シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

グローリー~明日への行進

2015-06-24 | シネマ か行

今年のアカデミー賞で作品賞と主題歌賞にはノミネートされたものの役者の部門ではまったくノミネートされず、それこそがまさに黒人差別であると話題になった作品。

製作の裏話としてスピルバーグが権利を持ちオリバーストーン監督で映画化しようとしたが内容に対して遺族の許可が得られず頓挫してしていたところ、新たにエヴァデュヴァネイ監督に決まり、スピルバーグのドリームワークス社が実際のキング牧師の演説の権利を所有しているため、類義語を用いて演説を書き直し製作にこぎつけたらしいです。これほどに超有名な人なのに、これが初の映画化だというのですから、その道がいかに困難だったかということなのでしょう。

ふむ。キング牧師の演説を彼の雰囲気を残したまま書き直すってすごい作業だっただろうな。ワタクシはこれまでキング牧師や公民権運動に関するドキュメンタリーをたくさん見てきましたが、そんな書き直しがされていることなんて全然気付きませんでした。まぁもちろん言語的な問題もあるけど、キング牧師を演じたデイヴィッドオイェロウォがする演説の雰囲気はとても本物っぽかったです。

裏話はすごいと思うのですが、映画作品のほうはと言いますと、正直ちょっと展開がトロいのと、活動家側と警察の衝突など息詰まるシーンはあるものの全体的に一本調子な感じで少し退屈してしまいました。

内容的にもドキュメンタリーなどでよく知っている者にとっては、目新しいことは少なかったです。ただ、キング牧師の団体内のもめごとや彼の団体と学生非暴力調整委員会との対立や、キング牧師の浮気(?)なども描かれていて、彼の人間的な側面も見ることができました。てか、FBIの盗聴不倫テープに関しては「これは私の声ではない」って言っていたけど、奥さんカーメンイジョゴに「私の他に誰かいるの?」と聞かれて「いない」と答える間の長いこと長いこと。嘘でもいいから即答してやれよー。毎日子供を殺すとか脅されて、毎日旦那もう帰ってこないんじゃないかと脅えている奥さんなのにさー、あんたは浮気しとったんかいっ!と偉大な人ということを忘れて心の中で思いっきり突っ込んでしまいました。

なんだか不謹慎な感じになってきてしまいましたが、、、映画は至極真面目にキング牧師と公民権運動を描いています。彼の公民権運動の中でもアラバマ州セルマでの選挙権を巡る戦いに焦点を当てています。憲法で認められているはずの選挙権。アメリカでは選挙人登録というのをしないといけないのですが、黒人がそれをしに行くと窓口の担当官が嫌がらせをして却下してしまう。申請に行った黒人の名前が新聞に出てリンチに遭う。雇い主に申請に行ったことがバレるとクビにされてしまう。というわけで実質選挙権を持つ黒人はごくごくわずかだった。それを変えようとセルマでデモ行進を行うのですが、警官隊が治安維持を根拠に妨害。催涙弾を投げつけこん棒で殴り制圧。その様子が全米でテレビ放映され、リベラルな白人たちもこの活動に参加を表明し始める。

人種差別意識が根強いアメリカの南部というのは、自分たちのやり方に連邦政府が口を出すことをとても嫌う性質があり、ジョンソン大統領トムウィルキンソンがアラバマ州知事ジョージウォレスティムロスを説得しようとしても言うことをきこうとしない。良く言えば郷土愛が強い地域なんだろうけど、間違った価値観がはびこって何世代にも渡って染みついているからたちが悪い。最終的にはジョンソン大統領の決断でやっと黒人の選挙権が保障される法律が整備されたけど、そこまでの道のりで犠牲者が多過ぎる。そして、人種差別の犠牲者は減ってはいるけどなくなってはいないんですよね。しかも、ここ数年警官がらみでまたよくニュースを聞くようになってきているし。

マルコムXナイジェルサッチが方向転換をして、キング牧師と運動を共にしようと働きかけてきたわずか数日後に暗殺されてしまいましたが、彼らが手を取り合っていたらあの後世界はどうなっていたのか見てみたかったです。

ワタクシの記憶が正しければジョンソン大統領は確か南部出身の大統領という立場を利用して、キング牧師や公民権運動にはわりと積極的に協力体制を取っていたというイメージだったのですが、この作品中では、かなりキング牧師と対立して法整備ものらりくらりと言い訳をしてなかなかしようとしていませんでした。本当んとこどっちだったのか分かりません。

レストランで同じテーブルにつく、同じ学校に行く、同じバスに乗って好きな席に座る、選挙に行く。こんな当たり前のことがついこないだまでアメリカ南部では認められていなかったなんてね。本当に反吐が出る話です。

人種だけではなくありとあらゆる差別がはびこるこの世界ですが、これは「価値観の違い」などではなく「間違った価値観である」ということを子どものころからはっきりと教えなければいけないと思います。



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