大福 りす の 隠れ家

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みち  ~満ち~  第238回

2015年09月25日 00時37分11秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第238回




町中に入ると一層の賑わいだ。

「たぁー、こりゃ、うかうかしてたら迷子になっちまう」 勝流(しょうりゅう)が言うと

「人ってこんなに居たんだなぁ」 平太も辺りをキョロキョロとしながらも、主(ぬし)から離れないようピッタリとくっついている。

「どうじゃ? 団子など食べるか?」

「え?!」 すぐに反応したのは勝流だ。

「さっきは食べ損ねたからのう」 チラと後ろにいる勝流を見た。

「あ・・・えっと・・・あの時はつい・・・」 顔を赤くして下を向く勝流を横に歩く平太もチラッと見た。

「よい、よい。 食べたい盛りじゃ。 甘い物も欲しいじゃろうて。 平太はどうじゃ? 団子は好きか?」

「も、勿論でございます!」 鼻の穴が馬の様に大きくなっている。

すぐに見つけた団子屋の縁台に並んで腰を下ろし、主は二人が気の済むまで食べさせた。
その食べっぷりに笑いながら、茶をすする。

「あー、腹いっぱいだ」 勝流が腹をポンポンと叩く。

「お前、いくらなんでも十も食べるなんて・・・どんな腹をしてんだよ」 隣に座る勝流を呆れるような目で見、自分も一杯になった腹をさする。

その会話を聞いていた主。 

「もうよいのか? そうそう食べられんぞ」 それに答えたのは、主の隣に座っている平太だ。

「私は充分、腹いっぱいになりました。 勝流も・・・」 と言って勝流をチラと見る。

主と平太の会話など何処吹く風と、いっぱいになった腹をさすっている。

「あの通りですから、充分かと。 あの?」

「うん? なんじゃ?」

「主様は茶ばかり飲んで、食べないんですか?」

「わしは甘い物はなぁ・・・それに、砂糖というものは決して身体に良いわけではないのでな」 さっきまで主と平太の会話が聞こえなかった勝流、思わぬ主の言葉に耳を寄せる。

「え?」 二人が目を丸くして驚いた。

「そなたたちはまだ食べたい盛りじゃ、それに久しぶりの里じゃ、町中じゃ。 じゃからこうして食べさせたが、この事は心しておけよ」 ほんの少し、厳しい顔になった。

「はい」 声を揃えてしっかりと返答する。

「主様、もう一つ聞いても宜しいですか?」

「なんじゃ?」

「聞くところによると、他の主様はこうして里へ連れて降りてはくれないようです。 修行の身で里へ降りるのはご法度とのこと。 なのに主様はこうして団子まで食べさせてくれます・・・何故でございますか?」 平太の素朴な疑問である。 勝流はまだ尚、腹をさすりながら会話を聞いている。

「そうじゃのう。 簡単に言えば他所とは目的が違うというところかのう?」

「目的でございますか?」

「うむ。 他所は誰よりも強くなることだけを目的に修行をしておるが、そなたたちどうじゃ? そんな風にわしが一言でも言ったか?」 二人が目を合わす。

「でも、強くなれと仰います」 腹をさする手が止まり、ボソッと勝流が言った。

「心が強くなる事は必要じゃからな。 それは言うが、それが目的と言うたか?」

「平太どうだった?」 勝流に聞かれ、こっちへ振るなよ、と言わんばかりに睨み返す。

「早く走りたいと言えばそのように教える。 薬草が得意な者には薬草の知識を教える。 じゃが、お山で暮らすからには最低限の脚は必要じゃ。 獣もおる、気を感じる事も必要じゃ。 皆への優しさも必要じゃ。 ただそれだけじゃ。 必要な事を教えているだけじゃ。
平太、父様に連れられて来た時の事を覚えておるか?」

「・・・はい」 お山に来た時の事を思い出して二人とも寂しげな顔になった。

「十の時じゃったな。 父様は、一人で生きていける子にしてやってください。 唯、唯、お願いしますと言われた」

「・・・はい」 父と母と別れたくなかった。 妹とも。 だのに父にお山においていかれた。

「今なら分かるであろうが、どこも食べるのに大変なんじゃ」

「・・・」 分かってはいるが簡単に納得できる理由ではない。

「父様はそなたを手放したくは無かった。 じゃが、どうしてもそうしなくてはならなかった。 じゃから強く生きていける子に育てて欲しいと思われておったのではないか?」

「・・・」 一人でなんて生きたくない。 父と母と生きていきたかった。 妹を遊んでやりたかった。  

妹の顔が浮かぶ。 「平太兄ちゃん!」 妹の声がどこからか聞こえてきそうになる。

「他所に預ければ修行が厳しい。 かわいい子に厳しい修行はさせたくない。 一人で生きていける強い子になって欲しいだけ。 そう思ってわしの所に連れてこられたのではないかのう?」 里に降りては病を治したり、憑き物を祓ったり、危ない所を救ったりと主の噂はどこからともなく広がっている。 

優しい主だと。

「・・・」 父と母を恨めるものなら恨みたい。 だが、どれだけ恨もうと思っても恨めない。 主の言葉が段々と遠くに聞こえる。

そんな時、無言でいる平太をチラと見て勝流が下を見ながら言う。

「おっ父に連れてきてもらったんだからまだいいじゃないか」 勝流は九つの時、見たことも無い町の道端に置いて行かれたのだ。 

分けもわからず右往左往する勝流。 

そこを主が通りがかり、事情を悟るとお山に連れて帰ったのだ。

「勝流、そなたの母様にも事情があったのじゃろう。 可愛いわが子を手放すなど簡単に出来る事ではないのぞ」 

あの時、母が何度も何度もごめんと言っていた。 目から涙が溢れていた。 泣いていたくせに走り去った。 

思い出したくないもない許せぬ涙。 許せぬ母。

「お山に居る皆、事情を持っている。 じゃがな 皆、父様母様から預かった大切なお子じゃ。 いつでも逢えるように身体も心も強くなってもらわんとな」

(オレは・・・おっ母の大切な子じゃない・・・置いていかれたんだ。 捨てられたんだ) 拳を握り締める。

「勝流、そんな風に思うでない」 心を読まれた! 下を見ながら目を見開く。

「心を育てていこうぞ。 強い心を育てようぞ。 父様母様を恨むでないぞ、人を恨むでないぞ」 父母の事を言われて納得が出来ないという様子の二人を見て 「まだまだじゃなぁ」 と思いながらも

「心にゆとりがないと強くも優しくもなれん。 一貫した修行であれば己に厳しい心が持てるじゃろうが、優しさはどうかのう」 

「優しさ・・・?」 平太が主を見て続けた。

「他所の兄様は皆厳しいと聞くのに、お山の兄様方はとても優しい・・・」 その言葉を聞いて主が僅かに目を細めた。

「良き兄様じゃろう。 どうじゃ? 何故、里へ降りてきたりするのかが分かったか?」

「あっ、そうでした」 

「なんじゃ、自分で聞いておいて忘れておったのか?」

「あ・・・えへへ。 ・・・そっか、そうなんですね。 他所は強くなるだけが目的、主様は必要なことだけを教えてくださる。 心にゆとりを持って強く優しく。 という事なのですね」

「そうじゃ。 平太にも勝流にも何かしたいか? と落ち着いた頃にそう問うたじゃろう?」

「はい。 主様の飛ぶ姿、そのような事をしたいと言いました」

「勝流もそう言ったのう」 その言葉に顔を上げ頷く勝流。 白目が血走っている。 母への許せぬ想いが目に現れているのであろう。

その目を意識しながら、この時の事を思い出せと言わんばかりに主が言葉を続けた。

「二人とも目を輝かせて言うたのう」 それに答えたのは勝流。

「主様のところに来て間もない時、おっ父に連れてこられた平太といつも話してたのです。 兄様方の修行をされる時の主様の飛ぶ姿、あんな
風に飛んでみたいなって」 その言葉に続いて平太が言う。

「兄様達の様に教えて欲しいなって」 当時の事を思い出したのか、二人で顔を見合わせた。

そして交互に話し出す。

「気持ちいいだろうなって」

「飛びたいなぁって」

「飛べるかなぁって」 

「やってみたいなぁって」 二人が顔を合わせてニマっと笑う。

「そうか、そうか」 優しい目をむける。 

その言葉に主を見る二人そして

「まだまだ飛べないけどな」 勝流に目を合わせてニッと笑う。 

平太のその顔に答えるかのように勝流もニッと笑い返した。


負の念が消えた。



「そうじゃの。 飛ぶにはまだまだじゃのう。 もっと修行に励まんといかんなー。 団子なぞ食べておってはいかんな」

「あ! それはそれで、これはこれです!」 どれだけ団子に目がないのであろうか、勝流が慌てて立ち上がった。

「何を慌てておるのじゃ、なにも食べた物を吐き出せと言っておるのではなかろう」 そう言うとワハハと笑う。

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