ひらひらと花弁が舞う。
時期外れの山に咲く桜の花は『美しい』よりも
『禍々しい』としか思えず。
見渡す限り林立する桜の木。
一体何本あるのかさえ解らない。
吸い寄せられる様に一本の木に近付く。
・・・樹齢が軽く千年は超えていそうな巨木だ。
確か桜の木の寿命はそこまで長くないはず。
それだけでもうおかしいはずなのだが、その樹は何故か
別の意味で『おかしかった』。
神木と言う言葉がある。
とは言え本当に神の木なわけがなく
神様が宿る木だったらいいなあと言う人間の願望だ。
と私は解釈していた。
なのに。
この狂った様に咲く桜の巨木は『神木』としか思えない。
思わず指を幹に伸ばす。
「・・・何をしている。」
ー低い男の声。
声に驚き後ろを振り返るが誰もいない。
空耳かと巨木に向き直り。
私は動きを止めた、否止められた。
そこには。
ばけものがいた。
銀色の髪金の瞳。
纏う服は白。
銀色の髪に金の瞳、それだけでも充分なのに
その顔は恐ろしいほど整っている。
駄目押しにあるはずの場所に耳がない。
ないはずの場所に獣のような耳がある。
「人の分際で禁足地に足を踏み入れるとは。」
ばけものが喋る度に桜の木がざわめく。
「・・・よほど命が惜しくないと見える。」
金の瞳が射抜く様に私を睨む。
動けない。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だ。
ぞわり、と何かが私の足を這った。
下を向いて確かめたいが視線を外すことが出来ない。
ぞわぞわと何かが足から更に腰へと這い上がる。
何かは解らないが気持ち悪い。
汗が冷たい。呼吸が乱れる。
ばけものが音も無く近寄って来る。
やめてくれ近付かれたら私は死んでしまう。何故かそう思う。
喉が渇きぱくぱくと口を動かすが言葉は出ない。
ばけものはそんな私の醜態に眉一つ動かさず草を踏む音さえ立てず
目の前に立った。
ひっと息を飲む。
「お前」
金の瞳から目が離せない。
「あれを連れに来たのか?」
あれとは何だ?
「あれはオレのモノだ。」
ばけものはす、と指を私に向けた。
駄目だ。殺される・・・!
「・・・あんた大丈夫?」
「・・・は?」
「おい!いたぜー!」
私を覗き込んだ黒髪の青年はそう叫んだ。
頭を振りながら身を起こす。
全身が鉛の様に重い。
・・・何だ?
先程まで私はばけものと一緒だったはず。
のろのろと周囲を見回せば下草がぼうぼうに生える
雑木林だ。あれ程咲き誇っていた桜は一切ない。
「・・・あれ?」
そのまま青年に背負われ私は青年の家に向かった。
家で待っていた青年の親はあの目の見えない男だった。
呆れた顔した男が言うに私は5日ほど山にいたらしい。
何を馬鹿なと思ったが
着ていた服の汚れ具合、端末に送られて来たメールの数等で
嘘ではないと理解したが実感はなかった。
私の体感では半日もたっていないはず。
そう伝えると二人は顔を見合わせた。
「・・・なにかおかしいですか?」
いや別に?と青年は立ち上がる。
「アンタさあ。」
「はい。」
「キツネに化かされたんじゃない?」
狐。
そう呟くと男が言う。
「ここは昔から狐が棲むと有名でしてね。」
野生の狐?
本州に狐などいるのか?と訝し気にしていると男はくっと笑う。
「昔からとはあなたが此方に住む前からですか?」
「私が?」
「ええ。」
そう言えば彼は此方に住んで何年くらいなのだろうか。
単純な好奇心から私は質問した。
軽い気持ちで。
男はさあと首を傾げた。
「何年住んでいるかは解らないな。」
「は?」
「覚えていないから」
背筋を汗が。
畳の上に忘れられた鞄から溢れ落ちた手帳をペラリと捲る。
「タサカ、だって今の奴。」
「ほう。」
「ほったらかしとくと問題になりそうだから局に届けて来る」
立ち上がった青年は父親に視線を向ける。
「あのさあ。」
「なんだ。」
「あんまり脅かすなよ。
只の人間だろ?何が気に食わないかは解るけど」
「・・・別に」
子供かと呆れながら縁側から庭に出る。
あの人がこの山から(厳密には高度な結界から)出て来れなくなって
もう何年立ったのか。
一つだったはずが二人に別れた『あの人』。
銀色の方が紅色を離さず自分以外の目に触れさせるのも
許さずに居るのだ。
何者の干渉も赦さぬほどの『神』のような強大な力の持ち主に
意見出来る者などなく。
会いたいなあと思う。
が会えるはずなど無く。
父親も同じ気持ちなのだろう。
だからあの『タサカ』をちょっとだけ脅したんだと思う。
何故あのタサカだけがあの人に会えたのかは解らないが。
ふわりと風に乗って桜の花弁が届く。
会えないあの人からの便りを掌に閉じ込めた。
〜と言うオチでした。
妖孤さんは秀一くんが大好きなので
誰にも見せたくないから監禁してるよ!
秀一くんもそれでいいやとか思ってますが。
時期外れの山に咲く桜の花は『美しい』よりも
『禍々しい』としか思えず。
見渡す限り林立する桜の木。
一体何本あるのかさえ解らない。
吸い寄せられる様に一本の木に近付く。
・・・樹齢が軽く千年は超えていそうな巨木だ。
確か桜の木の寿命はそこまで長くないはず。
それだけでもうおかしいはずなのだが、その樹は何故か
別の意味で『おかしかった』。
神木と言う言葉がある。
とは言え本当に神の木なわけがなく
神様が宿る木だったらいいなあと言う人間の願望だ。
と私は解釈していた。
なのに。
この狂った様に咲く桜の巨木は『神木』としか思えない。
思わず指を幹に伸ばす。
「・・・何をしている。」
ー低い男の声。
声に驚き後ろを振り返るが誰もいない。
空耳かと巨木に向き直り。
私は動きを止めた、否止められた。
そこには。
ばけものがいた。
銀色の髪金の瞳。
纏う服は白。
銀色の髪に金の瞳、それだけでも充分なのに
その顔は恐ろしいほど整っている。
駄目押しにあるはずの場所に耳がない。
ないはずの場所に獣のような耳がある。
「人の分際で禁足地に足を踏み入れるとは。」
ばけものが喋る度に桜の木がざわめく。
「・・・よほど命が惜しくないと見える。」
金の瞳が射抜く様に私を睨む。
動けない。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だ。
ぞわり、と何かが私の足を這った。
下を向いて確かめたいが視線を外すことが出来ない。
ぞわぞわと何かが足から更に腰へと這い上がる。
何かは解らないが気持ち悪い。
汗が冷たい。呼吸が乱れる。
ばけものが音も無く近寄って来る。
やめてくれ近付かれたら私は死んでしまう。何故かそう思う。
喉が渇きぱくぱくと口を動かすが言葉は出ない。
ばけものはそんな私の醜態に眉一つ動かさず草を踏む音さえ立てず
目の前に立った。
ひっと息を飲む。
「お前」
金の瞳から目が離せない。
「あれを連れに来たのか?」
あれとは何だ?
「あれはオレのモノだ。」
ばけものはす、と指を私に向けた。
駄目だ。殺される・・・!
「・・・あんた大丈夫?」
「・・・は?」
「おい!いたぜー!」
私を覗き込んだ黒髪の青年はそう叫んだ。
頭を振りながら身を起こす。
全身が鉛の様に重い。
・・・何だ?
先程まで私はばけものと一緒だったはず。
のろのろと周囲を見回せば下草がぼうぼうに生える
雑木林だ。あれ程咲き誇っていた桜は一切ない。
「・・・あれ?」
そのまま青年に背負われ私は青年の家に向かった。
家で待っていた青年の親はあの目の見えない男だった。
呆れた顔した男が言うに私は5日ほど山にいたらしい。
何を馬鹿なと思ったが
着ていた服の汚れ具合、端末に送られて来たメールの数等で
嘘ではないと理解したが実感はなかった。
私の体感では半日もたっていないはず。
そう伝えると二人は顔を見合わせた。
「・・・なにかおかしいですか?」
いや別に?と青年は立ち上がる。
「アンタさあ。」
「はい。」
「キツネに化かされたんじゃない?」
狐。
そう呟くと男が言う。
「ここは昔から狐が棲むと有名でしてね。」
野生の狐?
本州に狐などいるのか?と訝し気にしていると男はくっと笑う。
「昔からとはあなたが此方に住む前からですか?」
「私が?」
「ええ。」
そう言えば彼は此方に住んで何年くらいなのだろうか。
単純な好奇心から私は質問した。
軽い気持ちで。
男はさあと首を傾げた。
「何年住んでいるかは解らないな。」
「は?」
「覚えていないから」
背筋を汗が。
畳の上に忘れられた鞄から溢れ落ちた手帳をペラリと捲る。
「タサカ、だって今の奴。」
「ほう。」
「ほったらかしとくと問題になりそうだから局に届けて来る」
立ち上がった青年は父親に視線を向ける。
「あのさあ。」
「なんだ。」
「あんまり脅かすなよ。
只の人間だろ?何が気に食わないかは解るけど」
「・・・別に」
子供かと呆れながら縁側から庭に出る。
あの人がこの山から(厳密には高度な結界から)出て来れなくなって
もう何年立ったのか。
一つだったはずが二人に別れた『あの人』。
銀色の方が紅色を離さず自分以外の目に触れさせるのも
許さずに居るのだ。
何者の干渉も赦さぬほどの『神』のような強大な力の持ち主に
意見出来る者などなく。
会いたいなあと思う。
が会えるはずなど無く。
父親も同じ気持ちなのだろう。
だからあの『タサカ』をちょっとだけ脅したんだと思う。
何故あのタサカだけがあの人に会えたのかは解らないが。
ふわりと風に乗って桜の花弁が届く。
会えないあの人からの便りを掌に閉じ込めた。
〜と言うオチでした。
妖孤さんは秀一くんが大好きなので
誰にも見せたくないから監禁してるよ!
秀一くんもそれでいいやとか思ってますが。