”アマルフィ 女神の報酬”
これはフジテレビが開局50周年記念作品として製作、来年7月に全国東宝系で公開予定の映画のタイトルである。
「イタリアを舞台に、かつてないスケールで描かれるサスペンス超大作」(東宝WEB SITEより引用)とのことで、織田裕二、天海祐希、戸田恵梨香、佐藤浩市などが出演するそうだ。
この映画に私の作品が”出演”することになった!
「映画の中で壁に飾る作品を貸りたい。」
私のホームページを見た制作会社の担当者から、突然そのような連絡をもらった。
めったにあることではないので、話のタネにでもなれば…と引き受けることにした。
おそらく登場人物の背後に時折チラリと映る程度だと思う。
貸し出した作品は複数あるが、編集でカットされる可能性もあるとのことで、何点が”出演”するのかは出来上がってみるまで判らない。
エンドロールには私の名前が載るそうである。
こういう機会が今後もあるとは思えないから、正直、公開が楽しみである。
願わくば天海祐希さんの背後に私の作品が…という”ツーショット”でも実現すれば末代までの自慢の種にするところなのだが…。
この映画のことはすでにインターネットで告知されているが、現在製作中なので関連サイトでもまだ詳しい情報は公開されていない。
東宝のホームページでは、トップページから「ラインアップ」をクリックすれば、現在公開中のものから公開予定までの一覧が出る。
→東宝WEB SITE
映画の公式サイトは、まだポスターのようなプロモーション画像(?)しか載っていない。
→「アマルフィ 女神の報酬」公式サイト
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アマルフィとはイタリア・ナポリの南、ソレント半島の南側にある地中海に面したリゾート地のことである。
一般にはアマルフィ海岸という名称が通っているだろう。
私にとってアマルフィは懐かしい地名なのである。
1987年の12月、初の海外旅行であったイタリア旅行で訪れたことがあった。
アマルフィは元々海洋都市国家である。
イタリア屈指の海洋都市として栄えたヴェネツィアやジェノバよりも歴史のある街なのである。
東方世界との海上交易で栄えた歴史を物語るように、ビザンチン様式やイスラム様式などの建築様式が入り混じる特異な街並みとなった。
ドゥオモ(中央教会)のサンタンドレア大聖堂は幾何学的なモザイクで装飾され、オリエンタルな香り漂う街に相応しい佇まいを見せている。
この街に滞在したのはその一度だけ。
リゾート地として有名なソレントでクリスマスイブを過ごした後、曲がりくねった海沿いの道をバスに揺られてやってきた。
アマルフィ周辺は海からいきなり山地が断崖となって突き出しており、平地などほとんどないのである。
さすがの私も車酔いしそうになったほどのワインディングロードの先にアマルフィはあった。
夕暮れ間近、海に突き出た防波堤の突端でスケッチをしていると、サラセンの尖塔のある教会を頂上にした三角形の街なみが、その漆喰壁を次第に淡いピンクに染めていくのが印象的だった。
そして翌年、初めて描いたイタリアの風景がアマルフィだった。
その後はトスカーナやウンブリアで取材を重ねることになり、しだいにアマルフィの情景も記憶の片隅に追いやられていった感があった。
今までたくさんのイタリアの風景を描いてきた私が最初になぜアマルフィを選んだのか。
自分のことながら、今となっては定かではない。
私がモチーフとしているのは、ほとんどがトスカーナとウンブリアの風景である。
アッシジ・トレビ・フィレンツェ・シエナ・サンジミニャーノなどの街や、その周辺の丘陵地帯ばかりだ。
トスカーナやウンブリアに魅了されてきた私には、アマルフィを始めとするナポリ近郊の海辺の風景は特に思い入れの深いものではないはずだった。
それから16年後の2004年。
急に懐かしさに駆られ、個展で久しぶりにアマルフィを描いてみた。
「黄昏近く」 10号 2004年
16年ぶりに改めて向き合ってみると、再びあの時の鮮烈な思い出が蘇って来たものだった。
しかし、なぜ4年前に思い出したかのようにアマルフィを描いたのか…。
そして思いがけず、またしてもアマルフィの記憶が意外な形で呼び戻されることになった。
思わず何か因縁めいたものを感じてしまうのだが、特別何も思い当たることはない。
トスカーナやウンブリアは日頃私から積極的にアプローチしている。
しかし、アマルフィは忘れた頃に向こうからそっと近づいて来る。
そんな不思議な縁…としか言いようがない。
もしかしたら私の前世がアマルフィに関わりのある人物だったとでも言うのだろうか。
私の出身地安曇野は、海洋民族「安曇族」の土地である。
安曇族は古代に北九州からやってきた。
では、北九州に来る前に彼らはどこにいたのか。
そのルーツは未だ歴史の闇の中にある。
私の前世かもしれないアマルフィに関わりのある人物のルーツと、はるばる九州に辿り着いた一団の中にいた人物のルーツが共通だった…。
つい、そんな小説のような夢想が頭をよぎってしまうのである。
アマルフィは小さいが珠玉の街である。
アドリア海の真珠がヴェネツィアならば、アマルフィは地中海の月の雫だろうか。
懐かしい潮風の匂いと黄昏時の記憶の上には、もうずいぶんな月日が堆積してしまった。
-------------- Ichiro Futatsugi.■