今年は19日が中華圏の旧正月「春節(しゅんせつ)」。中国や台湾の人たちにとって大きな連休期間で、海外旅行のチャンスでもある。人民は日本にも押し寄せる。全国の有名観光地を巡り、お土産を「爆買い」というお約束コースが相変わらず人気だが、たっぷり関西だけを楽しむ旅も好まれ始めた。

 午前9時ごろ、大阪・道頓堀の戎橋は片足を上げてバンザイをする中華系の人でにぎわった。お目当ては「グリコ」の看板。同じポーズで記念撮影し、きょうの観光が始まる。

 すぐそばの心斎橋筋商店街に向かう。薬局「コクミンドラッグ」は春節期間中、ふだんより1時間早い午前9時に開店する。来店客は歯磨き粉や目薬、ハンドクリームを大量に買い物かごに入れ、店の通訳約10人が動き回る。社員は「売れ行きは去年の2倍です」と驚く。

 商店街では最近いろんなものが売れる。寝具店「心斎橋西川」では中華系の人たちが高価な今治タオルや日本製パジャマをまとめ買いする。横道敦宏店長(49)は「うちは日本人相手の商売だと思っていたんですが」。子ども服店「BABYDOLL」は、いまや外国人の買い物が売り上げの6割を占める。

 観光スポットも、広がりをみせる。

 京都・西陣織会館の「きものショー」。中華系の立ち見客は、振り袖姿のモデルらを撮影し、ショーの終わりには拍手もする。2月に入ると来館が増え、18日は中華系だけでバス約20台が来た。5万円ほどの西陣織バッグなども売れる。松本里花副館長(50)は「売り上げはいつもの3、4割増し」と話す。

 京都府宇治市日本茶専門店「三星園上林三入本店」では石臼での抹茶づくり体験が好評だ。経営する上林三入さん(59)は「店頭に立って40年以上。いまが一番忙しい」。中国・杭州の工場経営者、何若虚さん(35)は高級抹茶4缶を計1万円で買った。「抹茶は上海の料亭で飲んだことがある。本場でおいしいものを手に入れたかった」

■じっくり滞在型じわり

 何さんは、子どもたちや両親ら7人で来日。「化粧品を買って、おすしをたべたい」という妻(36)の願いを聞き入れ、日本行きを決めた。

 どこを訪ねればいいか、日本で暮らす友人の凌雲翔さん(39)に相談した。提案されたのが、関西だけをたっぷり巡るコース=表=だった。

 凌さんは、大阪府・市などでつくる大阪観光局の中華地区担当。ちょうど関西に絞った観光コースをPRしていきたいと思っていた。「関西は食事、買い物、歴史、景観をコンパクトな移動で楽しめる。今回のコースもモデルのひとつになります」

 これまで、関西空港から来日した観光客は、京都、富士山、箱根をめぐって東京に行き、成田空港から帰国する「ゴールデンルート」をたどることが多かった。だが、長距離の移動で時間や体力を浪費するとして、最近は人気が衰えているという。凌さんは「日本人が日常的に使う場所への関心が高まっている」とみている。

 何度も来日する「リピーター」も増えている。

 台湾から来た葉素珍さん(42)は、関西を訪ねるのが4度目。「東京より関西に日本らしさを感じる」という。今回は和歌山の温泉に泊まっている。化粧品や服など、大阪での買い物ですでに約10万円を使った。「日本製は繊細で質が良いので好き」

■都市間の「観光合戦」激化

 中華系をはじめとした外国人の買い物は、関西経済を潤す。三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、2014年の近畿2府4県での消費額は推計3533億円。年40兆円を超える近畿の個人消費と比べればまだ小さいが、前年より約1割増えている。

 だが、北海道や沖縄の伸び率はもっと大きい。塚田裕昭・主任研究員は「観光に力を入れる地域が増え、外国人を呼ぶ競争が激しくなっている。ただ、関西は商業施設が集まっていて買い物しやすいなどの利点をPRすれば、もっと伸びるはず」という。(田幸香純、内藤尚志)

■たっぷり「関西旅」のコース例

2月17日 【大阪】関西空港から入国

  18日 【京都】宇治で抹茶づくり体験→平等院→伏見稲荷大社→金閣寺→祇園(夕食に会席料理

  19日 【大阪】住吉大社海遊館天神橋筋商店街→大阪城公園(3Dマッピング鑑賞)

  20日 【奈良】寺社めぐり→【大阪】道頓堀(夕食にふぐ料理)

  21日 【大阪】USJ(もしくは【神戸】酒づくり見学)

  22日 【大阪】百貨店で買い物→関西空港から出国

(大阪観光局・凌雲翔さん考案。大阪泊、移動は車)