[TUP-Bulletin:0022] 速報881号 ウィキリークス宣言:情報は民主主義の通貨だ(2)

2011-02-06 19:06:06 | 世界
 [TUP-Bulletin:0022] 速報881号 ウィキリークス宣言:情報は民主主義の通貨だ(1) から続く

<「国境なき帝国」と「国境なき世界市民」>

 米国のペンタゴンや各種諜報機関だけではなく、世界でも悪名高いロシアの秘密警察、イスラエルの秘密警察モサドなど、アサンジはありとあらゆる国家権力を敵に回している。オーストラリア在住の母親や息子にも脅迫が及んでいる。ウィキリークスの他のメンバーにも暗殺の危機が迫っている。さらに、司法分野およびサイバースペースでもウィキリークスに対する苛烈な攻撃が展開している。

 ウィキリークスへの寄付金を扱っていたペイパル、スイスの銀行口座、ビザ(バンク・オフ・アメリカ系列)やマスターカードのクレジット・カード口座などが法律的根拠もなく次々と閉鎖され、国際金融機構と国家権力の連携体制も浮かび上がる。

 一方、弾圧が酷くなればなるほどウィキリークスの人気も高騰するという現象が発生している。政治家の圧力に屈してウィキリークスへのアクセスを遮断したアマゾンとペイパルに対し、ダニエル・エルスバーグは怒りに満ちた公開書簡をつきつけて世界的ボイコットを呼びかけた。サーバーを失い窮地に追い込まれたウィキリークスがツイッターで支援を呼びかけると、世界各地で2000件ものミラーサイトが次々と立ち上がった。この中には、ボリビア政府の公式ウェブサイトも含まれている。さらに、ブラジルの大統領ルラもウィキリークスに連帯を表明した。軍事政権が闊歩するパキスタンの上級裁判所でさえウィキリークスへのアクセス禁止を求める申請を却下し、「真実はなにものにも代えがたい」とウィキリークスの存在価値を擁護する裁定を下した。国連人権高等弁務官のナバネセム・ピレイは「ウィキリークスに対する寄付を阻止する圧力について深く懸念している」と発言した。ノーム・チョムスキーら200名近くの学者やジャーナリストの知識人グループは、オーストラリア首相宛の公開書簡を発表し、オーストラリア市民であるアサンジの身の安全を積極的に守るよう
要請した。

 さらに、元国務長官パウェルの主席補佐官だったラリー・ウィルカーソン元陸軍大佐、元FBI特別捜査官コリーン・ロウリー、元デンマーク軍情報局アナリストのフランク・グレビル、英国政府通信本部(GCHQ)の元職員キャサリン・ガン、元CIAアナリストでレーガン政権当時の大統領諜報説明官レイ・マクガバン、元ウズベキスタン英国大使のクレイグ・マーレイ、そしてダニエル・エルスバーグの7名からなる国際的諜報専門家グループが連名でウィキリークスを支持する声明書を発表した。『アトランティック』、『エコノミスト』、『フォーリン・ポリシー』など硬派の論説雑誌もウィキリークスの活動に多大な支持を表明している。ヒューマン・ライツ・ウォッチはウィキリークスを起訴しないようオバマ大統領宛の公開声明を発表した。

 従来のネーション・ステートという「国家」の定義が通らなくなった今、新たな人類の運命の構図として、軍事企業複合機構が牛耳る「国境なき帝国」とインターネットで瞬時につながる「国境なき世界市民」が対峙している。

<誰がウィキリークスを敵視しているか>

 ウィキリークス登場への懸念や批判を分析すると、「国境なき帝国」の権力構造に対してその組織や人物がどのような立ち位置にあるのか、報道における既得権をどのように認識しているのか、そして民主主義の主権をどのように重んじて(または軽んじて)いるのかが自明になる。ウィキリークスへの素早い連携攻撃を行っている勢力の行動を観察するだけで、多国籍の金融機構や軍事産業複合体が各国の国家権力の利害とどれだけ密接につながっているのか、戦争の悲劇を踏み台にして誰が私腹を肥やしているのか、リアルタイムで浮かび上がる。ウィキリークスが開いたこの「国境を越える言論界」の新しい情報空間のおかげで、これまでは不可視だった支配と抑圧と搾取の構造がわかりやすくなった。同時に、民主主義の実践を目指す世界中の市民勢力には、まず連帯が必要であり、かつ連帯は可能であるという洞察が生まれている。

 ウィキリークスの情報公開活動を激しく糾弾または批判する陣営は、大きく三種類に分類される。

 (1)各国そして各分野の権力者。ペンタゴンをはじめ、イラク・アフガン戦争の利害に手を染めてきた各国の政府や軍隊。環境汚染や金融汚職に関する内部告発情報の公開を恐れる巨大企業や金融機関。「国益」や「機密」の名目を掲げ、ウィキリークスの活動を阻止するためにアサンジの暗殺や逮捕を要求している。

 (2)主流既存メディア。ウィキリークスが報道の「ルール」を侵害していると糾弾し、報道機関として認められないと主張する。権力者情報筋との依存関係で維持されていた報道既得権が危機に晒されるのではないかと憂慮している。

 (3)ウィキリークスから分裂したメンバー。米国という巨大な敵を作ったことでもっと小規模な内部告発情報が無視されていることに抗議して一部ボランティアがウィキリークスの活動から脱退した。

 (1)について、ペンタゴンは「戦略を敵側に知らしめる」としてウィキリークスをアメリカの敵としているが、実際のダメージについては実証されていない。たとえば、「アフガニスタン戦争日記」で明らかになった人名がタリバンの手に渡り、現地の諜報関係者の命が危険に晒されているとする主張は、ペンタゴン自身が正式な声明を出して否定している。

 12月5日にアサンジ弁護団がBBCのインタビューで明らかにしたところによると、スウェーデン政府はブッシュ時代に秘密裏の航空手段を米国に提供し「特例拘置引渡し (extraordinary rendition)」に協力した可能性がある。「特例拘置引渡し」は、米国が誘拐した捕虜をイエメン、サウジアラビアなど人権に関する法律の整っていない国に送り、秘密の拷問を行っているという国際的なスキャンダルだ。この情報の公開を阻止するためにスウェーデンが異例のアサンジ国際指名手配劇に協力しているのではないか、と弁護士たちは示唆する。さらに、2011年1月早々には、米国のある巨大銀行(バンク・オブ・アメリカであろうと予測されている)の膨大な汚職内部告発文書が公開される予定だ。

 (2)2010年4月に公開された米軍ヘリコプターによるイラク市民虐殺ビデオは、この事件が発生した2007年以降、ロイター本部が米軍に要求していたにもかかわらず入手できなかったビデオだ。ウィキリークスの公開能力に信頼を託した米軍内の内部告発者がこのビデオを漏洩し、広く報道されることとなった経緯は、同時に権力監視義務を行使できない既存報道機構の脆弱さを露呈することになった。報道の特権を持ちながら、権力の圧力に屈してせっかく提供された不正告発情報をお蔵入りにする大手新聞社やテレビ局に対する不信は根が深い。

 ウィキリークスの登場で、このような報道の膠着状態を打破する可能性が生まれた。情報の信憑性を計る指針として、情報提供者の身元を知る記者との個人的な信頼関係に依存してきた従来の報道機関とは異なり、ウィキリークスでは文書自体の信憑性のみを重んじ、この信憑性検証基準さえ満たすならば情報公開を行うという約束を掲げている。さらに、システムの構造から情報提供者の身元は誰にもわからない仕組みになっている。ウィキリークスに数多くの内部告発情報が寄せられるようになった由縁でもある。

 「権力の監視」という第四階級の使命を全うするべき報道機関は、近年本来の機能を実践していない。特に、軍事企業(GE、ウェスティングハウス)が多くの報道機関を所有している現在の米国企業メディア体制の下では、この本来のジャーナリズム活動がますます困難になっている。ウィキリークスの報道パートナーである『ニューヨーク・タイムズ』紙でさえ、及び腰な態度が目立つ。ペンタゴン・ペーパーズ」の時にも言及された「1917年スパイ法」の適用を恐れる同紙は、ウィキリークスから「直接」データを受け取ることを避けるために、『ガーディアン』経由のメモリースティックでデータを受け取っている。

 現在の民主主義社会にとっていかに古めかしく陳腐化してしまったとはいえ、「1917年スパイ法」は死刑の実効力がある法律である。これが実際に裁判に持ち込まれて適用された場合には、米国で調査報道を実践することは事実上不可能になり、米国憲法修正第一条が無効になることが危ぶまれる。また、その裁判の過程で米国の歴史に埋もれているもっと深刻な政府の機密情報が暴露される可能性も高く、そもそもこの問題の是非を問うこと自体を避けるべきであるとする司法分野の警告の声も高まっている。

 (3)ウィキリークスを脱退した元メンバーたちは、新しい内部告発サイトを立ち上げた。ウィキリークスが公開しそびれている開発途上国における人権侵害ケースを扱う計画であると発表している。ウィキリークスは、内部告発の仕組みが広がることは報道の信用度を競う推進力となるとして、これを歓迎している。

<ウィキリークスが生み出す調査報道の活性化>

 ダニエル・エルスバーグによる「ペンタゴン・ペーパーズ」漏洩書類を掲載した『ニューヨーク・タイムズ』紙がニクソン政権に訴えられた訴訟で、ヒューゴ・ブラック最高裁判所判事は、「報道の自由」を掲げる憲法修正第一条を擁護して次のような裁定を下した。

――(抜粋)建国の父たちは、憲法修正第一条で、わが国の民主主義に欠かすことのできない役割を担う報道機関がその役割を自由に実践できるようにと、必要な保護を与えたのである。報道機関は統治者のためではなく、統治される側の人々のために存在する。報道機関が政府をいつでも自由に批判できるように、政府権力による報道機関の検閲が全廃された。報道機関が保護されているのは、政府の秘密を暴露し、人々に知らせることを可能にするためである。自由で制限のない報道機関のみこそが政府の欺瞞を有効に暴露することを可能にする。――

 ウィキリークスの出現により、この裁定の効力を問う「報道の自由」の危機と新しい展望が訪れた。

 アサンジは、膨大な生データの公開を「客観的(科学的)ジャーナリズム」と呼んでいる。報道機関による報道の基になった生データを一般読者・視聴者が自分で確認できる仕組みを取り入れたジャーナリズムだ。「権威ある報道機関」が膨大な調査データや観察情報から浮き上がるテーマを絞り、読者や視聴者がその選択肢を従順に受け取るといった従来の「天下り式」報道プロトコルのあり方と対比させている。つまり、新聞記者が主観的な解釈を施して記事を書き、テレビのプロデューサーが特定の意見を持つコメンテーターを選ぶ、またはまったく報道しないことに決める、といった情報取捨選択の既得権を行使する既成報道機関のプロセスに、ウィキリークスは「待った」をかけている。これら報道機関が当然のこととして広告主や政府の圧力を受け入れた解釈をさしはさむ以前のデータを公共ドメインに公開して、より多くの人々に情報の解釈や分析のチャンスを与える、いわばジャーナリズムの「土俵」を広げる役割を果たしている。

 この客観的ジャーナリズムのモデルは企業メディアにとっては門外漢による「下克上」であり、テリトリーを侵害する脅威と映るだろう。一方、「客観的ジャーナリズム」の仕組みは、調査報道の活性化を促す新たな「非常口」を多くのジャーナリストに提供し、受け手側のメディア・リテラシーを強化することにもつながるのではないだろうか。

 実際のところ、ウィキリークスは単に受信データを垂れ流しにしているわけではない。イラクの民間人攻撃ビデオを発表する前に、イラクに検証班を送り込んで事実確認を行った。その後、『ガーディアン』紙が先導となり、ウィキリークスが受け取った生データ群の検証や編集作業を含む大規模な多国籍報道機関による協力体制が生まれた。これらのデータは既存報道機関がこれまで入手できなかったか、または入手を怠ってきた重大な出来事を語るものだ。複数の報道機関に同じデータと解禁日を提供することによって、各組織同士の競争を促し、質の高い調査報道を生み出す結果となっている。この新しい報道体制が提供する優秀なジャーナリストたちの専門知識や「主観的分析」を大いに活用することで、有象無象の生データ群が歴史的文脈の中で意味を持つ組織化された調査報道となり、世界中の世論を動かそうとしている。

 一連の内部告発情報はウィキリークスの匿名システムで受信・転送され、信憑性が検証された文書は「ダメージ最小化作業」と呼ばれる身元情報削除処理やデータベース処理を受ける。伝統的調査報道ノウハウにも依存しながら整理され「公共空間」に公開された生データは、多くの報道機関や研究組織によって統計的分析や事実検証活動の対象となり、ジャーナリストたちの手を経て歴史的な文脈を持つ「ストーリー」が浮かび上がる。

 客観的信憑性が確認されたこれら膨大な情報は、単に一時的に消費される「報道商品」化されるだけでなく、長期的な影響力を放つ法律上の「証拠」としての価値を高めている。現在、ウィキリークスが公開した多くの情報は、アムネスティ・インターナショナルや欧州議会、国際刑事裁判所などによって重大な「証拠」事例として扱われ、米国の戦争犯罪について本格的な公式調査を求める声が高まっている。アサンジは11月5日にジュネーブの国連人権理事会の普遍的定期審査に召喚され証言を行ったばかりだ。

 「イラク戦争ログ」の報道体制で特に注目に値する展開としては、過去7年にわたってイラク現地での戦争による死者数を地道に追跡・記録してきた非営利団体イラク・ボディカウントが裏づけ調査に協力したことだ。これまで記録されていなかった1万5000人以上のイラク市民死亡者の正確な身元と死因が新たに確認されつつある。声なく消えていったイラク市民一人ひとりの断末魔がようやく歴史に記され、世に知られることになった。しかも、これら新しく「発見」された死者数は単に多国籍軍によって記録された数であって、実際の死者数はこれをはるかに上回るものであることが、今回の記録文書の分析から予想されている。

 米軍兵士たちが日々の戦闘の様子を戦場から報告した「アフガニスタン戦争日記」のデータ群公開では、ウィキリークスは『ガーディアン』紙、『シュピーゲル』誌、『ニューヨーク・タイムズ』紙という三大報道機関と事前にデータを共有し、特ダネ記事解禁日を指定して各社の分析能力や調査報道の腕を競わせた。その後多くのボランティアによるデータ処理作業が進み、「アフガニスタン戦争日記」は現在、一般市民にも時系列に沿って容易に閲覧や分析ができるように整理され、グーグルのフュージョンリストにアップロードされている。「イラク戦争ログ」公開では、上記三紙誌に加え、『ル・モンド』紙、アラブ系テレビ局アルジャジーラ、イギリスのチャンネル4、非営利報道組織Bureau of Investigative Journalismなどとさらに大きな共同体制を組み、イラクにおける無差別殺戮や連合軍部隊によるイラク人拘置者拷問を暴露する生データをもとにした、より洗練された調査報道記事が大々的に発表された。ロンドンで行われた記者会見には、ダニエル・エルスバーグもかけつけ、ベトナム戦争時に倫理と良心に従って内部告発を行ったCI
A職員サム・アダムスの功績を記念する由緒ある「高潔なるサム・アダムス賞」がウィキリークス編集長ジュリアン・アサンジに授与される場面に立ち会った。

 ユーチューブやツイッター、ソーシャルネットワークなどが台頭し、より多くの一般市民が情報発信の手段を得ている現在、報道すべき情報か否かの取捨選択をする権限は誰にあるのか。その判断の基準は誰が決めるのか。既存メディアの価値や役割はウィキリークスの出現によって脅かされるのか。大衆とは何も知らない「素人」なのか、それとも民主社会の主権者なのか。インターネットに潜む「国境を越えた言論界」の可能性は、ウィキリークスが提示したアイデアとともに着実に広がっている。

本速報は、TUPウェブサイト上の以下のURIに掲載されています。
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【2011年1月12日 AFP】

英ロンドン(London)の治安判事裁判所は11日、スウェーデン
当局から要請のあった内部告発ウェブサイト「ウィキリークス
(WikiLeaks)」の創設者、ジュリアン・アサンジ(Julian
Assange)容疑者の身柄引渡しについて、2月7日と8日の両日に
審問することを決めた。

アサンジ容疑者はスウェーデンでの性犯罪容疑で逮捕され、現
在保釈中。厳重な警戒態勢がしかれた裁判所前で報道陣の前に
姿を見せたアサンジ容疑者は、米政府の外交公電の公開や、入
手情報の公開を止めることはないと語った。

一方、アサンジ容疑者の弁護団は、同容疑者の身柄がスウェー
デンに引き渡されれば、アサンジ容疑者が米国によってキュー
バのグアンタナモ(Guantanamo)米海軍基地にあるテロ容疑者
収容施設に送られる可能性があるとの見解を発表した。
 さらに、米国の相当な地位にある政治家たちが、間接的にで
はあるが、アサンジ容疑者は死刑に相当するとも受け取れるコ
メントをしており、同容疑者が死刑となる深刻な恐れがあると
付け加えた。

ウィキリークスが米政府の公電を公開したことについて、ジョ
ー・バイデン(Joe Biden)米副大統領はアサンジ容疑者を「
ハイテク・テロリスト」と非難している。(c)AFP/Danny Kemp



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