自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆GIAHS国際会議その後‐3

2013年06月17日 | ⇒トピック往来
  世界農業遺産国際会議の終了後、「能登の里山里海」のGIAHSサイトの関係者が気にかけているのは「能登コミュニケ」(英文和文)の今後の実行のことだろう。コミュニケでは次の5の勧告がなされた。

       能登コミュニケの「モニタリング」「ツイニング」をどう実行していくか

1)GIAHS認定サイトでは、定期的なモニタリングが行われ、その活力が維持されるべきである。
2)農業遺産の保全や、世界の食料安全保障および経済発展への貢献を促進するため、さらにGIAHSサイトを漸進的に認定すること。
3)特に開発途上国において、現場での事業および取組を促進することにより、GIAHSを動的に保全すること。
4)既存のGIAHSは、開発途上国におけるGIAHS候補地が認定されるよう支援すること。
5)先進国と開発途上国の間のGIAHSサイトの結びつきを促進すること。

  2項目から4項目はひと括りにして、「世界の食料安全保障および経済発展への貢献を促進するために、積極的に世界農業遺産に認定していくこと」と理解してよい。問題は、1項目と5項目だ。「モニタリングと活力の維持」をどう測り(指標化)、そして「結びつき(twinning)」を見えやすくするか(可視化)。

  個人的な解釈だが、1項目の「定期的なモニタリングを行い、その活力を維持」には2つの意味がある。一つは、たとえば国内の5サイトが連携・協力して、国内外での知名度を高め、農作物のブランド化やツーリズムを推し進めれば、地域の活性化や次世代への継承に向けた確かな道筋ができる。つまり、前向きな指標となる。二つ目に、たとえばTPP(環太平洋連携協定)が意識され、農地の集約などによる効率化やコスト競争力などの農業の体質強化が重視される余りに、GIAHS認定地でも、その理念である農文化や生物多様性の維持がおろそかになる恐れがある。とくに里山のような中山間地の棚田では耕作放棄地も進んでいる。そうした地域では同時に、洪水の防止や景観保全といった農業や農地が持つ多面的な機能が失われつつある。そこで、農地の変化や生物多様性、地域の生態系サービス、農業文化(収穫の祭りの開催など)、地域住民の意識などをモニタリングする。これらが、現実を見る指標となる。この前向きと現実の指標を定点観測しながら政策提言やビジネスチャンスを創り出していければ、との期待である。

  5項目に関しては事例がある。昨年1月、能登と佐渡のGIAHSサイトの関係者たちがフィリピン・ルソン島のGIAHSサイトであり世界遺産でもある「イフガオの棚田」を訪れ、交流と同時にワークショプ(金沢大学、フィリピン大学など共催)を開催して情報の共有をはかっている。若者の農業離れによる耕作放棄地の増加などはそれぞれ共通の課題であることが認識された。今度GIAHSサイトの若者のモチベーションをどのように高めていくかなど、人材養成のあり方を含めて検討に入っている。

※写真は、2012年1月、フィリピンの世界遺産・世界農業遺産「イフガオの棚田」を訪れた、左から高野宏一郎佐渡市長、中村浩二金沢大学教授、メリー・ジェーン氏(FAOのGIAHS担当)。先進国と途上国のGIAHSサイト同士の交流が期待されている=バナウエイ

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★GIAHS国際会議その後‐2

2013年06月13日 | ⇒トピック往来

   世界農業遺産国際会議(5月29日-6月1日)を終えた6月8日、金沢大学も関わっている能登の地域塾「ふるさと未来塾」で世界農業遺産(GIAHS)と能登のかかわりについて講義する機会があった。2011年6月、北京で開催されたGIAHS国際フォーラムで「能登の里山里海」と「トキと共生する佐渡の里山」が認定を受けた。講義では、あれから2年能登にはどのような変化起きたのか、社会人塾生たちと考えた。

     クーハフカン氏が「幸せな農家だ」と称賛した能登の青年のこと

   講義の流れは大まかに、1.能登における金沢大学の人材養成の取り組みとGIAHSについて、2.SatoyamaとNotoは国際的に通用する言葉、3.能登のどこが「国際評価」を受けているのか、4.「GIAHSの農業」で変わり始めた能登の人々、5.「能登コミュニケ」で読む、能登の未来可能性・・・の5ポイント。講義でとくに強調したのは、人材養成の取り組みである。

   2010年6月4日、GIAHS事務局長のパルヴィス・クーハフカン氏(当時、FAO天然資源管理・環境局 土地・水資源部長)が能登を候補地視察に訪れた。先導役は当時国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長のあん・まくどなるど氏、ほか同大学サステイナビリティと平和研究所や同大学高等研究所のメンバー含め一行は10人ほどだった。農林水産省の審議官も同行予定だったが、同日は間に合わなかった。一行はこの日、能登空港から輪島市に入り、同市の千枚田、珠洲市にある金沢大学能登学舎、輪島市の金蔵集落(朝日新聞「にほんの里100選」)、能登町の農家民宿群「春蘭の里」を巡り、七尾市和倉温泉で宿泊した。

   私はコースのうち、金沢大学能登学舎と金蔵集落を案内した。能登学舎では、金沢大学が廃校だった小学校施設を借り受け、地域の社会人に学びの場を提供する「能登里山マイスター養成プログラム」(現在の名称は「能登里山里海マイスター育成プログラ」)を実施している。プログラムの概要は小路晋作特任助教が説明した。

   2007年10月スタートした人材養成プログラムでは、人材像として、3つのタイプ(農林漁業人材・ビジネス人材・地域リーダー人材)のセンスを兼ね備えた人材の育成を想定。人材を養成するため、受講生には「地域づくり支援講座」「自然共生型能登再生論」「ニューアグリビジネス創出論」での講義を通じて、地域づくり、起業のノウハウ、一次産業の仕組みや販売システムに関する知識を習得させるとともに、「新農法特論」「里山マイスター演・実習」等で環境・生物調査や栽培実習を実践し、当該技術や基本知識を習得。さらに卒業課題演習と卒業論文作成を通じ、実際の地域課題の解決、あるいは就農・起業へつながる取り組みを実践。単位換算で54単位(2年間)に相当する。単なる社会人の教養講座と異なる点は、卒業論文を課して、その発表を審査する点だろう。5年間で62人が修了し、うち52人が能登地区に定着して活動を広げている。

   修了生の何人かを紹介すると。農林漁業人材では、水産加工会社社員(男性)が同社の新規農業参入(耕作面積26㌶)の中心的役割を果たし、耕作放棄地を減少させている。製炭業職人(男性)は高付加価値の茶道用の高級炭の産地化に向けて、地域住民らともに荒廃した山地に広葉樹の植林運動を毎年実施している。また農業関連企業社員(男性)は、自治体職員(女性)、NPO職員(女性)らと連携して地元住民らと「奥能登棚田ネットワーク協議会」を設立し、棚田米のブランド化や都市農村交流事業に取り組んでいる。ビジネス人材では、花卉小売店社員(男性)が農協職員(男性)と連携し、神棚に供える能登産サカキを金沢市場に出荷している。リーダー人材では、デザイナー(女性)が集落の伝統的知恵や自然について学ぶ「まるやま組」という企画を毎月実施し、地元住民と大学研究者や都市住民らを結び付ける役割を果たしている。

   クーハフカン氏が能登学舎でこの里山マイスター養成プログラムの説明を受けて、身を乗り出したのは、受講生たちが環境配慮の水稲栽培を実施する中で採取した昆虫標本とその分類データだった。クーハフカン氏は社会人の人材養成プログラムに昆虫標本の作製まで取り入れるプログラムを高く評価し、「能登の生物多様性と農業の取り組みはとても先進的だ」と標本に見入った=写真=。クーハフカン氏自身、フランス・モンペリエ第二大学で陸域生態学のドクターを取得しており、生物多様性と農業には詳しく、FAOの世界農業遺産の認定基準(1.食料と生計の保障、2.生物多様性と生態系機能、3.知識システムと適応技術、4.文化、価値観、社会組織、5.優れた景観と土地・水資源の管理の特徴など)にも盛り込んでいる。能登には、大学が関与する生物多様性に配慮した農業人材の養成システムがすでにあることがクーハフカン氏の脳裏に刻まれ、その後に能登GIAHS認定の大きなポイントとなったに違いない。

   事実、北京での国際フォーラムでは、能登里山マイスター養成プログラムの研究代表、中村浩二金沢大学教授がクーハフカン氏から依頼され、「Satoyamaand SatoumiInitiatives for Conservation of Biodiversity and Reactivation of Rural Areas in NotoPeninsula: Kanazawa University's role in GIAHS」と題して、「Noto Satoyama Meister Training Program」の取り組み紹介した。生物多様性に配慮した農業人材の養成システムがすでにあることのインパクトは想像に難くない。その後、中村教授はGIAHSの科学委員に指名された。そして、今回の能登での国際フォーラムでも「Human Capacity Building in GIAHS sites: Role of Universities in the Revitalization and Sustainable Development of Satoyama and Satoumi」と題して、GIAHSサイトでは持続可能な里山里海の利用において人材養成は欠かせないと強調した。

   感動的な場面がことし2月20日、能登であった。金沢大学の「マイスター養成」プログラムを修了し、活動を広げている若手の農業者ら6人とフクーハフカン氏の「直接対話」を中村教授がセットしたのである。その6人のうちの1人、無農薬・無肥料の自然農法で水稲栽培をしている33歳の青年のスピーチを聞いた後、クーハフカン氏はこのように質問した。

Dr. Koohafkan: Congratulations. Did the land that you have used was your own land or did you rent, borrow, or buy it? Do you think a family could live happily? I see you are a very happy farmer and do you think that many others would be able to live like you in the area that you are working? (クーハフカン:素晴らしいですね。賛辞を贈らせていただきたいと思います。今お使いの土地はもともと所有されていた土地ですか。それとも借りたり購入したりしたのでしょうか。また、家族が幸せに暮らすことができると思われますか。あなたは非常に幸せな農家だとお見受けしますが、今お仕事をされている地域で、他にも多くの人が同じように暮らしていけると思われますか。)

Mr. Arai: I am using all of the rice paddies free of charge. A lot of things are happening in my life, but I am living happily.
Urban consumers do not like pesticides. Abandoned agricultural land is on the increase in the Noto, but it means that Noto is an environment where organic rice can be cultivated. I feel that people living in cities would find farming in Noto interesting if the number of people who come to Noto from cities for inspection and other purposes continues to increase even by one or two. (田んぼは全部、ただで借りています。いろいろありますが、幸せに暮らしています(笑)。都会の消費者の方は農薬が嫌いです。能登は耕作放棄地が増えていますが、逆に考えると、無農薬米が作れる環境にあるということです。就農希望の都会の人が視察に来るので、その中から1~2 人ずつ仲間が増えていけば、さらに能登の農業は面白いと都会の人が思ってくれると感じています。)

   埼玉県出身の青年はこれまで就農と移住の相談を国、県、14の市町村にしたが、「稲作だけで農業は無理」と断られ、最終的に輪島市役所だけが受け入れてくれた。2008年に移住し耕作放棄地だった田んぼを無償で借り受け、いまは4㌶に拡大している。無農薬・無肥料の自らの田んぼで生き物調査をして、生き物は84種、植物は311種を確認している。それをホームページを使って情報発信し、共感してくれた全国の支援者が田んぼを訪れている。生物多様性と農業について考え、果敢に取り組む青年に、クーハフカン氏は「あなたは非常に幸せな農家だ」とエールを送ったのである。

※下の写真は、積雪の中、「田の神」に感謝する農耕儀礼「あえのこと」を執り行う青年。それを仲間たちが見守った=2012年12月9日・輪島市三井町で

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☆GIAHS国際会議その後‐1

2013年06月12日 | ⇒トピック往来
世界農業遺産国際会議(5月29日-6月1日)を終えてから10日余り、これまで2度、世界農業遺産(GIAHS)に関して講義をする機会に恵まれた。きょう12日午後、アメリカのプリンストン大学の学生らが石川県に滞在して日本語と日本の文化について学ぶ「PII(Princeton in Ishikawa)」プログラムの講義があった。学生はプリンストン大やハーバード大など16大学の50人、それに金沢大学の学生65人が加わり、大教室での講義となった=写真=。

      世界農業遺産、アメリカの学生からの質問

 講義(90分)のテーマは「Noto’s Satoyama Satoumi ~Omnibus consideration ~」。言葉は日本語で、文字表記と資料は英語、あるいは英語と日本語の両表記にした。歴史や文化、そして現代まで遡って講義をするとなると、いくら日本語研修とはいえ、学生たちには理解できなだろうと思い、そのようにせてもらった。講義は次のような流れで話した。

 2011年6月、能登の里山里海は国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産(GIAHS=世界重要農業資産システム)に認定された。持続可能な、未来へと続く、里山里海での人々の生き方が高く評価されたからだ。自然と調和することの意味は、たとえば生物多様性に配慮して農業や漁業を営むことだ。そして伝統文化では、自然からの恵みに感謝する儀式がある、と前置きして、輪島の海女漁、ユネスコの無形文化遺産に登録された農耕儀礼「あえのこと」、そして、生物多様性条約事務局長、アフメド・ジョグラフ氏が2008年9月に能登を視察に訪れたときのエピドーソを紹介した。

 能登の祭りのルーツともいわれるユネスコ無形文化遺産「あえのこと」は目の不自由な「田の神様」を丁寧にもてなす農耕儀礼である。これは視覚障がい者にどのように手を差しのべればよりよい「もてなし」が可能か、家々の人が自らのイメジネーションを膨らませて考えるエアー・パフォーマンスである。その精神はユニバーサル・サービスでもある。こうした「もてなし」の風土や精神は「能登はやさしや土までも」といわれる能登の風土をつくった。そのもてなしはアニュアル化されたものではなく、ホスピタリティ(癒し)である。

 ジョグラフ氏は自らカメラを構えて、能登の風景を撮影し、土地の人々の話に耳を傾け、「自然と人、農業、文化、宗教が共生していることに感動した」「そこには人々の努力があることを実感した」と感想を述べたことを話した。こうした、能登の農村漁村の自然と調和し恵みに感謝する精神性、農耕儀礼などの伝統文化、そして2000年続いた農業漁業には、その営みを持続可能にする人々の伝統知や知恵があり、それをベースに地域社会を弛まず保全していけば、未来への可能性が広がる。それをGIAHSでは「Dynamic Conservation(動的保全)」と呼んでいる。

 学生からは以下の質問があった。「GIAHSという言葉はアメリカでは聞いたこともない」。この質問には以下のように答えた。GIAHSはFAO(国連食糧農業機関)が提唱しているアジア、アフリカ、そして中南米のムーブメントで現在25ヵ所の認定サイトがある。200の候補地があるとFAOでは説明している。2011年に日本のサイト(能登と佐渡)が先進国として初めて認定された。FAOの候補地にはスペインのエべリコ豚やイタリアのソレント半島のレモン園、アメリカのカリフォルニアのパナ・バレーの有機ワインも入っている。いずれ、このムーブメントは欧米にも広がる。単なる農業というより、文明というものを示唆するムーブメントである。

 もう一つ。「日本も交渉に参加するTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)では、能登の農林漁業にどのような影響が考えられるのか」。この質問には以下のように返答した。GIAHSサイトの農業のほとんどは小農、家族経営であり、その意味では生産効率の高いアメリカやオーストラリアの大規模農業とは農業形態がまったく異なる。しかし、GIAHSでは価格競争力ではなく、付加価値の高いブランド農産品を目指していて、たとえば能登の稲作では「能登米」「能登棚田米」としてブランド化を図っている。TPPのような農産品のグローバル取引の到来がむしろ世界農業遺産(GIAHS)の評価を押し上げていくのではないだろうか。

 後で聞いた話だが、2人目の鋭い質問をした男子学生はハーバード大学からの研修生だった。

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★GIAHS国際会議の価値‐4

2013年06月02日 | ⇒トピック往来
  世界農業遺産国際会議の2日目の5月30日午前、政府代表者らがGIAHSの活用法をテーマに「ハイレベルセッション」=写真・上=が開かれた。その中で、農林水産省の角田豊審議官が注目すべきことをいくつか述べた。一つは、「日本独自の認定基準づくりを検討する」と述べたことだ。

          日本独自の「農業遺産」創設に期待、中国は先行

  FAOのGIAHS認定の基準(食料と生計の保障、生物多様性と生態系機能、知識システムと適応技術など)があるが、それぞれの国で農林水産漁業の事情は異なる。日本の場合、稲作だけでなく、ため池や森林利用などもあり、さらに祭りなどの文化もあり農業の多様性は豊か。日本の村落の農業そのものが世界農業遺産と称してよいくらいだ。おそらく公募すれば、全国から手が上がるだろう。そこで、国内農業の特長や文化、生物多様性の取り組みなどを明確化するために基準が必要となる。もちろん、「世界農業遺産」の考えを広めることにもなる。つまり「日本農業遺産」創設という展開になるのかどうか、期待したいところだ。

  実は、この取り組みでは中国は先行している。独自にNIAHS(National Important Agricultural Heritage Systems)を創設して、特徴ある農業をピックアップして、GIAHSに推薦している。これまでのハニ族の棚田、アオハンの乾燥地農業、トン族の稲作・養魚・養鴨、プーアルの伝統的茶農業、青田県の水田養魚、万年の伝統稲作、それに今回、会稽山の古代中国のトレヤ(カヤの木)、宣化のブドウ栽培の都市農業を新たに加え、8サイトにかさ上げした。中国農業省と中国科学院がタッグを組んで、システマチックにFAOに申請しているのだ。

  もう一つ、角田審議官のコメントで、今年度からFAOに対し信託基金を拠出する方針を明らかにした。使途を「GIAHS推進」に限定し、その額を3000万円程度と述べた。日本政府として、GIAHSに関与していくことを国際会議の場で発表した、ともいえる。

  日本がGIAHSの普及に関与するは実にタイムリーだ。とうのも、5サイトがある日本ですら「GIAHS」「世界農業遺産」といっても、ほとんど知られていないだろう。世界でも欧米での認定サイトはこれからだ。「日本農業遺産」の創設と併せて、個々のサイトのブランド(名品)ではなくトレンド(流れ)をつくる必要が、国内的にも国際的にもあるだろう。

  日本のサイト(GIAHS登録地)、特に能登は中国など他国と比べて、高齢化や過疎化が進行している。それの伝統的な農業、GIAHSを未来に伝えていくためには地域の努力では限界がある。新しい参入者、顔ぶれが必要だ。そのためには、都市からの移住者、CSRに熱心な企業やNPO法人、サポーター(都市住民)など多様な支援を得なければ、GIAHSのベースとなる農林漁業は守れないだろう。

  世界農業遺産(GIAHS)が歩んでいる道は一つだ。地域に根ざした高品質の農産物を多種にわたって育て、高い付加価値をつけて市場に出すことだ。徹底的に企業化して、低コストの農産品を市場に出して海外の産品とわたり合うことではない。そうなれば、地域性や伝統文化、生物多様性が失われることは自明の理だ。GIAHSの理念をアピールして、新しい参入者の心を引き、賛同を得ることだ。そのチャンスがようやくめぐってきた。今回の国際会議ではそれを国際公約とした確認したのだ(能登コミュニケ)。

  同日午後の全体セッション。テーマは「GIAHSの未来に向けて」。GIAHS基金代表のパルヴィス・クーハフカン氏は、2013年にGIAHSの枠組みを伝える「大使」を養成する考えを打ち上げた。クーハフカン氏から「大使」の言葉を聞くのは2度目だった。ことし2月20日、能登半島・珠洲市で国際GIAHSセミナー(主催:能登キャンパス構想推進協議会)を開催し、クーハフカン氏を招いて能登の若手農業者と対話集会を開いた。その折、最後のコメントでこう述べた。「皆さん一人ひとりお願いがあります。どこへ行こうとも、里山やGIAHSの大使になっていただきたい。GIAHSの概念的な枠組みを自分の環境に持ち込み、ビジネスに適用してください。もちろん政治家、政策決定者の皆さんも、子供たちや若い世代が、このような持続可能な暮らしや持続可能な発展の枠組みについて実際に考えるよう促してください」と。このとき、私は「大使」より「伝道者」の方が意味的に近いと思ったが、宗教と間違えられて困るので、国際的には「GIAHS大使」、これでよいのかもしれない。

※写真(下)は、5月30日、世界農業遺産国際会議のレセプションで、能登の「里山マイスター」ら若手の農業者と、パルヴィス・クーハフカン氏が再会しての記念撮影。このなから「能登のGIAHS大使」が生まれるかもしれない。

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☆GIAHS国際会議の価値-3

2013年06月01日 | ⇒トピック往来
  今回の世界農業遺産国際会議の価値というのはどこのあるのだろうか。一つは、31日の閉会式で挨拶した国連食糧農業機関(FAO)のクレイトン・カンパンホーラ土地・水資源部長が評価したように、世界11ヵ国19あるGIAHSサイトで、今回初めて国際会議が開催されたことだろう。これまで3回の国際会議は、2007年がローマ、09年がブエノスアイレス、11年が北京だった。

      能登コミュニケから読み解く、日本にかかる期待

  このことは、GIAHSサイトが有する「交流価値」を広げたことになるだろう。もちろん、能登で開催できたのは、農林水産省や石川県などが予算的、人的にバックアップしてのことだが、他国のGIAHSサイトでは伝統的な村落の集合体のようなところであり、国際会議を開催しようにも施設の収容力などの点で難しいだろう。ところが今回、首都に出向くのではなく、サイトで集まるという状況が能登で設定できたのである。採択されたコミュニケではそのことが盛り込まれた。「日本の石川県能登地域で開催された今回の世界農業遺産国際会議は、先進国での、またGIAHS認定サイトでの開催となった初の世界農業遺産国際会議であることに留意する(原文:Note further that the this Forum held in Noto region, Ishikawa Prefecture, 」apan, is the first GlAHS international Forum to take place at a GIAHS designated site in a developed country)」。さらに、この交流価値を結びつきの場として活かすべきだと、以下の勧告がなされた。「先進国と発展途上国の間のGIAHSサイトの結びつきを促進すること(原文:Promote the twinning of GIAHS sites between developed and developing countries)」

  カンパンホーラ部長は上記コミュニケで先進国と途上国の連携を促した意義を述べ、「GIAHSを通じて先進国、途上国の間でつながりをつくり、情報と成功事例を共有することで、GIAHSの経験を世界に広げてほしい」と強調した。簡単に言えば、国際会議を開くことができる先進国(日本)のサイトは、他国の途上国のサイトと連携して、GIAHSの価値を世界に広めてほしい、それが先進国のサイトの役割であると期待されたのだ。

  カンパンホーラ部長はなぜこのように思ったのか。会議開催もその理由の一つだが、29日に候補地としてプレゼンテーションを行った、熊本県、静岡県、大分県のそれぞれの知事、地域の代表が行ったスピーチ(英語)は迫力があった。熊本などは、それこそオリンピック候補地として名乗りを上げたかのように、地域(阿蘇)を上手に売り込み、GIAHSの未来可能性を説得した。これを聞けば、「ぜひ情報と成功事例を共有して、途上国のGIAHSへのモチベーションも高めてほしい」と思うに違いない。

  GIAHS基金代表のパルヴィス・クーハフカン氏(GIAHS事務局長)=写真=は講演でこう述べた。「FAOではGIAHS認定にふさわしい伝統的な農業システムとして世界中で200 ほど特定し、そのうち19 のシステムを認定した。しかし、開発が進んで農作業が一律化し、その貴重なシステムがあっという間に消えることもある」、「私たちは、GIAHSにふさわしいシステムを見つけたら、基本的に三つのレベルで調整作業を行います。まずグローバルなレベルでシステムを認定します。国レベルでは動的保全のための発展政策を策定します。ローカル・レベルでは、人々に力を与え、これらのシステムが発展し、維持されるようにして、エコラベル、エコツーリズムなどで多様化を図ります。グローバル・レベル、国レベル、ローカル・レベルでこれらの活動をつなぐのです」、「GIAHSは過去にまつわるものではなく、将来を見据えたものです。ごくわずかな農場を博物館に保存しようというのではありません。将来性のある農業をいかに発展させていくかということを問題にしています」(2月19日・能登で開催した国際GIAHSセミナーで)

  これは個人的な解釈だが、両氏のコメントはこのように聞こえる。伝統的な農業システムというのは世界どこでも「絶滅危惧種」化しつつある。これを守り、未来のつなげることは持続可能社会を世界に提示する上でも重要だ。しかし、これはFAOが単独できることでもない。日本のような先進国のチカラを借りたい。日本ならば独自で国際会議やネットワークづくりができる。カンパンホーラ部長、クーハフカンGIAHS事務局長からそのような、叫びにも似た声が聞こえる。

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