大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第122回

2014年08月01日 14時30分43秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第122回



「あの人ね・・・あ、やっぱり何もいわないで先に聞くわ。 とにかくどうだった? 感じたことを話してくれない?」

「感じたことですか? 特にありませんでしたよ。 海外にあっちこっち行ったりって、とにかく聞いた事のないような会話だったし・・・」

「うん、うん」 更紗が身を乗り出して聞こうとしたときワインを持ったウエイターがやって来た。

ウエイターが軽くお辞儀をし「失礼致します」 と言った言葉に「ありがとう」 と更紗が答えたがそれを聞いた琴音はウエイターに「ありがとう」 と言える更紗に共感を持てた。

ウエイターがワインの説明をしようとしたとき

「ごめんなさい。 今日は・・・」 琴音との話に一分一秒も惜しかったようだ。

ウエイターもすぐに察し「失礼致します」 とお辞儀をしその場を去った。

「ね、乾杯しましょうよ」

「はい」 

「それじゃあ、やっと琴音さんに逢えたこの日に乾杯」 

「え? 私にですか?」

「ええ、この日がどれだけ待ち遠しかったことか」

「私と会う事がですか?」

「ええそうよ。 あの時、もう一度会えることは分かっていたの。 あの時、「またね」 って言ったでしょ? でもね、その日がいつ来るかわからなくって・・・それに名前も聞いてなかったじゃない? だからちょっと不安になってたの」 その言葉を聞いて真っ赤な車の窓から手を振り、スピードを上げていった光景を思い出した。

「あ・・・あの時の「またね」 って、今日のこと・・・」

「ふふふ、そうよ。 やっと逢えたのよ。 ね、乾杯」 そう言ってグラスを持ち上げ琴音のグラスに合わせた。

更紗のことを不思議に思いながらもそれを言葉には出来ない。

一方、更紗は乾杯をし、一口飲むとすぐに

「それから? どう?」

「あ・・・吐いちゃったら 絨毯のクリーニング代はどうなるのかとか」 更紗の押しに不思議な思いも忘れ、完全に更紗のペースにはまってしまったようだ。

「吐いちゃったら?」

「はい。 なんて言っていいのしら・・・最初お部屋に入った時はイヤ~な感じって言うのかな・・・そうだわドアを入った途端、空気が重くて。 でもそれって雰囲気が重いとかって言うんじゃなくて・・・なんて言うのかな・・・ズシっとくるって言うのかしら・・・あ、更紗さんのお客さんにそんな事を言っちゃって、ゴメンなさい」

「いいの、いいの。 そんな事考えないで感じたまま言ってみて。 私だってあの時タヌキって言ったじゃない?」

「あ、うふふ、そうでした。 じゃ、率直に。 物理的にズシっときた感じがしたんです。 それで色んな話を聞いているうちに粘っこいって言うんでしょうか、そんな物が私の体に巻きついてきたような感じがしてその内に息もしにくくなって吐いちゃったらどうしようって思ったんです」

「はぁー・・・」 溜息交じりの声を出し、背もたれにもたれ空を見た更紗が少し考えて

「他には?」

「特には・・・ちょっと・・・」

「なに? なんでもいいのよ言ってみて」

「・・・更紗さんが・・・」

「うん、いいわよ言って」

「キツネに・・・見えてきました」

「キツネー? あっははは」 ついさっき空を見ていた更紗と別人の様に笑った。

「ごめんなさい。 その・・・例えた言い方であって・・・本当にそう見えたんじゃないんですけど」

「いいのよ、いいのよ。 大当たりよ。 他には?」

「特には・・・ないです」

「そう。 ・・・琴音さんの言うとおりなのよ」 ニコリと笑ってワインを一気に飲み干した。

「わ、そんな一気に飲んじゃ・・・」 

グラスをテーブルに置き今度はチーズを口にほり込んだ。 それを見ていたウエイターがワインを注ぎに来た。

「ありがとう」 そう言う更紗の言葉にまた琴音が反応した。

「クライアントのことを話すのはルール違反だけどあのタヌキ、昔はあんな風じゃなかったのよ」

「え?」

「昔はね、真摯で何もかもに精一杯向き合ってた人だったの」

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