人類学のススメ

人類学の世界をご紹介します。OCNの「人類学のすすめ」から、サービス終了に伴い2014年11月から移動しました。

世界の人類学者34.ウィリアム・シーヴァ・ラフリン(William Sceva LAUGHLIN)[1919-2001]

2012年02月29日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

William_s_laughlin

ウィリアム・シーヴァ・ラフリン(William Sceva LAUGHLIN)[1919-2001][1987年夏、コネチカット大学のラフリン教授の研究室にて楢崎修一郎が撮影(Photograph taken by Shuichiro NARASAKI at Professor Laughlin's Laboratory of Connecticut University during the summer of  1987):Scanned from Reversal Film]

 ウィリアム・シーヴァ・ラフリンは、1919年8月26日にアメリカのミズーリ州カントンで生まれました。やがて、父親がウィラメット大学の社会学教授として赴任するため、オレゴン州のセーラムに転居します。

 ラフリンは、父親が教鞭をとっていたウィラメット大学に入学します。やがて、ラフリンに生涯の仕事を決定づける運命的な出会いが訪れました。当時、世界的に著名な人類学者、アレシュ・ヘリチカ(Ales HRDLICKA)[1869-1943]が、そのウィラメット大学を訪問したのです。翌年の夏、ラフリンはヘリチカと共にアリューシャン列島の調査に参加しました。この調査が、ラフリンの一生を決めたと言っても過言ではないでしょう。1941年、ラフリンはウィラメット大学を社会学専攻で卒業しました。やがて、ハヴァフォード大学の大学院に進学し、社会学専攻で1942年に卒業します。修士論文は、人種について書いており、すでに、人類学を志していたようです。

 しかし、この時代の研究者の宿命として、第2次世界大戦中は、西海岸で森林火災を守る森林消防パラシュート降下隊員として勤務します。戦後、ハーヴァード大学の大学院に入学し、アーネスト・フートン(Earnest A. HOOTON)[1887-1954]の元で人類学を本格的に勉強することになりました。1943年に亡くなった、ヘリチカの遺志を継ごうと決心したのかもしれません。1949年に、「アリュートの3集団の自然人類学的研究」というテーマで学位論文を完成させています。

 ハーヴァード大学卒業後、1948年から1955年にかけてオレゴン大学で、1955年から1969年にかけてウィスコンシン大学で、1969年から1999年にかけてコネチカット大学で人類学の教鞭をとりました。この間、何度もアリュート、アラスカ、シベリア等を調査しています。ちなみに、ウィスコンシン大学時代には、現アリゾナ州立大学名誉教授のチャールズ・マーブズ(Charles F. MERBS)を育てています。

 ラフリンは、法医人類学にも興味を示しており、多くの鑑定も行っています。その中で、コネチカット大学時代は、骨組織から死亡年齢を推定する方法を発展させた、トンプソン(D. D. Thompson)を育てており、その方法は、実の娘のセーラ・ラフリン(Sara B. LAUGHLIN)も行っています。私は、1987年の夏、コネチカット大学を訪問し、セーラさんからその方法を学びました。写真は、その時に、ラフリン先生を撮影したものです。

 ラフリンが書いた本には、以下のものがあります。

・Laughlin(1981)"Aleuts"[このブログで、翻訳版を紹介済み]

・Laughlin & Harper(1979)"The First Americans"

 ラフリンは、2001年4月6日に、第2の故郷ともいえる、オレゴン州のポートランドで81歳で亡くなりました。まさしく、極北地方の人類学研究に捧げた一生と言えるでしょう。


人類学の本23.極北の海洋民アリュート民族

2012年02月28日 | E1.人類学の本[Anthropology:Japanese

Laughlin1981

ヘンリ訳(1986)『アリュート民族』表紙[Laughlin(1981)]

 この本は、元コネチカット大学の人類学者、ウィリアム・ラフリン(William S. LAUGHLIN)[1919-2001]さんが、自身が調査したアリュート民族について書いたものです。原題は、『Aleuts, Survivors of the Bering Land Bridge』で、放送大学のスチュアート・ヘンリさんによる翻訳で1986年に六興出版から出版されました。アマゾンで検索しましたが、ヒットしませんでしたのでリンクさせていません。

 本書の内容は、以下のように、全10章からなります。

  1. アリュート民族、ウナンガン
  2. 自然環境
  3. 狩猟
  4. 古代集落の生活
  5. アリュート民族の故里、アナングラ島
  6. チャルカ遺跡:四千年前のアリュート民族誌
  7. ミイラの問題
  8. 言語文化
  9. ロシヤ人の到来
  10. 現在のアリュート民族

 本書は、アレシュ・ヘリチカ(Ales HRDLICKA)[1869-1943]との出会いから、極北地方の人類学調査を行ったラフリンさんの集大成で、大変、参考になります。


世界の人類学者33.カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]

2012年02月27日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

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カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981][Coon(1981)"Adventures and Discoveries", p.396より引用]

 カールトン・スティーヴンス・クーンは、1904年6月23日に、アメリカのマサチューセッツ州ウェイクフィールドで生まれました。クーンの祖父、ウィリアム・ルイス・クーン(William Lewis COON)[1840-1912]は、南北戦争にも従軍した退役軍人で、すでに緑内障で失明していましたが幼いクーンにエジプト・中近東・ヨーロッパに行った経験等を話聞かせていたそうです。そのことが影響したのか、クーンは若い時にエジプトに旅行をして、その虜になりました。

 ハーヴァード大学入学当時は、エジプト学を勉強するつもりでしたが、やがて、アーネスト・フートン(Earnest HOOTON)[1887-1954]と出会い、人類学を専攻することにしました。1925年にハーヴァード大学を卒業すると、そのまま大学院に進学します。1928年には、「北アフリカモロッコのベルベル人の研究」で、博士号を取得します。博士号取得後は、そのまま母校に残り教授に昇進しました。

 第2次世界大戦中、クーンはCIAの前身のOSS(戦略事務局)に協力しています。これは、戦場となった北アフリカに関しての知識をクーンが持っていたからだと言われています。ただ、従軍中に、爆弾による頭部負傷による後遺症が残り、後々まで苦しみました。1945年には、少佐として退役しています。

 クーンは、世界中を調査しています。その主な場所は、以下の通りです。

  • 1929年-1930年: アルバニア
  • 1933年-1934年: エチオピア・イエメン
  • 1948年: イラク
  • 1949年: イラン
  • 1951年: イラン
  • 1954年: アフガニスタン
  • 1955年: シリア
  • 1959年: ティエラ・デル・フエゴ
  • 1965年: シエラ・レオーネ

 1948年、クーンはペンシルヴェニア大学の大学博物館に移籍しました。自叙伝には、ハーヴァード大学にそのまま65歳まで教授として勤務することができたのだが、博物館に移籍することで自由に野外研究ができるというのが理由だったようです。1961年、クーンはアメリカ自然人類学会会長に就任します。しかし、やがて、大きな試練が訪れました。1962年に、クーンは『人種の起源(The Origin of Races)』という本を出版します。ところが、この本は世界中で人種差別を助長する本だと批判を受けました。そこで、クーンはアメリカ自然人類学会会長の職を辞することを申し出ましたが、学会に受け入れられず、任期2年満了の1963年までその任を務めました。この本のことが関係したのか、1963年にはペンシルヴェニア大学を辞職します。

 クーンが書いた本として、以下のものが有名です。

  • Coon(1939)"The Races of Europe"
  • Coon(1951)"Caravan"
  • Coon(1954)"The Story of Man"[このブログで紹介済み]
  • Coon(1957)"The Seven Caves"[このブログで紹介済み]
  • Coon(1962)"The Origin of Races"[このブログで紹介済み]
  • Coon(1965)"The Living Races of Man"[このブログで紹介済み]
  • Coon(1971)"The Hunting Peoples"
  • Coon(1980)"A North African Story"
  • Coon(1981)"Adventures and Discoveries"[このブログで紹介済み]
  • Coon(1982)"Racial Adaptations"[このブログで紹介済み]

 クーンは、1981年6月3日、76歳でこの世を去りました。77歳の誕生日まで、後、20日でした。1962年に出版した『人種の起源』で、人生設計が狂わされてしまいましたが、世界中を調査して記録した著書には今では得ることができない情報が満載されています。また、亡くなった年に自叙伝を出版しており、人生の幕引きは鮮やかでした。

*カールトン・スティーヴンス・クーンに関する文献として、以下のものを参考にしました。

・Carleton Stevens COON (1981) "Adventures and Discoveries", Prentice Hall.

・William White HOWELLS(1989) 'Carleton Stevens Coon', "Biographical Memoir", National Academy of Sciences, p.107-p.130.

・Eugene Giles (1997) 'Coon, Carleton S(tevens) (1904-1981)', "History of Physical Anthropology: An Encyclopedia, Vol.1"(Frank Spencer ed.), Garland Publishing, p.294-p.295.


人類学史の洋書18.冒険と発見

2012年02月26日 | H2.人類学史の洋書[Hitory of Anthropo

Coon1981

Coon(1981)"Adventures and Discoveries"表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]が書いた自叙伝です。原題は『Adventures and Discoveries』で、直訳すると「冒険と発見」となるでしょうか。1981年に、Prentice Hallから出版されました。アマゾンで検索しましたが、ヒットしませんでしたのでリンクさせていません。

 本書の内容は、以下のように、全33章からなります。

  1. My Childfood and Early Education
  2. Harvard
  3. With Gordon to Morocco
  4. A Sheldon Fellow
  5. A Hazardous Honeymoon
  6. The Jinns Depart
  7. Winter in the High Atlas
  8. A Riffian in America
  9. To the Mountains of Giants
  10. Farwell Place
  11. The Commander of the Faithful
  12. Suburbia, 1934-1939
  13. The Azores and the High Cave
  14. The Uneasy Calm
  15. OSS and World War II, North Africa
  16. More War, at Home and Abroad
  17. Back to the Cave
  18. Good-bye to Harvard
  19. The Most Highly Paid Water Boy
  20. Life in Philadelphia
  21. Five Persian Caves
  22. Afghanistan and the Syrian Desert
  23. No Gorillas in Russia
  24. Faces of Asia
  25. The Alakalufs
  26. Return to Glouchester
  27. The Origin of Races
  28. Man's Future and Jebel Ighud
  29. A Scientific Discussion
  30. Four Meetings
  31. The Living Races of Man
  32. The Forest and the Desert
  33. The Hunting Peoples

 本書は、クーンが亡くなった年に出版された自叙伝です。タイトルにもあるように、クーンは世界中の遺跡の発掘調査を精力的に行った人類学者として有名です。亡くなった年に、自叙伝を出版したという人生の幕引きが素晴らしいと思いました。


人類進化の洋書55.人種適応(Racial Adaptations)

2012年02月25日 | E6.人類進化の洋書[Human Evolution:F

Coon1982

Racial Adaptations
価格:¥ 3,203(税込)
発売日:1982-11

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]が、現生人類の人種変異について書いたものです。原題は『Racial Adaptation』で、直訳すると「人種適応」となるでしょうか。1982年に、Nelson Hallから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全10章からなります。

  1. Human Adaptations to Climate and to Culture
  2. The Living Races of Man
  3. The Tilt of the Earth and the Power of the Sun
  4. The Color of Skin, Hair, and Eyes
  5. The Sizes, Shapes, and Odors of Bodies
  6. Homo erectus, the Ancestor of Our Races
  7. Erectus Jumps
  8. Sapient Races: Where, When, and Whither?
  9. Brain Size and the Division of Labor
  10. The Beast un Us

 本書は、クーンが死去した翌年に出版されており、まさしく多作だったクーン最後の著書となります。人種に関しての示唆的な内容が含まれており、非常に参考になります。


人類進化の洋書・古典51.現生人類の人種

2012年02月24日 | E7.人類進化の洋書:古典[Human Evolut

Coon1965

Living Races of Man
価格:¥ 440(税込)
発売日:1966-09

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]が、現生人類の人種について書いたものです。原題は『The Living Races of Man』で、直訳すると「現生人類の人種」となるでしょうか。1965年に、Alfred A. Knopfから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全11章からなります。

  1. Races Old and New
  2. Geography, Culture, and Racial Diversity
  3. Europe and West Asia
  4. Africa
  5. East Asia and the Americas
  6. Southeast Asia, Australia, the Pacific Islands, and Madagascar
  7. Greater India
  8. Racial Differences in Adaptive Characters
  9. Race, Blood, and Disease
  10. The Racial History of Man Since 1492
  11. The Future of the Races of Man

 本書は、恐らく、人種について包括的に書かれた最後の本だと思われます。本書には、各地の人々の膨大な写真が掲載されており、現在では見ることができない姿を写真という記録で見ることができる貴重なものです。


人類進化の洋書・古典50.人種の起源

2012年02月23日 | E7.人類進化の洋書:古典[Human Evolut
The Origin of Races. The Origin of Races.
価格:¥ 945(税込)
発売日:1962-06

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]さんが、人類進化について書いたものです。原題は『The Origin of Races』で、直訳すると「人種の起源」となるでしょうか。1962年に、Alfred A. Knopfから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全13章からなります。

  1. The Problem of Racial Origins
  2. Evolution through Environmental Adaptation
  3. Evolution through Social Adaptation
  4. The Order of Primates
  5. Man's Place among the Primates
  6. The Fossil Record: From Lemurs to Swamp Apes
  7. The Earliest Hominids
  8. An Introduction to Fossil Man
  9. Pithecanthropus and the Australoids
  10. Sinanthropus and the Mongoloids
  11. The Caucasoids
  12. Africa
  13. The Dead and the Living

 本書は、クーンが、膨大な化石人類と現生人類とを比較検討しながら、人種の歴史を考察したものです。現代人の起源については、多地域進化説とアフリカ単一起源説とがあり、現在ではアフリカ単一起源説が優勢ですが、クーンの説は典型的な多地域進化説を採用しています。本書が出版されると、クーンは、人種差別主義者だというレッテルをはられ世界中で物議をかもした本です。今や、学史として記念碑的な本となっており、参考になります。

Coon1962

Coon(1962)"The Origin of Races"表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)


人類進化の洋書・古典49.7つの洞窟

2012年02月22日 | E7.人類進化の洋書:古典[Human Evolut
Seven Caves Seven Caves
価格:¥ 189(税込)
発売日:1957-12

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]が、中近東の洞窟遺跡を調査した結果について書いたものです。原題は『The Seven Caves』で、直訳すると「7つの洞窟」となるでしょうか。1957年に、Alfred A. Knopfから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全9章からなります。

  1. Why Some People Dig Caves
  2. Tangier: The High Cave
  3. The Stag-Hunters of Bistun
  4. Belt Cave and the Caspian Shore
  5. Hotu
  6. Kara Kamar: The Black Belly
  7. The White Pass in the Desert
  8. Jerf Ajla: The Heifer's Outwash
  9. The Men in Our Caves

 本書は、クーンが、シリア・イラク・イラン・アフガニスタンの洞窟遺跡を調査した内容が書かれています。この調査隊は、考古学・人類学・動物考古学・植物学・年代測定・地質学・土壌学等、様々な分野の専門家が関わっており、非常に学際的であることが伝わってきます。ちなみに、人類学者としては、後にスミソニアン国立自然史博物館に勤務する、ローレンス・エンジェル(J. Lawrence ANGEL)が隊員として参加しています。タイトルといい、中身といい、なかなか魅力的な本です。

Coon1957

Coon(1957)"The Seven Caves"中表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)


人類進化の洋書・古典48.人類の歴史

2012年02月21日 | E7.人類進化の洋書:古典[Human Evolut

Coon1955

History of Man
価格:¥ 66(税込)
発売日:1967-11

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]さんが、人類進化について書いたものです。原題は『The History of Man』で、直訳すると「人類の歴史」となるでしょうか。1955年に、Jonathan Capeから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全12章からなります。

  1. The Earliest Men
  2. Of Flint, Fire, and Early Society
  3. The Skilled Hunter and Healer
  4. The Tiller and Herdsman
  5. The Cold and the Sea
  6. The Power of the Sun
  7. Wheels, Metal, and Writing
  8. Iron and Empire
  9. Gunpowder
  10. A New World
  11. From Coke to Atom
  12. A Vision of Paradise

 本書は、クーンが1954年に出版した『The Story of Man』(人類の物語)の改訂版となります。


人類進化の洋書・古典47.人類の物語

2012年02月20日 | E7.人類進化の洋書:古典[Human Evolut

Coon1954

Coon(1954)"The Story of Man"中表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)

 この本は、元ペンシルヴェニア大学の人類学者、カールトン・スティーヴンス・クーン(Carleton Stevens COON)[1904-1981]が、人類進化について書いたものです。原題は『The Story of Man』で、直訳すると「人類の物語」となるでしょうか。1954年に、Alfred A. Knopfから出版されました。アマゾンで検索しましたが、ヒットしませんでしたので、リンクさせていません。

 本書の内容は、以下のように、全12章からなります。

  1. The Earliest Man
  2. Of Flint, Fire, and Early Society
  3. The Skilled Hunter and Healer
  4. The Tiller and Herdsman
  5. The Cold and The Sea
  6. The Power of the Sun
  7. Wheels, Metal, and Writing
  8. Iron and Empire
  9. Gunpowder
  10. A New World
  11. From Coke to Atoms
  12. A Vision of Paradise

 本書は、人類進化というよりは、人類史とでも言うべき内容で、当時考えられていた約100万年前から近代までの通史となっています。人類学者が書いた中でも、異例の本です。


世界の人類学者32.シャーウッド・ラーンド・ウォッシュバーン(Sherwood Larned WAS

2012年02月19日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

Washburn

シャーウッド・ラーンド・ウォッシュバーン(Sherwood Larned WASHBURN)[1911-2000](カリフォルニア大学バークレー校のアーカイヴより引用)

 シャーウッド・ラーンド・ウォッシュバーンは、1911年11月26日、アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジにて生まれました。一族のルーツは、メイフラワー号でアメリカに移住した人物に遡るそうです。ウォッシュバーンは、子供の頃から自然史に興味を持っており、高校生時代にはハーヴァード大学の比較動物学博物館でヴォランティアをしていたそうです。

 やがて、ハーヴァード大学に入学して人類学を専攻し、1935年に学部を卒業し、1940年には博士号を取得しました。大学での指導教官は、アーネスト・フートン(Earnest A. HOOTON)[1887-1954]でした。

 ウォッシュバーンに、転機が訪れます。大学院生1年の時、ウォッシュバーンは、ミシガン大学のウィルフリッド・テイラー・デンプスター(Wilfrid Taylor DEMPSTER)[1905-1965]とオックスフォード大学のウィルフリッド・ル・グロ・クラーク(Wilfrid Le Gros Clark)[1895-1971]の元で、解剖学を学ぶ機会を得ました。また、1935年から1936年にかけて、ウォッシュバーンは、東南アジアのタイやマレーシア、南アジアのスリランカで霊長類の野外研究をする機会に恵まれます。この調査隊は、ハーヴァード大学比較動物学博物館の動物学者、ハロルド・ジェファーソン・クーリッジ(Harold Jefferson COOLIDGE)[1904-1985]が隊長を務めていました。クーリッジは、アフリカでゴリラの研究をしたり、ボノボの記載をしたりしており、霊長類に興味を持っていたのです。この調査隊には、霊長類形態学者のアドルフ・ハンス・シュルツ(Adolph Hans SCHULTZ)[1891-1976]や心理学者で後にアメリカの霊長類学の父と称されるようになるクラレンス・レイ・カーペンター(Ckarence Ray CARENTER)[1905-1975]が隊員として参加しており、彼らの知遇を得ることができました。ウォッシュバーンは、毎日のように、テナガザルやその他の霊長類を解剖し、骨化する作業を行っています。この調査は、ウォッシュバーンの将来を決めたと言っても過言ではないでしょう。

 1939年には、コロンビア大学医学部解剖学教室講師に就任します。この頃は、主に、筋肉と骨の関係について研究をしていました。1947年、ウォッシュバーンは、シカゴ大学人類学部に移籍します。翌年の1948年には、アフリカに調査旅行に出かけ、多くの現生霊長類や化石人類の研究を行いました。シカゴ大学時代、ウォッシュバーンは、1951年から1952年にかけてアメリカ人類学会の会長を務めています。アフリカの調査旅行は、1955年と1959年にも行われ、野生ヒヒの行動研究を行いました。

 シカゴ大学時代の教え子には、ジェームズ・ギャヴァン(James A. GAVAN)やクラーク・ハウエル(F. Clark HOWELL)がいます。

 1958年、ウォッシュバーンは、カリフォルニア大学バークレー校人類学部教授に就任し、1979年に引退するまで勤務しました。

 カリフォルニア大学時代の教え子には、アーヴェン・ドヴォア(Irven DeVore)、ポール・サイモンヅ(Paul E. SIMONDS)、ラルフ・ハロウェイ(Ralph HOLLOWAY)、ラッセル・タトル(Russell H. TUTTLE)、アドリエンヌ・ツィルマン(Adroenne L. ZIHLMAN)、アラン・マン(Alan E. MANN)等がおり、後に、人類進化や霊長類研究の分野で第一人者になった学生を指導しました。 

 ウォッシュバーンが書いた本には、以下のようなものがあります。

・Washburn(1961)"Social Life of Early Man"

・Washburn & Moore(1974)"Ape into Human"[このブログで紹介済み]

 ウォッシュバーンは、2000年4月16日、88歳でこの世を去りました。まさしく、幅広い霊長類研究に捧げ多くの弟子を育てた生涯だと言えるでしょう。

*ウォッシュバーンに関する文献として、以下のものを参考にしました。

・Frank Spencer (1997) 'Washburn, Sherwood L. (1911-)', "History of Physical Anthropology: An Encyclopedia, Vol.2"(Frank Spencer ed.), Garland Publishing, p.1104-p.1106.

・F. Clark HOWELL(2003)'Sherwood Larned Washburn', "Biographical Memoirs: National Academy of Sciences " Vol.84: 1-25. 


人類進化の洋書54.類人猿からヒトへ(Ape Into Human)

2012年02月18日 | E6.人類進化の洋書[Human Evolution:F

Washburn1974

Ape into Human: Study of Human Evolution
価格:¥ 1,251(税込)
発売日:1980-09

 この本は、元カリフォルニア大学バークレー校の人類学者、シャーウッド・ラーンド・ウォッシュバーン(Sherwood Larned WASHBURN)[1911-2000]さんと作家のルース・ムーア(Ruth MOORE)[1903-1989]さんが、人類進化について書いたものです。原題は『Ape into Human』で、直訳すると「類人猿からヒトへ」となるでしょうか。第1版は1974年に、第2版は1980年に、Little, Brown and Companyから出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全6章からなります。

  1. Our Beginnings
  2. Huxley Was Right
  3. Tools Makyth Man
  4. Missing Links
  5. Becoming Human
  6. The Thinker

 本書は、人類学の中でも、霊長類学に多大な貢献をしたウォッシュバーンさんが人類進化について書いていますが、やはり、霊長類に関するトピックがたくさん盛り込まれています。


世界の人類学者31.ウィリアム・ホワイト・ハウエルズ(William White HOWELLS)[1908-2005]

2012年02月17日 | H4.世界の人類学者[Anthropologist of

Howells

ハウエルズ1.ウィリアム・ホワイト・ハウエルズ(William White HOWELLS)[1908-2005](ハーヴァード大学のアーカイヴより引用)

 ウィリアム・ホワイト・ハウエルズ(William White HOWELLS)[1908-2005]は、1908年11月27日に、アメリカのニューヨーク市にて生まれました。ハウエルズの祖父は著名な小説家のウィリアム・ディーン・ハウエルズ(William Dean HOWELLS)[1837-1920]、父親は著名な建築家のジョン・ミード・ハウエルズ(John Mead HOWELLS)[1868-1959]という家系です。

 1926年にハーヴァード大学に入学し、アーネスト・フートン(Earnest HOOTON)[1887-1954]の元で人類学を専攻し、1930年に卒業します。1934年には、「ビスマルク諸島の頭蓋骨証拠から示されたメラネシア人」というテーマで博士号を取得しました。卒業後、1934年から1939年にかけて、アメリカ自然史博物館の研究助手となります。これは、アメリカ自然史博物館に、メラネシア出土頭蓋骨12000点が収蔵されていたことが魅力だったと言われています。ハウエルズは、多変量解析を駆使した研究で有名ですが、それは、この頃統計学の専門家、ハロルド・ホテリング(Harold HOTELLING)[1895-1973]との出会いが影響したと言われています。ホテリングは、後に、スタンフォード大学・コロンビア大学・ノースカロライナ大学等で、教鞭をとった統計学者ですが、イギリスの著名な統計学者のロナルド・フィッシャー(Ronald FISHER)[1890-1962]の元で学んでいました。

 やがて、ハウエルズに第1の転機が訪れました。1937年にウィスコンシン大学マディソン校の助教授に就任し、1954年まで在職しました。このウィスコンシン大学時代、ハウエルズは、統計学教室に通い詰め、統計学を教示してもらっています。また、1951年には、アメリカ人類学会の会長に就任しました。その功績から、1992年、アメリカ人類学会は、「ウィリアム・ホワイト・ハウエルズ賞」をもうけています。しかし、第2次世界大戦中の1943年から1945年にかけて、海軍情報部極東部門に徴兵され、研究は中断を余儀なくされました。戦後、1946年に準教授・1948年に教授に昇進しています。

 1954年、ハウエルズに第2の転機が訪れました。恩師のアーネスト・フートンが突然亡くなり、その後任として母校、ハーヴァード大学の教授に就任したのです。1950年代になると、高速コンピューターが普及しだし、ハウエルズは多変量解析を応用し始めます。1974年、ハウエルズはハーヴァード大学を引退しますが、その後も研究を続け、いくつもの論文や本を出版しました。

 ハウエルズは、自分自身の考えを重要視していました。ピルトダウン人も偽物と判明する前に本で指摘したり、最近では多くに受け入れられている現代人の単一起源説も、ハウエルズはずいぶんと前に提唱しています。その単一起源説を、ハウエルズは「ノアの箱船説」と命名しています。その意味で、本質を見抜く力のある人類学者だと言えるでしょう。この2つ共に、当時では受け入れられない意見で、反対を受けても自分の説を信じる信念を貫いた人類学者でした。

 ハウエルズは、多くの本を執筆しています。それは、研究者が一般に啓蒙する重要性を認識していたからだったそうです。恩師のフートンの影響が強かったのかもしれません。また、自然人類学のみならず文化人類学に関する本も執筆しており、最近のアメリカ自然人類学会が偏った研究になっていることを亡くなるまで嘆いていたそうです。

 ハウエルズが書いた本には、以下のものがあります。

  • Howells(1944)"Mankind So Far"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1948)"The Heathens"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1954)"Back of History"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1959)"Mankind in the Making"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1973)"Cranial Variation in Man"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1973)"The Pacific Islanders"
  • Howells(1973)"Evolution of the Genus Homo"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1989)"Skull Shapes and the Map"[このブログで紹介済み]
  • Howells(1993)"Getting Here"
  • Howells(1995)"Who's Who in Skulls"

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ハウエルズ2.ハウエルズ夫妻[左:ウィリアム・ホワイト・ハウエルズ(Left: William White HOWELLS)、右:ミュリエル・ガードン・ハウエルズ(Right: Muriel Gurdon HOWELLS[Muriel Gurdon SEABURY])、1987年9月28日~同年10月3日に、イタリアのトリノで開催された第2会国際古人類学会議にて楢崎修一郎が撮影(Photograph taken by Shuichiro NARASAKI at 2nd International Congress of Human Paleontology held at Tulin, Italy, from September 28 to October 3, 1987):Scanned from Reversal Film]

 私生活では、ミュリエル・ガードン・シーベリー(Muriel Gurdon SEABURY)と大学を卒業後に結婚しています。これは、奥様のお母様が卒業しないと結婚を許可しないということだったようです。奥様は、2002年にお亡くなりになりました。3年後の2005年12月20日、ハウエルズは97歳でこの世を去りました。まさしく、自然人類学の世界に、多変量解析を導入した功労者と言えるでしょう。ちなみに、写真は、1987年9月28日から同年10月3日までイタリアのトリノで開催された、第2回国際古人類学会議に参加されたハウエルズご夫妻を私が撮影したものです。ハウエルズさんは、この時、78歳でした。とても仲むつまじいご夫妻という印象だったのを今でも思い出します。その様子は、写真からも伝わってくるのではないでしょうか。

*ウィリアム・ホワイト・ハウエルズに関する文献として、以下のものを参考にしました。

・Frank Spencer (1997) 'Howells, William White (1908-)', "History of Physical Anthropology: An Encyclopedia, Vol.1"(Frank Spencer ed.), Garland Publishing, p.501-p.502.

・Jonathan Friedlaender・David Pilbeam・Daniel Hrdy・Eugene Giles・Roger Green (2007) 'William White Howells', "Biographical Memoirs: National Academy of Sciences",Vol.87:1-18.

・Henry M. McHenry & Eric Delson (2008) 'Obituary: William White Howells (1908-2005)',"American Journal of Physical Anthropology", 135: 249-251.


人類進化の洋書53.頭蓋骨の形と地図(Skull Shapes and the Map)

2012年02月16日 | E6.人類進化の洋書[Human Evolution:F
Skull Shapes and the Map: Craniometric Analyses in the Dispersion of Modern Homo (Papers of the Peabody Museum of Archaeology and Ethnology) Skull Shapes and the Map: Craniometric Analyses in the Dispersion of Modern Homo (Papers of the Peabody Museum of Archaeology and Ethnology)
価格:¥ 2,405(税込)
発売日:2004-12-01

 この本は、元ハーヴァード大学の人類学者、ウィリアム・ハウエルズ(William HOWELLS)[1908-2005]さんが、頭蓋骨の計測値と現代人の拡散について書いたものです。原題は『Skull Shapes and the Map』で、直訳すると「頭蓋骨の形と地図」となるでしょうか。1989年に、ハーヴァード大学のピーボディ博物館のVol.79として出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全10章からなります。

  1. Introduction
  2. Measurements
  3. Size and Shape
  4. Sorting the Individuals
  5. Analysis by Populations Distances
  6. Q-Mode Analysis
  7. Calibration by Clustering
  8. Discussion
  9. Evidence from Molecular Biology
  10. Conclusions

 本書は、世界各地の現代人(ヨーロッパ・サハラ砂漠以南のアフリカ・オーストラリアとメラネシア・ポリネシア・極東)及び先史人を加えて、頭蓋骨計測値57から多変量解析をした結果が書かれており、大変、参考になります。しかも、本書は、ハウエルズさんが81歳の時に出版された本で、その人類学研究への情熱にうたれます。

Howells1989

Howells(1989)"Skull Shapes and the Map"表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)


人類進化の洋書52.人類の頭蓋骨の変異(Cranial Variation of Man)

2012年02月15日 | E6.人類進化の洋書[Human Evolution:F

Cranial Varia Man (Papers of the Peabody Museum of Archaeology and Ethnology, Harvard University, V. 67.) Cranial Varia Man (Papers of the Peabody Museum of Archaeology and Ethnology, Harvard University, V. 67.)
価格:¥ 1,603(税込)
発売日:1978-06

 この本は、元ハーヴァード大学の人類学者、ウィリアム・ハウエルズ(William HOWELLS)[1908-2005]さんが、世界中の人類の頭蓋骨計測値の変異について書いたものです。原題は『Cranial Variation in Man』で、直訳すると「現代人の頭蓋骨変異」となるでしょうか。1973年に、ハーヴァード大学ピーボディ博物館のVol.67として出版されました。

 本書の内容は、以下のように、全2部

Part I. Design, Materials, and Methods

  1. Introduction
  2. Populations Used
  3. Description of Populations
  4. Measurements and Technique
  5. Preparation of Data

Part II. Multivariate Analysis

  1. Introduction
  2. Multiple Discriminant Functions
  3. Relative Value of the Functions
  4. Differentiation of the Populations
  5. Interpretation
  6. Factor Analysis
  7. Factors and Functions
  8. Summary and Conclusions

 本書は、世界中の現代人及び先史人の頭蓋骨全1927点(男性1004点・女性923点)の計測値から、多変量解析を行った結果が書かれており、大変、参考になります。ハウエルズさんは、1934年にハーヴァード大学で、「ビスマルク諸島出土頭蓋骨から得られたメラネシアの人々」というテーマで学位論文を取得しており、その点で面目躍如となる内容で大変、参考になります。

Howells19732

Howells(1973)"Cranial Variation in Man"表紙(*画像をクリックすると、拡大します。)