大福 りす の 隠れ家

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みち  ~道~  第206回

2015年05月29日 14時26分46秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第190回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第206回



正道から連絡があった。 

そんなに酷くは無いが、今年は雪が続いているので車の運転を考えると 年始は2月に入ってからにしようというものだった。 そして工事が始まったので、仔犬を琴音の実家まで引き取りに行くというものであった。

だが琴音も仔犬が気になり再三実家に電話を入れているが 両親共にまだ離したくは無いようなので、琴音が行く日まで実家で預からせてもらうことにした。



年始のバタバタとした仕事を終え、次は今月の締めだ。 年始業務に追われて1月締めの業務が疎かになっていた。 まだ暫くバタバタが続く。 そしてその様子を社長は見ていた。

琴音の机で内線が鳴った。

「はい、織倉です。」

「工場のマジックがなくなったから、黒5本と赤3本を持って下りてもらえる?」 工場長からだ。 

「はい。 すぐに持って下ります」 事務用品がストックされている引き出しからマジックを出し事務所を出た。

工場に入ると

「あ、スミマセーン、織倉さーん。 こっちに黒を一本お願いします」 大きな声が聞こえた。 見ると商品の修理をしているようで手が空かないようだ。 

まだ20代の若い社員だ。 ちなみに工場ではペーペーと、この社員二人だけが20代なのだ。

新しく部品を仕入れて商品を作る事はないが、修理や在庫の部品を使っての商品は作っている。 閉鎖をするといってもまだ何処にもそのことは言っていない。 

「はい」 物を避けながら黒マジックを渡すと

「有難うございます。 スミマセンついでにここ押さえてもらえますか?」

「ここですか?」 恐る恐る配線を押さえた。

「電気なんかこないから大丈夫ですよ」 あまりに仰け反っている琴音を見て笑いながら言う。

「もっと早く織倉さんとこうしておけば良かったですね」 配線を繋ぎ合わせながらそう言い始めた

「え? こうして押さえる事ですか?」

「違いますよ。 くくく・・・織倉さんって見た目と違って天然なんですね」

「そんな事ないですよ。 じゃあ? 何を?」

「森川さんは工場へ来る事なんてなかったんですよ。 でも織倉さんは時々工場に来てるでしょ?」

「そうですか? あまり来ている気はないんですけど」

「お客さん達も言ってますよ。 勿論僕らもですけど」

「何をですか?」

「織倉さん一人いるだけでパッとなるって言うんですか? 疲れてたり、落ち込んでたり、嫌な事があっても忘れられるっていうのかなぁ? で、そこで話なんてするとそれまで疲れたと思っていても さぁ、やらなくっちゃって気になれるんですよ」

「そうですか?」 思いも寄らない言葉にキョトンとする。

「そうですよ。 はい、有難うございますもう手を離してもいいですよ」 琴音がそろっと手を離すと

「こうして手伝ってもらうとホッとするって言うのかな。 だから丁寧にも出来ますしね」

「いつもは丁寧じゃないんですか?」 茶化すように言うと

「いつも以上に丁寧に出来ました」 負けていない。

「おい! なに手伝わせてるんだよ。 甘えてるんじゃないぞ」 席に着いていた工場長だ。

「じゃあ、他のマジックを工場長に渡しておきます」 工場長の方へ行きマジックを手渡した。

「有難う。 あんなのの相手なんてしなくていいんだよ」 するとさっきの社員が

「聞こえましたよー。 手伝ってもらうくらい良いでしょー」

「お前一人でやって火傷でもしてりゃいいんだよ」

「酷いなー! 織倉さん、工場長に蹴り入れといてください」 それを聞いてペーペーが

「俺が蹴っときましょうかー?」 

「お前ら、俺を誰だと思ってんだよ。 ねぇ、織倉さん」 琴音のほうを見て言った工場長を見て琴音が笑う。 その琴音を見て

「織倉さん 社長と話したの?」

「何のお話しをですか?」

「次の職場の話。 社長が気にしてるよ」

「あ・・・まだちゃんとお返事してなかったです。 工場長はどうされるんですか?」

「俺? 俺はもう盆栽いじり」

「え?」

「定年を迎えてもまだ若いやつらだけではやりきれないところがあるから、嘱託で来ようかと思ってたんだけどね、その必要も無くなったからね。 それに年金をもらえるから盆栽でもいじっておくよ」

「生活が急に変わりますね」

「普通に定年を迎えたらそんなもんだよ。 それより、織倉さんはちゃんと考えなくちゃいけないんだから社長と話すんだよ」

「はい」 事務所へ戻り社長をチラッと見てどう話を切り出そうかと考えたが、結局切り出せなかった。



1月締めが終わった。 事務所には琴音と社員一人だけだ。 

「さ、これで完了。 ううー、肩が凝った・・・でもこれで落ち着けるわ」 首を左右に振る。

その様子を見ていた一人が

「締め終わったんですか?」

「はい。 何かお手伝いする事がありますか?」

「いや、そうじゃなくて」

「はい?」

「雑談に付き合ってもらおうと思って」

「雑談・・・ですか?」

「だって、仕事が無いんですもん」

「あ・・・あははは」 声が小さい愛想笑いだ。

「PCばっかりいじってるのにも飽きましたしね」

「姪御さんの結婚はどうなりました?」 琴音から話を切り出した。

「式も挙げない・・・って言うか、もう7ヶ月らしいんですよ」

「ええ? そうなんですか!? それじゃあ、お腹も目立ってきてますよね」

「いったい何をやってんだか」

「お兄さんご夫婦はご存じなかったんですか? その・・・お腹の事とか、お相手が先生だっていう事は」

「知らなかったみたいですよ。 でも出来ちゃったし姪もどうしても産みたいって言うからシブシブ認めたみたいです」

「そうですか。 でも赤ちゃんは授かり物ですからね」

「だからって世間体が悪いでしょ?」

「うーん・・・最近はそうでもないんじゃないですか?」

「そんなもんかなぁ?」

「そうですよ」

「うちの娘にはどう説明したらいいと思います?」

「は?」 思いもよらない質問に驚きが隠せない。

「結婚して間無しに赤ちゃんが産まれるんですよ。 それも既にお腹も大きいし。 一応娘も思春期に入ろうとしてますから、どう説明したらいいと思います?」

「小学生でしたよね。 えっと、何年生でしたっけ?」

「6年です。 今度中学生になるんです」

「わぁ、説明するには難しい年頃ですね。 最近のお子様は進んでますもんねぇ」

「でしょ?」

「奥さんはなんて仰ってるんですか?」

「まだこんな話はしてないんです。 それよりお金の工面の方が先で」

「会社から出せなくてすみません」 冗談めいて言った。 その時、工場に下りていた他の社員が事務所に入ってきた。

「あ、何の話してんの?」

「何も。 それより何してたんだよ」 

「面白いのを作ってたんだ。 見てよこれ」 廃材で色々作って遊んでいるようだ。 そして男達の雑談が始まった。

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