「在来工法」はなぜ生まれたか-1(改・補)・・・・よく見かける納まり

2007-02-05 08:21:52 | 《在来工法》その呼称の謂れ
 
[4日夜に載せた記事の一部を補いました]

上の写真は、最近の木造軸組工法の住宅の工事現場で見かけた納まりである。
工事中の建物だから、当然「確認申請」をして「確認を得た」建物の現場だ。つまり、現行法令の規定を遵守していると認められた工事。

しかし、私には、きわめて危なっかしく見える。これでは、どんなに「筋かい」などの耐力壁が設けられていようが、いくら金物を添えようが、少しの揺れで(筋かいがあっても建物は揺れる)容易にはずれてしまう、簡単に壊れるように思えるからである。

このような納まりは、私の知るかぎり、かつての建物づくりでは決してあり得ない、やらない納まりだった(どうしてもしなければならない場合でも、もう一工夫ある納まりを考える)。

どうしてこういう納まりが行われるのか、かねがね不思議に思っていたのだが、あるとき、建築教育用の教科書、『構造用教材』(日本建築学会編)を見て合点がいった。
そこにこの写真と同じ納まりの図が、在来工法の架構図として紹介されていたのである(上掲右図のDと表示した箇所)。
教科書なのだから、いい加減なものは載せるわけがない。言ってみれば「推奨できる納まり」ということなのだろう。

図のA、B、C、D、Eも、最近の現場でよく見かける継手や仕口である。

たとえばA。この継手のある半間には角材の「筋かい」が入れてある。もしこの架構に左方向の力が加わるとどうなるか。階下の「筋かい」に押されて横材は持ち上がる。階上の「筋かい」がその動きを押えきれるか?ぶりかえしの動きが加わるとどうなるか?これを繰り返せば、この簡単な継手(「腰掛け蟻継ぎ」のようだ)は、たとえ金物を添えてあっても、容易にはずれてしまうだろう。Bも同様、こっちの方がもっと怖い。

そしてC。この角材二丁合せは、上下をボルト締めにするように教材は示している(この図の左下の詳細図参照)。しかし、いかに強くボルトを締めようが、ボルト孔には逃げがあるから、この二丁合せの材は、先ほどの力が加われば容易に互いがずれてしまう。

第一、なぜ、横材の寸面をこのように頻繁に、しかも極端に(1のものを突然0.5にするなど)変えなければならないのか、それが力学的に合理的だからか、それとも材積の点で経済的だからか?鉄骨造やRCでは絶対にこのようなことはしないだろう。

そしてD。これが写真の納まりを広めた元の図。
Eも一見納まっているように見えるが、それはその柱が「通し柱」のとき(ただし、仕口次第)。この架構図では、階下、階上別の柱、「管柱」としている。つまりDの上に柱を立てているのである(左側の写真は、実はこのような箇所)。

このような架構・工法:通称「在来工法」が、当然のように流通するようになったのは、そんなに古いことではなく、まだ50余年。
 
「在来工法」が隆盛を極める前は、別の工法があたりまえだった。世に「伝統工法」と呼ばれる工法である。
いったい、なぜ、この「伝統工法」が「在来工法」に取り替えられてしまったのか。そこには必然的な理由があったのか、合理的な理由があったのか。

この点について、ここしばらく、いくつかの事例を示しながら触れてみたい。


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5 コメント

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JASS11 (ishiwata goro)
2008-08-07 21:05:07
こんにちは。

大正5年に大蔵省臨時建築部が設計した

煉瓦造建築でのこと。

躯体は煉瓦でも、床組や小屋組は

木造でしたので、つぶさに見て参り

ましたところ、細部の納まりは現行の、

標準仕様書 木工事 JASS11

そのものでした。

官庁建築では、このころには今でいう

在来工法が完成していたようです。
構造の剛化=頭の硬化 (筆者)
2008-08-08 08:15:44
唐招提寺・金堂の修理(明治31年)にあたって、
トラスを組込んだのと同じ考えの延長なのでしょう。
明治24年の濃尾地震の「体験」が、おそらく
学者先生方の頭を「硬化」させたのだと思います。
茶臼? (ARAI)
2009-06-27 17:54:21
お久しぶりです。以前より気になっていたのですが、ちょうど関連する図面http://blog.goo.ne.jp/gooogami/e/05257b17a8877ce16db40233141e1805
が新しい記事になりましたので、お尋ねします。写真左側の納まりは「茶臼」と呼ばれるものを金物で補強したと考えてよいでしょうか。本来ならばやらない納まりだそうですが、どうしてもやるなら「もう一工夫」するとのことですが、どのような工夫をするのでしょう。また、本来やらないのは、通し柱にして三方差をすればよいということでよろしいでしょうか。
 素人の考えですが、十分に太い管柱の上に落とし込むようにして茶臼をするならば、写真ほどに不安はないように思います。かつてはそのような使われ方をしていたのが、形式だけ残ってしまったのでしょうか。
 どこで見たか思い出せないのですが、大工さんたちへのアンケートで、「茶臼を使うか」というアンケートを見た記憶があります。例の実大実験に関係するアンケートだったかもしれません。
 
初めまして (イデアライト建築設計事務所)
2011-12-22 20:26:57
初めまして、下山先生。
このブログの情報量は質、量ともにすごいですね。
私は11年間店舗設計事務所に勤め、退社し、今年京都府南部の和束町(宇治茶の産地です)という所で今年イデアライト建築設計事務所を立ち上げました秋丸隆志と申します。
先生のこのブログを見付け、私がこれまで設計の仕事をしてきた中で感じてきた事や、問題意識を持ってきた事が網羅されており、私に取っては本当に良い教材になっております。
独立し、自身で設計の仕事やって行くにあたり掲げたテーマは「日本の住宅文化の再建とその普及」です。
仕事の案件もあるのですが、まだまだ知識不足で暗中模索中ですが、このテーマを自分の芯に据えて世間と対峙し自分なりの答えを出していきたいと思います。
自身の事ばかり書きましたが先生の文章をこれからも愛読して行きたいと思っております。
末筆となりましたが先生のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。








御礼 (筆者)
2011-12-23 10:19:00
コメント有難うございます。

世の中で「常識化」されているものごとに対する「疑問」から始めたのが、ここまで続きました。
そして、世の中に広く示されず、隠されている「事実」が、思っていた以上にあることも、書くたびにますます分ってきました。

今後もお読みいただければ幸いです。

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