自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆再燃「ローカル局の炭焼き小屋論」~下

2020年05月16日 | ⇒メディア時評

   前回述べたBSデジタル放送問題は、キー局側が地上波番組をそのまま同時再送信するような放送を避けて、独自色のある番組を放送することで、系列局側の「炭焼き小屋論」は杞憂に終わった。ところが、コロナ禍と放送とネットの同時配信で、「炭焼き小屋論」が再燃する様相だ。

    県域ローカル局は競争と共創の2チャンネル発想  

    ネット動画に接続できる機能を備えたテレビ受像機は今では普通だ。東京キー局が番組をそのまま全国にネット配信すると、同じ系列局のローカル局にチャンネルを合わさなくても、ダイレクトにキー局の番組を視聴するようになる。また、県によっては民放局が2局、あるいは3局しかないところがあり、他のキー局の番組がネットで配信されると、県域のローカル局を視聴する比率が落ち込むことになりかねない。キー局による、ローカル視聴率のストロー現象が起こりかねない。

   二つめは設備のコストだ。ローカル局が独自に動画配信となると、ローカル局でも数十万件のアクセスを想定した動画サーバーや回線を確保しなけらばならず、ネット配信自体にコストがかかる。キー局や準キー局(大阪、名古屋)ならばコスト負担に耐えられるかもしれないが、ローカル局単体でネット配信の余力はあるだろうか。

   そして著作権の処理の問題もある。日本の著作権処理は細かすぎる。テレビ番組を制作し放送する権利処理と、その番組をネットで配信する権利処理は別建てとなる。ネット配信だとドラマの場合は出演者、原作者、脚本家、テーマ曲の作詞家、作曲家、テーマ曲を歌った歌手、CDを製作した会社、番組内で使用した全ての楽曲の権利者など、全ての権利者の許諾を取らなければならない。番組は「著作権の塊(かたまり)」でもある。スポーツ番組も放送する権利と配信権があるなどややこしい。テレビで流していた番組をネットで同時配信するとなると、ネット分の著作権料が上乗せされる。放送のビジネスモデルは主に視聴率だが、ネット配信のビジネスモデルはアクセス数による広告料でしかなく、収益化は可能だろうか。

   逆転の発想でローカル局(系列局)のチャンスが到来するかもしれない。「炭焼き小屋」を暗いイメージで使ったが、能登半島の尖端に全国から注目されている炭焼き小屋がある。栽培しているクヌギで高品質の茶道用の炭を焼き、全国から注文が殺到している。同様に、地域の魅力があふれる面白い番組は全国から視聴される。北海道テレビのバラエティ番組『水曜どうでしょう』などはローカル発全国の先鞭をつけた番組だった。あるいは、首都圏や関西圏など他エリアに住む出身者に「ふるさと」をアピールできるのではないだろうか。

   コストがかかる送信鉄塔施設などは鉄塔を共用するテレビ局数社がこの際、共同出資で鉄塔を維持保全する会社をつくるとう選択肢もあるだろう。また、自社制作比率が低いローカル局は単独でネット配信をしなくても、同じ県域のローカル局数社が共同で運営する動画配信サービスを始めてもよい。事例として、名古屋の民放局4社が立ち上げた動画配信サービス「Locipo(ロキポ)」=写真=がある。4局がニュースや情報番組などを配信している。このサイトにアクセスすれば、名古屋のリアルな情報を視聴できる。金沢でも民放4局が共同出資でこのような動画配信サービスを日本語と英語で構築できないだろうか。能登、金沢、加賀の県内各地のケーブルテレビ局も巻き込む。「KANAZAWA」チャンネルを売りに観光ツーリズムを誘う。

   ローカル局には「ネット上げ」という言葉がある。キー局が全国ネットワークのニュースとして取り上げてくれるニュースや特集、あるいは番組のことを指す。ロ-カル局が共同で動画配信サービスを構築して「ネット受け」を狙う。ローカル局同士は電波では互いに視聴率の競争をするものの、ネット配信では共創を目指す。ビヨンド・コロナ(コロナ禍を超えて)の「2チャンネル」の発想が必要なのでは
ないだろうか。

⇒16日(土)午前・金沢の天気   くもり時々あめ


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