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バルバロッサ作戦: サウス・ストリーム計画停止発言の余波

2014-12-03 06:32:36 | 欧州情勢複雑怪奇

いやぁ、面白くなってきました。

プーチンは、ブルガリアから上げるサウス・ストリームは欧州がやらないというのなら俺らにはできませんからね、とプロジェクト停止を発表。

これに対して、だいたい各紙プロジェクトを停止した、というだけの説明に終始し、EU側はこれに対し、でもエネルギー委員会とロシアとの会議は12月9日に設定されているので、このまま会議はしますと反応。どうなる?

日本のNHKは、ちょっとどことも違う姿勢を見せていて興味深い。

ロシア大統領 パイプライン計画中止も
12月2日 12時51分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141202/k10013651661000.html

 ウクライナ情勢を巡ってロシアと欧米が対立を深めるなか、プーチン大統領はロシアから黒海の海底を経由してヨーロッパに天然ガスを輸送する新たなパイプライン計画を中止する可能性を示唆しました。

示唆・・・。確かに条件を付けてるけど、示唆ではなくて、条件が満たされなければ完全に停止だ、としか読めないんですけど・・・。つまり、欧州が実施しないというのなら、我々は実施できない、とはっきり言ってる。この表明を甘くみる理由はない。

一方でトルコとのフル規格のパイプライン合意がある以上、こちらで進めるという線も現実に足を踏み出しているからだ。

NHK的に解釈するならば、ロシアがEUのエネルギー委員会に対して、ほんとに良いのかとプッシュして、それによってEU側が折れるというシナリオしかない。これは、ぐずぐずに話が解決しそうな状況であればあったかもしれないけど、ここまでロシアが態度を鮮明にした以上、EU側は譲歩できるのか? EUって、まぁ実際この件はドイツだと思うけど。

で、現在ロシアとドイツ政府は関係悪いように見えるので、そこも難しいのでは?

ドイツはこの件に限らず、メルケルの対ロシア政策が悪すぎるとドイツ経済界、一部政治家が声を上げてきていて(経済界は前から)、批判にさらされる一歩手前みたいな状況。ここで譲歩できるとは思えないんですが・・・。

もう一つ、このNHKの記事は妙なことを言っている。最後の一文。

 ロシアとEUは、ウクライナ情勢を巡って互いに制裁を科すなど対立を深めており、パイプライン計画が中止されれば、さらに関係が悪化することが懸念されます。

計画が中止されない、とはどういう事態? 計画が実行に移るということ?

パイプライン計画の実行をロシアが呑めない条件(規制)を付けて事実上停止しているのはEUとアメリカ(あのマケインがわざわざブルガリアを訪問したこともあった)。

パイプライン関係国すべてが賛成しほぼ立法措置も済んでいた。しかし、EUが規制に違反してると譲らない。しかしこの法律は、サウス・ストリームが現実味を帯びてからできたもの。事後法だとしてロシアはWTOに提訴しているが、こんなの通らないのが西側的な「法の支配」でしょ? でも西側っていつもこう、自分にだけ必要な規則を作ってそれを守らせる、自分の都合のいいように、とまぁそのそこら中で言われているわけです。

だから、EUのエネルギー委員会の決定が重要になるんだけど、ここの担当者(ドイツ人)は許可しなかった。

ハンガリーなんかはこれに対して議会でわざわざ特別に法律を作ってEUの規制を回避できるようにした。しかし、これでも結局ダメだった。

つまり、ロシアおよびサウス・ストリーム関係国はもうやることはやり尽くしたとも言える。

つまり、ここにあるのは政治的問題でしかないのは関係者も一般人もみんな知ってる。

サウス・ストリーム問題は、計画が中止されてもされなくても、ロシアと西側の関係は既に十分に悪化しており、これ以上悪化しないようにすることぐらいしかできないのが現状だと思われます。NHKにはその認識がない、ってことだろうか?

■ EU内の潜在的対立がさらに広がる

ロシアと西側の関係も問題だけど、今回のパイプライン問題は、EU内の亀裂の拡大がはっきり見えるところも問題。

そもそもドイツは、自分たちはロシアとの関係をあっさり強化して、バルト海を通してノルド・ストリームで天然ガスを買っている。この時には現在問題になっている、EUの当該規制なんかなかった。

従って、現状は、お金持ちのドイツは問題なくロシアから安定的に天然ガスを買い、貧乏なブルガリアをはじめとした財政難の東欧諸国は、(ドイツの妨害によって)パイプライン計画を通してもらえず、不安定で誰が支配しているかもわからないウクライナを経由したパイプラインでガスを買ってる状態。

ウクライナはガス代を支払わないでガスを盗み、その結果としてロシアがガスを止めたことを、アメリカ人は「ロシアがガスを止めた」だけを記憶して騒ぐが、欧州人は当然だが騙されない。

そう。ウクライナが問題になることが明らかになったので、ドイツはさっさとノースのストリームを通して、ロシアは南部に、サウス・ストリームを提案した。つまり、これはウクライナ回避行動なわけで、ドイツは自分だけ回避した。南部を捨てて。

そしてこれら東欧諸国、特にブルガリアは陸揚げ、通過国として黙っていても400億円程度が年間収益になったので非常に喜ばしい話だったがこれもパー。

プーチンは、ブルガリアはEUに逸失利益を補てんしてもらったらどうだと言っていたぐらい。(皮肉なわけだけど)

現状は、EUのいわゆる東欧諸国がEU批判、つまりダイレクトにはドイツ批判が膨らんできたというところかと思う。

ドイツやフランス、イギリスといった西欧諸国は、東欧を犠牲にしてマスターであるアメリカに忠誠を誓ってる、と書き込んでいた人がいたけど、実際その通りなんだよね。

NHKは何を根拠にこんな曖昧なことを、と思ったんだけど、このへんかな。

South Stream gas debacle seen as blow to Putin
http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-30292135

BBCとNYTが、これはプーチンの外交的敗北だ、みたいなことを懸命に書いてる。

しかし、諸々のウクライナ、ロシア報道と同じで、これは嘘というか虚勢でしょう。損をしそうなのはEU、負けそうなのはEUってのはもう動かせない。だって、問題は実利、経済的合理性の話だから。イデオロギーの話じゃないから解釈による差異の幅は小さい。

英ガーディアンのコメント欄が非常に活発で良いスレッドになってる。記事そのものは反露、反プーチンのガーディアンの記事なんだけど、スレッドの中にハンガリー人の人がいてその人が、ハンガリーはこの間ずっとサウス・ストリームを熱烈支援してきたこと、ブルガリアは明らかに損をすること、ドイツはまず自分のノルド・ストリームを止めるべきといったことを理路整然と大量に書き込んでいて、誰もちゃんと反対できてない。

Putin blames EU as Russia abandons plans for South Stream gas pipeline
Putin says EU’s opposition scuppered project but Russian leader outlines plan to pump more gas to Turkey on visit to Ankara
http://www.theguardian.com/business/2014/dec/01/russia-blames-eu-as-it-abandons-plans-for-south-stream-gas-pipeline


■ ロシア&トルコ

(トルコの儀仗兵なかなかカッコいい)


さらに、NHKの記事がおかしいのは、サウス・ストリームをブルガリアから上げるプランは条件次第で中止だといってるだけでなく、ロシアはトルコを上陸点にして、フル規格で天然ガスを送る覚書に調印しちゃった点に触れていない。

こっちの方が問題なのに。というのは、東欧諸国は結局は天然ガスが必要なわけなので、他に全く別の計画がない限り、ブルガリアから北の諸国はトルコからのラインを伸ばして買う、という可能性が見えるわけ。

ブルガリア以北の東欧諸国がトルコに補助金を出すような話になるわけですね。それが嫌なら割高なLNGをターミナル作って他の中東や米国から輸入する。おかしいよね、お金持ちのドイツは殆ど専用のパイプラインあるのに。

トルコは現状でも黒海に通したブルーストリームパイプラインでロシアから安定的に天然ガスを購入し、春先にも容量を増やしていた(あのロシア非難の最中に)。緊急に2本目が必要かどうか不明なのに乗り出したのは、乗って損のない話だからでしょう。(EUが折れたら折れた時の話、と)

もしこれが軌道に乗れば、トルコとロシアの戦略的提携と呼ぶべき事態じゃないですかね。これによって、ひょっとすると、カタール→シリア→トルコ等々、西側がトルコを通してやろうと思っていた様々な思惑がとん挫する可能性もある。

また、夕べも書いたけど、原発の話もトルコの原発1号機をロシアが建設するだけでなく、殆どトルコの原子力産業の立ち上げをロシアが面倒見る(商売だが)、という感じになっているのが、これってNATO的にどうなの?と誰しも思う。


■ 総じていえば

総じていえば、プーチンの計画は、トルコがこのまま裏切らないとすれば、EUが蹴ってくれても全然痛くないどころか、むしろスケールアップしていると言える。だって、NATO軍の重要なメンバーと本格的で重要な交易相手となり、その上共に原子力産業を育てようという話なんだもの。

そして、EU側、特にドイツ周辺や東欧が、ロシアからのエネルギー供給割合を劇的に下げるとは、その近接ぐあいから考えて、完全に自分で自分の経済合理性をぶち壊す行為にしかならない。(それはEUの選択だ、とプーチンが語ってるのは冗談でも脅しでもない。だって、ロシア産天然ガスにも限界はあるんだから)


そういうわけで、これって実は潜在的インパクトがかなり大きい動きだ。

トルコのエルドアンに、「レジーム・チェンジ」だのカラー革命が来るんだろうか?

でも今ここで来たら、あまりにもあからさまで、世界中の笑いものになること請け合いなわけで、それでも行くのか!みたいな感じですかね。

あらためて考えるに、どうやら我が国の国営放送は、ロシアと西側の関係はそう簡単には修復できず、かつ、(ここが重要)いくつかの非・西側諸国はその状況を十分に理解した上で自らの判断でリスクを取ってもロシアとの関係を進めている、ということを理解していないか、少なくとも問題を過小評価しているのではないのか、とみえる。いかんでしょう、これ。

 ■ 追記

脅しにならない脅しをするケリー。

対ロシア追加制裁をEUと協議へ=米国務省高官
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JG1MT20141202

これはつまり、EUが譲歩しないよう、追加制裁を検討する動きをして牽制している、ということではなかろうか。

 


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