Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

オンライン利用件数の水増しを防ぐ、「利用件数」の定義を明確にするべき

2007年08月07日 | 電子政府の評価
総務省から、平成18年度における行政手続オンライン化等の状況(PDF)が発表されました。行政手続オンライン化法第10条に基づく公表として、毎年行われているものです。

電子政府・電子申請サービスでは、「行政の透明性」を向上させることが、成功するための大切な要素とされています。今回の「行政手続オンライン化等の状況」に関する情報公開は、電子政府が国民から信頼を得るために欠かせないプロセスなのです。

しかし、残念なことに「重点計画-2007が決定、サービスの専門家で電子行政サービスの検証を」に頂いたコメントの通り、オンライン利用件数の数え方について、「水増し」とも言える不明瞭な例が見られます。

今回は、「オンライン利用件数の水増しを防ぐためにできること」を考えてみたいと思います。


●オンライン件数が不明瞭な例

厚生労働省の「行政手続等の電子化推進に関するアクション・プランのフォローアップ並びに行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第10条に基づく公表について」によると

平成18年度における厚生労働省全体のオンライン件数が10,223,133件で、そのうち「年金受給権者現況届(住基ネット活用により省略)」の件数が8,356,004件と8割以上を占めています。実質のオンライン件数は、1000万件ではなくて200万件と言えます。


別の例として「法務省における行政手続等のオンライン化状況の公表について」によると、

平成18年度における法務省の「商業・法人登記に係る登記事項証明書等の交付請求等」のオンライン件数は、15,020,126件となっている。また、「不動産登記に係る登記事項証明書等の交付請求等」のオンライン件数は、38,150,868件となっています。

両者の合計は約5300万件ですが、そのうち約2000万件が「登記情報提供サービス(閲覧だけで証明書はもらえない)」となっており、残りは約3300万件となります。

さらに、窓口における紙申請である「登記情報交換システム等」を経由した広域交付までもオンライン件数に含めている可能性があり、実際のオンライン申請(法務省オンライン申請システムによる)の件数は不明です。果たして、数百万件あるのかどうか

※登記情報提供サービス:不動産登記,商業・法人登記,動産譲渡登記及び債権譲渡登記に係る情報のオンライン提供(財団法人民事法務協会)の利用件数は、平成18年度で20,333,915件となっています。

また、「成年後見登記に関する証明書の交付申請」についても、電子署名が必要な手続にもかかわらず、利用件数が542,410件(利用率48.687%)となっており、こちらも紙申請による広域交付をオンライン件数に含めている疑いがあります。


●オンライン利用件数の定義を明確にするべき

政府がするべきことは、「オンライン利用件数」の定義を明確にすることでしょう。

・どのような方法で申請・届出等が行われたら、「オンライン利用」があったとするのか。

ということです。これを怠ると、各省庁は好きなように数字合わせができてしまいますので。

他にも、「一件は、一申請につき一件なのか、一申請でも3人の申請者があれば3件とするのか。」といった問題もありますが、ここでは省略しましょう。


電子政府・電子申請サービスの質を向上させ、国民への説明責任を果たして「行政の透明性」を向上させ、国民から信頼を得るためには、次のような定義が良いと考えます。


1 国民(企業、個人)が、オンライン申請システム等を利用して申請・届出等を行うもの

例:イータックスによる電子申告、法務省オンライン申請システムによる登記関連の証明書交付サービス(オンライン申請して郵送で交付)など

これが一番わかりやすいですね。


2 単なるオンライン情報提供(閲覧)サービスは、オンライン利用件数に含めない

例:登記情報提供サービス、年金個人情報提供サービスなど

オンライン情報提供サービスについては、利用者登録や利用料がある無しにかかわらず、オンライン利用件数とは別枠で実績を評価するべきです。

評価指標の例:利用件数、利用者数など


3 行政間ネットワークの活用により処理する手続は、オンライン利用件数に含めない

例:年金受給権者現況届(住基ネット活用により省略)、登記情報交換システム等を活用した登記事項証明書等の交付など

住基ネットなど、行政専用のネットワークが多数存在します。これら行政ネットワークを利用することで手続が省略されるもの、広域交付ができるようになったものなどを、オンライン利用件数に含めないのは当然のことです。

「オンライン情報提供サービス」と同様に、実績については別枠で評価しましょう。


各省庁が、どのような認識で利用件数を数えているのか不明ですが、国民をバカにした数字の誤魔化しは、後で痛い目を見ることになるので、早急に補足説明されることをオススメします


●参考サイト

平成18年度における行政手続オンライン化等の状況(PDF)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/070803_6.pdf
オンライン利用促進対象手続の利用件数:63,624,506件(利用率:17.5%)と。

オンライン利用促進のための行動計画(平成19年3月改定)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/cio/dai23/siryou1_2.html
各省庁が所管する手続ごとの申請件数がわかりますが、詳しい内訳は不明。

商業・法人登記情報交換システムについて
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji42.html
同システムが導入されている登記所間において、他の登記所管轄の登記事項証明書や印鑑証明書の交付を受けられるもの。

不動産登記情報交換サービスについて
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji103.html管轄の登記所ではなく、最寄りの登記所で登記事項証明書を受け取ることができるサービス。

成年後見制度~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
成年後見登記に係る証明書発行業務について
http://houmukyoku.moj.go.jp/hakodate/standard/seinennkouken19.html
平成17年1月31日から、窓口での証明書の請求が、東京法務局(後見登録課)以外でも(各法務局・地方法務局戸籍課)できるように。


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56 コメント

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50パーセント利用率計算の根拠をしめすべき (イエモリ)
2007-08-07 13:45:48
牟田さんが纏めた、「利用率の定義」に賛成です。電子政府がそもそも「50パーセント利用率の達成」目標にするのであれば、その利用率計算方式を各省庁ともども示すべきなのですよね。
ただただ「50パーセント」と念仏を唱えたのでは混乱してしまいます。

計算根拠となる定義が曖昧なところにつけ込まれて「水増し計算」しているのではとも勘ぐりたくなります。

いまさらながら、利用率計算の定義が不明なまま目標値を設定していたのであるなら、なんともな電子政府と言われそうですよね。

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パスポートの二の舞がコワイから (sago)
2007-08-07 14:15:50
むたさん 別建てありがとうございます。

どうもとにかく件数を水増しして、1件あたりの単価を下げたい、そんなところでしょう。

会計検査院が見逃さないようばしっとやってほしい。

登記は、本来は不動産甲号に一番お金がかかってますから、そういう数字のごまかしに関係なく、単価を出して、止めるなら止めると判断してもいい時期になりましたね。
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怖いのは (むた)
2007-08-08 10:00:50
イエモリさん、sagoさん
コメントありがとうございます。

実際、「1件あたりの単価」は、かなり深刻なようです。

怖いのは、政府が「とにかく利用率50%を達成する」と考えて、各省庁のオンライン利用件数の水増しを容認(さらには奨励)してしまうことです。

そんなことをしたら、電子政府のブランドは地に落ちるわけですが、その可能性は否定できません。

各省庁が「サービスを利用してもらうこと」の難しさを知り、「一件の重さ」を考え、利用してもらうために知恵を絞り工夫する。

この過程が無ければ、電子政府は成長しないのですが。。
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各省庁とも独自に表示したらどうか? (イエモリ)
2007-08-08 10:46:40
法務省申請システムサイトに、
http://shinsei.moj.go.jp/new/jikan_shinsei.html
法務省オンライン申請システムにおける前月の時間帯別申請の増減

単なる時間帯の表示に過ぎないが。
申請の数値、申請件数や申請種別が表示されていればもっと解りやすい。

申請件数、申請種別などは一瞬にして計測できるはずで、きちんとやってほしいものだ。

こうした積算を定期的公開するのも透明性確保には必要だと思う。
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17年度も (sago)
2007-08-08 16:22:03
むたさん こんにちは。

17年度分を見てみました
http://www.e-gov.go.jp/doc/060811_1.pdf
下のが独立行政法人の実績ですが、ほとんどが登記情報提供サービスでしょう。
15,747,866

17年度のオンライン実績
不動産乙  29,786,804
商業法人乙  8,645,422
合計    38,432,226
で独立行政法人分を引くと
22,684,360

交換システム利用としては妥当な数字ですね。

最初から交換システム分で上げ底してたわけか。
その上で、独立行政法人である民事法務協会の分をさらに上乗せ。
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?実数ですかねぇ。不思議だ (イエモリ)
2007-08-08 16:58:31
sagoさんがお書きの、
>で独立行政法人分を引くと
>22,684,360
>交換システム利用としては妥当な数字ですね。

交換システム利用で、他の登記所管轄の登記事項証明書を取得したのが、2千万を超えている?    ほんとか。
他の登記所管轄の登記事項証明書というより、所轄の登記所分の証明書交付件数も含め全部ではないか。

所轄登記所管内の登記事項証明書の発行も交換システム利用でやっているのではないか?

まぁ、いずれにしろ交換システム利用での利用率と実際のオンライン登記申請での利用率を統合して発表しているようじゃ、なんともですよね。 なんの為の統計積算なのかと問われます。

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誤魔化しできない環境を (むた)
2007-08-08 20:23:16
イエモリさん、sagoさん
こんばんは。コメント&情報ありがとうございます。

総務省のe-govサイトに、利用状況を定期的に(またはリアルタイムで)公開して、各省庁の比較や人気のある手続きがわかると良いですね。

私が以前から考えているのが、
価格.com
http://kakaku.com/
の電子政府版なのですが。。

自治体によっては、首長の交際費をウェブ公開して、誤魔化しできないようにしてますが、オンライン利用件数についても、同様の手法が有効と思います。

登記事項証明書等のオンライン件数の内訳については、評価委員会の事務局とも相談中ですが、法務省ヒアリングまでに事実関係を把握しておきたいと思います。

わかり次第、本ブログでもお知らせしますね。
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中の手間はかわらない (sago)
2007-08-09 08:57:54
交換システムで、まあ、国民は便利になったのですが、法務局の中の手間は変わりません。むしろわずらわしくなったのか。

行政効率化の点では、なんのメリットもないのですから、こんなのを数字で上乗せしても仕方ない。

むしろ登記情報提供サービスの細かい内訳も公表して、如何に法務局の事務効率化が進んで、民事法務協会が儲かっているかを示した方がいいですね。
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登記事項証明書は年間2億 (sago)
2007-08-09 10:19:42
イエモリさん こんにちは。

登記事項証明書は年間2億ほどありまして
http://www.moj.go.jp/TOUKEI/t_minj02.html
そのうち1割くらいが管轄外の交換システム利用だとしても不思議ではないです。
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Unknown (Unknown)
2007-08-09 11:08:26
sagoさんの説明で納得。
>登記事項証明書は年間2億ほどありまして
http://www.moj.go.jp/TOUKEI/t_minj02.html
そのうち1割くらいが管轄外の交換システム利用だとしても不思議ではないです。

バックオフィスシステムの交換システム利用率を恰もフロントオフィスでの利用率と同一視するには無理がありますよね。

バックオフィスシステムの交換システム利用については別枠で集計してもらいたい。

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