大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第167回

2015年01月13日 15時00分06秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第160回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第167回



「仰ることはよく分かります。 ・・・週休2日制ですか?」

「はい」

「琴音さん、動物はお好きですか?」

「嫌いではないです。 でも今まで一度も犬も猫も飼った事はありません・・・あ・・・」

「どうしました?」

「あ、いえ 何でもありません」 そうだ。 一瞬にして子供の頃を思い出したのだ。

「嫌いではないという事は可能性がなくはないんですな。 まだまだ急ぐ話ではありません。 具体的な方向性も決めていませんし、何より建物もまだ出来ていない状態ですから もし無理でなければ徐々に始めてはもらえないでしょうか?」

「徐々に・・・ですか?」

「はい。 週休二日制でしたら1週間の内の1日をこちらに来てもらうことは出来ませんか?」

「・・・」 正道を見ていた目が下に落ち、頭の中は子供の頃の夢と今の生活で渦が巻いた。

「どうしました?」

「私・・・すっかり忘れていました」

「はい」 正道が優しい目をして相槌を打つ。

「子供の頃、野生動物保護官になりたかったんです」 下を向いていた琴音の目が正道の目をまっすぐに見た。

「はい」 琴音のまっすぐな目を優しく包む正道の目がそこにある。

「動物に関する色んな本を読みました。 生態も骨格も筋肉も・・・もうすっかり忘れていますけど・・・でもあの時、小学生の時 どうしても人の手によって幸せを踏みにじられていく野生動物を助けたくて・・・いつか大人になって何かの切っ掛けがあったときには すぐに野生動物を助けることができるようにって少しでも勉強しておこうと思って 色んな本を読んでいたんです。 そんな私の大事な思いを今まですっかり忘れていたなんて・・・」 正道を見ていた目が頭を垂れた事によってその視線の先はテーブルに移った。 

正道が大きく頷き琴音の様子を見て

「野生動物保護官ですか素晴らしいですな。 それも子供のときからそんなことを考えておられたなんてこちらの頭が下がります」

「でもそんな思いをすっかり忘れていました」

「人には日々の生活がありますからそれに追われて夢を忘れてしまうこともあります。 琴音さん?」 琴音が頭を上げ正道を見た。

「野生動物を救いたいという思いは素晴らしいです。 ですが、犬や猫も救ってはいただけないでしょうか? 勿論、さっきも言いましたように人に可愛がられている犬猫もいます。 でも何かが原因で走ることも出来なくなったりすることもあります。 その子達にも幸せになってもらいたい。 まだ若い犬猫が走ることも出来なくなるのは悲しいことです。 それにペットが可愛がられているだけじゃないんです。 人の手によってその人生を・・・あ、人生ではないですな。 犬生とか猫生とでも言うんでしょうかな。 それを悲しく終わらせられる犬猫も沢山います。 虐待も然り。 今の時代、ペット商品として扱われるが為に生まれてから一度も外に出たこともなく、仔を産むだけの物としてだけ扱われている雌も沢山居ります。 雄も同じです。 生きている間はずっと狭い囲いに入れられて 尻尾も磨り減り、足の筋肉も出来ていませんから立つこともままならない。 声帯も切られていたり歯も折られていることもあるそうなんです。 そして産めなくなってきたらそのまま動物管理センターに連れて行かれて命が終わるのです。 今の時代やっと管理センターも持込を簡単に受け取らなくしているみたいですが、悲しいかな人は簡単に嘘をつきます。 繁殖犬でしたとは言いません。 それに・・・闇のルートもあるようですしな。 生まれた命も同じ扱いをされる事もあります。 見た目に不都合・・・こんな言い方はしたくないですがな・・・。 まぁ、話が分かりやすいように言うとそういう言い方になるのですがな・・・どの仔も同じ命なのに」 琴音の胸は張り裂けそうになっている。

「不都合がないとそのまま売られます。 でも、親犬は何度も産まされて充分な身体ではないんです。 その親犬が産んだ仔は見た目に不都合がある子は売る事が出来ませんからさっき言いましたように行く先は見えています。 見た目に不都合がなくても内臓疾患を持って生まれてくる仔もいます」

「・・・そんな事が・・・」 話に耐え切れず目から一筋の涙が流れた。

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