ガウスの旅のブログ

学生時代から大の旅行好きで、日本中を旅して回りました。現在は岬と灯台、歴史的町並み等を巡りながら温泉を楽しんでいます。

旅の豆知識「院政期文化」

2019年12月23日 | 旅の豆知識
 平安時代後期に花開いた文化で、院政が開始された11世紀末から鎌倉幕府が成立する12世紀末までの文化です。その特徴は、①民間布教者による浄土教が全国へ広まってきたこと、②地方へ伝播し庶民や武士が担い手となってきたこと、③歴史物語、軍記物語、絵巻物などの展開がみられること、などとされてきました。
 貴族の摂関政治が衰え院政へと向かう転換期で、また武士が台頭してきていて、治安が乱れて戦乱が増え、1156年(保元元)の保元の乱、1159年(平治元)からの平治の乱、そして、源平合戦へと続いていきます。そして、1177年(治承元)の太郎焼亡、1178年(治承2)の次郎焼亡、1181年(養和元)の養和の大飢饉などの天変地異も加わって、社会不安が増大していくことになりました。その中で、阿弥陀仏信仰が民衆の中に広められていき、それと共に、京都、奈良から地方にも普及して、日本各地で阿弥陀堂が建設され、阿弥陀仏が祀られるようになります。
 その代表として、中尊寺金色堂、白水阿弥陀堂、富貴寺大堂などの仏教建築、臼杵磨崖仏、伝乗寺真木大堂仏像、蓮華王院千手観音像、浄瑠璃寺九体阿弥陀如来像などの彫刻、高野山有志八幡講十八箇院『阿弥陀聖衆来迎図』、青蓮院の『不動明王二童子像』などの仏教絵画、厳島神社の『平家納経』、四天王寺の『扇面古写経』なども残されています。また、文学としては、『後拾遺和歌集』、『金葉和歌集』、『詞花和歌集』、『千載和歌集』の勅撰和歌集、『栄花物語』、『大鏡』、『今鏡』、『今昔物語集』などの歴史物語・説話集、『将門記』、『陸奥話記』などの戦記物語が書かれました。その中で、『源氏物語絵巻』、『信貴山縁起絵巻』、『伴大納言絵巻』などの物語性のある絵巻物も製作されています。
 尚、田楽や猿楽なども貴賤を問わず親しまれるようになり、流行歌謡である今様を集めた『梁塵秘抄』が後白河法皇によって編纂されたりしました。

〇院政期文化を巡る旅六題

 旅先で院政期文化の関係地を訪れ、良かった所を6つ、北から順に紹介します。

(1) 平泉<岩手県西磐井郡平泉町>

 中尊寺境内は、1979年(昭和54)に国の特別史跡に指定されていますが、中でも、金色堂は、1124年(天治元)に建立されたもので、奥州藤原氏三代の栄華を象徴し、そのミイラを収め、平安時代を代表する国宝建造物として知られています。鞘堂内の金色の堂宇と仏像はまばゆいばかりで、古代人の阿弥陀信仰が目に浮かぶようでした。また、毛越寺には、平安時代後期の遺構として、浄土庭園が残されており、苑池も橋脚をのこして中島・庭石については旧態をよく示して、学術上の価値が高いので、境内が1952年(昭和27)に国の特別史跡、庭園が1959年(昭和34)に国の特別名勝になっています。それ以外にも、1955年(昭和30)に国の特別史跡となった無量光院跡、1997年(平成9)に国の史跡となった柳之御所・平泉遺跡群などがあって、平安時代後期の史跡めぐりができる稀有の場所でした。また、2011年(平成23)には、「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」として世界遺産(文化遺産)に登録されています。

(2) 白水阿弥陀堂<福島県いわき市>

 この阿弥陀堂は、平安時代後期に建てられたもので、1952年(昭和27)に国宝建造物になりました。また、周囲の浄土庭園と共にすばらしい景観を成していて、境域は1966年(昭和41)に国の史跡に指定されています。復元された平安時代の浄土庭園と国宝阿弥陀堂建築のバランスは絶妙で、当時の雄大な感覚と極楽浄土への思いが伝わってくるようです。特に、紅葉の季節は阿弥陀堂脇のイチョウの大木が真黄色に色づいて、それは見事でした。

(3) 三佛寺投入堂<鳥取県東伯郡三朝町>

 平安時代後期に造られたとみられる奥院の建物(投入堂)は、垂直に切り立った絶壁の窪みに建てられた他に類を見ない建築物で、1952年(昭和27)に国宝に指定されました。この建物に行くのは、高低差200m、全長約700mの険しい登山道(行者道)しかなく、場所によっては鉄の鎖やロープを伝い、時にはむき出しになっている木の根だけを掴みながら登るという想像を絶する悪路です。それだけに、投入堂にたどり着いたときには、感動します。また、三仏寺のある三徳山は国の名勝、史跡に指定されました。宝物殿には、木造蔵王権現立像、木造十一面観音立像などの平安時代の仏像も安置されていて、見学することができます。

(4) 厳島神社<広島県廿日市市>

 平安時代の寝殿造りの粋を極めた建築美で知られる日本屈指の名社です。平家一門の権勢最盛期を象徴する国宝建造物で、平家の栄華の一端を見る思いがしました。有名な、舞楽が始まったのもこの時代からといわれています。廻廊で結ばれた朱塗りの社殿は、潮が満ちてくるとあたかも海に浮かんでいるように見えました。全国に約500社ある厳島神社の総本社で、1996年(平成8)には、ユネスコの世界遺産(文化遺産)にも登録されています。また、ここに収められている『平家納経』は、1164年(長寛2)厳島神社に平清盛が奉納した全32巻の経典で、それに清盛の願文を加えた33巻が完在し、1954年(昭和29)に国宝となりました。それらは、宝物館で見ることができます。

(5) 富貴寺大堂<大分県豊後高田市>

 国東半島の山間部にあり、西日本を代表する平安時代の建造物で、1952年(昭和27)に国宝に指定されています。堂内には、肉眼では見えませんが、赤外線写真でみごとな壁画があることが確認され、1978年(昭和53)に国の重要文化財に指定されました。また、平安時代作の本尊木造阿弥陀如来坐像も国の重要文化財であり、 2013年(平成25)には、富貴寺境内が国の史跡に指定されています。周辺には、多くの石仏が残されており、素朴な中にすばらしさを感じさせるところです。

(6) 臼杵石仏<大分県臼杵市>

 臼杵石仏(磨崖仏)は、大部分の像は平安時代後期の作とされ、ホキ石仏第一群の一部等は鎌倉時代に追刻されたものと推定されています。石仏群は4群に分かれていて、地名により、ホキ石仏第1群(堂ヶ迫石仏)、ホキ石仏第2群、山王山石仏、古園石仏と命名されました。その規模、数量、彫刻の質の高さでは、日本を代表する石仏群なので、1952年(昭和27)に国の特別史跡に指定され、1995年(平成7)には、国宝に指定されています。それぞれに、とてもすばらしい彫刻であり、表情の豊かな仏像群は、見る人々に感動を与えてくれました。

☆院政期文化の主要な文化財一覧

<建築>

・中尊寺金色堂(岩手県西磐井郡平泉町)[国宝]
・白水阿弥陀堂(福島県いわき市)[国宝]
・富貴寺大堂(大分県豊後高田市)現存する九州最古の木造建築物。[国宝]
・往生極楽院(京都市左京区)[国指定重要文化財]
・三仏寺投入堂三仏寺奥院(鳥取県東伯郡三朝町)1108年(天仁元)頃に建造された。[国宝]
・當麻寺本堂(奈良県葛城市)[国宝]
・鶴林寺太子堂(兵庫県加古川市)聖徳太子創建と伝えられる天台宗寺院で、太子堂は当初法華堂として建造。[国宝]
・浄瑠璃寺三重塔(京都府木津川市)[国宝]
・一乗寺三重塔(兵庫県加西市)[国宝]
・宇治上神社本殿(京都府宇治市)流造によって建造されており、平等院の鎮守とされた神社。[国宝]

<庭園>

・毛越寺浄土庭園(岩手県西磐井郡平泉町)[特別史跡・特別名勝]
・白水阿弥陀堂境域浄土庭園(福島県いわき市)[国史跡]

<彫刻>

・中尊寺一字金輪像(岩手県平泉町)[国指定重要文化財]
・臼杵石仏(大分県臼杵市)[国宝]日本の代表的な石仏群。
・伝乗寺真木大堂仏像(大分県豊後高田市)[国指定重要文化財]
・蓮華王院千手観音像(京都市東山区)[国指定重要文化財]
・浄瑠璃寺九体阿弥陀如来像(京都府木津川市)[国宝]現存する唯一の九体仏。
・往生極楽院阿弥陀如来像・両脇侍像(京都市左京区)[国宝]三千院境内にある往生極楽院の本尊。
・円成寺大日如来坐像(奈良県奈良市)[国宝]奈良仏師運慶の現存する最古の作品。
・大倉集古館普賢菩薩騎象像(東京都)[国宝]
・興福寺板彫十二神将立像(奈良県奈良市)[国宝]

<絵画>

・『源氏物語絵巻』[国宝]
・『年中行事絵巻』
・『伴大納言絵詞』[国宝]
・『信貴山縁起絵巻』[国宝]
・『寝覚物語絵巻』大和文華館所蔵[国宝]
・『地獄草紙』東博本、奈良博本、ともに[国宝]
・『餓鬼草紙』京博本、東博本、ともに[国宝]
・『病草紙』京博本=[国宝]ほか
・『辟邪絵』奈良国立博物館所蔵 
・『鳥獣人物戯画』全4巻[国宝]
・『吉備大臣入唐絵巻』アメリカのボストン美術館蔵

<装飾経>

・『平家納経』厳島神社蔵[国宝]
・『紺紙金銀泥一切経(紺紙金銀字交書一切経)』
・『久能寺経』現存最古の一品経(法華経二十八品を一巻毎に書写したもの)。
・『扇面古写経』四天王寺蔵[国宝]

<仏教絵画>

・『孔雀明王像』(東京国立博物館所蔵)
・『不動明王二童子像』(京都市東山区)青蓮院蔵[国宝]
・『孔雀明王像』東京国立博物館蔵[国宝]
・『釈迦金棺出現図』京都国立博物館蔵

<歌謡>

・『梁塵秘抄』後白河法皇編

<歴史物語・説話文学>

・『栄花物語』
・『大鏡』
・『今鏡』
・『今昔物語集』

<軍記物語>

・『将門記』
・『陸奥話記』


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