「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

ポターにひかれて―《春の遠足・ポター資料館へ》

2014年05月12日 | Yuko Matsumoto, Ms.
☆《春の遠足・ポター資料館へ》☆

  以下に載せた本『ビアトリクス・ポター』のサブタイトルは「描き、語り、田園をいつくしんだ人」である。5年くらい前に『自然再生』という本を読み、イギリスの田園の自然再生に取り組み、ナショナル・トラスト運動にも活躍したビアトリクス・ポターに興味を持った。その後、ポターの名前を世界中に広めた『ピーターラビットのおはなし』も読んだ。そのときはとにかく、ウサギたちを描いたいきいきとした挿画に魅せられた。さらにポターが地衣類の研究でも著名であり、科学者としての一面もあったことを知った。そんなポターの全貌を知りたくなり、買い求めたのがこの本である。もう4年くらい前のことだ。300ページ以上もある大冊だが、写真やポターが描いた絵もかなり豊富に載っていて、おもしろく読めた。ポターの描いた動植物や自然の水彩画には、あらためて感嘆してしまう。



  ところで、松本侑子さんが講師をつとめていらっしゃる『赤毛のアン』を英語で読む講座には、もう10年近くものあいだ参加させて頂いている(いろいろな都合で100%の参加ではないが)。最近は『赤毛のアン』以外にも『大草原の小さな家』や『ピーターラビットのおはなし』を英語で読む講座も開かれている。その「ピーターラビット」の講座で、講座外のイベントとして埼玉県の「こども動物自然公園」内にある「ビアトリクス・ポター資料館」へ「春の遠足」に行くことになった。参加者は講座の受講生の方々20数名、そのうちで男性はいつものことながら1名(現地でサプライズゲストの男性1名(※)が加わった)。
  この資料館は大東文化大学の付属施設であり、発刊当時の「ピーターラビット」やポターに関する内外の貴重な資料が多数保管・展示されている。資料館の建物はポターゆかりのヒルトップ農場を再現したものであり、「家のサイズや庭、玄関、また正面の階段は現物をできるだけ忠実に再現」したというから驚きである。案内してくださったのは、ポター研究の専門家である河野芳英先生(大東文化大学文学部英米文学科教授)という豪華さ。夢のなかにもポターがでてきて会話するという先生で、ポターの世界への案内役としてこれ以上は望むべくもない。文献目録や資料館の四季を写したポストカードなど、おみやげまで頂いた。内部は撮影禁止であるが、唯一物語を再現したジオラマだけは撮影が許可されていた。







  週間予報では天気は芳しくなかったのだが、当日はすばらしい好天に恵まれた。松本侑子さんをはじめ、きっと晴れ女の方が多かったのだろう。気温は明らかに25℃(夏日)を超えているように思われ、日差しも強かったが、湿度は低く快適な一日だった。ヒルトップ農場を模した資料館を巡っていると、数年前に訪れた「赤毛のアン」のグリーンゲイブルズが思い出されてくる。講座などでご一緒させて頂いた方も少なくないので、いっそうそのように感じるのかもしれない。資料館のあとはショップで買い物をして、「彩ポッポ」(園内遊覧車)で園内を遊覧、園内レストランでのどを潤したあと、コアラやナマケモノを見て帰路についた。



  『ピーターラビットのおはなし』を読んだとき、ピーターのおとうさんウサギがマグレガーさんの農場で事故にあい、マグレガーさんの奥さんに肉のパイにされてしまったというくだりを、少々ショッキングに感じた。しかし、ポターのことを少し詳しく知ってみると、自然界の喰う喰われるの関係を冷徹に(いわば科学者の目で)観察していたからこそ、このようなお話を書いたのだろうと思うようになった。あらためて松本侑子さんの『イギリス物語紀行』や『物語のおやつ』の「ピーターラビット」のところを読み返してみたら、すでに同じ趣旨のことが書かれていた。『物語のおやつ』では、ビクトリア朝社会の縮図ではとの指摘もある。いずれにしても、当時は読み流してしまっていたようだ。
  資料館の片隅でリンダ・リアの書いた『ビアトリクス・ポター』(サブタイトル「ピーターラビットと大自然への愛」)の訳書を見つけた。リンダ・リアはレイチェル・カーソンの詳細な伝記を書いた環境史の研究者であり、この本はカーソンのことを知るうえでかかせない資料である。しかし、リアがポターの伝記も書いているとはまったく知らなかった。たまたまそばにいらっしゃった河野先生にお尋ねしたところ、たぶんポターの一番詳しい伝記だとのこと。帰宅後、早速アマゾンで調べてみたら「現在お取り扱いできません」となっていた。たぶんすでに絶版であり、中古品も出品されていないからだろう。
  レイチェル・カーソンはいうまでもなく『沈黙の春』で農薬などによる環境汚染を告発した海洋生物学者であり、アメリカにおける環境保護運動の原点とされることも多い。同時にカーソンは、海を舞台とした叙情豊かな作品を残したことでも知られている。カーソンの死後に出版された『センス・オブ・ワンダー』に魅せられる人はいまでも少なくないはずである。いわば科学者の目と作家の目を併せ持った女性であり、自然環境保護に関心を持ち続けたことも含めて、ポターと相通じるところが多い。ちなみに、松本侑子さんの作品の中でもっとも敬愛している『光と祈りのメビウス』でも、カーソンのことが一言ふれられている。
  ポターにひかれるかたちで、ここまで雑駁な話を書き連ねてきた。あらためて思うのだが、世の中はいろいろなところでいろいろなつながりがあるものである。ポターやカーソンのことを書いたからというわけでもないが、自然界を網の目のように覆っている生態系のようなものである。われわれ日本人がよく口にする「縁」もそのようなものかもしれない。近々カーソン関係のシンポジウムを聴きに行く予定になっているが、ころもまた何かの縁なのかもしれない。

(※)「松本侑子さんと行く○○ツアー」では、そのほとんど(すべて?)でツアーコンダクター的役割をつとめていらっしゃるMさんのこと。上記ツアー参加者の方々のあいだでは絶大な人気を誇り、いわばアイドル的な存在である。Mさんがいらっしゃったことで、日帰りの遠足が、ますます本格的なツアーのように感じられてきた。

  

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