大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第239回

2015年09月29日 15時12分04秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第239回




団子屋を発ち、町に少し慣れたのか 最初に迷子にならぬようにと思っていた気持ちが飛び、町中を嬉しそうに歩く二人。 振り売りに目がいく。

「あ、飴だ!」

「おー、魚も売っているぞ」

「水?」 二人で目を合わせる。 お山に居ては水は溢れるほどあるからだ。


立ち並ぶ店に目がいくと

「あ! あれは何だ?」

「それよりこっちは何だ?」 見たことも無い物が沢山売られている。 

「おっと、危ない」 後ろで振り売りの声がした。

あちらこちらをキョロキョロするうちに道を塞いでしまったようだ。

すぐに道を譲ると、しゃぼんの振り売りであった。 

ヒョイと籠を覗き込む二人。

「あれは何をするものなんだろうか?」 食うに困ってお山に来たのだ。 しゃぼんを知らなければ、色んな物を知らないのは当たり前であろうか。


町中を暫く歩くと

「ここで待っておれ。 動くでないぞ」 そう声をかけると主が一人で歩いて行った。

落ち着きのない二人故、人の迷惑にならない少し広い所に待たせ、先に見える店の中に入って行った。

「あそこは?」 勝流が主の入ったところを見て問う。

「さぁ、何の店なのかなぁ?」 勝流は店が気になるようだが、平太は全く気にもならないようで辺りを見回している。

暫くはじっとしていた勝流だったが、どうしても気になるのか、主の入った店を目がけて歩き出した。

「あ、こら、動くなって言われただろ!」 平太の言葉を背に受け、主が入った店まで行くとヒョイと看板を見た。 が

「うーん・・・」 顎に手を当て考える。 その様子を遠目に見ていた平太に手招きした。

「ったく、動くなって言われているのに」 渋々歩いて行く。

「平太・・・これなんて読むんだ?」 看板を指差すが、平太が眉を寄せる。

「・・・わっかんないなぁ・・・」 二人で腕組みをするが全く分からない。

「でも・・・この臭いって薬草の臭いだよな」 クンと鼻から空気を吸った。

「あ、そうだ。 薬草の臭いだ」 平太に真似て勝流もクンクンと鼻から漂う空気を吸い、続けて聞いた。

「じゃあ、これって薬草って読むのか?」

「・・・」 少しの間二人が無言になったが、それを切って平太が言い出した。

「主様に漢字も教えてもらおうか・・・」 漢字は覚えなくてもやっていけるから教えてもらわなくていい、と二人が主に言ったのだ。

主は、無理に教えても覚える気がなければ覚えられはせぬ、いつかは覚えたいと言ってくるであろうと、その時まで待とうと考えていた。

「そうだな・・・」 勝流がポツンと答える。

そこへ店の中から声が聞こえた。

「残念でございます。 峻柔(しゅんじゅう)の気が変わればいつでもお声をおかけ下さいまし」 ここへは主に連れられ峻柔は何度か来ていた。

そこで薬草に詳しい峻柔を店に迎え入れたいという店主の申し出だったが、当の本人が山を降りたくないと言う。 
今日は断りに来たのだが、本来なら峻柔も一緒に来るはずであった。 

ここへくる為の手土産として早朝、崖に生る薬草を取ろうとして足を滑らせた。 崖から落ち、足を捻って一緒に来る事が出来なくなったのだ。

「峻柔兄?」 二人で目を合わせたところにガラガラと戸が開いた。 慌てて元の場所に走り戻る。

店前で店主が主を見送る。 主も深々と頭を下げ歩き出した。

二人の元に戻った主が開口一番

「動くなと言ったであろう。 それに盗み聞きはいかんのう」 ゴクリと唾を飲む二人。

「さて、用は済んだ。 帰ろうかの」 踵を返して歩き出した。

主の後を歩く二人、兄様の事が気になる。 看板に何と書いてあったのかも気になる。 漢字を教えてほしいと言いたい。

頭の中がこんがらがるが、まだ町中を歩いている。 目が珍しい物を追う。 その内にこんがらがりも忘れてしまったのか、またアレは何だ、コレは何だとはしゃぎ出す。


帰る道中、町を出、里に入っても主の後ろでは町で見かけた話と団子の話でもちきりだ。

「これ、声を落とさんか」

「あ・・・はい」 この繰り返しだ。

(ふうー、まだ連れて歩くには早かったかのう・・・) 後ろに蛙が2匹いるようだ。


町中では来た道とは違う道で帰ったが、里に入り里から出る時には来た道と同じ道からお山に帰る。

(あ、この道・・・そう言えば、あの子は?) 来た時に見かけた幼子を思い出した。

キョロキョロとするが幼子は見当たらない。

「どうしたんだ?」 さっきまで一緒に喋っていたのに急に黙りこくった勝流に平太が声をかけた。

「う・・・ん、何でもない・・・」 話しながらも歩は進む。

気になる。 何度も振り返る。

(やっと少しは静かになったかのう) そう思ったがすぐに勝流の「あっ!!」 という大きな声が主の耳を劈いた。

「な・・・なんじゃ?」 溜息をつくかのような声と共に眉間を寄せた主が振り向こうとしたが早いか、勝流の言葉の方が早いか

「主様、少し待っててください」 主の返事も聞かず走り出した。

「え? おい! 勝流!」 平太の呼ぶ声を背に受けて今歩いてきた道を走り、脇道に入る。

「あの石の後ろに隠れてるかもしれない。 もしまだいたら放っておけない」 分かれ道の坂を上ると幼子が隠れた大きな石まで走り、石の後ろを覗き込んだ。

「居ない・・・」 おっ母さんが迎えに来てくれたんだな、と胸を撫で下ろした時コツンコツンと小石の落ちる音がした。

「ん?」 音がしたほうに歩いて行くと木の陰に隠れて幼子が一人で居るではないか。

長い間退屈であったのだろう。 石を集めて積み上げて遊んでいたようだ。 


二人の話す大きな声が聞こえて木の陰に隠れたのだが、過ぎ去ったと思ったのに勝流が戻ってきた。 木の陰から出て耳をそばだてていたが慌ててまた木の陰に隠れた。 

こっちへ歩いてくる、もっと奥に隠れようとして積み上げた石に足が当たってしまったのだ。

怯えた目で勝流を見る。

(お袖より小さい・・・) お袖、五つ。 里で見た童女。

「人攫いじゃないから安心しろ」 ビクリと肩が震えた。 今にも泣きそうだ。

「あ・・・だから怖くないって・・・そうだ!」 主がお袖に話しかけたときの事を思い出した。

(膝を落として話すといいのかもしれない) 

「ほーら、怖くないぞー」 そう言って膝を落とす。 泣きそうな顔が少し止まった。

「なっ、おっ母さんはどうした?」 その言葉にまたじわぁっと泣き顔になる。

「あ、あ! 泣かなくていいから」 慌てて両の掌を振った。

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