内外の保険会社を親会社に持たない独立系生命保険会社としては74年ぶりに免許を受け2008年から営業を開始したライフネット生命の岩瀬大輔副社長が、ハーバードビジネススクール留学から帰国後ライフネット生命の立ち上げに参加した経緯から免許取得、営業開始から現在(本書では2010年)までを記した本です。
留学中のブログを元にした著書『ハーバードMBA留学記』は以前のエントリでちょっと触れています。
内容は、波乱万丈の起業物語というよりは「やるべきことをきちんとやる」というプロセスの中のドラマという感じです。
これは、生命保険会社の免許取得には金融庁の審査が必要だということや、出口社長の「顧客の役に立つ保険会社を作る」という一貫した姿勢とによるところが大きいと思いますが、ベンチャー企業の立ち上げという点でも「やるべきことをきちんとやる」というのは大事なこポイントのようです。
先日取り上げた 『〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実』にはこんなくだりがあります。
実際、7年以内に新たなビジネスを立ち上げて上手く切り回すに至っている創業者の努力に着目した研究によるなら、典型的な起業家は、そのベンチャーの一年目の終わりまでに27のあり得べきアクティビティ(事業活動)のうちわずか8つに着手しただけであることがわかる。
そして本書で印象的なのは、岩瀬さんが試行錯誤の過程や苦境も含めてそのプロセスを楽しんでいるところ。
簡単にまとめてしまえば、岩瀬さんは錚々たる学歴の優秀な若者であり、常にポジティブに考え、人にも好かれるという絵に描いたような人なので僕のような素直でない人間は「ああそうですか、よかったですね、私には関係ありませんから」と斜に構えてしまいがちなのですが、斜の構えをまっすぐに戻すくらいの「素直な本音ベースのわくわく感」が漂ってくるところが、この人の持ち味なんだと思います。
その分、ちょっと遠慮して書いているところはトーンが違っていて行間にも正直にその雰囲気が漂うところも却って好印象ではあります。
ところでライフネット生命は最近契約数が10万件を超えたようです。(保有契約数10万件突破ありがとう特設サイト参照)
本書中で、出口社長が講演会の際に質問に答えて黒字転換のラインは契約数10~15万件と言っ(てしまっ)たというエピソードが紹介されていますが、その数字をクリアしつつあるということは、事業も軌道に乗りつつあるようです(実際の事業計画はもっとアグレッシブなのかもしれませんが)。
岩瀬氏も本書で、事業をはじめてみて、支援の言葉だけでなく実際に契約してくれる友人・知人のありがたさを痛感したと書いていますが、私自身は当面生命保険を切り替えるニーズはないので申し訳ないのですが、陰ながら応援したいと思います。