「批判なき創価学会礼賛」に終始 権力の魅力、現実と妥協を是認/川崎泰資(椙山女学園大学/

2006-06-10 18:22:54 | 社会
民主党の小沢新党首の誕生、千葉の補欠選挙での勝利は小泉政権のレームダック化を顕著なものにし、ポスト小泉の候補者の右往左往ぶりも目立ってきた。こうした中で読売新聞が4月13日からタイミングよく「ポスト小泉の足元」という連載記事を掲載した。内容は自民党を支える足元の支持団体の変容を伝えるもので、12回の連載の内、旧来の自民党支持団体に触れたのはわずか4回で、何と4分の3の8回は創価学会・公明党の紹介であった。選挙のたびに強まる創価学会との融合、事実上、自民党の「生命維持装置」になった学会票の実態を考えれば、これは当然の結果ともいえる。

 ただ問題はその内容である。政治面に連載する政治記事である以上、学会の政教分離の実態、学会と公明党の関係、宗教団体か政治団体か分からなくなっている現状など、創価学会・公明党の変質と無節操な自民党の体質に迫る必要がある。しかしこの連載は創価学会の影響力を礼賛するばかりで、学会・公明党の宣伝記事に終始している。

 旧来の支持団体の崩壊と変質

 ここで取り上げられている支持団体は、日本経団連、日本医師会、神道政治連盟、日本遺族会等であり、集票力とカネの面から支持団体としての組織を分析している。これまでの大票田であった特定郵便局長会や建設関係の団体などには全く触れていない。連載の冒頭はトヨタ自動車で、去年9月の総選挙の勝利の陰に経団連会長でトヨタ会長の奥田碩の積極的な自民党支援があったことを強調しているのが象徴的だ。トヨタの本拠地の愛知県で選挙戦の終盤、トヨタスタジアムにトヨタ副会長の張富士夫が鉢巻き姿で登場して自民党の新人候補の応援演説をし、「トヨタの経営トップが選挙でこんなに露出したことはなかった」と驚かせた。トヨタの影響力で愛知県下の全小選挙区の自民陣営に企業関係者が張りつき、県下の15選挙区の内、当選者が前回の3人から9人に大躍進した。これは奥田経団連会長が政府の経済諮問会議の民間委員になって小泉首相との関係を深め、経団連が「カネと政策」団体から「票」にも踏み込んだ結果である。

 自民党への傾斜を強めた経団連の奥田は、「企業人は政治に主体的に関与しなくてはならない」とさえ説き、奥田会長の後継の御手洗冨士夫キヤノン社長も奥田路線を踏襲するという。しかしキヤノンが外資企業で政治献金を禁止されている企業であり、自民党が政治資金規正法を改正してこの縛りをとくことには触れていない。アメリカ型の市場経済至上主義に走った結果、財界総理の座を外資系企業に渡した政治的意味への警鐘もない。
 長年の自民党支持団体、日本医師会や日本看護連盟には会員の減少と集票力の低下に半ばあいそを尽かし、首相の靖国参拝などを求める神道政治連盟や日本遺族会、軍事恩給連盟なども組織力の低下から自民党への影響力は薄れているという。

 創価学会が自民党最大の支持団体に

 こうした既成の自民党の支持団体に取って代わったのが創価学会であることは、いまや公然たる事実である。自民、公明両党の自公政権というより、むしろ「自公」党と呼ぶほうが相応しいような癒着ぶりが小泉政権になってから顕著だ。公称827方世帯の会員を有し、日本最大といわれる宗教団体になった「創価学会」はいまや町内会、自治会、PTA、老人会などの活動、特にその役員を引き受けることで地域社会に浸透している。

 91年、創価学会が日蓮正宗から破門されて以来、宗教上の理由からタブーであったお祭りや神輿担ぎなどの町内活動に積極的に参加しだし、99年の自自公政権で自民党と組んでからは地域での垣根が低くなったという。それがまた選挙での創価学会の力の発揮に繋がった。小選挙区の自民党候補に票を入れ、「比例は公明」と自民候補に連呼させる異様な戦術が当たり前のことのようになった。その自民党の候補者への推薦は前回選挙では290人のうち239入、なんと82%に達したという。
 創価学会は推薦の基準を「人物本位」といい、推薦しなくとも「自主投票」という暗黙の協力もするという。しかし記事はここまでで、人物本位とは学会のいうことを聞く人にほかならず、自主投票は学会組織の上層部の判断による等のご都合主義に過ぎないことには触れてはいない。上部の指令が学会組織の末端にまで確実に届いて確実な集票能力を発揮することを称賛しているだけで、その裏に潜む非民主的な体制も批判しない。

 ブレーキは壊れ、右傾化へアクセル

 創価学会本部が政策課題や選挙対応を協議するために設けた「中央社会協議会」の代表が98年11月の公明党の再結成以降、政教分離以来、慎んでいた公明党大会に来賓として出席するようになった。同協議会の原田光治議長は「政権の右傾化にブレーキ役を務め、国民の福祉にアクセルを踏む。公明党の政権入りで政治は安定し改革が進んだ」と自賛しているが実態は異なる。婦人部を中心に平和問題や生活に直結する政策に敏感だった公明党が、陸上自衛隊のイラク派兵に賛成し、防衛庁の省への昇格にも賛同し、最近では愛国心問題で強く反対していた教育基本法の改正にまで妥協している。

 驚くことは再三にわたる小泉首相の靖国参拝にも口先だけの反対に止まり、政権離脱を賭けた反対の説得もなく黙認と取られてもしかたのないような対応ぶりだ。この連戦では浜四津敏子公明党代表代行の「政治の世界には一歩前進、二歩前進という面もある。多くの方は公明党が、自民党の歯止め役になっていると理解してくれていると思う」との言葉でお茶を濁すだけだ。この事態は「一歩」前進ではなく後退したことを意味し、自民党の右傾化にブレーキどころかアクセルをふかせて協力しているとしかいいようがない。さらに個人情報保護法に続き、共謀罪の成立にも肩入れし、言論の自由とは全く無縁の行動を示している。これを批判しない記事は公明党の提灯持ちに過ぎない。

 権力の魅力の虜になり、現実と妥協することが政治だと強弁する学会・公明党の幹部の主張を紹介するだけでは、ジヤーナリズムとは到底いえない。

 歴史の改竄、後継世襲に無批判

 いま創価学会は78歳の池田名誉会長の後継問題をめぐって、様々な動きが伝えられている。池田が創価学会の将来を意織した演説を繰り返す一方、53歳の長男の博正が2百数十人いる副会長の中から異例の若さで副理事長に昇格し、55周年を迎えた聖教新聞の各地でのパーティでお披露目に余念がなかった。また三男の尊弘も48歳で副会長であり、池田の妻、香峯子のインタビュー集が出版されるなど、着々とポスト池田の体制づくりが進んでいる。

 早晩、秋谷会長も辞任し池田の息子たちのシンパの若手が会長や理事長などの要職に就き、世襲体制を固めることが予想されている。世襲はしないと再三、明言していた池田発言と食い違う事態の進行に何の批判や疑問を抱かないのは何故なのか。このことと関連して学会では池田を神格化し、偉大さを証明する歴史をつくることに余念がない。日中友好を実現した原動力は池田自身で竹入公明党元委員長ではないと言い張り、言論出版妨害事件で天下に詫び政教分離の公約をしたにもかかわらずその事実を否定するなど、歴史の改鼠、偽造が進んでいる。

 さらに公明党との関係では初代の竹入委員長、二代目の矢野委員長が創価学会に離反したとして、人格を否定するような罵詈雑言を浴びせる異様な事態が進展している。また機関紙、聖教新聞では学会の秋谷会長、青木理事長をはじめ、壮年部長、婦人部長等の幹部が座談会の形式で、竹入、矢野の元委員長や学会の批判者、言論人に常識では考えられない暴言を吐き続ける無残な紙面が続いている。
 こうした宗教団体とは思えない言動や公明党との政教癒着の実態に切り込まない長期連載は、彼らの現状を肯定することに繋がる危険が大きい。

 創価学会・公明党は初心に帰れ

 最近、学会員の芸能人・スポーツ選手のカミングアウトが盛んになった。気が付けば周囲は学会員だらけということになりかねない。その実態を取り上げるのはよいが、それが選挙運動に利用され、政治的影響を生んでいることを指摘しないのは不可解だ。
 戦後、創価学会が民衆の救済をかかげて活動し、初期にはクリーンな政治を目指し政界に新風を送ったことは事実だ。しかし細川政権で権力の中枢に入り曲折を経て自民党と連立政権を組むに至って、学会・公明党は変質した。権力の虜になり、その旨味が忘れられなくなった結果、現実との妥協と称して民衆のための政治という原点を見失ってしまった。

 公明党という政党の名を借りた「宗教団体」が、金権腐敗に売国要素を加えた自民党政治を補強し日本の民主政治の発展を損なっている。民衆の救済、庶民の政治を目指す創価学会・公明党が、新保守主義、市場経済至上主義で国民の格差の拡大を当然だとする小泉政治に加担した責任は重い。自公の選挙協力という名で「比例は公明」など政党政治の破壊につながる亡国の政治に反省を求めなければならない。

 今回の連載企画は、学会・公明党をタブーとして取り上げなくなっているメディアの大勢のなかで、学会の実態の少なくとも半分を提示した意味は評価できる。だが「選挙団体」と化し、政治を歪めている創価学会を正面から批判しない記事は、本質を見失い亡国政治に加担することになりかねない。(文中・一部敬称略)

川崎泰資(かわさき・やすし)椙山女学園大学客員教授。1934年生まれ。東大文学部社会学科卒。NHK政治部、ボン支局長、放送文化研究所主任研究員、甲府放送局長、会長室審議委員、大谷女子短大教授を歴任。著書に『NHKと政治―蝕まれた公共放送』(朝日文庫)など。

フォーラム21から転載


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2 コメント

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久しぶりです (hosokawa mituru)
2006-09-19 20:52:30
ある時から、見ないと思ってましたが、相変わらず お元気そうで懐かしいです。

厄介な問題取り組んでおられる様で、ご苦労様です。私も、今、OKwaveで書き込みしてます。

又、拝見します。

ありがとうございました。
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ぶっちゃけ (黒い噂では)
2006-09-21 12:54:11
地方の利権絡みで、2件程、人を轢いた車か何かの、動かぬ証拠とか自民に握られちゃって、「(如何にも)イカンザキ!」って聞きましたが。
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