人間標本５・６（ウルトラマン第28話）

●「人間標本５・６」昭和42年１月22日放映　三面怪人ダダ登場
　制作第28話　放映第28話　脚本：山田正弘　監督：野長瀬三摩地

　このエピソードは怖くて怖くて‥‥。野長瀬監督の恐怖演出が冴え渡っています。

　まずは開巻直後のサスペンスフルな展開。バス転落事故を調査するキャップとイデ。抑えたトーンの小林昭二さんのナレーションと劇伴が雰囲気を盛り上げます。
サングラスの女（当時は、サングラスは悪役の記号でしたネ）が、事故のあとに怪しい行動を起こすので、後を追うキャップ‥‥。宇宙線研究所のロケには、東レの研究所が使われたそうです。

　病院に駆け込んで来る宇宙線研究所員を演じているのは鈴木泰明さん。この方は『仮面ライダー』ではアナウンサー役で出演されてもいますが、声優でもあるのでアフレコで実は馴染み深いことが、調べてみてわかりました。主な作品は『スーパーロボット レッドバロン』（ナレーション）、『デビルマン』（牧村ミキの父）、『ミクロイドＳ』（美土路博士）、『キカイダー０１』（ザダム）などなど、「あぁ、あの声が！」と驚いています。
彼が病院のベッドから消えるシーンが、子どもの私には衝撃でした。悲鳴が尋常ではなく、緊迫感があります。

　この研究所員の回想で、ダダが神出鬼没に彼を追い回すシーンが怖い！　「振り返るとそこにいる」という描写が、私は苦手で‥‥。ガッツ星人がナツ・アヤコを追うシーンもダメ‥‥。現実でも、いないと思っていた所に振り向いた時に人がいたりすると、異常に驚いてしまいます‥‥(^^ゞ
ダダが現れている間の心臓の鼓動音のような効果音も、緊張感を持たせます。『ウルトラマン』では、バルタン星人、ザラブ星人など、宇宙人が登場するシーンでは何かしらの音がしているのが印象的です。

　ミクロ化された所員の演技は、全く微動だにせず、素晴らしいです。そして、彼らが入っているカプセルの造形物が、机の上の小道具と一致しています。映像ではほんの数秒しか映りませんが、こだわりが感じられるシーンです。
ダダの目的が「人間の標本の採集」であること、また、それが母星からの指令であることもわかります。母星との通信シーンではダダは言葉を発しますが、これは子どもの視聴者向けの字幕スーパーの替わりでしょうか。ここでも『ウルトラマン』の宇宙人が地球の言葉を話さない設定が守られていると考えられます。このシーンのダダ271号の声は、研究所員の鈴木泰明さんです。

　サングラスの女が、中央宇宙原子力研究所のアキカワ技官だということが判明。しかし、バスの転落事故と、ダダが宇宙線研究所を占拠して人間の標本を採集していることの関連が不明です。アキカワ技官が見つける「SOS DADA」の文字をだれが書いたのかの疑問も残ります‥‥。設定と演出が素晴らしいだけに、ストーリーも破綻の無いものだったらより深い味わいがあったことでしょう。

　ダダは上司の「ウルトラマンだ。遊撃せよ。」との指令に、「ウルトラマンを倒します。」なんて言う割りに、「ダメだ‥‥。ウルトラマンは強い！」なんて、すぐに弱音を吐いています‥‥。そしてアキカワ技官とキャップの標本採集に目標を変更。しかし、キャップにも素手でコテンパン‥‥。ダダは特殊能力は持っていますが、戦闘能力は低いようです。キャップに蹴られて振り向いたりした時に、細かく顔をＡ、Ｂ、Ｃに変化させていますが、その意味も今ひとつ不明です‥‥。３体に見せかける利点があまりウマく機能していません‥‥。

　ダダに迫られて研究所の屋上から転落するキャップとアキカワ技官を、間一髪で救ったあとミクロ化機の光線を浴びるウルトラマン。文献によっては「ウルトラマンは人間大になることも可能」と書いてあるものがありますが、私はミクロ化機によって縮小させられたものと考えます。そして、その後は超能力によって元に戻ったと。
この時のウルトラマンのＢタイプスーツがボロボロ‥‥。この28話・29話の野長瀬組を最後に、第30話からＣタイプが登場します。
　そういえば、ウルトラマンと宇宙人が白昼に闘うのは、これが初めてですネ。姿を消しながら飛行して逃げるダダを、ウルトラ眼光で追うウルトラマン。もうダダは逃げるしかありませんでした。


　　●ダダ

　おそらく、本体はこの顔だと思われるＡタイプ。本星の上司もこの顔でした。
　姿を消したり、テレポーテーション、人間に憑依したり、飛行したりする能力があります。攻撃能力は持っていません。身体能力も低いようです。
　名前はシュールレアリスムの「ダダイズム」から。身体の幾何学的な線が印象的です。

　顔を使い分けて、３体いるように見せかける意味が不明。当初は顔が変化する仕掛けが考えられましたが、上手く機能せずに断念されました。映像作品ではカットごとに頭部を付け替えて撮影されました。

　ミクロ化機で地球人の標本を採集することが使命。その標本をどのように利用するつもりだったかは、劇中では明らかにされていません。