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自動車工場への派遣

2006-08-25 21:01:15 | 現状
大阪北部のある派遣・請負会社から派遣先企業に送られて、自動車の部品の溶接にたずさわった20代男性から話をうかがった。
彼は自分でも聞きとりをすすめており、相互取材になった。
そこで知らされたのは、人間を犠牲にして進んでいく科学技術と産業の姿だった。
同時に、そこにこそ人間工学のフロンティアが開けている。
くつづれしない安全靴、人にばね指を起こさないで操作できる溶接ロボットの開発が待たれる。
労働者をいたぶらない技術が求められているのだ。

また、若い世代に必要なのは軍隊型の共同生活や道徳的な説教やカウンセリングではないことも、彼の話から明らかだ。それよりも適当な休憩が必要なのだ。いや、こうした労働は、すべての人間にとって過酷で不適切と言えるのではないだろうか? こうした現場ラインでの人間の使い捨てをはじめから組み込んだ自動車というものを、これ以上作る必要はあるのか? もしも人が手を切ったり、老後耳なりに悩まされたりするリスクの低い、振動が小さくて体を痛めにくい自動車製造装置ができたとしたら、採算にあわないのだろうか?

科学技術は、20世紀に大きく進歩をとげた。テイラーの「科学的管理法」、フォードのコンベア・システム採用、さらに電子兵器の開発、フェルミによる原子炉の設計、広島・長崎の原爆。
その流れを見ていれば、どこかで人類は、自分たちが作ってはいけないものを作り、普及させたとしか思えない。人類の一部を犠牲にし、他の一部を豊かにして栄えさせる点では、戦争のための兵器も、自動車絶望工場も同じ構図を描くのだから。

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2000年代なかば。スポット・バイトを主にうけおう派遣会社に登録した青年Aは、2ヶ月の契約を結んだ。「大変そうな仕事だけれど、それくらいなら耐えられるかな?」と思って契約書にサインしたのだ。

派遣先は、とある同族経営の会社の子会社だった。そこではだいたい10代おわり~40台くらいまでの男女が働いている。
まず仕事場に入るための装備が重い。建築現場用ヘルメットを頭にかぶる。ゴーグルもかける。これは、溶接のさい飛び散る高温の鉄粉から目を保護するためだ。耳栓もする。これがなければ老後、耳なりに悩むことになるという。いったい何ヘルツの騒音なのか。つなぎの作業服の上には厚手のコットン製のエプロンを着用。腕には厚手のコットン製の小手をまく。手は軍手を二重にしてはめる。さらに足元には安全靴だ。「ひたすら重く、靴ズレの元」だという。「だけど機能はちゃんとはたしている」、ともAさんはつけくわえた。

これほどたくさんの“防具”を身につけてスポット溶接という作業に入るわけだ。
鋼板製の板状の部品を機械にくべる。運ぶときには、注意が必要だ。角度によっては手を切ってしまうからだ。それも、下手をすると二重にしてはめた軍手の上からでも手を切ってしまうことがあるという。
二つ以上の部品を、上と下から挟み撃ちのようにして、溶接をすすめていくのだ。そのほか部品にはゴム板もあるとか。少しの空き時間には、ヤスリがけや機械のメンテナンスも入る。そのため、お昼の45分休憩のほか、午前に1度、午後に1-2度ある5-10分の小休憩時間のほとんどがないに等しい。

LEAN生産方式といって、ムダをそぎ落とす方法が職場を支配する。もち時間はタクト・タイムと呼ばれている。Aさんの場合、3分20秒で14-16種の作業をこなさねばならなかった。
この仕事の“キモ”は、Aさんの言葉によると、「資格なしで使える。けれど危険」だ。資格というものの性質について考えさせられる。今の日本の資格の場合、それほど大変ではない仕事にハクをつけたり、教育資金のない層を排除する機能のほうが大きいのかもしれない。かつてわたしが派遣・請負から送り込まれた別の同族会社の子会社でも、「どうしてこういう危ない作業を、資格も研修もなくやっているの?」という例はあった(くわしくはちかぢか別の記事で)。そのへんのところがどうなっているかはこれから改めて調べてゆきたい。
そこではかなりの数の人たちが、二重の軍手をはめた手でボタンを押すだけの作業をやっている。その作業を2-3日も続けると、さっそく「ばね指」にかかってしまう。経験的に言っておおむね仕事をやめてから2-3日でその症状はとれるとAさんは言う。
その職場では、何よりも長時間労働で体を壊す人が多いともAさんは言っていた。
「うわあ、これ、キツイ仕事だねー。それでも、よく2ヶ月も持ちましたね」とわたしは驚いて見せた。そうすると、こんな答えがかえってきた。
「自分が2ヶ月間も続けられたのは、運がよかったから。たまたまタイミングの関係で機械のメンテナンスをやらずにすんだ。なので他の人よりも少しでも多く休憩をとれたからですよ。」「もしそうでなかったら、とても2ヶ月も勤めるなんてムリだったと思う。」


その後、Aさんとわたしは連れ立って、近くにある大型書店に入った。お互いに、労働・失業・ならびにファシズムに関する本に関心が高い。互いに重要と思える書物を紹介しあい、「この本が○○図書館に入っている」「この人(著者)はどちらかといえば右(左)」などと刺激的なおしゃべりをして楽しい時をすごした。
彼が今仕事に入ることの多い請負・派遣の会社ーー以前わたしもそこで働いたことがあるーーでは、マスコミの偽装請負バッシングについてどう対処しているか、聞いてみた。「会社は大した処置はとってませんよ」というのが答えだった。「やっぱり。アルバイトだから、若いからってナメているんだね」とわたしは答えた。
Aさんは無言でうなずいた。

当ブログ内関連記事 自動車工場への派遣シリーズ

派遣のバス発着場
寮ーーこの辺鄙なところ


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http://d.hatena.ne.jp/a_katu/20061207

















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2 コメント

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Unknown (フルタ)
2006-09-17 15:30:45
秋山鉄さんの「ボルトブルース」(角川書店)を読みました。この本は自動車工場の派遣労働者を舞台にしています。このコメントを書かれた事を裏つけるかのようでした・・Aさんの記述を見て衝撃を受けています。



お元気ですか?僕の方は介護福祉士の講習テストに受かりませんでした。というより重箱の隅を突付かれるようなしんどい4日間でした。でも落ちた事は必ずしも自分の評価を貶める事ではないと気付いたので、終わってほっとしてます。
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Unknown (ワタリ)
2006-09-18 21:57:54
フルタさん、お久しぶりです。情報提供と近況報告をどうも。



Aさんから話をきき、また寮の周辺も見回り通行人に話を聞いて、わたしも驚いています。

鎌田慧さんや伊原亮司さんたちも自動車工場について報告しています。

それに、近年の派遣・請負の悲劇(雇われる期間が短くなる傾向にある、仕事場や寮が辺鄙なところにあるなど)が重なった格好です。



>しんどい4日間でした。でも落ちた事は必ずしも自分>の評価を貶める事ではないと気付いたので、終わって>ほっとしてます



いいことに気がつきましたね。自分で気がついたんだから、スゴイ! 

そういう自己肯定が連帯を作るんだと思います。自分を否定すると、同じ立場の他人も否定してしまいますから。だけど、逆だとそうじゃない。わたしもよくて、あなたもいい。そう思えないと、ネットワークも連帯もないです。



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