フリーターが語る渡り奉公人事情

ターミネイターにならないために--フリーターの本当の姿を知ってください!

ガラスの板~赤信号

2004-09-25 02:14:03 | 現状
 フリーター生活はガラスに囲まれた生活と似ている。
 ずっと長く続けられそうな職がある、と思うけれど、ない。求人広告はネットにも雑誌にも張り紙にもたくさんあるように見える。だけど、手が届かない。少なくとも自分の20代後半以降、90年代の半ば以降はそうだった。
 ガラスの天井、というキーワードがある。キャリアウーマンが、男性総合職と同じように出世できそうでいてできないこと、また有形無形のその障壁を指す言葉だ。
 フリーターの場合は、四方八方をガラスで囲まれているようだ。
 
 自分は、二十代半ばから、だんだんと面接に行けなくなった。面接に向かう途中で道のりが以前の数倍にも思える。面接時間はずっとつづく赤信号。永遠に渡れないものであるように見える。そして、なんとかやっと職を見つけたときには、もう疲れ果てて燃え尽き寸前の状態だ。当然、ミスも多く、スピードも遅い。他の人に気を使う余裕もない。スキルアップするゆとりもない。部屋の中を片付けることも、服の手入れもできない。腹や腰、頭に足に腕と、体中がしょっちゅう痛み、痛み止めのクスリは手放せない。眠れないので睡眠薬もよく使う。
 何度か服毒自殺も試みたが、失敗に終わっている。
 やがて、電話をしたのに面接によく遅れるようになった。次に、面接に行けなくなった。服がボロボロでみすほらしいこともあるし、疲れはてて「労働力にならない」と雇い主から見られているのも絶えがたかった。ストレスで食欲も失せる。雇われるためにも食べなければと思えば思うほど食べられない。自分が自分を家畜にして売るようにも思えて、みじめでかなわない気持ちになる。また、「使い捨て労働力」の真の姿を悟る。そう、くたくたに疲れて効率よく働けなくなったら、もう要らないのだ。若くて体力と色気のあるううちだけが失業ではなく半失業/部分就業できる時期だったのだ。
 それでも、しばらくの間は、惰性であっても情報誌を買ってながめていた。電話もした。気力のゆとりのあるときに、懸賞に応募した。一度だけ、J-oneという雑誌で大阪の日本橋の文楽若手講演会を当てて、見に行ったこともあった。
 さらに、情報誌を買っても電話もできなくなった。
 それに加えて、情報を見れなくなった。
 そうするうちに、しまいにはフリーペーパーの情報誌を街角で取ることさえできなくなった。
 
 立法形の水槽の中に魚がいる。例えば水槽の右半分には魚が泳いで行けないようにガラスで仕切りを作る。そうすると、仕切りを取り去ったあとにも、魚は以前仕切りのあった部分よりも右方向には泳がなくなる。小さいころ見た動物の図鑑に書いてあった。たしか、マウスを使った動物実験でも同じような結果が出ていた。
 わたしは、ガラスの壁を打ち破れなかった。自分が弱いのがいけないのか、周りに適切な支援がないのがおかしいのか? それともガラスの壁を作った人が悪いのか?
 この場合「自立していない」などというアングロサクソン・フェミニズムの言説は、トートロジー(同義反復)にすぎない。なぜ自立したくてもできない条件が存在するかを抜きに「自己責任」を唱えても問題解決にはならない。「自立」を唱えれば失業者がなくなるものではないのだ。

 そうこうするうちに、わたしは交通事故にあった。愚かにも赤信号を渡ったのだった。とても象徴的な事件だった。そう、職はなく、融資も受けられず、社会的な信用もない。お金がないから大学院や専門学校にも行けない。疲れ果てて、TOEICなどの勉強もはかどらない。「リスクをとれ」「失敗を恐れるな」という金持ち中心の説教はよく聞かされる。
 つまり、どこを向いても赤信号なのだった。
 そのなかで安全感覚は崩壊してゆく。犯罪発生率や検挙率よりも、安全を求めてもいいんだといった生存のための知恵が壊されていたのだった。そのときのわたしは、「はやく面接に行かなきゃ。そのためにさっさと買出しを済ませなければ」と近所のスーパーへと向かう途中だった。





 
 
 
 
 
 

 

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11 コメント

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Unknown (Unknown)
2004-09-29 02:34:23
大学4年の卒論真っ最中の者です。読んでいたら思わずコメントさせられてしまいました。何かすごくリアリティを感じさせる文章ですね。迫力があります。文学部なので好きな小説家村上龍の作品で卒論をやってます。彼はエッセイの中でフリーターに未来は無いと言っていましたが僕も同感でした。ただ未来の無さがどうもうまくイメージできなかったのですが、今日ここを読んでよくイメージできました。これからも興味深く読ませていただきます。あと就活してないのでこのままいけば自分もフリーター1年目です。だめですね。
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Unknown (ワタリ)
2004-10-02 10:19:45
コメント、ありがとうございます。



ところで、卒論の話ですが、

>文学部なので

好きな作家の村上龍を卒論のテーマに選ぶというのはどういうことですか? 意味がつかめません。



それから、微妙なニュアンスが分かりませんが、unknownさんの紹介された村上さんの「フリーターに未来はない」とは、具体的にはどういうことですか?

わたしはこれまでと今の話をしているのであって、未来の話をしているのではありません。話がかみあっていない。



>このままいけば自分もフリーター一年目です。ダメですね。



ここでは自分と自分の知っている範囲のフリーターについて記しています。なので、すべてのフリーターが「だめ」かどうかは申せません。統計をとる予算はないので。

なお、もし正社員・公務員への幻想があるのなら、やめたほうがいい。というのは、正社員だって入社後数年でリストラ・倒産など当たり前。税金は上がる方向ですし、各種の手当て(残業・住宅その他)や社内福祉も切り捨ての傾向にあるからです。そして人をリストラで切った分労働密度と時間は過酷になっています。知り合いの正社員は深夜1時2時まで働き、休日の待ち合わせに来られないこともしばしばです。彼は今年初詣にもいけませんでした。いっしょに行く予定だったのに、疲れて起きられなかったのです。

また、公務員を使い捨て労働力として切ってもいいという法案も国会を通過してします。今から数年後、公務員もまた安定した職ではなくなっているかもしれません。



大事なのは、フリーターにならないことではありません。これ以上のデタラメな人事や労務を許さないことです。

そのためには、「女性や若者は失業か半失業で当然」と思っている組合には期待せず、自分(たち)で道を切り開くほかないでしょう。

たとえば資格をとりスキルを磨いてSOHOする方法もある。自分たちで組合を作って、最低賃金を引き上げたり、健康保険だけでも確保するように会社側と交渉するなど、いくつかのオプションがあります。



雇用形態を問わず、「自分の権利は自分で勝ち取る」姿勢が必要だと思います。そうしないとフリーターが困窮した後正社員も不安定化しますよ。そのことを気のついた労働組合関係者は「雇用の底を守る」と表現しています。















 
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はじめまして (みに)
2004-10-02 17:55:35
私もフリーターの世界の中を歩いてきました

人間扱いされない日々、社会人としての常識を身に付ける機会もなくそのことでまた一段と遠のいていく。。。



会社の面接で言われたことがあります

「アルバイトの方が自分の都合で好き勝手に勤務できて自由でいい」「両親と一緒に住んでいるのだからわざわざ正社員にならなくてもいい」

反論する能力がないので悔しかったです

3~4ヶ月働いていない状態が続いていた時なので精神的に疲れていて言葉を発すること自体難しく思えていたので面接でうまく話せなくて悪循環だなって思いました

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コメントありがとうございます (ワタリ)
2004-10-03 03:26:00
みに さん、いらっしゃいませ。

わざわざ辛い事を報告してくださって、ありがとうございます(ぺこ)。

会社の面接でみにさんが言われたセリフ、会社のオヤジどものホンネですね。女性や若い世代は失業するほうがハッピーでいいんだと、ホンキで思っている上の世代の男性は少なくないですからね。特に経営者になればなるほど、女性や若者にあらぬ幻想を抱き、見下しつつヨイショする困った性癖/障壁があるものです。



>反論する能力がないので悔しかったです



みにさんはまじめな方だとお見受けしました。それで、反論する能力があったとしても「女の癖に・若いくせに失礼だ」などと相手が被害者意識と攻撃性をあらわにすることも考えられます。わたしも、幾度も面接で同じ目にあっています。正直、職業差別・いやがらせだと思います。

けれど、「雇われたい」と思えば、バカらしくても黙り込んだり、自分が悪くないと知りながら「申し訳ありません」と頭を深く下げて謝ったりしています。でなければ、男性の「虚栄心のお守り(ボーヴォワール)」をこなさなかったとして、新たな侮辱・罵倒が待っているのです。

上の世代は、フリーターなり女性や若い世代に人格も自立も認めません。なのに「自立しないのは甘えている」と激しく人をののしります。

失業のストレスを「ないもの」として扱います。おまけに、うまくしゃべれない人に「ひきこもり」などとレッテルをはり、ムリヤリ治療と福祉のためのいけにえにする勢力もあるほどです。



あなたのコメントを見て、同じ立場で悩んでいるのは自分だけではないと知りました。それだけでも、うれしいことです。

これから、こちらのブログでもその手のオヤジの詭弁をひきつづき叩く予定ですので、見てやってください。







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レスありがとうございます (みに)
2004-10-03 10:01:17
bookmarkもありがとうございます

それで、私は派遣ではありません その会社直のパート扱いになっています

入ってから課長さんから聞いたことですが、就職難だからパートでも応募があるだろうという考えで募集を出したそうですが、予想を反して少なく私だけ採用になったようです

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ミス、失礼 (ワタリ)
2004-10-03 17:01:39
わたしの手違いでブックマークに入れる雇用形態を間違え、大変失礼しました。

さっそく、派遣→非正社員 にブックマークの説明を変更しました。これでよろしいでしょうか。



これからは間違いのないよう気をつけますので、どうかよろしくお願いします_(_)_。





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きっと (みに)
2004-10-03 22:24:07
ここを訪れる方は就業形態には敏感になられていると思うので気になってしまいました

非正社員、大まかでいいと思います
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大変だね (伝二朗)
2004-11-18 16:14:34
若いで有ろう君たちが苦しんでるのを見聞き

すると おじさんは胸が痛いね 社会は若者に

余りに冷たいね、そう言うおじさんも若い人

に やる気あんのか!こら~何て言ちゃたり

しますね言った後に後悔したりしますね。
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Unknown (通りすがり)
2005-07-27 21:46:30
理屈っぽい。自己防衛=弱さ。

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いらっしゃいませ (ワタリ)
2005-07-27 23:03:36
>伝次郎さん



そうですか。上の世代の方も、胸中、複雑なものがあるみたいですね。ふだんじっくり話す機会の少ない立場からの声を書いていただき、ありがとう! おかげで、上の世代が全部敵ってわけじゃないって、わかりました。どーせわかるわけないって決めつけないで、話し合うことって案外大事なのかも。



>通りすがりさん



貴重なご批判をいただきありがとうございます。



ただ、弱い=悪と見ていないわたし相手にそうおっしゃっても、のれんに腕押しですね。



逆に言うと、あなたこそご自分の弱さを受け入れられないので、他人の弱さを罰しておられるのでは? 

といっても、客観的な根拠のないことですし、フリーターをめぐる社会環境とも関連のないことですので、しょうがないですね。
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