大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~満ち~  第243回

2015年10月13日 14時32分18秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~満ち~  第243回




山の上から村を見下ろす。

「ここが、住庵様の居られる村」 やっと着いたかとホッと一息つくと、気合を入れ替えザザザと滑るかのように山を駆け下りる。

村の中を歩き、子供に声を掛けると 「あれ」 と言って指差す先には、屋敷とも思えるほどの大きな家がある。 

「これは・・・お山の小屋とは随分と違う・・・あそこに住庵様が・・・」 暫く見入っていたが、目を瞠っていても埒が明かない。
 
指差された方へ歩き出し、屋敷とも思えるそれを囲う為の木の枝沿いにゆっくりと歩いていく。 

そして屋敷とも思えるその前に立つ。 

「ここが住庵様の・・・」 やっと着いた安心からか、ほぅと息を吐く。 途端、

「よく来たの」 聞き覚えのある声、その声に振り返る。

茶色の縞模様の着物を着ている小振りの体格。 そして記憶にある顔。

「こ、これは住庵様!」 振り返った風来の姿に今度は住庵が目を瞠って驚く。

「あの幼かった風来がこんなに立派になって、背も高くなって・・・そうか、そうか、大きくなったのう。 うん、うん」 風来の姿を見て何とも満足げな顔である。

風来が身を正して住庵を見、

「この度は、急な申し出に・・・」 そこまで言うと

「おお、そんな挨拶も出来るようになったのか」 目を瞠って喜ぶが、風来はもう13歳である。 

どうしても幼かった頃の印象が強いようだ。

「だが、よい、よい。 硬い挨拶などよい。 それより疲たであろう? さっ、中へ入ろうぞ」 余程嬉しいのか笑顔が絶えない。

風来が発つと分かってすぐに主が住庵に文を出していた。 住庵は全てを知っている。


木の枝の囲いを入り、屋敷とも思えるその中に入るまでに「一人でよくここまで来た」「恐ろしいことはなかったか?」「誰にも傷をつけられなかったか?」 風来の身を案じ住庵が質問攻めにする。

確かに、物取りが当たり前にある。 物取りだけならまだしも、命までも取られることもある。 

だが、風来は偶然か、何かが動いたのか何の障害にもあわずやって来ることが出来た。 

「そうか、何もなく無事に来たか。 なによりじゃ。 だが、初めての一人旅ゆえ、寂しかったであろう?」 話していても、やはりまだどこか幼い印象は抜けないようだ。

そう聞かれて風来の心の中はただ一つ。

「住庵様のところに来る事だけを考えておりました」 その言葉を聞いて嬉しさが心に広がる住庵。

屋敷の中に入るとすぐに土間があったが、お山の小屋にも土間がある。 だが、お山の小屋とは比べ物にならないほど大きい。

「桶の用意を!」 家に入るやいなや、腹に力の篭った隙のない太くもあり、澄んだような声で誰かに言っているようだが、そんな話は聞いていない。 

住庵は一人で暮らしていると聞いている。 

「はい、ただいま」 中から声が聞こえる。

(女子?) 

「すぐに来るからな。 先に荷を下ろすとよいぞ」 はい、と背負っている荷を下ろす。

土間の横から桶を持って出てきたのは女子であった。 風来より三つほど年上であろうか。 まだ背に伸び悩んでいた風来よりずっと背が高い。

桶には水が張られていた。

「座って足の疲れを落としなさい」 優しい笑顔、ゆっくりとした口調で、汚れを落としなさいとは言わない。

「有難うございます」 草鞋の緒を解き、板間に腰を下ろし桶に足を浸ける。

疲れた足、火照りが引いていくようだ。

用意された手ぬぐいで足を拭くとすぐに手が出てきた。 桶を持ってきた女子の手だ。

チリン

「あ・・・」 懐から落としてしまったのかと下を見たが何もない。

チリンチリン

手を出している女子がもう一方の手で帯の中に鈴を仕舞いこんでいる。 柔らかな仕草。

自分の鈴ではなかったのかと出された手に、柔らかな仕草をする女子の手に、ギクシャクと手ぬぐいを渡す。

なぜか緊張する。 お山には己より大きな女子は居ないからか。 

「風来、分からぬ事があればこの姉様に聞くと良いからな」 すると、その女子が口を開いた。

「住庵様、姉様と呼ばれるのは好きではありませぬ」 少し裾を短く着た涼しげな色の着物。 綺麗な顔立ちに長い髪を後ろで一つに結んでいる。 

「あ・・・の・・・では、なんとお呼びすれば・・・」 

「更(さら)って呼んで」

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みち  ~満ち~  第242回 | トップ | みち  ~満ち~  第244回 »
最新の画像もっと見る

小説」カテゴリの最新記事