Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

新たな情報通信技術戦略の骨子(案)、電子政府戦略へ5つの提言

2010年03月20日 | 電子政府
平成22年3月19日に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(第52回)が開催され、新たな情報通信技術戦略の骨子(案)が公開されました。

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日本の電子政府も、少しずつですが良い方向へ進みつつあることが、今回の骨子案からも見て取れますね。

しかしながら、いくつか問題点もあるので、戦略が固まる前に指摘しておきたいと思います。

(1)「手続のオンライン化」ではなく、新しいオンラインサービスを作る

電子政府サービスは、「電子申請」が中心ではありません。「双方向性のある情報提供」を軸にして、新しいサービスを作るつもりで取り組みましょう。


(2)個人情報自己コントロール権の暴走に注意

「個人情報自己コントロール権(自己情報コントロール権)」の独り歩きには、要注意です。あたかも「国民が政府の保有する個人情報を自由にコントロールできる」ような表現はやめましょう。個人情報自己コントロール権が暴走すると、権利の主張ばかりする国民のモンスター化を招きます。

電子政府における個人情報は
・電子データ化されて
・法令に定める範囲や用途において
・政府内(国や自治体)で共有・活用される
というのが原則です。

仮に、各人の個人情報を政府内で共有・活用することについて、いちいち本人に承諾を得たり選択させていたら、新たに膨大な事務処理やコストが発生し、効率化・迅速化どころではありません。

国民に提供されるべきなのは、
・特定の分野について(範囲は限定される)
・自身の個人情報の記録内容や利用状況を確認(監視)できる仕組み
・間違った情報を修正(依頼)できる仕組み
・不適切な利用に対して苦情等が言える仕組み
などです。

例えば、住基ネットで行っている年金受給者の現況確認について、「個人情報自己コントロール権」を主張して、「私の現況確認に住基ネットを使うな」という国民が出てきたら困り者です。

ただでさえ誤解が多い「個人情報保護」ですから、新しいICT戦略でも表現に注意して欲しいと思います。


(3)国民ID制度の整備は、市町村との連携・共同が不可欠

住民サービスを担う基礎自治体として機能する市町村には、多くの住民情報が記録・管理されており、日々の業務で活用されています。

また、今後の社会保障制度において必要となる「世帯の所得」や「非課税者・低所得者」といった情報は、市町村が保有しており、国(国税庁)では把握していません。

つまり、国民IDを管理・運営するのも利用するのも、自治体の協力が無ければできないのです。今後、地方分権や基礎自治体への権限委譲が進めば、この傾向はさらに強まります。

国民IDを議論するのであれば、自治体が中心になるぐらいが良いでしょう。その上で、住民データベースの統合や、データ連携(国と自治体、自治体間、官と民など)について検討して欲しいと思います。


(4)政府CIOには一定の独立性、人事・予算権を

政治主導で電子政府を推進することに異論はありませんが、CIOの役割には省益と政治家から電子政府を守ることも含まれますので、一定の独立性が必要でしょう。

現行のCIO補佐官は、各省庁に所属する形ではなく、政府CIOの配下に属するようにしましょう。

自治体CIOとの連携も重要です。そのために、地域CIO等を設けて調整役を任せるのも良いでしょう。


(5)「サーバの日本国内設置」にこだわっても意味が無い、相互協定の締結を急げ

委員の中に、「日本国民の情報は、日本国内に設置されたデータベースに置かなければならない」との法律を定めることを提案している人がいるのは、ちょっと驚きです。

既に多くの企業が国外ベンダーのクラウドサービスを利用し、一部の政府系機関も利用している中で、政府機関だけ「日本国内」にこだわっても意味がありません。「頭隠して尻隠さず」です。

また、国内ベンダーが提供するサービスであっても、サーバが国内にあるとは限りません。そもそも、サービスを利用する側でサーバの設置場所を確認することなどできないので、「日本国内に本当にデータがあります」と言っても本当かどうかわかりません。

各機関や個人が優れたサービスを利用することに対して、情報管理部門は止めることができません。するべきなのは、サービス利用のルールを整備して、利用状況を把握しておくことです。米国のApps.govがその一例です。

それと並行して、政府にしかできないことがあります。それは、海外のサーバ設置国とデータの管理や保護について相互協定を結ぶことです。この協定は、国民や企業のデータを保護するだけでなく、国内ベンダーのサービスを海外企業や政府機関に使ってもらう時にも役に立ちます。

クラウドのプラットフォーム争いなどは、日本政府が何かしたところで、状況が変わるものではありません。

「日本が」といった発想自体がナンセンスで、インターネット上でグローバルにサービス展開している企業に「国籍」など関係ないでしょう。

誰がプラットフォームを握ろうと、天下も長くは続きません。プラットフォーム争いが苦手な日本は、誰がプラットフォームを握ろうとも、そこから収益を上げられるようにするのが現実的なのではと思います。


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