大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第222回

2015年07月24日 15時27分49秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第210回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第222回



翌日ゆっくりな時間に琴音が起きてくると外から母親の声がする。

とは言え、琴音の起きる時間が特別ゆっくりなのではない。 
父親と母親の時間が早朝5時から始まるので琴音の時間が遅く感じられるのだ。

「トイちゃん、ほらこっちにおいで」 その声に誘われて外に出てみると、仔犬と一緒に母親が花に水を撒きながら仔犬に話しかけていたのだ。

「トイちゃんそこは濡れてるわよ」 母親が仔犬の事をトイと呼んでいる。

「トイちゃんに決まったのかしら?」 仔犬に話しかけている母親の元に行き

「お早う。 トイちゃんに決まったの?」 琴音が母親に話しかけた。

「ああ、琴ちゃん。 お早う。 まだ寝てればいいのに」

「目が覚めちゃったの。 トイちゃんで決定なの?」

「だってトイちゃんって呼んだときの反応が凄く元気なんだもの。 トイレみたいなのにねぇ」 それを聞いた琴音がクスッと笑いながら

「トイレには聞こえないわよ」 そう母に言いながらも心の中では、仔犬改めトイをじっと見ながら

(仔犬ちゃんをトイちゃんって呼ぶと元気な反応か・・・これってきっとお父さんやお母さんにしか分からない事よね。 一緒に生活しているから仔犬ちゃんの変化が分かるっていうことだけ? それともこれも正道さんが言う繋がっているってことなのかしら)

「・・・琴ちゃん?」

「あ、なに?」

「何じゃないわよ、何度も呼んでるのに」

「え? そうだった? ごめん。 なに?」

「何ボォっとしてるのって聞いてるの」

「ああ、そういう事。 ・・・お母さんが仔犬ちゃんの様子をよく見てるんだなって考えてたのよ」

「もう、琴ちゃんったら。 いつまでも仔犬ちゃんなんて呼んじゃ駄目でしょ。 トイちゃんが迷っちゃうでしょ」

「はいはい。 それじゃあトイちゃんでいいのね?」

「雪ちゃんって呼んでも振り向いてもくれないから諦めました」

「それじゃ仕方ないわね。 仔犬ちゃ・・・じゃなかった。 トイちゃんお早う」 琴音の足元にじゃれ付いてきたトイを抱き上げ頬ずりをした。

「あらら、アンヨが泥だらけじゃない。 お母さん水撒きが終わったら家に入るんでしょ? 先にトイちゃんと入ってるわよ」

「うん。 足を拭いてあげてね」

「これは拭いただけでは綺麗にならないわね。 洗っておくわ」

「じゃあ、お願いね」 外の水道で足を洗ってバケツにかけてあったトイ用のタオルで足を拭き、部屋に連れて入ると父親が新聞を広げていた

「お父さん お早う」

「お早う」 返事をして顔を上げたかと思うと

「おっ、トイも帰ってきたのか? お帰り、楽しかったか?」 父親が新聞をたたむのを見て 琴音がトイを下ろすとすぐに父親の膝に走っていった。

「お外は楽しかったか?」 父親のデレデレ振りが見て取れる。 母親が外から帰ってきた。

「琴ちゃん、ご飯? パン? どっちがいい?」

「うーん・・・食パンある?」

「あるわよ。 食パンに何はさむ? ハムもレタスもあるわよ」 台所に向かおうとした母を見て

「あ、ハムはいいわ。 自分でするわ」

「いいハムを貰ったのよ。 それを食べない?」

「いらない。 って言うか、ハムを食べられなくなっちゃったから」

「え? 食べられなくなったって?」

「アレルギーが出るようになっちゃったの」

「え? いつから?」 

「1年くらいになるのかしら? 牛肉と豚肉を食べると大変な事になっちゃうからいらない」

「だって、ハムよ。 牛肉でも豚肉でもないじゃない」 それを聞いていた父親が

「お母さん、ハムは豚肉だろう?」

「あら、そうでしたっけ?」

「パンの用意くらい自分でするからいいわよ。 お母さんは座ってて」

「そお? じゃ、トイちゃん遊ぼうかぁ?」

「あーあ、1分1秒も惜しいって感じね」

「なに? 何か言った?」

「仔犬ちゃんは幸せねって言ったの」

「琴ちゃん、トイちゃんでしょ!」

「あ、そうでした」 舌をペロっと出して台所に向かった。


翌日はまだ会社に籍があると言えど、仕事に控えて急いで帰らなくてはいけないわけではない。 
夕方までゆっくりしてマンションに帰った。



マンションに帰ってからは 正道に教えてもらった事の復習を繰り返す日々が続いたが 少し疲れが出たのか

「はぁー・・・上手く進まない、出来ない。 ・・・気持ちを入れ替えた方がいいかしら。 ・・・ちょっとお散歩にでもでようかな。 ・・・万が一にも何かあって会社から電話なんて無いわよね」 梅雨の間の僅かな晴れの日だ。 

留守電をセットして家を出た。

バス通りを目的無く自転車をこぎだした。

「うーん、気持ちいい」 バス通りを外れ、知らない道を走っていくと大きな公園が目に入った。

「あら? こんな所に公園なんてあったのね。 綺麗な公園じゃない」 自転車を降りて公園の中に入る。

「へぇー植木もお花もきちんとしてあるのね。 大人の公園って感じなのかしら?」 隅にほんの少しの遊具があるだけだ。 

公園の中を歩いて花や木を見て回っていた時、どこからともなく琴音の真横を一本の筋を書くように鳥が飛んだ。

「え?」 見ると飛んできた小さな鳥が1メートルほど離れた琴音の視線の高さの木の枝にとまって琴音をじっと見ている。 

目があった。

(貴方はだぁれ?) 心で琴音が聞くと、鳥は黙って琴音をじっと見ているだけだ。

(そうよね・・・答えようが無い質問だったわね) だぁれ? と聞かれて勝手に人が決めた住所や名を名のることも無いであろう。

 (・・・可愛いね) 琴音がそう言うとすかさず鳥が木の枝をピョンと飛んで180度回転した。 

まるで可愛い背中も見る? といった具合に。

(まぁ、綺麗な模様。 素敵な背中ね) すると自慢げな顔で琴音に向き直りまた琴音をじっと見ている。

(あ・・・そんなにじっと見られると恥ずかしいんだけど。 出来ればお話してくれると嬉しいな) すると琴音のその言葉に答えるように、まるで話すようにグッグッグッと鳴きだした。 
いや、話し出した。 

それをずっと聞いていた琴音。 だが、何を言っているのかサッパリ分からない。 

後ろの方で子供の声がしだした。 振り向くとヤンチャ盛りの小学生だ。

(鳥さん、お話ありがとう。 子供にイタズラされちゃいけないから安全な所に帰って) 琴音のその言葉を聞いて鳥は黙ったが飛んで行く様子がない。

(伝わらないのかしら・・・) 伝えられない自分に歯がゆさを覚える。 

(私が向こうに行くね。 だから鳥さんも、もっと上のほうの枝にとまってね) 鳥に背を向け歩き出し、数メートル歩いてから振り返ると鳥はまだじっと琴音を見ていた。

(鳥さんありがとう。 早く高い所に行って) そう言い残してもう一度歩き出しながら何度も振り向くと暫くして鳥は飛び去った。 

見送った鳥の姿は、丸く明るい色のオーラに囲まれた姿だった。 

鳥の姿を見送って近くにあったベンチに座り込んだ。

「はぁー。 今のはなんだったのかしら、単なる偶然? それとも鳥さんは私の言っている事を分かってくれたのかしら・・・でも私は鳥さんのお喋りがぜんぜん分からなかったわ」 青空を見上げて暫く考えるがどうしても鳥のお喋りが理解できそうに無い。 

正面に向きなおして頭を切り替えた。

「もし鳥さんが私の言葉を理解してくれていたのなら 今、特別に集中をしなくても素で出来た所があるのよね。 う~ん、どうなのかしら?」 自分で自分が信じられないようだ。

「・・・自信を持たなきゃよね。 今、私には分からなかったけど鳥さんは私の心を分かってくれた。 うん、そう。 そうよね」 自分で言いきかせるようにいい

「もっと自信を持つためには、練習を重ねなくちゃいけないのよね」 そして周りを見渡すが鳥はもうどこにもいない。 ベンチを立ち子供達のいない側の木の方に歩き出した。 

そして一本の木に手を沿え

(私の声が聞こえますか?) 木と話そうと思ったようだ。

暫く集中してみたが何の返事も返ってこない。

「やっぱり無理よね。 ごめんなさい。 ありがとう」 手を離す。

「う~ん、気持ちのいいお天気。 深く考えないでいましょう・・・構えすぎるといけないわよね」 ベンチへ戻って子供達を眺めだした。

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