シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

夏休みのレモネード

2005-07-17 | シネマ な行
ベンアフレックとマットデイモンが主催した脚本コンテストの第一回優勝作品。彼ら自身も脚本を書いてチャンスを掴んだことからどんどん才能ある人を発掘しようと始まったコンテストなんだろう。そして、その第一回目に優勝したピートジョーンズが自ら監督もした作品。

主人公はカトリック系アイリッシュのピート君8歳半アディスタイン。カトリック系の学校でいたずらばかりしてシスターに「このままでは地獄に落ちますよ」と言われ夏休みを機に改心することに。天国へいけるようにするにはどうすればいいかを幼い頭で一生懸命考える。そこへお兄ちゃんから他の宗教の民をキリスト教に改宗させて聖人になった人の話を聞き一念発起。「ボクもユダヤ人を改宗してあげる!」とユダヤ人地区へ。シナゴーグ(ユダヤ教の教会)で出会ったラビケビンポラックに親切にしてもらい、そこでユダヤ人たちを待たせてもらうことに。ちょうどその頃ラビの家が火事になりラビの息子ダニーマイクワインバーグをピートのパパ(消防士)アイダンクインが助けたことから2つの家族の交流も始まり、騒動が起こる…

ユダヤ人を改宗させようとするピート君がとてもいじらしい。手っ取り早いところでダニーを改宗させようとするんだけど、そのためにカトリックの神父さんやユダヤのラビに色んな質問をぶつける。またこの質問が子供らしくて大人が困ってしまうようなことばかりなんだけど、それがまた真実を突いていたりして本当に大人が絶句させられることもしばしば。

この作品での重要なファクターはやはりアイリッシュとユダヤの文化的背景。主人公がアイリッシュ側なのでそちらが中心に描かれてはいますけど。

ピートの家は典型的なアイリッシュの子だくさん。ピートは8人兄弟。お父さんは消防士(これも非常にアイリッシュに多い職業)で家では四六時中ビールを飲んでいて頑固者(でも本当はあったかい人)お母さんボニーハントは毎週日曜日必ず子供たちを教会に連れて行く。こういう表面的な設定を見ただけでも決定的に典型的なアイリッシュなのだけど、非常にうまかったのは家族の関係の描き方。

時代が1976年ということもあって家の中でお父さんの言うことは絶対。長男も大学なんか行かずに働けと言われている。お父さんとお母さんの関係がうまく描かれているのは、その長男にユダヤの教会がラビの息子を助けたお礼にと大学の奨学金を出すと言われたとき。意地とプライドから反対するお父さん。「ママ、なんとか言ってやってよ」と息子は頼むがお父さんには逆らわないお母さん。でもそれは…子供たちの前ではお父さんの威厳を絶対に守ろうというお母さんの配慮。夜、二人っきりになってからは、 「あなたのプライドのために息子を犠牲にするなら、明日からずっと冷たいベッドで寝てちょうだい」ときっぱり言い切る強い女。それがアイリッシュのお母さん。おそらく高校の頃かそれよりも幼い頃からお互いを知っている、なにもかも知り尽くしたお父さんとお母さんの安心感溢れる喧嘩、という雰囲気をアイダンクインとボニーハントがうまくかもし出している。(特にボニーハントが「本当は家の実権を握っているお母さん」をうまく演じている)

だから、同じくピートのこともお父さんは反対するがお母さんはそっと応援してくれる。ピートとお母さんのやりとりを見ているとすごくほのぼのして、それでいてお母さんの言うことには知恵が詰まっていて、こんなお母さんがいるのがうらやましくなっちゃう。お父さんも頑固者だけど、本当は優しい人なんだけどね。

ユダヤ教のラビ、ケビンポラックもよその地域から来てユダヤ人を改宗させようなんて言うピートにも祝日しか教会に来ない自分の地域のユダヤ人よりも熱心でいい子だと言ってくれ親身になってくれる姿がとてもいいし、子供たちが必死で天国へ行ける道を模索する姿もヒヤヒヤもんだけど、子供らしい魅力に溢れたシーンになっている。

そして、このピート君が悲しい出来事を乗り越えて最後に彼なりの真理を見出す。それは子供らしい素直な解釈で得たものだけど、それこそがこの世の真理を突いてるんじゃないかを思わせるほど。

70年代のなつかしい小物たちにもほっとするし、色んなしがらみの中に生きてきて大切なものが見えなくなっている大人たちの目から鱗を落とすような視線で語られる素敵な作品です。夏休みにどうぞ。

ただやはり、宗教的なことが背景なのでカトリックとユダヤの違いとかをまーーーーったく知らないという人にはつらいところもあるかもです。


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