自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆NOTOのアート

2017年09月15日 | ⇒キャンパス見聞
   学生・留学生と巡る「能登の世界農業遺産を学ぶスタディ・ツアー」の2日目。テーマは「里山の生業と祭り文化」。午前中、輪島市三井町に移住したデザイナーの萩野由紀さんが主宰し、金沢大学の生物学者の伊藤浩二氏らが加わる調査グループ「まるやま組」が取り組む、農業と生物多様性について学んだ。講義で、これまで地域の300種の植物と123種の生物のデータベースを有する。そうした学びの中から、当地の農耕儀礼「あえのこと」(ユネスコ無形文化遺産)を自然の恵みへの感謝、「田の神さま」を生物多様性と解釈している、と。自然と農業の共生という意味を生物多様性という視点でとらえた新しい可能性だ。

    講義の後、稲刈りが終わって、はざ干しされた田んぼに出かけた。稲の言い匂いが漂ってきた。学生や留学生は始めてという。ただ一人、ベトナムからの女子留学生は「私も好きです。農村の匂いです」と。

   穴水町の「能登ワイン」を訪問した。収穫前のブドウ畑が広がっている。ワイナリーの見学の後、テイスティングを。すると、スペイン人の国連大学研究員は「私の田舎とよく似た風景ですね。おじいさんがブドウ畑を経営していました。3歳のころから赤ワインを飲んでいました。ワインと卵の黄身を混ぜて飲むと、とても栄養があっていいんです」と。本来、赤土(酸性土壌)はブドウ畑に適さないと言われてきたが、能登ワインでは畑に穴水湾で養殖されるカキの殻を天日干しにしてブドウ畑に入れることで土壌が中和され、ミネラルが豊富な畑となり、良質なブドウの栽培に成功している。白ワイン(シャルドネ)、赤ワイン(ヤマソービニオン)は国内のワインコンクールで何度も受賞している。個人的な感想で、「穴水湾の焼きカキは能登ワインのシャルドネにとても合う。気に入っている」と学生たちに話すと、フランス人の留学生は「それをマリアージュといいます。ワインに合う料理のことです」と、さらに、日本の女子学生は「海は畑の恋人ですね」と想像を膨らませた。そんな話をしながらテイスティングが盛り上がった。

    午後、珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭」の会場を巡った。印象深い作品を2つ。塩田千春:作品「時を運ぶ船」(旧・清水保育所)=写真・上=。珠洲市の塩田村の近くに、塩田氏が奇縁を感じて作品に取り組んだと地元のガイドが説明してくれた。赤い毛糸を部屋の全方位に巡らし、下に佇む、ひなびた舟。この赤い空間と舟は、人々の血のにじむ屈折と労働、そして地域の歴史を支えてきた子どもたちを育んだ胎内を表現しているのだろうか。直接話が聞きたくて「作者の塩田さんはここにおられますか」とガイド氏に尋ねると、「体調を壊されましてドイツに戻っておられます」と。作品づくりについて直接話を聞いてみたい一人だ。

    能登半島は地理的にロシアや韓国、中国と近い。そして、日本海に突き出た半島の先端には隣国から大量のゴミが海流に乗って流れ着く。かつて海の彼方から漂着するものを神様や不思議な力をもつものとして信仰の対象にもなり、それが「寄(よ)り神の信仰」とも呼ばれた。現代の寄り神はゴミの漂着物だ。そのゴミを白くペイントして造ったオブジェが鳥居だ。深澤孝史:「神話の続き」(笹波海岸)=写真・下=はパロディーだ。最初は笑い、後に考え込んでしまう。

    能登の生業(なりわい)や地理的な条件、そして現代をモチーフにしたNOTOのアート。夜は珠洲市正院の秋祭りを見学。キリコの太鼓をたたく地域の人たちの豊かな表情に圧倒された、学生は「祭りそのものが最大のアートですね」と。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    はれ
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