強健な米・日・韓関係>
同盟と、地域の安定および繁栄にとって絶対的に不可欠なのは、強力な米・日・韓の関
係である。アジアに
おける3つの民主主義的同盟国は、共通の価値と戦略的利益を共有している。この基礎
を固めつつ、ワシントンと東京、ソウルは、北朝鮮による核兵器の追求を協力して抑止
する外交的資本をプールし、中国の再興に対応する最適の地域的環境を形成するのに役
立つべきである。
 3カ国すべてが将来の国際的システムのルールを明確にするうえで深い関心を持つ分
野は、原子力である。中国が核大国の間で力を持ってきているので、日本や韓国のよう
な同盟国――両国ともグローバル市場における重要な存在――には、原子力の生産にお
ける適切な安全措置、非拡散の実施、高い基準の透明性の確保が非常に重要になりつつ
ある。政策的不確実さで後退しつつある原子力分野や、経済的不調(主に安い天然ガス
価格による)、および韓国との改定123協定[米韓FTAで混乱した韓国憲法123条(農
漁業保護育成義務)問題?]の不在という米国の軌跡から、東京とソウルがグローバル
な原子力発電の基準を明確にする、より大きな役割を引き受けることは特にタイムリー
である。安全な原子力への日本の再誓約と、韓国のグローバルな原子力供給国としての
最高の透明性の基準と非拡散の誓約は、この体制の将来を確保するのに不可欠となろう

 3カ国協力のもう一つの分野は、海外開発援助(ODA)である。米国は現在、日本
および韓国と戦略的な開発援助協定を結んでいる。3カ国はともに、同様の概念による
展望から開発を考え、各国はグローバルな援助の大きな供与国である。韓国は、無償援
助の世界で最初の純受入れ国だが、純供与国となるべきである。その最大の受入れ国は
今日、アフガニスタンとベトナムであり、両国は米国と日本の双方にとって戦略的に重
要な国である。韓国は現在、世界中で開発と良好なガバナンスのプロジェクトに従事す
る男女で構成される4000人の強化型の平和部隊を持っている。同盟3カ国は、世界中で
戦略的な開発を推進するうえで、それらの国の観方と資金を一つの協働協定にプールす
ることで利益を得るだろう。
 共通の価値と共通の経済的利益に加えて、米国と日本、韓国は、共通の安全保障上の
関心を共有している。集中性のある核心的分野は、3つの民主主義国を自然な同盟に据
え付けている。短期的な差異は、しかしながら、核兵器を追求する北朝鮮を抑止し、中
国の再興を扱うのに最適の地域的環境づくりを推進するために多くを要する3カ国の協
働の進展を困難に[窒息]させている。
 機微な歴史問題に判断を示すのは、米国政府の立場ではない。しかしながら、米国は
緊張を緩和し、同盟国が核心的な国家安全保障上の利益と将来に注意を戻すよう、十分
な外交的努力を行わなければならない。同盟がその潜在的能力を十分に発揮するには、
日本にとっては、韓国との関係を複雑にし続けている歴史問題に向き合うことが不可欠
である。われわれは、このような諸課題の複雑で感情的かつ国内政治的なダイナミズム
を理解しているが、個人の賠償請求訴訟が許されるべきであるという韓国の最高裁の最
近の決定のような政治的行為、あるいは、軍隊慰安婦の碑を建てないよう米国の地方の
公職者に働きかけるという日本政府の行為は、感情に火を注ぎ、韓国と日本の指導者た
ちとそれぞれの公衆を、彼らが共有し行動しなければならない、より広い戦略的優先事
項から引き離し、分裂させるだけである。
 ソウルと東京は、現実政治のレンズを通して2国間の結びつきを再検証すべきである
。歴史的な憎悪は、どちらの国も戦略的に脅かしてはいない。2つの民主主義国は、双
方がその関係において持つ経済的、政治的および安全保障上の資産[equities]がある
のだから、これらの問題で戦争には向かわないだろう。しかしながら、北朝鮮の好戦性
と中国の増大する軍事的強力さや能力、自己主張は、両国に本物の戦略的課題を課して
いる。2010年以来、北朝鮮の核とミサイルの脅威は、「天安」[チョンアン、韓国海軍
の哨戒艇]の撃沈や、延坪島[ヨンピョンド]への砲撃のような、挑発的な通常兵器に
よる軍事行動によって増大させられてきた。金正恩の最近の長距離ミサイル実験と軍部
との権力闘争は、北東アジアからますます平和を奪い取っている。同盟諸国は、深い歴
史的な意見の相違を掘り起こしたり、国内政治の目的のために民族主義的な感情を利用
するという誘惑に抵抗すべきである。3つの同盟国は、歴史問題を扱う非公式のトラッ
ク2[政府間の公式ルート以外の第2ルート]を拡大すべきである。そのようなフォー
ラムが現在はいくつか存在しているが、その参加者たちは、共通の規範や原則および相
互の行動に関する合意文書をつくるために積極的に努力すべきであり、それぞれの政府
にそれらのアイデアを提示すべきである。
 2012年6月の米・日・韓の海軍合同演習への参加は、より大きな現在の脅威に対応す
るために、不和を生じる歴史問題を脇に置くことにおいて、正しい方向への一歩を示し
ている。加えて、北朝鮮に関する諜報情報を東京とソウルに制度的に共有させることに
なる「総合的軍事情報保護協定」(GSOMIA)や、軍事的供給の共有を促進する「
物資役務相互提供協定」(ACSA)のような、保留されている防衛協定の締結への迅
速な動きは、同盟3カ国の安全保障に利益となる実践的で実務レベルの性質の軍事協定
である。

アーミテージ・ナイ レポート2012年8月「CSIS(戦略・国際研究センター)報告書」(2)に続く



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